「とりあえず、ビニールシートとか、かぶせる物がほしいな」
「でも、ここにはかぶせれそうな物はありませんよ…?」
あたりを見回しても、こあくまの言うとおり何もない。
花を直接守る物がないとなると、これは苦労しそうだ。
「…………」
「上海、どうした?」
ふと、上海が花壇の中央に立ち、手を上に掲げる。
一瞬の小さなきらめきの後、花壇を覆うように『霊撃』のドームが張られた。
「……おぉ…」
「これが、上海さんの『霊撃』…」
春良を守ったときと言い、上海の『霊撃』は防御に徹しているものらしい。
どうやって決まっているのかは知らないが、ピッタリだ。
「結構長くなりそうだぞ?大丈夫か?」
「…………」
行けるところまでがんばる。
そう言った意識を春良は上海の目から感じ取ることができた。
(『霊撃』……上海に負けてるなぁ、俺……)
はぁ、とため息をつく。
これが終わったらコツでも教えてもらおう、そう考えて春良はこあくまを見る。
「上海に負担をかけないように、俺達は飛んでくるものの対処とか、風を防いだり、だな」
「はい!がんばりましょう!」
バサッ、と翼を広げてこあくまがこぶしを握る。
風雨が、増した。
「……はぁっ…!!」
「はる…よし、さん…!」
あれから、小一時間ほど。
未だ納まりを見せない風雨と戦い、春良達は疲れ果てていた。
「上海、無理するなよ!」
「……!」
飛んできたバスケットボール大の岩を、美鈴の力で強化された腕が砕く。
その破片を、こあくまが弾幕でかき消す。
その繰り返しを何度もしていた。
「まさか……射命丸さんの力が借りれないとは思わなかったな…!」
風、と言ったら天狗しかいない。
そう思った春良はすぐさま射命丸の『親愛』を使おうとしたのだが、失敗。
今はコストパフォーマンスの良い美鈴の力を使い続けている。
「春良さん…!私、もう…!」
「くそっ……!」
「――まさか、ここまでしてくれていたとは、思わなかったよ」
「……!?」
ひとつ岩を破壊し、振り向く。
そこには、大きな鎌を抱えた眠そうな女性がいた。
「小町、さん…?」
「人間だからと言って、少し侮っていたよ。正直、あまり期待はしてなかったさ」
フォンッと鎌をひと振りし、笑う。
「悪かったね、面倒事を押しつけて」
「まぁ、面倒事を探してますから」
「お、そうかい?んじゃ、もう一つ頼むよ」
鎌を持ち直し、振りかぶった状態で止める。
縦ふりのための姿勢をキープしたまま、小町は春良に告げる。
「一瞬、この風雨との『間』を作っておくれ。後は任せてさ」
「……りょ、了解しました」
一瞬。
絶え間なく流れ続ける風と雨。
自然を止めるというのは、普通は難しい。
「お前は普通じゃぁないだろう?」
「……まぁ、そうかもですね…」
符を取り出す。
力だけをイメージし、解放するその術、技。
その名は――、
「『 霊 撃 』ッ!!」
キィンッ、と例えようのない甲高い音が春良の符から迸る。
それと同時に拡散した春良の『霊撃』が、自然へと勝負をかける。
(俺の霊撃は爆散型…、とにかく風雨だけを意識して、爆発させる…!)
早苗は意識次第で霊撃の形は変わる、と言っていたが、それでも得手不得手はある。
ならばと言うことで、春良達はまず得意な方から大きくしていくことに決めたのだ。
「……こりゃぁ、なかなかに良い力じゃないか」
力の放出が終わり、一瞬の静寂が訪れた。
勿論、それはほんの一瞬。
広大な自然の力をそう押さえつけておくことは出来ない。
「…………地獄」
だが、一瞬で良いと彼女は言った。
その言葉を鵜呑みにした春良は、そのまま前のめりに倒れ込む。
そして、その頬をかするかどうかの所を、
「『無間の狭間』」
小野塚小町の鎌が通り過ぎた。
あり得ないほどの何もなさ。
「……えーっと…?」
鎌は地面に突き立てられ、かすかに当たりを薄紫色の気が包んでいるのが見えた。
「言い遅れたけどね、私は三途の川の渡し人をやってるのさ」
「……渡し人…?」
「能力は『距離を操る程度の能力』、ほんの少しでも『距離』ができれば、それを無限にでものばせるってこと」
「……俺が作った小さな隙間を、無限に近い距離に変えた、ってことですか?」
物わかりがいいねぇ、と小町は鎌を肩に担ぎ、おおらかに笑う。
つまり、台風自体と距離を作り、天気を変えたということか。
「死神として船頭をしてるけど、しょっちゅう映姫様に叱られててねぇ」
「そ、そうですよっ!」
濡れた髪を後ろにまとめ、羽をパタパタと振りながらこあくまが怒鳴る。
「どうして約束をすっぽかしたりするんですか!?映姫さん、悲しそうでしたよ!」
「……あぁ、来たのかい?ここに」
「はい。他意はないにしても、故意にしても、ちょっとやりすぎだと思うんですけど…」
「そうですそうです!何のための約束ですか!」
花の横でぐったりとしている上海をだっこして、胸に抱える。
それを褒美だと受け取ったのか、上海はとても幸せそうに顔をうずめ、寝息を立て始めた。
「……その話はまた今度でいいかい?お前さん等も、行くところがあるだろう?」
鎌をコンタクトマテリアルの要領でくるくると回し、小町は春良達に告げる。
心当たりの無い春良達は、互いに視線を交わらせた。
「『距離』を変えたのはここら一帯だけだから、他の所は嵐が続いている」
「……あ」
諭すような小町のその言葉に、春良は『一番風雨が来てはいけない場所』を思い浮かべる。
「こ、小町さん!」
「はいはい。せいぜい面倒事を解決してきなよ」
鎌を立て、小町が不適に笑うと、春良達の周りを転移の魔法陣が囲んだ。
「わ、私はまだ納得してません!映姫さんに、きちんとプレゼントしてくださいね!」
こあくまの言葉を小町は目を閉じて聴いていた。
一瞬後、転移して消えた春良達のいた場所を見つめ、小町はため息をつく。
「ふぅ…。全く、お前さん等が面倒事みたいじゃないか…」
無傷のつぼみを眺め、またため息。
いつもひょうひょうとしている小町は、自分を見つめられるのが嫌いだ。
「……いや、あれはお節介といった方が正しいねぇ…」
だからこそ、それだからこそ。
小町は、三途の川の渡し人となることを、選んだのだ。