東方春命録   作:Poteto305

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「良い写真ですね」

「自分が酔っぱらってる写真だから、あまり見せたくないけどなぁ…」

「あ、伊吹さんも酔ってますね。……ふふっ、私も楽しそうです」

「楽しかったなら、俺としても良かった」

「誰かさんがいなかったら、こんなに楽しくはありませんでしたよ?」

「誰か?萃香か?」

「違いますよ。……本当に、女殺しの上に鈍いんですね…」

「……なんか、馬鹿にされてる気がするけど…」

「そんなことないですよ。そこが良いところなんですから」

「後ろ向いて歩くとこけるぞー」

「大丈夫ですよ。……あぅ!」


「……阿求のそれは、良いところなのか…?」




香りはそれでも咲き誇ることを知り
香りはそれでも咲き誇る事を知り ・壱符


 

場所は守矢神社。

 

「お帰りなさい、戌井さん」

「た、ただいま」

「転生の儀の手伝いをしたんだって?どうだった?」

「力を借りてましたから、良くわからない感じでしたね」

 

そいつは興味深いねぇ、と守矢の一柱、神奈子は実際どうでも良さそうに首を回した。

 

「諏訪子はどこですか?」

「ケロ子なら外だよ」

 

指だけを外へ向けた神奈子に礼を言い、春良は外へと歩き出す。

花が喜びそうな日差しが、頭上から優しく降り注いだ。

 

「諏訪子!」

 

探し人(柱)はすぐに見つかった。

この暖かい日差しだと言うのに、どこか不機嫌そうに蛙座りしている。

 

「……何、どしたの」

「いや、用はないけどさ…。ただいま」

「ん、おかえり」

「なんか具合悪そうだけど、大丈夫か?」

「酒がまだ抜けてないのと、これかなぁ…」

 

諏訪子は指を空へ向ける。

今日は快晴で、雲一つない。

とすれば、

 

「……最近、雨降ってないから、とか?」

「……わかってきたじゃない…」

 

確かに、程良く暖かい天気だと言っても、それが何日も続きすぎるとマイナスと言うわけだ。

 

「むぅ~……」

 

ぐぐぐっ、と蛙座りからさらに縮こまり、一瞬止まってから、諏訪子は大きくジャンプした。

 

「もう、無理っ!」

 

吠え、団扇代わりにしていた帽子をかぶると、空をにらみつける諏訪子。

 

「無理って、天気はどうしようもないだろ?」

「どうしようもできる奴は知ってるけど。私の符なら、ここ一帯に雨くらい降らせれる!」

 

そういえば、初弾幕の時そんなスペルを使った気がする。

そう思う春良の目の前で、諏訪子は符を掲げた。

 

「土着神『ケロちゃん風雨に――」

「ちょぉいとストップだぜ!」

 

突如聞き慣れた声が諏訪子のスペル宣言を止めた。

声の次は、何者かが境内に飛び降りてくる。

 

「それ、私の家の近くでやってくれないか?」

「魔理沙?いきなりどうしたんだ?」

「本当だよ。私、さっさと水をかぶりたいんだけど」

 

げんなりする諏訪子に、すまんすまんと二謝りして、魔理沙は帽子をかぶり直した。

 

「魔法の森も、水分が足りてなくてな。思うように茸が繁殖してくれないんだ」

「それで、ついでに雨が欲しいと」

「そうだぜ。辛そうなとこ悪いが、頼めないか?」

 

何かを頼む魔理沙を見るのが珍しいのか、諏訪子は若干驚いた後、呆れたように言う。

 

「……早くいこ。魔法の森だよね?」

「おぉ、恩に着るぜ!礼は霊夢持ちで頼むぜ!」

「春良も、行くよね?」

「ん?あぁ、こあと上海も呼んでくるかな」

 

何はともあれ、雨降らしご一行の魔法の森ツアーが決定した昼だった。

 

「すいません…。今はちょっと無理そうです…」

「い、いや、無理しなくていいからな?ゆっくり休んでてくれ」

 

こあくまは二日酔いのせいか、まだ動くことすら難しそうな状態だ。

守矢神社までは背負って連れてきたが、流石にしょうがない。

 

