「良い写真ですね」
「自分が酔っぱらってる写真だから、あまり見せたくないけどなぁ…」
「あ、伊吹さんも酔ってますね。……ふふっ、私も楽しそうです」
「楽しかったなら、俺としても良かった」
「誰かさんがいなかったら、こんなに楽しくはありませんでしたよ?」
「誰か?萃香か?」
「違いますよ。……本当に、女殺しの上に鈍いんですね…」
「……なんか、馬鹿にされてる気がするけど…」
「そんなことないですよ。そこが良いところなんですから」
「後ろ向いて歩くとこけるぞー」
「大丈夫ですよ。……あぅ!」
「……阿求のそれは、良いところなのか…?」
香りはそれでも咲き誇る事を知り ・壱符
場所は守矢神社。
「お帰りなさい、戌井さん」
「た、ただいま」
「転生の儀の手伝いをしたんだって?どうだった?」
「力を借りてましたから、良くわからない感じでしたね」
そいつは興味深いねぇ、と守矢の一柱、神奈子は実際どうでも良さそうに首を回した。
「諏訪子はどこですか?」
「ケロ子なら外だよ」
指だけを外へ向けた神奈子に礼を言い、春良は外へと歩き出す。
花が喜びそうな日差しが、頭上から優しく降り注いだ。
「諏訪子!」
探し人(柱)はすぐに見つかった。
この暖かい日差しだと言うのに、どこか不機嫌そうに蛙座りしている。
「……何、どしたの」
「いや、用はないけどさ…。ただいま」
「ん、おかえり」
「なんか具合悪そうだけど、大丈夫か?」
「酒がまだ抜けてないのと、これかなぁ…」
諏訪子は指を空へ向ける。
今日は快晴で、雲一つない。
とすれば、
「……最近、雨降ってないから、とか?」
「……わかってきたじゃない…」
確かに、程良く暖かい天気だと言っても、それが何日も続きすぎるとマイナスと言うわけだ。
「むぅ~……」
ぐぐぐっ、と蛙座りからさらに縮こまり、一瞬止まってから、諏訪子は大きくジャンプした。
「もう、無理っ!」
吠え、団扇代わりにしていた帽子をかぶると、空をにらみつける諏訪子。
「無理って、天気はどうしようもないだろ?」
「どうしようもできる奴は知ってるけど。私の符なら、ここ一帯に雨くらい降らせれる!」
そういえば、初弾幕の時そんなスペルを使った気がする。
そう思う春良の目の前で、諏訪子は符を掲げた。
「土着神『ケロちゃん風雨に――」
「ちょぉいとストップだぜ!」
突如聞き慣れた声が諏訪子のスペル宣言を止めた。
声の次は、何者かが境内に飛び降りてくる。
「それ、私の家の近くでやってくれないか?」
「魔理沙?いきなりどうしたんだ?」
「本当だよ。私、さっさと水をかぶりたいんだけど」
げんなりする諏訪子に、すまんすまんと二謝りして、魔理沙は帽子をかぶり直した。
「魔法の森も、水分が足りてなくてな。思うように茸が繁殖してくれないんだ」
「それで、ついでに雨が欲しいと」
「そうだぜ。辛そうなとこ悪いが、頼めないか?」
何かを頼む魔理沙を見るのが珍しいのか、諏訪子は若干驚いた後、呆れたように言う。
「……早くいこ。魔法の森だよね?」
「おぉ、恩に着るぜ!礼は霊夢持ちで頼むぜ!」
「春良も、行くよね?」
「ん?あぁ、こあと上海も呼んでくるかな」
何はともあれ、雨降らしご一行の魔法の森ツアーが決定した昼だった。
「すいません…。今はちょっと無理そうです…」
「い、いや、無理しなくていいからな?ゆっくり休んでてくれ」
こあくまは二日酔いのせいか、まだ動くことすら難しそうな状態だ。
守矢神社までは背負って連れてきたが、流石にしょうがない。
