「……上海!」
振り返ったその人形はにっこりと笑い、その場にへたり込んだ。
「だ、大丈夫、か…?」
そう言う春良も近寄れてはおらず、その場に座り込んでしまっていた。
「まだ慣れてないからですね。『霊撃』の扱いに慣れれば、使う力もコントロールできると思います」
つまり、今の春良では、小さく爆発する程度しか使えないと言うこと。
しかもこの脱力感。
全く割に合わない。
「でも、上海さんも『霊撃』を扱えるなんて…。まさか、さっき私のを見て覚えたんですか?」
「……」
こくりと頷く上海に、早苗が暖かい息を漏らす。
大した人形ですね…、と呟いた後に、いや?と顎に手を当てる。
「これも愛情のなせる技ですか……!」
「…………!」
鋭く指さした早苗に、上海の顔が真っ赤に燃える。
しかし、首を振るようなことはせず、ただ春良をちらちらと見つめてきていた。
(……アリスの愛情がこもってるってことか。すごいな、アリス…)
本意に気づかぬまま春良は空を見上げる。
勿論、晴れ渡っていた。
「『霊撃』ですか…?」
「そうそう。こあは使えるのか?」
あれから10分ほどしてようやく春良達はいつも通りに戻れた。
二日酔いも収まったこあくまと、上海と春良で、部屋に集まっている。
「ちょっとわかりませんね…。あ、それが使えないと何かあるんですか?」
「ん?いや、そう言うわけじゃ…」
「も、もしかして連れて行けないんですか!?い、嫌です!」
「や、上海もできたからこあも……」
「つ、使います!使えるようになりますから、置いていかないで下さいぃ…!」
「な、泣くな!置いていかないから!」
女の子座りでぐすぐすと泣き出したこあくまの頭を撫でてなだめる。
「春良さんと、一緒に、いたいです…」
撫でられながら言われたその言葉に、春良は胸に来るものを覚える。
なんというか、こっちが泣きそうだ。
「大丈夫だって、一緒にいるから、な?」
「……約束ですよ…?」
「ん。約束な」
肩に乗った上海が若干羨ましそうに二人の指切りを眺める。
手のサイズが違うのだから、できないのは仕方のないことだが。
「…………」
しかし、春良の肩に乗れるのも自分だけ。
その嬉しさを噛みしめて、上海は春良へと体を預けた。
「よし、行くか」
あれから、早苗さんに霊撃を学び、十分な睡眠を取り、朝。
守矢神社に降り注ぐさんさんとした日光がまぶしかった。
「上海、こあも、準備いいか?」
「……」
「はい、大丈夫ですよ」
頷いた上海とこあくまを見て、ポーチの符を確かめ、春良も靴を履く。
そこで、とある少女の事を思い出した。
(そう言えば、諏訪子も置いていく訳にはいかないな…)
このまま出ていたら、また半殺しにされるところだった。
そう思った春良は急いで靴を脱ぎ、諏訪子の元へ駆ける。
「諏訪子」
「ん?何?」
「これから太陽の畑に行こうと思うんだけど、一緒に行くか?」
返答は分かり切っている。
と、春良は思っていたのだが、
「あ…………っと…」
諏訪子が、若干苦しそうにうなる。
む~、と頭をぶんぶんと振ると、小さく、つらそうに申し出てきた。
「今日は…い、行かない…!」
「そ、そうか?用事でもあるのか?」
「うん…。ごめん、連れてけって言ってた癖に」
「いや、仕方がないだろ?用事、頑張ってな」
「……うん」
その言葉を聞いて、若干春良は不安をふくらませるが、用事ならば仕方がない。
背中に諏訪子の視線を感じながら、春良は再びこあくま達の元へ急いだ。
「諏訪子さんは?」
「今日は行けないって、三人で頑張ろうな」
「そ、そうですか……」
春良に分からないよう、拳を握りガッツポーズする二人。
恋敵は少ないに限る。
「じゃぁ、こあ。頼むな」
「は、はい!いかようにも!」
女性におんぶされるのも結構慣れてきた。
この屈辱感はぬぐえないが、仕方のないことなのだから、仕方ないのだ。
「春良さん、も、もうちょっと強く握らないとあ、危ないですよ…?」
「ん?そうか?」
顔が真っ赤になっているこあくまの指摘に従い、春良は抱く力を強める。
あまり力を入れすぎると折れてしまいそうなので、少し難しい。
「ん……。で、では、行きましょう」
「おう。頼む」
春良を上手く回避して広がる翼が動き出す。
それに合わせて跳ねたこあくまの体は、いとも簡単に空へと羽ばたいた。
「……今、使命は3つ終わったんですよね?」
「あぁ、もう少しだ。ごめんな、付き合わせて」
「い、いえ…。私は、春良さんと居れて嬉しいですから…」
それだけで、十分ですよ、とこあくまが若干引きつった笑顔を見せてくれた。
『別れ』が来ることは、口にしてほしくない、とでも語るかのように。
「本当にまた来るとは思わなかったわね」
「綺麗でしたから、ここの花が」
太陽の畑。
まさにその通りと言いたいほどに輝く花が咲き誇っている。
春良のごますりのような言葉に幽香はそう?とご機嫌に言葉を返した。
「ぁ……、戌井春良」
「メディスンか、昨日ぶり」
「きょ、今日は何しにきたの?あの子供はいないみたいだけど」
「ん。幽香さんにも聞きたいんですが、何か困りごとはありませんか?」
向日葵から手を離し、幽香がこちらを見る。
「困り事…?あぁ、例の『面解屋』ってアナタ?」
「そ、そうです」
今度は少し面倒そうに考える。
正直、春良が解決できることなら自分でも解決できそうだからだろう。
「特にないわ」
「そ、そうですかぁ…、メディスンは?」
「私?……な、ないかな、特には…」
「今回は、はずれかもしれませんね」
残念そうに呟くこあくまの視線は幽香に向けられている。
そして、その後メディスンに目線が移ると、少し固まった。
「な、何よ」
「……いえ、何でもないです」
その紅い顔から何を読み取ったのか、こあくまはメディスンを若干敵として判断した。
敵と言うよりは、ライバルだが。