「……というわけで、行くのは上海と諏訪子だけだな」

「ふ、不満なの?」

「そうは言ってないだろ。諏訪子は頼りになるしな」

「ま、まぁ、頼ってくれても良いけど…」

 

顔をほんのり紅くする諏訪子を通り過ぎて、春良は肩の上海を見る。

まだ、眠そうだ。

 

「上海、無理しないで留守番がてら寝てても良いぞ?」

「…………」

 

んー、と目をこすり上海は首を横に振る。

お子様ではないのだ。

 

「よし。そうと決まったら急ぐぜ、早くマジックアイテムが作りたいんだ」

 

ぽむ、と魔理沙が箒を手につかむ。

慣れた動作でそれにまたがると、軽く飛翔し始めた。

 

「それじゃ、春良。私の背中に…」

「そういえば、春良は飛べないんだったな?……ほい」

 

諏訪子の声を遮った魔理沙が春良に指を向けると、春良の体が星に包まれ浮かび始めた。

 

「お、おぉ?」

「箒に乗せてもいいが、春良はもう乗りたくないみたいだからな。不自由だろうけど、これで運ぶぜ」

「…………」

 

得意げな魔理沙と、なぜか若干不機嫌な諏訪子も飛翔を始めた。

 

「そういや、お前は地の力を司るんじゃなかったか?なんで雨なんか降らせれるんだ?」

「神奈子が私の象徴を蛙にしたのと関係があると思うよ。ま、天候が変わっちゃうのもある意味祟りだしね」

 

不自然な姿勢のまま飛ぶ春良の隣からそんな会話が聞こえる。

 

「ふーん。結構なんでもありなんだな?便利なもんだぜ」

「そうでもないよ。神として象徴となる力は大きいけど、場合によっては代償もそれ相当で――」

 

ふと、春良は会話から意識をそらして澄み渡る青空の向こう側を眺める。

 

「…………?」

 

肩で足をぱたつかせる上海を視界の隅でとらえながら、春良は眼鏡を押し上げる。

何かが、

 

(……何か、違和感が…)

 

頭がざわつく。

自分の体のどこかで、歯車がかみ合っていない感じがした。

しかし、魔法的なものなら魔理沙が、それ以外でも諏訪子が気づくはず。

 

(気のせいか…?)

 

そう思うときはたいてい気のせいではない。

そんなことは春良にもわかっていたが、原因はわからないことに変わりない。

 

「よし、ここらへんで頼むぜ」

「はいはい。すぐ終わらせて神社でも降らせようっと」

 

高度が下がっていく感覚に一瞬とらわれたせいか、もう違和感を感じることはなかった。

 

ようやっと不自然な飛翔から解放された春良は、地に足をつくと同時に、小さく背筋を伸ばす。

パキパキとこ気味良く鳴る音が、開放感をさらに強いものにした。

 

「上海、大丈夫か?」

「……?」

「いや、ここ、襲われたところだからさ」

 

そういえば、と上海はあたりを見回す。

魔理沙によって作られた不自然な直線が未だに残っていた。

 

「……」

「あの時は悪かったな。怪我させて」

「……!」

 

ぶんぶんと顔を横に振る上海に小さく笑い、春良は魔理沙と諏訪子に向き直る。

 

「ここでいいの?」

「おう。いっちょ頼むぜ」

「よぉし……」

 

怨、と諏訪子の足下から例えようのない禍々しい気が立ち上る。

そして、

 

「……土着神『ケロちゃん風雨に負けず』」

 

さぁ、と弾幕ではない雨が降り始めた。

雲は見えないと言うのに、不思議なものである。

 

「ふあー…。気持ちいー……」

 

手を広げて雨を楽しむ諏訪子は、本当に気持ちよさそうだ。

肌にまとわりつかない湿気は、もちろん春良達にとっても心地良い。

 

「……すごいな」

「……そう?ま、だてに神様やってないからね」

 

上機嫌な諏訪子を見て、春良も自然と笑みがこぼれる。

それは魔理沙も同じなようで、魔女帽を取って雨を楽しんでいた。

 

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