「君は…?」
重そうな壷を抱えた少女に声をかける。
少女は春良に気づいていなかったのか、ハッとして春良を見つめた。
「わ、私はメディスン・メランコリー。そこで傘振ってる人とここの花を育ててるんだけど…」
「俺は戌井春良。そこで鉄輪振ってる子と向日葵を貰いに来たんだ」
お互い蚊帳の外の住人だということを把握した二人の間には、何ともいえない共有感が生まれた。
すぐそこでは、鉄輪と傘がぶつかり合う音が響いている。
「……人間?」
「あ、あぁ。外来人だけど…」
「……なんだ、人間か…」
メディスンが急に暗くなる。
「……なんで――――」
何故かと気になり、理由を聞こうとした瞬間、風が吹く。
そして、春良のすぐ横に幼神が転がり込んできた。
「あらあら、意気込んだ割にはたいしたことないのね?」
「~~っ!あんなやつ、信仰がたまってればぁ…!」
悔しそうに諏訪子が鉄輪を振るうと、その隙間を狙うかのようにレーザーがのびてくる。
そして、諏訪子はそれを弾いて接近しようと一歩前へ踏み出した。
「…………え?」
その弾いたレーザーが、メディスンの元へ伸びていることも知らずに。
「きゃ……!」
「……メディスン…!?」
手をとっさに前に出すメディスン。
ようやくメディスンを発見したのか、一瞬動きが止まる傘の女性。
そして、そのレーザーが当たるか否かのところで、
「親愛『半人半霊の庭師』!」
「……隙ありぃっ!!」
レーザーを一刀両断する春良の動きと、完全に不意をついた諏訪子の動きが同調した。
「……!?」
「…………っく…!」
二つに分かれたレーザーはどこかへ消え、傘の女性が片膝をつく。
「メディスン、大丈夫か?」
「……だ、大丈夫…」
「そっか。なら良かった」
使いすぎるとまた倒れてしまう。
それを学習した春良は、すぐに符を解いて諏訪子達を見た。
「やってくれるわね…」
「神遊び中には余所見厳禁だよ」
鉄輪を一振りし、女性の眼前に突きつける。
勝負が決した、と思われた次の瞬間、またも変化は訪れた。
「ねぇ、ここいらで一番綺麗な花はどれかね?」
ふと聞こえた、薄い声に、全員が振り向く。
そこには、少し歪な形の刃を持つ大鎌を持つ女性がいた。
「……って、あれ?なんかまずいところに来たかな?」
冷や汗を垂らす鎌の女性を全員が見つめる。
「何か用かしら、小野塚小町」
鎌を持つ女性、小野塚小町(オノヅカ コマチ)と呼ばれた女性は、サイドテールの髪を揺らして答える。
「うん?少しばかり上司に花を贈りたくてね」
「……また仕事をさぼったのかしら?」
「失敬な事を言う。映姫様の仕事が平均的になるようにしてるだけさ」
若干置いてけぼりを食らっている春良達を無視し、小町と女性は話を続ける。
「花はやらないわよ?」
「あぁ、お前さんがそういうやつだって事は重々承知してるさ。種ならいいだろう?」
「……メディスン」
「う、うん。……どうぞ」
「おぉ。恩に着るよ」
ぱん、と不思議な音と共に何かの種をもった小町が姿を消した。
そのやりとりを見て、春良達は顔を見合わせると、
「じゃぁ、私達にも種をくれれば良かったよね!?」
「あなた達、花を摘もうとしてたでしょう?そりゃぁ止めるわよ」
パッ、と傘を開き、女性が笑う。
なんとも、不服な遠回りの結果だった。
「なかなか、面白かったわよ」
「……ま、貴方もなかなか遊べたわね」
番長同士の喧嘩後のような空気の外で、春良はメディスンに歩み寄る。
「……えっと、向日葵の種ある?」
「う、うん。あるわよ。……はい」
「ありがとな」
「うん……。私も、ありがとう」
袋詰めにされた種をいくつか春良に渡し、メディスンはぽつりとつぶやく。
そのつぶやきを拾った春良は、不思議そうに聞く。
「……普通、どういたしましてじゃないか?」
「……さっき、助けてくれたでしょ」
ぷい、と顔を背けメディスンは頬をふくらませる。
その頬が紅いのは、決して驚いたからでは、ない。
「じゃぁ、どういたしまして」
「……ん」
にっこり笑顔で言葉を返し、諏訪子の方を見る。
向こうもちょうどこちらに歩いてきていた。
「種、もらった?」
「あぁ、これを魔理沙まで持って行けば大丈夫だろ」
「……ゆ、幽香の作った種だから、すぐに芽吹くわよ」
「幽香?」
「貴方が戦った相手よ」
そう言ってメディスンは傘を持って汗一つかいていない女性を指さす。
「風見幽香。いつの間にかこの花畑にいた妖怪よ」
「ふぅん…。風見って言うんだ」
向日葵の足下にしゃがみ込む女性、風見幽香(カザミ ユウカ)は微笑む。
先ほどの黒い笑顔ではなく、花に向けられた笑顔は、まさに太陽のようだ。
「あの、すいませんでした」
「……何がかしら?」
しゃがむ幽香の影を踏み、春良が頭を下げる。
幽香は傘を開いたまま、春良を見つめた。
「えっと、勝手に花を摘もうとしたんで…」
「それはあの子でしょう?貴方は何もしてないわ」
「でも……」
「……あぁ、そうね」
ふと思い出したように幽香が春良の言葉を止める。
そして、傘をたたむとその先端を地面に刺して、笑う。
「あの子を吹っ飛ばした時、貴方、かなり殺気立ってたわね」
攻撃しようとして、悪かったわね、と幽香は風のように微笑む。
「……それと、その子は何かしら。メディスンの人形じゃないみたいだけど」
「上海は、魔法の森にいるアリスって魔法使いの作った人形です」
「上海…アリス……?」
「あ、知ってるんですか?」
「……よくある名前だから。なんにせよ一度お会いしてみたいものね」
「宴会に来れば会えると思いますけど…」
「酒よりも、この子達の面倒を見る方がよっぽど楽しいわ」
幽香は膝下のパンジーの花をなでる。
春良が周りの広大な花畑を見ると、不思議なことに様々な季節の花が咲き誇っていた。
「……また、見に来ても良いですか?」
「えぇ、花を摘まないならね」
にっこりと、どこぞの亡霊とはまた違った笑みを最後にして、春良達は魔法の森へと飛翔した。