東方春命録   作:Poteto305

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萃夢の使命・弐符

 

「阿求、もう大丈夫か?」

 

そう尋ねると、阿求は体を震わせた後、すぐに涙を拭って春良に笑顔を届けた。

 

「……は、はい。すいませんでした」

「大丈夫ならいいって、気にするなよ」

 

いつもと変わらぬ笑顔の春良を見て、阿求はあることに気づく。

そして、間髪入れずに、阿求は春良の耳へと口を寄せ、

 

「……戌井さん。記憶がないんですよね…?」

「……なっ…!?」

 

突然の言葉に、春良の体が硬直する。

膝の上の上海には聞こえてはないらしい。

ひそひそ話のせいか、それとも寝ているのか。

 

「……すいません。少し、記憶を覗いてしまいました」

「――っ…」

「……すいません…」

「……いんや、気にしなくて良いって、さっき言っただろ?」

「……でも…」

 

困ったように笑う春良に、阿求の口が濁る。

ここで止まってはいけない。

言うべきことがあるのだ。

 

「戌井さんは、幻想郷に来るまでの記憶がないんですよね?」

「……まぁ、そうだな」

「おかしいんです」

「……え?」

 

急に変わった声色に、春良の目が細くなる。

そんな様子の春良から、阿求は目を逸らすことなく、続ける。

 

「……何も、なかったんです。春良さんの想い出と言える証が」

「だから、記憶がないからだろ…?」

「『幻想郷での想い出』も見えなかったんです」

「……幻想郷…、ここに来てからの記憶か…?」

 

はい、と阿求が一つ頷く。

 

「けど、俺はこうして幻想郷のことを覚えてるけど」

「……考えられるのは、誰かが春良さんの記憶に細工をしている、と言うことです」

「誰か、か…」

「流石にそこまでは分かりませんけど……。どちらにしろ、相当な力を持つ人だということです」

 

相当な、力。

何のために、何故春良を。

色々な疑問がが出るが、一つ前に進めたことには違いない。

春良は、小さな笑みを作った。

 

「ありがとう、阿求」

「……怒らないんですね、やっぱり」

「そりゃな。希望が少し見つかったんだ」

 

目の前に浮かぶ星を手に取る。

手の中で輝くそれは、今自分が手に入れた希望に見えた。

 

「……だから、ずるいんですよ。戌井さんは」

「……なんでだろうな。よく言われる」

 

互いに少し笑い、そう言えば、と萃香を探すと、

 

「……話は終わったっ!?」

「ぅおう!?」

 

目の前に霧が集まったかと思うと、霧が萃香に姿を変えた。

 

「き、聞いてたのか?」

「まぁ、聞いてたけど」

「正直だなぁ…」

「嫌いだからね、嘘」

 

あっはっは、と笑う萃香にため息を一つ。

何となく、萃香なら聞かれても大丈夫だろうと思えていた。

 

(……というか、最近ばれすぎじゃないか…?)

 

本当に、隠し事というものは一度崩れると早い。

せめて、守矢の人々、上海やこあくまには悟られないようにしなければ、と心に決める春良だった。

 

「残念だけど、私の力でも集められないね」

「記憶なんて曖昧な物、どうやって集めるんだ…」

「いや?できるんだけど、なんか誰かが邪魔してくるんだよね」

「記憶隠蔽の犯人でしょうか…」

「さ、そこまではわからないかなっと」

 

ぴょん、と弾んで萃香が春良の隣にこしかける。

 

「……悪いな、気を使わせて」

「いいっていいって、今度酒でも酌み交わしてくれれば」

「……未成年だって」

 

幻想郷じゃ関係ないさ、と萃香が星をまた一つ集める。

その姿に、春良は言う。

 

「そのかわりと言ってはなんだけど…」

「お?なんだい?」

「阿求、ちょっと」

「……はい?」

 

耳打ちするように阿求に声をかけ、離れる。

少し考えた後、阿求は今までにない笑顔を見せた。

 

「いいですね、それ!」

「だろ?」

「な、なんだって言うのさ、面白いこと?」

 

その萃香の言葉に春良と阿求が、にやぁと笑う。

眠っていた上海を起こしながら、二人同時に口を紡いだ。

 

 

「『異変』、起こさないか?」

「『異変』を起こしましょう!」

 

「…………え?」

 

とぼけた鬼の声が、夕方の空に響いた。

 

 

 

「また久しぶりね、貴方に集められるのも」

 

夜の博麗神社。

巫女、博麗霊夢は疲れたように、されど呆れてはいないようにお茶をすすった。

 

「最近、宴会が少ないんだよ」

「私もそう思ってたぜ」

 

神社の境内にござを敷き、数々の者達が酒を飲み交わしていた。

 

「……紅魔館のパーティーを思い出すなぁ」

 

少し外れた所で、春良が呟く。

提灯の明かりがほのかに輝き、儚い祭りの様な雰囲気だ。

 

「さぁさ、鬼と神の飲み比べウサ!賭け金はわっちに渡して渡して!」

「お、鬼さんに一票です」

「神奈子様、頑張ってください!」

「神奈子ぉ!負けたら許さないからね!」

「任せときなぁ!」

 

『萃められた』守矢の人々、こあくまもいる。

永遠亭の人々も、そんじょそこらで酒を飲んでは騒いでいるのが見受けられた。

 

「…………?」

 

春良の肩で、上海が不安そうに春良を見つめた。

 

「ん?俺は未成年だから、お酒飲めないんだよ」

「……?」

 

頭を撫でるが、恐らく未成年が酒を飲めない理由が上海にはわからないのだろう。

終始頭上にハテナマークが浮かんでいた。

 

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