「……え?」
「あら、そうなの?魔理沙、まだお酒残ってる?」
「む?もう焼酎くらいしかないぜ?」
「咲夜、貴方確か持ってきてなかったかしら?」
「えぇ、お嬢様。しかし、これはワインですよ?」
「大丈夫大丈夫、私の瓢箪があるしさ」
「え、ちょ、俺、飲むとは一言も…」
「好奇心はあるんでしょ?なら十分十分」
「なんで羽交い締め!?じ、自分で飲みますよ!?」
「「「いっき、いっき!」」」
「ほ、本当に洒落にならな……っ」
萃められた人々は早々に散り・壱符
朝。
「…………うぅ…」
ガンガンと頭の中で警鐘が鳴り響いている。
除夜の鐘を越えそうな勢いだ。
「……お酒は二十歳になってからだなぁ…」
法律は正しかった。
そう思いながら立ち上がると、ふと自分がいる場所がどこか分からなくなった。
「……そういえば、ここはどこだ…?」
畳の部屋に、宴会で集まったほとんどの人が横になっている。
萃香の姿はもうない。
きっと、宴会に誘う者達をまた探しに行ったのだろう。
「あら、起きた?」
「あ、霊夢さん」
伏間が音もなく開き、巫女がいつもの服装で中へと入ってきた。
「ここは博麗神社ですか?」
「そうよ。全く、あんたも含めて皆片づけもしないでつぶれるんだから」
「す、すいません…」
「ま、あの小鬼が全部片づけていったから良いんだけどね」
ふと、周りを見る。
まだ頬が微かに紅潮している者もいれば、ただ単に眠っている者もいる。
阿求やこあくまの様に酔いつぶれた者に至っては、服が幾分かはだけていた。
「…………顔洗ってきます」
「階段終わりのすぐ横よ」
かすかに赤くなってしまった顔を隠すかのように春良は外へ出る。
すると、もう一人すでに起きている者がいた。
「あら、おはよう。春良」
「永琳さん…。おはようございます」
「痛そうね。二日酔い?」
「多分そうです…」
いつしかの薬師が、にこやかな顔でお茶をすすっていた。
頭をおさえる春良に一歩近づくと、永琳は春良に手を差し出す。
「…………?」
「二日酔い止め。私が作った薬だから、安心して良いわよ」
「あ、ありがとうございます」
その手に握られていた薬を、春良は口へと放る。
すぐ近くにあった水道から水を飲み、流し込む。
「……どうかしら?」
「……凄いです。もう、痛みが…」
鐘が鳴るかのような頭痛は一瞬で消え、ものの数秒で全快した。
「さて、春良?」
「はい、なんですか?」
「貴方、弓を使うと優曇華に聞いたのだけれど、本当かしら?」
「はい、そうですけど…?」
弓符『サジタリウス』。
その言葉と同時に握られた弓を、永琳に見せた。
「……ちょっと、お手並みを拝見させてもらってもいいかしら?」
「……つまり?」
湯飲みを置き、立ち上がった永琳に恐る恐る聞くと、永琳は手をぱっと開いた。
「弾幕ごっこ。してくれない?」
キュンッ、とその手に握られたのは、和弓。
永琳も弓を使うのだということを知った春良は、少々の対抗心を燃やした。
「……わかりました」
「……いい眼ね」
タンッ、と短い音の後、永琳が飛んだ。
空から見下ろすように弓を構える永琳を見据え、春良も構える。
先に動いたのは永琳だ。
「……ん?」
キュドッ、と春良の足元に矢が落ちる。
(一本ずつか…。なら、手数でこっちが勝てる!)
春良の様にイメージで矢を複数作るタイプではないらしい。
それならば、相当の連射力でもない限り、勝てる。
その想像は、正しかったが、
「サジタリウス!」
「……よいしょっと」
「………………え?」
風だった。
視界にすら入れることの出来ない何かが、春良の手から弓をたたき落とした。
「!?…………さ、サジタリウスっ!」
その一言で、地の弓が霧散し、再び春良の手に握られる。
そのまま、間髪入れず想像済みの矢を永琳に向けて放つ。
「×拾伍(フィフティーン)!!」
「…………」
聞こえたのは、頬を叩かれたような乾いた音だった。
そんな音が、計15回、断続的に春良の周辺で響いた。
「うん。優曇華を止めたんだから、この程度じゃないわよね?」
全て、『発射と同時に叩き落とされた』のだ。
相当の連射力、何てものじゃない。
まさに15本同時に射ったのかのような速さだ。
「……弓道『射方八節』…!」
少々ムキになりすぎかも知れない、と春良は思っていた。
しかし、このくらいでないと、目の前の人は倒れてはくれなそうだ。
「…………ふっ…!」
風を切り裂き、己の全てを込めた矢が空を駆ける。
天狗でさえ当たれば相当のダメージを負う矢だ。
「うーん…。……うちの優曇華、弱くなったのかしら…」
呟き、弓を構える。
目の前に迫ってくる轟音をものともせず、永琳は矢を放った。
一本のか細い矢と、轟音の一矢が真正面から衝突する瞬間。
「夢符『封魔陣』」
突如地面から伸びた四角形の光が、その衝突を遮った。
光は永琳の矢を弾き、春良の矢を消し飛ばした。
「……え…?」
「あんった達!私の神社で好き勝手やってんじゃないわよっ!!」
その光の足元に、激怒する巫女がいた。
「やるならもっと離れたところでやりなさい!」
「す、すいません…」
ぷんすかぷん、と効果音をつけるとこういう音が鳴りそうな挙動で霊夢はまた神社へと戻っていった。
「……あの子は、私とやりあった時よりも強くなってるわねぇ…」
「やりあった…?霊夢さんとですか?」
「貴方、巫女をさん付け?やめときなさい気持ち悪い」
「…………」
それほどまでの人物なのだろうか、博麗霊夢という人は。
どうであっても、春良の符と、永琳の攻撃を同時にいなすことのできる実力の持主というのは確かだった。
「興がそがれたことだし、私は帰るわ」
「あ、はい」
「……春良、記憶が全てではない。それを覚えておいて」
言うと同時、永琳の体が小さく浮き上がる。
「それと、弓の腕前は中々良かったわよ」
呟くような言葉を春良に届けた後、永琳はどこかへと、永遠へと姿を消した。