東方春命録   作:Poteto305

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「戌井さん!大丈夫でしたか!」

「な、なんとか…。阿求も上海も、心配かけて悪かったな」

「あやや、本当に死んだかと思いましたよ」

「いやぁ、ごめんね。ちょっとばかり楽しくなっちゃってさ」

「ちゃんと謝ってください!戌井さんは大変な役だったんですよ!」

「お、おぉ…?阿求、なんでそんなに怒って…?」

「ふぇ…?え、あ、違、これは、そのっ…!」

「春良さん、春良さん」

「な、何ですか?射命丸さん」

「今なら、春良さんの能力で阿求の力も使えるんじゃないですか?」

「あ、文さんっ!どうしてそんなこと言うんですかぁっ!」



萃夢の使命
萃夢の使命・壱符


 

『お詫びと言っちゃぁなんだけど、良い物を見せてあげるよ』

 

そんな萃香の申し出の元、妖怪の山から帰ってきた春良達は、稗田家の縁側にいた。

達といっても、阿求と萃香、上海と春良だけだが。

 

「射命丸さん、大丈夫なのかな」

「何はともあれ、ただ喧嘩して負けただけですから。幻想郷は、そう言うところなんですよ」

「へぇ…」

 

つまり、何があってもわだかまりができることはない。

いわゆる遊びだから。

つくづくここは良いところだな、と春良は感じていた。

 

「上海、眠いか?」

 

隣で頭をこっくりこっくりと傾かせる上海の頭を撫でると、上海は驚いたように首を振った。

 

「無理しなくていいぞ、ほら」

 

上海を膝の上に寝かせると、すぐに起きあがる。

そして、ふと浮き上がったかと思うと、

 

「…………っ…?」

 

ちゅ、と小さな水音が聞こえた。

頬に小さく口づけた上海は、赤い顔を隠すように春良の膝の上で丸くなった。

 

「……す、好かれているんですね…?」

「あ、あぁ!そうなんだよ!困りものだよなぁ…!」

 

隣でもろに見ていた阿求の気遣いは、逆に恥ずかしいだけだ。

 

「そ、そういえば萃香は?さっきからいないけど…」

「い、伊吹さんなら、準備があるとかでまだ帰ってきてませんね」

「へ、へぇ…。楽しみだなぁ…」

「はい……」

 

日も落ちかけて、辺りは夕焼け色に染まりつつある。

そんななか、気まずい雰囲気が春良達の周りにあった。

 

(……戌井さん。外来人なんですよね…)

 

ふと、その横顔を眺める。

 

(向こうに、許嫁とかいたんでしょうか…?)

 

いて欲しくないな。

そんな嫌なことを考えてしまった自分に、ぶんぶんと首を振る。

 

「い、戌井さんは、向こうに仲の良い友達はいたんですか…?」

「え…?」

 

その質問は、春良にとって禁止の質問だ。

記憶が無い春良は、どう答えて良いのかも、わからない。

 

「わ、わからない、かな…」

「そ、そう、ですか…」

 

遠回しに聞いていこうと思っていた阿求の作戦が崩れる。

そして、阿求は最もしてはいけないことを考えた。

 

(私の力なら…)

 

求聞持の能力。

忘れることのない記憶能力と、もう一つ、誰にも教えてはいない力。

記録を読み取る力。

いつもは本などを速読したいときにしか使わない力だ。

 

(す、少し、少しだけ、想い出を覗くだけです…)

 

そっ…、と手を小さく春良の頭へ伸ばす。

顔を朱くした春良は、その手に気づかない。

 

(……し、失礼しますっ…!)

 

その手で軽く触れた直後、阿求は春良の想い出へとダイブする。

しかし、その先で見たものは。

 

「…………っ!?」

「あ、阿求!?」

 

ガタン、と阿求の体が崩れ落ちる。

何事かと心配した春良が、息の荒い阿求の体を掴む。

 

「……はっ……はぁっ…!?」

 

『何だあれは』。

 

暗くて、深い、終わりの見えない穴が、広がっていた。

虚無。

想い出なんて物は、欠片も見つからなかった。

 

「阿求!しっかりしろ!」

 

『……辛く、ないか?』

 

あの時の春良の言葉の意味が、ようやく理解できた。

阿求は、怖かった。

自分も前世の記憶はあまりないが、欠片くらいはある。

初代からずっと、ほんの小さな破片だが、受け継がれているのだ。

 

「……い、いぬ、ぃ……さん…」

「阿求、大丈夫か…?」

 

一体、この人はこの虚無を、どうやって受け入れたのだろう。

記憶が無いということは、自分の存在を否定されているのと同じだ。

阿求は、自分がそうなるのが、怖かった。

 

「……ぅぐっ……えぐ…っ…」

 

ぼろぼろと涙がこぼれてくる。

何て馬鹿なことを聞いたのだろう。

何て馬鹿なことをしてしまったのだろう。

後悔するのが、死ぬほど遅い。

 

「ごめ……ごめ、…なさぃ…!」

「大丈夫、大丈夫だから。ゆっくりでいい」

 

涙を流す阿求を春良は優しく撫でた。

自分が大丈夫ではないのに、なぜ他人を心配するのか。

 

「……ぅぁ…ぅあぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁん…!」

 

頭は、その理由を必死に考えようとしていても、体は涙を流すだけだった。

正直どうしていいか分からない春良が困っていると、助っ人が現れた。

 

「あれ?なんで阿求が泣いてるのさ」

 

鬼が、何かをたくさん抱えてやってきた。

 

「わ、わからないんだ…」

「ふぅん?ま、あんまし阿求を虐めると、私がお前を虐めるからね」

「肝に銘じておきます…」

 

泣きながらすがりついてくる阿求を撫でつつ、萃香に視線を向ける。

 

「……それ、なんだ?」

「へっへっへぇ。ま、見てなよ」

 

ばっ、と萃香がバンザイをして何かをばらまく。

すると、

 

「おぉ……!」

「綺麗だろう?これ、私の一発芸でね」

 

星だ。

爛々と輝く小さな星が、まるでホタルの大群のように辺りで輝いている。

 

「あ、阿求!これ見てみろよ!」

「ぅぇ…?」

 

阿求を揺さぶり、顔を外へと向ける。

 

「…………わぁ……!」

「凄いよな…」

「ま、ただ私は星の輝きを萃めただけなんだけどね」

 

春良の隣に座り、酒を飲み出す萃香。

星見酒、と言った所だろうか。

 

「どうだい?人間」

「あぁ、鬼って、凄いんだな」

「まだまだこんなもんじゃないよ。その気になれば月だって壊してみせる」

「いや、それは勘弁」

 

あっはっは、とまた酒を飲む萃香の隣の春良。

更に隣の阿求は、輝く瞳で輝く星を眺めていた。

 

 

 

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