「な……なっ……!」
「どうしたんですか?伊吹さん。早く行きましょうよ」
「ど、どうして、ここに…?」
萃香の手を握る阿求は、にっこりとした顔で、
「私じゃ、今までの『私』の変わりになれませんか?」
「そ、そうじゃなくてさ!転生の儀が滞ったら…!」
「そこは大丈夫だ」
萃香の言葉に、春良が自信満々に答える。
そして、その手に符を掴んだ。
「親愛『幻想郷の記憶』」
カッ、と一瞬春良の体が光輝き、その頭に似合わない花の髪飾りが装着された。
「今回の遅れは、俺が手伝って取り戻すから」
「……あ………」
ぽかん、と萃香の顔が今までに見たことの無いような顔になる。
そして、息を吸うと、
「あーっはっはっはっはっはっ!!!」
豪快に笑った。
「いよし、阿求!今夜は飲み明かそうじゃないか!」
「え、えぇ!?その、私お酒は初めてって今…」
「……俺も少し飲んでみようかな」
「え?戌井さんもお飲みになられるんですか?」
「なんか、皆楽しそうだしなぁ…」
「それが良い!皆で酔いつぶれちゃおう!」
こんな風に言う三人だが、その中でも春良は二人の思いに気づいていた。
春良の前を歩く二人は、泣いて、笑っていた。
だから、これで良いのだと思った。
「体が、体があついです……」
全然良くなかったと胸を張って言える。
あれからものの10分、稗田阿求はふらふらで立ち上がることすら出来なくなっていた。
「まさか、ここまで弱かっただなんて…」
「私、まだ三口程度しか飲ませてないよね…?」
「鬼と一緒にするな、って言いたいけど、これは流石に萃香のせいじゃないと思う」
結局、春良は酒を口にしてはいない。
それよりも先に、阿求がホット状態へと移行してしまったのだ。
「熱い……熱いです…」
「ちょ、阿求!?」
自分の着ている着物の帯をゆるめ、脱ごうとする阿求を春良が止めにかかる。
「あらぁ、貴方はいつぞやの面解屋さん?」
「幽々子さん?来てたんですか」
「えぇ。もちろんよーむも、あの子もいるわよぉ?」
ぴっ、と指さされた方には、ぐったりとした妖夢と、体の方の幽々子がいた。
「もうすぐこっちでも宴会するから、その時は来てくれると嬉しいわぁ」
「あ、はい。行かせてもらいます」
「それとねぇ?」
すっ、と耳元まで幽々子の口が近づいてくる。
軽い桜の香りとその吐息に、ちょっとばかり理性を失いかけた春良に、幽々子は小さく言う。
「その子、着物の下は何も着ない派の子よぉ」
「ぶっ!?」
言うだけ言って、幽々子はすぐに妖夢達の方へ浮揚していった。
「あっはっは!だってさ!どうする?」
「どうするじゃない!」
からかう様な萃香の言葉に反抗はするが、実際はだけた着物の隙間に目線が行ってしまうのは不可抗力のはずだ。
「ほら、阿求。横になって」
「んぅ……。熱いですぅ…」
「ほい人間。団扇(ウチワ)」
萃香から団扇を受け取り、阿求を扇いでやる。
風が心地よいのか、阿求はゆっくりと目を閉じてくれた。
「……人間」
「ん、どうした?」
「ありがとう。楽しかったよ」
「そりゃ良かった」
ぐい、と酒をあおる萃香。
一体今日だけで何リットルの酒を飲んだのか、数える気にもならない。
「……鬼は嘘をつかない、だったっけ」
「その通り、嘘はついた者の格を下げるからね」
「嘘がばれた時だけな」
「その通り、私は自分に嘘をついていたみたいだね」
「自分への嘘は、誰にもばれない、か」
「……その通り。ずるいもんだねぇ」
たはは、と困ったように笑う萃香に、春良は小さな笑顔を見せる。
「阿求が、稗田がいなくて悲しかったんだ。でも、それでも楽しいと思う自分が嫌だった」
「…………ん」
「ずっと『皆』で宴会をしてきたけど、どこか足りなかったのも、そのせいだね」
「『皆』の中に、阿求が居なかったんだもんな」
後ろで、すぅすぅと息を立てる阿求を扇ぎ続ける。
その団扇を、萃香が奪う。
「……でも」
ぱたぱたと、今度は萃香が阿求を扇ぐ。
その行動が、何故か微笑ましかった。
扇ぐ団扇の手とは違う手で、萃香は光を集める。
「本当にありがとね、人間」
ぱぁっ、と広げられた星の光に、少しばかり目がくらむ。
「おぉ!これは私への挑戦状か!?」
遠くで、魔理沙が箒にまたがって空を駆けているのが見えた。
そして、その中の一つを手に取ろうとすると、
「……っ!?」
星の光が、一つ、強く輝き始めた。
その輝きは次第に縮まって春良の腕へとその輝きを写した。
「三つ目……!?」
カッ、と最後の輝きの後、春良の五芒星が、またひとつ染まった。
「や、やった。やった!」
「え、どうしたのさ?何かあった?」
「萃香、ありがとう!」
きょとんとする萃香の手を握り、ぶんぶんと振る。
理解出来ていない萃香だったが、ゆっくりと微笑んでくれた。
「ま、良く分からないけど。良いことなら良かったね」
「あぁ!」
団扇を下ろして、萃香は瓢箪も下ろす。
あたりを漂う星の光は、もう輝きを失い始めていた。
その薄められた星を見て、萃香は動きを始める。
「今度こそ、誰にも、自分にも嘘はない。この宴会は『皆』に近づいている」
「……近づいて?」
「まだ、誘いたい奴は山ほど居るからねぇ」
すっくと立ち上がり、萃香は夜空へと手を伸ばす。
その手に、光が、星が集まる。
「宴会をする」
いつしか、忘れられた者がいた。
「誰に聞いても、『皆』居ると答えられるような宴会を」
忘れられた者は、そのままで居られるはずはない。
思い出して貰うこと、それが夢だった。
「私が『皆』の中に入れるように」
その者は星の光を集めるように、夢を萃めた。
今散らばった星の光の様に、それは、いつか離れてしまうかもしれないけど。
「勿論人間、お前も『皆』のうちだからね」
「ははっ、そりゃありがたいな」
そんなのは関係ない。
忘れられていた過去も、これから離れ、忘れられてしまうかも知れない未来も関係ない。
夢も、そんなことを気にするはずがない。
「私は、幻想郷と宴会をする!」
人が夢を思い、夢は人を想う。
「そのためならば、百鬼夜行でも、千鬼夜行でも萃めてやろう!」
思い出して貰うための旅。
「見てろ幻想郷!お前が羨ましがって自分から入ってくるような宴会をしてやる!!」
嘘が一つもない、何よりも今を大事にする萃められた夢の想い。
それが、萃夢想。