東方春命録   作:Poteto305

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萃夢の使命・参符

 

「……春良、飲まないの?」

「お、鈴仙。また会ったな」

 

今日別れて、また今日会う。

最近、出来事が圧縮されすぎている気がする春良だった。

 

「ほらほら、これなんて美味しいよぉ?」

「え?いや、俺は……、って酒の臭いがっ!」

「宴会なんだから、飲まないと損じゃないー…」

 

酒をぐりぐりと押しつけてきたと思うと、そのまま鈴仙は崩れ落ちてしまった。

慌てて支えて、近くのござの上に寝かせる。

 

「……上海は、お酒とか飲まないよな…?」

 

その問いに、上海は首を力強く振った。

恐らく、『春良は酒が嫌い』だと思いこんでいるのだろう。

 

「あら、上海。こっちにいたの?」

 

そう言ったのは、お酒を片手にもった魔法使い、アリス・マーガトロイドだ。

 

「いつも春良と居るわね…」

「ま、まぁ誰かついてないと危ないだろ?」

「……それもそうね…」

 

ほんの少し考えるように腕組み、一歩近づいてきたかと思うと、

 

「……えい」

「……!?」

 

その手の酒が、上海の口へと一瞬で注ぎ込まれた。

 

「あ、アリス!?何するんだ!?」

「いや、どうなるかと思ったのよ」

 

ごくん、と一口飲み込むと、上海は目をぱちくりと瞬きさせる。

そして、

 

「…………」

「しゃ、上海…?」

 

へにゃ、とうなだれたかと思うと、次に顔を上げたときには、その顔は真っ赤に染まっていた。

 

「あ、酔うのね」

「酔うのね、じゃないだろ!?上海、ここに横になって…………えぇっ!?」

 

ござを引き寄せて促すが、その瞬間上海に押し倒される。

春良の背中が、冷たいござの上に落ちた。

 

「ど、どうした?上海…?」

「…………」

「待て!喋れないのは分かるけど、無言で服を脱がしに掛からないでくれ!」

「んー…、ま、後は頼んだわよ」

「うぇぇ!?え、ちょっと、力強っ……!?」

 

結構忘れていたが、上海は春良を持ち上げれる程度の力は優に持っている。

 

「こ、こあ!来てくれ!」

「あぁ!鬼と悪魔の飲み比べで悪魔が倒れたウサ!これで鬼の二連勝ウサ!」

「こあぁぁぁぁぁぁあああ!?」

 

上着を一枚奪い去られた春良の叫びは、宴会の騒がしさからしたら蚊の鳴く声だった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

あの後上半身裸まで持っていかれ、嬉しそうに頬をすり寄せてきた上海を見て、もう諦めた。

しかし、上半身を散々なで回したりちゅっちゅしてきた所で、上海が眠りに入った。

 

「……こんなことしてる場合じゃないのに…」

 

とりあえずシャツを着て、上着は上海に掛けた。

そして、春良は周りを見渡す。

 

「誰を捜してるのさ」

 

鳥居の向こう側に視線を向けると、上から声が降りかかった。

間髪入れず、萃香が鳥居から飛び降りて春良の目の前で仁王立ちする。

 

「……二連勝、おめでとう」

「……阿求なら、来ないよ。転生の準備で忙しいんだから、来れるはずがない」

「……気づいてたのか」

「鬼に隠し事も通用しないって。お前の力、力を借りた相手の中も少しのぞけるんだろう?」

 

ご名答、と春良が頭を掻く。

ごく、と萃香の喉を酒が通る。

 

「十分だよ。皆がいて酒も飲めて、私は十分楽しんでる」

「……」

「お節介な人間もいるもんだね。まぁ、そう言う奴、私は大好きだよ」

 

一歩、近づいて、萃香としっかりと目を合わせる。

その目は、綺麗な色をしていた。

 

「さて!人間。まだまだ宴会は終わってない。皆で楽しい酒飲みをしにいこう――」

「嘘」

 

ぽつり、と呟いた春良の言葉が、萃香の作られた笑顔を、凍らせた。

 

「……なんだって…?」

「萃香。今、何に嘘をついた?」

 

萃香の顔が、少しずつ変わっていく。

その表情は、怒りか、悲しみか、孤独そうに見えた。

 

「鬼は嘘をつかない。嘘をつくのは低俗な生き物だけだよ」

「……確かに、萃香の嘘なんて、今まで見たことがなかった」

「そりゃそうさ。私は鬼だよ?」

「やめろ、萃香」

 

丸い重りを転がして、萃香は手を軽く挙げる。

 

「……俺だって、嘘はつきたくないと思ってる」

「それが嘘。人間って奴は自分の嘘を正当化したいだけ」

「阿求も、きっと来る」

「来ない」

「……どうしてそんなこと…」

 

「来なかったからだよ!!」

 

ダンッ、と萃香の足踏みが音を鳴らす。

その表情は、確実に悲しみそのものだった。

 

「今までの稗田も。私が今まで何度宴会を開いてきたと思う?」

「っ……」

「転生した後は、私のことすら忘れていた。そのたび絆を深めていった私の気持ちがお前に分かるか…?」

 

ぽろ、と鬼の瞳から涙がこぼれてくる。

ぬぐってもぬぐっても増えるその滴を、萃香はそれでも止めようとする。

 

「稗田が初めて誘いを断った理由は転生の儀式だったよ。次に会ったときはもう……」

「半ば無理やりでも、萃香の力で萃めてやれば良かったんじゃないか……?」

「そうさ、稗田が望んだのはそれ。自分じゃ抜け出せないから、無理矢理にでも誘ってもらうことを選んだ。でも、私には出来なかった」

 

鳥居の足に、背中を預ける萃香。

境内の方からは、まだまだ賑やかな声が聞こえる。

 

「……はぁ、つまらないこと話しちゃったね」

「萃香…」

「ま、そう言うことだよ。私は別に嘘をついては…」

 

 

「伊吹さん」

 

 

声が聞こえた。

今、ここに居るはずのない人物の声が。

 

「っ!?……まさか…」

 

萃香が背を預けていた鳥居の逆側から、一人の少女が顔を出した。

その少女の名は、

 

 

「私、晩酌するのは初めてなんです。酔ってしまったらお願いしますね?」

 

 

幻想郷の記憶。

稗田阿求だ。

 

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