かわして、かわして、かわす。
まるで無尽蔵の体力を持つかのように、春良の動きは衰えない。
「当たんないなぁ……いいや!使っちゃお!」
弾幕が止み、フランが微笑む。
たたっ、たたっ、とステップを踏みつつ、春良はこれから来るであろう弾幕に備えた。
(発動した瞬間に、後ろに回り込む…)
今の自分なら、できるはずだと春良は直感で感じていた。
甘く見ている訳ではないが、フランの弾幕の全てをかわせる様な気がしていた。
「禁忌『フォーオブアカインド』」
そしてそれは、本日何回目かの油断だった。
「……っ!?」
走りだそうとした春良の足が止まる。
目の前で、フランが四人に増えたからだ。
「「「「いくよ?」」」」
重なるサラウンドボイスの後、四人のフランが一斉に弾幕を放つ。
視界を覆う程の弾球を前に、春良は動くことができず、
「く……っそ…!」
紅い波に、飲み込まれた。
波が終わると、そこには舞う薄い煙と、それを背中に抱えて倒れる春良の姿が残った。
一度、手抜きに注意したはずなのに、この様。
春良は、自分が情けなかった。
「……げほっ…」
カラッ、と床石の欠片を落としつつ、立ち上がる。
痛みだらけの体で、四人の内の一人に、矢を放った。
「……もう、終わり?」
それなりの速度で向かっていたはずの矢は、フランの右手に触れると同時に砕け散る。
「あっちゃぁ……これは、流石に参ったな…」
手から弓が落ちそうになる。
何となく気づいていたが、『親愛』のスペルの効果が切れている。
体が、重い。
「むぅ……つまんなぃ…」
指をくわえたフランが集合し、一人に戻った。
そして気づいた事がもう一つ。
これは弾幕ごっこだが、おそらくフランは力の調整が上手くない。
うっかり殺してしまう、何て事もありえたからこそ、一度奇跡が起きたのだ。
残る奇跡は、
(さっきのスペルが出来るとき…、あの感覚があった…ってことは)
一度。
「……んぅー…」
「……っ!」
突進してくるフランを大きく転がってかわす。
ギリッ、と軋む弓で矢を放った。
「……でも、飽きちゃった…」
それすら片手で弾かれ、零距離まで近づいたフランは、春良の弓、サジタリウスを右手で握りしめる。
パキン、とガラスの破片がさらに砕けた様な軽い音と共に、弓は粉に変わった。
「っ!?」
非武装の春良の喉へ、ゆっくりとフランの右手が伸びる。
その指が触れる瞬間。
「そこまでだよ、吸血鬼」
横から伸びてきた手がフランの手を掴み、春良から遠ざけた。
その幼い声と、無駄に大きい目玉帽子。
「……諏訪子…」
見た目幼神の降臨だ。
「……だれ?」
ぎりっ、と春良に聞こえるまでに諏訪子の手がフランの腕を掴み続ける。
「……はぁ…。春良!」
「は、はい?」
ため息をついて、手の力を抜かずに諏訪子が春良を睨む。
その目に、潤いが見られたのは、気のせいなはずがない。
「すぐに帰ってくるように言ったよね?私は」
「え、っと……、ごめんなさい…」
「まぁ、謝られても解決しないから、これからは約束は守ってよ」
「……了解した」
春良がそう言って立ち上がると同時に、階段の方から誰かがおりてきた。
「す、諏訪子様……っ!」
随分と息切れした早苗が、膝に手をつき呼吸を整えようとする様を、ゆっくり眺めていた。
「……ねぇ、ハル。これ誰?」
「妖怪の山にある神社の神様だってさ」
「元、だけどね」
ようやく離したフランの腕に、小さな手形がくっきりと残っている。
「……それで?まだやるんなら私も手を出すよ」
「あなた、強いの?」
「さぁね、試してみる?」
一触即発。
何故諏訪子がここまで切れかかっているのか、春良は理解出来ていなかった。
ただ、鈍感なのだ。
「んー、いいや!ハルとで楽しかったもん」
「そりゃありがとう……」
ぱーっ、と手を開いて一番始めの笑みを見せたフランは、宝石の羽を揺らして階段を上っていった。
「戌井さん、無事で何よりです」
「……すいません。また迷惑かけたみたいで……」
「いいんですよ。私より、諏訪子様にお願いします」
「は、はい……」
早苗に手を引いてもらい、春良はいつの間にか落ちていた腰を上げる。
階段の方を見つめている諏訪子の肩に、手をのせた。
「っひゃぁ!?」
「あ、ごめん」
ビクン、と跳ねた諏訪子から一歩離れ、顔を見あう。
視線の交差が恥ずかしいのか、諏訪子は目玉帽子を取り、くるくると回す。
「その、な。ありがとう」
「う、うん……。いいよ、別に」
「借りは、絶対返すからさ」
そう言って諏訪子の頭を撫でる。
(…………!)
それは、全く無意識の行動だった。
頭を撫でる。と言うことを春良は子どもにしかしない。
仮に見た目は子どもだとしても、何年も生きてきた神の頭を撫でるのは、相当失礼だ。
「……うん…」
だが、そんな春良の心配も関係無しに、諏訪子は嫌そうに、しかし手をどかすでもなくただなでなでを受け入れた。
(精神年齢は、意外と低いのかな…?)
今度、歳を聞いてみようか。
そんな死亡フラグ満載な事を、春良はうっすら考えていた。
「そうだ、上海!」
急に思い出した春良は、若干石を背負い部屋の隅に倒れる上海を拾い上げた。
「それ、人形だよ?」
「確かアリスって人が作った人形なんだけど、意思があるみたいで、俺の事何度も助けてくれたんだ」
「へぇー……」
じろっ、と諏訪子の視線が上海を射抜く。
ボロボロの上海は、その視線にただおびえるのみだ。
「壊れたら大変だし…。早苗さん、アリスって言う人の家わかりますか?」
「確か、魔法の森でしたよ」
「魔法の森って、俺と上海が会った所だっけ?」
こくん、と体のほとんどが動かない上海は首だけで返事をする。
「それじゃぁ、早苗さん。案内お願いします」
「はい、わかりました」
そう言って階段を上がっていく早苗。
その後に続く春良に、置いて行かれないよう、諏訪子も慌てて駆けだした。