「種!?勘弁してくれ、私は待つのが嫌いなんだ」
「なら、自分で行ったら良かったよね?」
「まぁ、普通より早く芽吹くみたいだし、とりあえず育ててみたらどうだ?」
まったく、花妖怪はケチだな、とぼやく魔理沙に種袋を渡す。
「そんなに早く萌えるのか?」
「まぁ、そうだけど。その言い方はなんか違和感を感じるぞ」
「ふう…。待つのも魔法の内と思うか…」
そう言ってしゃがむ魔理沙。
すると、右腕が引っ張られる感触がした。
「帰ろっか、春良」
「ん、そうだな」
服の袖を引っ張っていた諏訪子におぶさる。
肩に乗る上海は、何故か不機嫌そうだ。
「さて、帰ったら早苗さんのご飯が待ってるぞ」
まだ昼真っ盛りだが、そう言いたくなってしまったのだから仕方がない。
笑顔の上海と諏訪子と共に、春良達は『家』に帰ることにした。
「お。おぉ?もう芽吹いてきたぞ?……って、でかっ!ちょっと、でかすぎだぜ!?あぁ、止めろ!私の家に巻き付こうとするな!」
とある魔法使いの『家』は大変なことになっていそうだが、気にせず、振り返らずに諏訪子は飛翔を続けた。
「ただいまー」
「どこかに行ってらっしゃったんですか?」
「ちょっと、雨を降らしにねぇ」
満足気にそう言う諏訪子に、早苗は小さく笑みを浮かべる。
その笑みは、年相応とは全く言えない、まさに母親のような笑みだ。
「うん。私もスッキリしたことだし、もうこれからはのんびりしてよっかなー」
ぐでーん、と畳の上でうつぶせに倒れる諏訪子。
何故か、上海が羨ましそうにそれを見ていたので、
「上海もしたらどうだ?」
と冗談ながら声をかけてみると、予想外にも上海は畳にダイブ。
そのままごろごろと畳の感触を味わっていた。
(上海も可愛いところがあるなー…)
ほのぼのとそれを見守り、ふと、外を見る。
「次はどこに行こうか、って顔ですね?」
「……早苗さん。まぁ、そうなんですけど…」
「気長に行きましょうよ。私達も、まだ戌井さんと一緒にいたいですし」
一瞬、胸が高鳴った。
いやいや勘違いはいけないとすぐさま春良は頭を振る。
そして、ふと、庭先の小さな花に目がいった。
「太陽の畑に行ってみようと思います」
「太陽の畑…。あそこには危険な妖怪がいると聞いたことがありますよ?」
「そんなこと…ありましたけど。まぁ、失礼なことをしなければ大丈夫ですよ、きっと」
ふーむ、と腕を組む早苗を見る。
なにしろこの外来人は幾度となく死にかけては、運に人に妖怪に魔法使いに神に救われているのだから。
心配は、当然だった。
「止めはしませんけど…。万が一の為に教えておきたい技があります」
「技ですか?」
「術とも言えますね。外へ来てくれますか?」
言われるがまま、春良は頷いて外へ出る早苗に続いた。
そして、境内。
「それでは、戌井さん。弾幕を」
「はい」
右手を横に伸ばし、符を紡ぐ。
顕現せしは、蒼の真弓。
「弓符『サジタリウス』!」
「まず手本を見せますので、遠慮なく撃ってきて下さい」
そういうことなら、と春良は弓を引く。
キュン、と春良の周りに矢玉が精製され、それは春良が弦を離すと同時に、
「サジタリウス×拾(テン)!」
放たれた。
十本の矢が光り、緑髪の現人神へと走る。
早苗は迫ってくる矢達を避けようとはせず、息を吸った。
「…………っは!」
「っ!?」
矢が、一瞬でかき消された。
早苗から目に見えるほどの何かが轟き、それが矢をかき消したのだ。
「……ふう」
早苗を中心に迸った何かは、やがて形をなくして消える。
額の汗を拭き、早苗がまた笑顔で春良を見た。
「これが『霊撃』です。身を守ると同時に攻撃の手段にもなる弾幕の一種です」
「『霊撃』……」
「霊夢さんと魔理沙さんが使っていました。なんでも、符の力を形ではなくそのまま放出させたものらしいです」
教えてもらったのはいいですけど、燃費が悪いですね、と早苗が困ったように言う。
「それを、俺にしろと…?」
「簡単です。符を通して力を解放するだけです」
「すいません。わかりません」
「習うより慣れろ、ですよ。戌井さん」
そう言うや否や、早苗が手を掲げる。
すると、星が一瞬輝く。
「奇跡『白昼の客星』」
昼間に輝くその星は、何個かに分裂して、流れ星のように降り注いできた。
今までも、出たとこ勝負だった。
(できるはずだ……!)
力なら、おあつらえの符がある。弓道『射法八節』。
見た目の綺麗さはこの際気にしない、ただ解放するためだけに春良はその符を取る。
「お、おぉぉぉぉおおおおおおおおおおッ!」
流れてくる星々に向かって、吠える。
その声が、実体を得たかのように、波打ち。
「『 霊 撃 』!」
目の前の星を、消し飛ばした。
「やっ…………た…?」
しかし、消すことができたのは目の前の星だけ。
その後ろから降ってきた星は、未だ春良に向かって突進している。
「戌井さん!気を抜いてはダメです!」
「う、うおぉぉおおおっ!?」
しかし、言われた後ではもう遅い。
それに、気を引き締めようにも、体が反抗期にでも入ったかのように動いてくれない。
棒立ちの体を射抜こうと星が迫る。
「…………!」
そこに、小さな体が割り込んだ。
その小さな存在が手を横へ開くと、春良の前に小さな霊撃の盾を展開。
星々の全てを、反らし防いだ。