「……春良、飲まないの?」
「お、鈴仙。また会ったな」
今日別れて、また今日会う。
最近、出来事が圧縮されすぎている気がする春良だった。
「ほらほら、これなんて美味しいよぉ?」
「え?いや、俺は……、って酒の臭いがっ!」
「宴会なんだから、飲まないと損じゃないー…」
酒をぐりぐりと押しつけてきたと思うと、そのまま鈴仙は崩れ落ちてしまった。
慌てて支えて、近くのござの上に寝かせる。
「……上海は、お酒とか飲まないよな…?」
その問いに、上海は首を力強く振った。
恐らく、『春良は酒が嫌い』だと思いこんでいるのだろう。
「あら、上海。こっちにいたの?」
そう言ったのは、お酒を片手にもった魔法使い、アリス・マーガトロイドだ。
「いつも春良と居るわね…」
「ま、まぁ誰かついてないと危ないだろ?」
「……それもそうね…」
ほんの少し考えるように腕組み、一歩近づいてきたかと思うと、
「……えい」
「……!?」
その手の酒が、上海の口へと一瞬で注ぎ込まれた。
「あ、アリス!?何するんだ!?」
「いや、どうなるかと思ったのよ」
ごくん、と一口飲み込むと、上海は目をぱちくりと瞬きさせる。
そして、
「…………」
「しゃ、上海…?」
へにゃ、とうなだれたかと思うと、次に顔を上げたときには、その顔は真っ赤に染まっていた。
「あ、酔うのね」
「酔うのね、じゃないだろ!?上海、ここに横になって…………えぇっ!?」
ござを引き寄せて促すが、その瞬間上海に押し倒される。
春良の背中が、冷たいござの上に落ちた。
「ど、どうした?上海…?」
「…………」
「待て!喋れないのは分かるけど、無言で服を脱がしに掛からないでくれ!」
「んー…、ま、後は頼んだわよ」
「うぇぇ!?え、ちょっと、力強っ……!?」
結構忘れていたが、上海は春良を持ち上げれる程度の力は優に持っている。
「こ、こあ!来てくれ!」
「あぁ!鬼と悪魔の飲み比べで悪魔が倒れたウサ!これで鬼の二連勝ウサ!」
「こあぁぁぁぁぁぁあああ!?」
上着を一枚奪い去られた春良の叫びは、宴会の騒がしさからしたら蚊の鳴く声だった。
「はぁ……はぁ……」
あの後上半身裸まで持っていかれ、嬉しそうに頬をすり寄せてきた上海を見て、もう諦めた。
しかし、上半身を散々なで回したりちゅっちゅしてきた所で、上海が眠りに入った。
「……こんなことしてる場合じゃないのに…」
とりあえずシャツを着て、上着は上海に掛けた。
そして、春良は周りを見渡す。
「誰を捜してるのさ」
鳥居の向こう側に視線を向けると、上から声が降りかかった。
間髪入れず、萃香が鳥居から飛び降りて春良の目の前で仁王立ちする。
「……二連勝、おめでとう」
「……阿求なら、来ないよ。転生の準備で忙しいんだから、来れるはずがない」
「……気づいてたのか」
「鬼に隠し事も通用しないって。お前の力、力を借りた相手の中も少しのぞけるんだろう?」
ご名答、と春良が頭を掻く。
ごく、と萃香の喉を酒が通る。
「十分だよ。皆がいて酒も飲めて、私は十分楽しんでる」
「……」
「お節介な人間もいるもんだね。まぁ、そう言う奴、私は大好きだよ」
一歩、近づいて、萃香としっかりと目を合わせる。
その目は、綺麗な色をしていた。
「さて!人間。まだまだ宴会は終わってない。皆で楽しい酒飲みをしにいこう――」
「嘘」
ぽつり、と呟いた春良の言葉が、萃香の作られた笑顔を、凍らせた。
「……なんだって…?」
「萃香。今、何に嘘をついた?」
萃香の顔が、少しずつ変わっていく。
その表情は、怒りか、悲しみか、孤独そうに見えた。
「鬼は嘘をつかない。嘘をつくのは低俗な生き物だけだよ」
「……確かに、萃香の嘘なんて、今まで見たことがなかった」
「そりゃそうさ。私は鬼だよ?」
「やめろ、萃香」
丸い重りを転がして、萃香は手を軽く挙げる。
「……俺だって、嘘はつきたくないと思ってる」
「それが嘘。人間って奴は自分の嘘を正当化したいだけ」
「阿求も、きっと来る」
「来ない」
「……どうしてそんなこと…」
「来なかったからだよ!!」
ダンッ、と萃香の足踏みが音を鳴らす。
その表情は、確実に悲しみそのものだった。
「今までの稗田も。私が今まで何度宴会を開いてきたと思う?」
「っ……」
「転生した後は、私のことすら忘れていた。そのたび絆を深めていった私の気持ちがお前に分かるか…?」
ぽろ、と鬼の瞳から涙がこぼれてくる。
ぬぐってもぬぐっても増えるその滴を、萃香はそれでも止めようとする。
「稗田が初めて誘いを断った理由は転生の儀式だったよ。次に会ったときはもう……」
「半ば無理やりでも、萃香の力で萃めてやれば良かったんじゃないか……?」
「そうさ、稗田が望んだのはそれ。自分じゃ抜け出せないから、無理矢理にでも誘ってもらうことを選んだ。でも、私には出来なかった」
鳥居の足に、背中を預ける萃香。
境内の方からは、まだまだ賑やかな声が聞こえる。
「……はぁ、つまらないこと話しちゃったね」
「萃香…」
「ま、そう言うことだよ。私は別に嘘をついては…」
「伊吹さん」
声が聞こえた。
今、ここに居るはずのない人物の声が。
「っ!?……まさか…」
萃香が背を預けていた鳥居の逆側から、一人の少女が顔を出した。
その少女の名は、
「私、晩酌するのは初めてなんです。酔ってしまったらお願いしますね?」
幻想郷の記憶。
稗田阿求だ。