東方春命録   作:Poteto305

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香りはそれでも咲き誇る事を知り・捌符

 

「とりあえず、ビニールシートとか、かぶせる物がほしいな」

「でも、ここにはかぶせれそうな物はありませんよ…?」

 

あたりを見回しても、こあくまの言うとおり何もない。

花を直接守る物がないとなると、これは苦労しそうだ。

 

「…………」

「上海、どうした?」

 

ふと、上海が花壇の中央に立ち、手を上に掲げる。

一瞬の小さなきらめきの後、花壇を覆うように『霊撃』のドームが張られた。

 

「……おぉ…」

「これが、上海さんの『霊撃』…」

 

春良を守ったときと言い、上海の『霊撃』は防御に徹しているものらしい。

 

どうやって決まっているのかは知らないが、ピッタリだ。

 

「結構長くなりそうだぞ?大丈夫か?」

「…………」

 

行けるところまでがんばる。

そう言った意識を春良は上海の目から感じ取ることができた。

 

(『霊撃』……上海に負けてるなぁ、俺……)

 

はぁ、とため息をつく。

これが終わったらコツでも教えてもらおう、そう考えて春良はこあくまを見る。

 

「上海に負担をかけないように、俺達は飛んでくるものの対処とか、風を防いだり、だな」

「はい!がんばりましょう!」

 

バサッ、と翼を広げてこあくまがこぶしを握る。

風雨が、増した。

 

 

 

「……はぁっ…!!」

「はる…よし、さん…!」

 

あれから、小一時間ほど。

未だ納まりを見せない風雨と戦い、春良達は疲れ果てていた。

 

「上海、無理するなよ!」

「……!」

 

飛んできたバスケットボール大の岩を、美鈴の力で強化された腕が砕く。

その破片を、こあくまが弾幕でかき消す。

その繰り返しを何度もしていた。

 

「まさか……射命丸さんの力が借りれないとは思わなかったな…!」

 

風、と言ったら天狗しかいない。

そう思った春良はすぐさま射命丸の『親愛』を使おうとしたのだが、失敗。

今はコストパフォーマンスの良い美鈴の力を使い続けている。

 

「春良さん…!私、もう…!」

「くそっ……!」

 

「――まさか、ここまでしてくれていたとは、思わなかったよ」

「……!?」

 

ひとつ岩を破壊し、振り向く。

そこには、大きな鎌を抱えた眠そうな女性がいた。

 

「小町、さん…?」

「人間だからと言って、少し侮っていたよ。正直、あまり期待はしてなかったさ」

 

フォンッと鎌をひと振りし、笑う。

 

「悪かったね、面倒事を押しつけて」

「まぁ、面倒事を探してますから」

「お、そうかい?んじゃ、もう一つ頼むよ」

 

鎌を持ち直し、振りかぶった状態で止める。

縦ふりのための姿勢をキープしたまま、小町は春良に告げる。

 

「一瞬、この風雨との『間』を作っておくれ。後は任せてさ」

「……りょ、了解しました」

 

一瞬。

絶え間なく流れ続ける風と雨。

自然を止めるというのは、普通は難しい。

 

「お前は普通じゃぁないだろう?」

「……まぁ、そうかもですね…」

 

符を取り出す。

力だけをイメージし、解放するその術、技。

その名は――、

 

「『 霊 撃 』ッ!!」

 

キィンッ、と例えようのない甲高い音が春良の符から迸る。

それと同時に拡散した春良の『霊撃』が、自然へと勝負をかける。

 

(俺の霊撃は爆散型…、とにかく風雨だけを意識して、爆発させる…!)

 

早苗は意識次第で霊撃の形は変わる、と言っていたが、それでも得手不得手はある。

ならばと言うことで、春良達はまず得意な方から大きくしていくことに決めたのだ。

 

「……こりゃぁ、なかなかに良い力じゃないか」

 

力の放出が終わり、一瞬の静寂が訪れた。

勿論、それはほんの一瞬。

広大な自然の力をそう押さえつけておくことは出来ない。

 

「…………地獄」

 

だが、一瞬で良いと彼女は言った。

その言葉を鵜呑みにした春良は、そのまま前のめりに倒れ込む。

そして、その頬をかするかどうかの所を、

 

 

「『無間の狭間』」

 

 

小野塚小町の鎌が通り過ぎた。

あり得ないほどの何もなさ。

 

「……えーっと…?」

 

鎌は地面に突き立てられ、かすかに当たりを薄紫色の気が包んでいるのが見えた。

 

「言い遅れたけどね、私は三途の川の渡し人をやってるのさ」

「……渡し人…?」

「能力は『距離を操る程度の能力』、ほんの少しでも『距離』ができれば、それを無限にでものばせるってこと」

「……俺が作った小さな隙間を、無限に近い距離に変えた、ってことですか?」

 

物わかりがいいねぇ、と小町は鎌を肩に担ぎ、おおらかに笑う。

つまり、台風自体と距離を作り、天気を変えたということか。

 

「死神として船頭をしてるけど、しょっちゅう映姫様に叱られててねぇ」

「そ、そうですよっ!」

 

濡れた髪を後ろにまとめ、羽をパタパタと振りながらこあくまが怒鳴る。

 

「どうして約束をすっぽかしたりするんですか!?映姫さん、悲しそうでしたよ!」

「……あぁ、来たのかい?ここに」

「はい。他意はないにしても、故意にしても、ちょっとやりすぎだと思うんですけど…」

「そうですそうです!何のための約束ですか!」

 

花の横でぐったりとしている上海をだっこして、胸に抱える。

それを褒美だと受け取ったのか、上海はとても幸せそうに顔をうずめ、寝息を立て始めた。

 

「……その話はまた今度でいいかい?お前さん等も、行くところがあるだろう?」

 

鎌をコンタクトマテリアルの要領でくるくると回し、小町は春良達に告げる。

心当たりの無い春良達は、互いに視線を交わらせた。

 

「『距離』を変えたのはここら一帯だけだから、他の所は嵐が続いている」

「……あ」

 

諭すような小町のその言葉に、春良は『一番風雨が来てはいけない場所』を思い浮かべる。

 

「こ、小町さん!」

「はいはい。せいぜい面倒事を解決してきなよ」

 

鎌を立て、小町が不適に笑うと、春良達の周りを転移の魔法陣が囲んだ。

 

「わ、私はまだ納得してません!映姫さんに、きちんとプレゼントしてくださいね!」

 

こあくまの言葉を小町は目を閉じて聴いていた。

一瞬後、転移して消えた春良達のいた場所を見つめ、小町はため息をつく。

 

「ふぅ…。全く、お前さん等が面倒事みたいじゃないか…」

 

無傷のつぼみを眺め、またため息。

いつもひょうひょうとしている小町は、自分を見つめられるのが嫌いだ。

 

「……いや、あれはお節介といった方が正しいねぇ…」

 

だからこそ、それだからこそ。

小町は、三途の川の渡し人となることを、選んだのだ。

 

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