「気をつかわれたよな…?」
去り際の永琳の笑顔を思い出し、少し申し訳なくなる。
サジタリウスを符に戻し、もう一度神社を見る。
「結構騒がしくしたけど皆起きないもんだな…」
それこそが幻想郷の特徴とも言える。
それが薄々と春良にも身についていっているあたり、春良も幻想郷に馴染んだということだろうか。
「どうかしら?使命の方は」
ふと、声が聞こえた。
賽銭箱の近く、小さな蝙蝠羽がパタパタと揺れる。
「あ、レミリアさん。……起こしましたか?」
「まぁ、少しばかり外に来たくなっただけよ」
「……はぁ。それで、なんで屋根の外へは出ないんですか?」
「お嬢様は吸血鬼ですので、日の光は毒なんです」
突如、レミリアの隣に日傘持ちの咲夜が現れる。
日光を防げて満足なのか、レミリアは一歩『外』へと歩き出した。
「まぁ、使命が無理そうになったらこっちに来てくれてもいいわよ。フランが喜びそうだし」
「……か、考えときます」
その言葉で会話は終了だと思われたのか、レミリアと咲夜は小さく空を飛ぶ。
「それじゃ、また」
「はい。よろしくお願いします」
ふわ、と数多の蝙蝠になって散らばったレミリアに、少々驚いた顔の咲夜が慌てて日傘を届けに行った。
「……大変そうだなぁ…」
使命を果たす自分とどっちが大変だろうか、と考えるが、一瞬でメイドの方が大変そうだと結論付けた。
日数が全く違うのだから、当たり前だが。
「あらぁ、早いのね?」
「幽々子さん。……起こしましたか?」
「いえ、私が起こしたんです。ほおっておくと、起きることがないでしょうから」
少々疲れた様子の妖夢が幽々子の後ろから現れる。
言いすぎよぉ、とにこやかに笑う幽々子に、春良は苦笑いで答える。
(本当に起きなそうだなぁ…)
失礼なので、もちろん口に出しては答えないが。
「ところで、あなたも出てきたらぁ?」
くるり、と優雅にその場で半回転し、幽々子は後ろを見る。
春良も習って見ると、そこにはおずおずとした『幽々子』がいた。
「……あ、桜の…」
「……そ、その節は、ありがとう」
小さくこちらへと歩み寄り、小さく頭を下げる『幽々子』は、とても隣にいる幽々子と同一人物だとは思えない。
「……その…」
「はい?」
「……今度、うちでも宴会をするから…来てくれる…?」
「えぇ、もちろん」
「――――!!」
できるかぎりの笑顔で言うと、『幽々子』は息をのみ、がっと妖夢にしがみついた。
「きて……来てくれるって、ようむ…!」
「あー、はいはい。良かったですね…」
「前も言ったけど、なるだけ大きなものにしたいから、もう少しかかりそうなのよぉ」
「……間があるときだけでも、手伝いに行きましょうか?」
社交辞令のような提案をすると、妖夢にしがみつく『幽々子』はまた息をのんだ。
「て、てつ、手伝いに、来るって……!」
「あー、はいはい。良かったですね…」
「大丈夫よぉ。お客様には、お楽しみにしておきたいし」
「それじゃ、楽しみにしてます」
軽く交わされた言葉に、春良は頷き、幽々子は笑い、『幽々子』は落胆し、妖夢は呆れた。
「それじゃ、またその時に~」
バッ、と扇が開かれたかと思うと、春良以外の三人を蝶が包み込む。
そして、その隙間から、
「あの……!」
「は、はい?」
「助けてくれて、あ、ありがとう…!」
『幽々子』が顔を出して言う。
正直、喋るまでどっちかわからないのが難点だ。
「いつか、私と一緒に、お花見――」
シュン、と言葉の途中で蝶が消える。
残ったのは、桜の花びらと、ほのかな香りだけだった。
「……戌井さん…。どなたかいらっしゃったんですか…?」
「あ、阿求。大丈夫だから、寝といた方がいいぞ?」
「いえ…、もう、だいぶ良くなりましたから…」
「どーも!文々。新聞ですっ!」
シュザン、とその手に一部新聞をもった烏天狗が風と共に舞い降りた。
「射命丸さん。大丈夫でしたか?」
「えぇ、まったくもって大丈夫ですよ。ありがとうございます」
「……文さん…?その新聞は…?」
「あ、これ?見てよ、阿求。春良さんも」
新聞を受け取り、広げる。
『鬼と人の大喧嘩!崩山!怪力乱神!』と書かれた見出しがまず目に入る。
そして、その下に『女殺しの外来人、戌井春良襲来!』とも書いてあった。
いつの間に撮ったのか、以前早苗と一緒に写ったものに加えて、数々のツーショット付きだ。
だがまだ記事は出来ていないようで、写真だけだ。
「…………射命丸さん…?」
「はい?あ、それですか?良い写真ですよね。自分でも良い感じに撮れたと思うん――」
「弓符『サジタリウス』ッ!」
「――『風神少女』!」
一陣の風となった射命丸は、一瞬でその場に何枚かの羽だけを残して消えた。
相変わらずの最速だ。
「……はぁ…。いったいいつの間にこんな写真を…」
「…………」
「……阿求?どうかしたのか?」
「え、あ、いえっ!なんでもありませんよ?」
新聞に載っている写真を眺め、ふと意識を奪われる。
(この写真、焼き増しとかできないんでしょうか…)
「できるよ?欲しい?阿求」
「わ、あぁ!?ああ文さん!?」
「今度持ってくるわよー」
まさに嵐のように現れては消える射命丸。
その姿に、阿求も春良もため息しか出なかった。
「……それじゃ、手伝いに行くか」
「あ、ありがとうございます…」
一夜分の遅れを取り戻すため、春良達は新聞を置いて歩き出した。
そこに写っている春良の写真。
それは、春良だけではなく、まだ足りない『皆』での宴会写真だった。
思い出として、欲しいと思うのは当然の一枚だ。
何時撮られたのかは、天狗のみぞ知る。