(今のが奇跡か……!)
確かに感じた。
斬られた。燃やされた。
その感覚を覆い隠すかのように、暖かいなにかを、春良は感じた。
(本当にありがとう……早苗さん!)
胸の奥で、何かのストックが消えた感覚。
と言うことは、確実に今のは早苗による物だったのだろう。
「……避けられた…」
呆然と立ちつくすフランの視界から脱出し、上海を肩にのせる。
すぐに弓を引き、狙いを定めるが、フランの様子がどこかおかしい。
「……ハル、人間だよね?」
「勿論。正真正銘人間だな」
「すっごい!」
「え?」
炎の剣を携えたまま、フランは見た目相応のキラキラした瞳を春良に向けた。
「じゃぁ、これは?これは?」
きゃっきゃと嬉しがりながら放たれる弾幕は、先ほどの物とは比べものにならない多さだ。
「……っ!」
無理だ。
もともと手抜きでいっぱいいっぱいだというのに、増えた弾幕に対応できるはずかない。
(……ん…?)
ポーチから、何か紙が飛び出している。
まさかと思い、手に取ると、やはりそれは創作用白紙スペルカードだった。
「きたっ……!」
すぐ、すぐ思いつけ。
この状況を打開できるスペルを。
(…………っ駄目だ……!)
血が上った頭で、思考回路が上手く回るわけがない。
仕方なく避けにはいるが、さっき述べたとおり、避けきれる物ではなかった。
「……った…!」
右足に被弾。
それによって体勢を崩した春良に、紅い雨が横から降り注いだ。
「…………!」
「上海っ!?」
追撃をもらう瞬間、肩の上海が春良を突き飛ばした。
当然、庇った上海は、春良の変わりに雨に身を打たれた。
小さいのが功を奏したか、上海の傷は少ない。
しかし、それでももう動けないだろう事は、一度弾をもらった春良が一番良く分かっていた。
「せっかく…スペルカードもあるのに…!
「お人形、壊れちゃった?」
弾幕よりも、守れる力が欲しい。
(せめて、美鈴さん並の身体能力があれば……!)
自分は、守られてばっかりだ。
守ろうとした結果、守られ、助けようとした結果、失敗し、助けられる。
(そんな自分に、嫌気が差す…!)
そんな思いを反映したかのように、カードが輝く。
「弾幕ごっこ中って、カード追加はだめだった気もするけど…いいや、私もカード見せてないし」
「許可ありがとう!」
この符が、どんな効果を持つのかさえ、今の自分にはわからない。
けど、ただ、守りたい。
幼神を、人形を、自分の友達を。
その思いが、春良に符を叫ばせた。
「あと少し……!」
(諏訪子様がこんなに活発に動いてるなんて、いつぶりでしょう…)
風を切り飛ぶ現人神は、子の成長を見るかのような眼差しで諏訪子を見つめた。
「早苗!奇跡は!?」
「あっ、はい。……今、二つめの奇跡が起きました!」
「どんな奇跡なの!?」
「一度目は、命に関わる奇跡だったみたいですけど……」
今回の奇跡は、違う。
早苗は自分でも良く分からない力の流れに、驚きつつも集中し、探る。
「これは、能力の開花…?」
「ってことは、春良もう元の世界に戻れないの?」
幻想郷で能力に目覚めると言うことは、幻想の住人になってしまったと言うこと。
つまり、幻想から抜け出ることが出来なくなってしまう。
その事を知っている諏訪子は、心配しつつも、どこか嬉しそうにそう言った。
「多分、そうだと思いますけど……」
「なんでもいいや!急ごう!」
「は、はい!」
さらに加速する神を追いかける早苗。
紅魔館はもう目と鼻の先だ。
「親愛『華人小娘』!」
唱えた瞬間、春良は自分の体が軽くなった感覚を覚えた。
いける。
目の前に迫る弾幕を見て、何故かそう思えていた。
「体が……、軽いっ…!」
ひゅんっ、と頬ギリギリを通っていく弾幕を見ても、恐怖が出てこない。
むしろ楽しいくらいだ。
「め、めーりん…?」
「美鈴さん、がどうかしたのか?」
第一波をかわしきり、フランが美鈴の名前を呟いた。
春良も、弓を片手に立ち止まり、何とも言えない高揚感に包まれていた。
「めーりんみたいな動きだったよ!ハル!」
「美鈴さん?俺が…?」
美鈴の身体能力。
たしかに欲しいと思っていたが、簡単に手に入って良い物ではない。
(スペルカードって、そんなこともできるのか…)
たたん、とステップを踏んで、弓を引く。
まだまだ、春良もフランも遊べそうだ。