「……というわけで、行くのは上海と諏訪子だけだな」
「ふ、不満なの?」
「そうは言ってないだろ。諏訪子は頼りになるしな」
「ま、まぁ、頼ってくれても良いけど…」
顔をほんのり紅くする諏訪子を通り過ぎて、春良は肩の上海を見る。
まだ、眠そうだ。
「上海、無理しないで留守番がてら寝てても良いぞ?」
「…………」
んー、と目をこすり上海は首を横に振る。
お子様ではないのだ。
「よし。そうと決まったら急ぐぜ、早くマジックアイテムが作りたいんだ」
ぽむ、と魔理沙が箒を手につかむ。
慣れた動作でそれにまたがると、軽く飛翔し始めた。
「それじゃ、春良。私の背中に…」
「そういえば、春良は飛べないんだったな?……ほい」
諏訪子の声を遮った魔理沙が春良に指を向けると、春良の体が星に包まれ浮かび始めた。
「お、おぉ?」
「箒に乗せてもいいが、春良はもう乗りたくないみたいだからな。不自由だろうけど、これで運ぶぜ」
「…………」
得意げな魔理沙と、なぜか若干不機嫌な諏訪子も飛翔を始めた。
「そういや、お前は地の力を司るんじゃなかったか?なんで雨なんか降らせれるんだ?」
「神奈子が私の象徴を蛙にしたのと関係があると思うよ。ま、天候が変わっちゃうのもある意味祟りだしね」
不自然な姿勢のまま飛ぶ春良の隣からそんな会話が聞こえる。
「ふーん。結構なんでもありなんだな?便利なもんだぜ」
「そうでもないよ。神として象徴となる力は大きいけど、場合によっては代償もそれ相当で――」
ふと、春良は会話から意識をそらして澄み渡る青空の向こう側を眺める。
「…………?」
肩で足をぱたつかせる上海を視界の隅でとらえながら、春良は眼鏡を押し上げる。
何かが、
(……何か、違和感が…)
頭がざわつく。
自分の体のどこかで、歯車がかみ合っていない感じがした。
しかし、魔法的なものなら魔理沙が、それ以外でも諏訪子が気づくはず。
(気のせいか…?)
そう思うときはたいてい気のせいではない。
そんなことは春良にもわかっていたが、原因はわからないことに変わりない。
「よし、ここらへんで頼むぜ」
「はいはい。すぐ終わらせて神社でも降らせようっと」
高度が下がっていく感覚に一瞬とらわれたせいか、もう違和感を感じることはなかった。
ようやっと不自然な飛翔から解放された春良は、地に足をつくと同時に、小さく背筋を伸ばす。
パキパキとこ気味良く鳴る音が、開放感をさらに強いものにした。
「上海、大丈夫か?」
「……?」
「いや、ここ、襲われたところだからさ」
そういえば、と上海はあたりを見回す。
魔理沙によって作られた不自然な直線が未だに残っていた。
「……」
「あの時は悪かったな。怪我させて」
「……!」
ぶんぶんと顔を横に振る上海に小さく笑い、春良は魔理沙と諏訪子に向き直る。
「ここでいいの?」
「おう。いっちょ頼むぜ」
「よぉし……」
怨、と諏訪子の足下から例えようのない禍々しい気が立ち上る。
そして、
「……土着神『ケロちゃん風雨に負けず』」
さぁ、と弾幕ではない雨が降り始めた。
雲は見えないと言うのに、不思議なものである。
「ふあー…。気持ちいー……」
手を広げて雨を楽しむ諏訪子は、本当に気持ちよさそうだ。
肌にまとわりつかない湿気は、もちろん春良達にとっても心地良い。
「……すごいな」
「……そう?ま、だてに神様やってないからね」
上機嫌な諏訪子を見て、春良も自然と笑みがこぼれる。
それは魔理沙も同じなようで、魔女帽を取って雨を楽しんでいた。