東方春命録   作:Poteto305

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『使命』とは何かを悟り・陸符

 

かわして、かわして、かわす。

まるで無尽蔵の体力を持つかのように、春良の動きは衰えない。

 

「当たんないなぁ……いいや!使っちゃお!」

 

弾幕が止み、フランが微笑む。

たたっ、たたっ、とステップを踏みつつ、春良はこれから来るであろう弾幕に備えた。

 

(発動した瞬間に、後ろに回り込む…)

 

今の自分なら、できるはずだと春良は直感で感じていた。

甘く見ている訳ではないが、フランの弾幕の全てをかわせる様な気がしていた。

 

「禁忌『フォーオブアカインド』」

 

そしてそれは、本日何回目かの油断だった。

 

「……っ!?」

 

走りだそうとした春良の足が止まる。

目の前で、フランが四人に増えたからだ。

 

「「「「いくよ?」」」」

 

重なるサラウンドボイスの後、四人のフランが一斉に弾幕を放つ。

視界を覆う程の弾球を前に、春良は動くことができず、

 

「く……っそ…!」

 

紅い波に、飲み込まれた。

波が終わると、そこには舞う薄い煙と、それを背中に抱えて倒れる春良の姿が残った。

一度、手抜きに注意したはずなのに、この様。

春良は、自分が情けなかった。

 

「……げほっ…」

 

カラッ、と床石の欠片を落としつつ、立ち上がる。

痛みだらけの体で、四人の内の一人に、矢を放った。

 

「……もう、終わり?」

 

それなりの速度で向かっていたはずの矢は、フランの右手に触れると同時に砕け散る。

 

「あっちゃぁ……これは、流石に参ったな…」

 

手から弓が落ちそうになる。

何となく気づいていたが、『親愛』のスペルの効果が切れている。

体が、重い。

 

「むぅ……つまんなぃ…」

 

指をくわえたフランが集合し、一人に戻った。

そして気づいた事がもう一つ。

これは弾幕ごっこだが、おそらくフランは力の調整が上手くない。

うっかり殺してしまう、何て事もありえたからこそ、一度奇跡が起きたのだ。

残る奇跡は、

 

(さっきのスペルが出来るとき…、あの感覚があった…ってことは)

 

一度。

 

「……んぅー…」

「……っ!」

 

突進してくるフランを大きく転がってかわす。

ギリッ、と軋む弓で矢を放った。

 

「……でも、飽きちゃった…」

 

それすら片手で弾かれ、零距離まで近づいたフランは、春良の弓、サジタリウスを右手で握りしめる。

パキン、とガラスの破片がさらに砕けた様な軽い音と共に、弓は粉に変わった。

 

「っ!?」

 

非武装の春良の喉へ、ゆっくりとフランの右手が伸びる。

その指が触れる瞬間。

 

「そこまでだよ、吸血鬼」

 

横から伸びてきた手がフランの手を掴み、春良から遠ざけた。

その幼い声と、無駄に大きい目玉帽子。

 

「……諏訪子…」

 

見た目幼神の降臨だ。

 

「……だれ?」

 

ぎりっ、と春良に聞こえるまでに諏訪子の手がフランの腕を掴み続ける。

 

「……はぁ…。春良!」

「は、はい?」

 

ため息をついて、手の力を抜かずに諏訪子が春良を睨む。

その目に、潤いが見られたのは、気のせいなはずがない。

 

「すぐに帰ってくるように言ったよね?私は」

「え、っと……、ごめんなさい…」

「まぁ、謝られても解決しないから、これからは約束は守ってよ」

「……了解した」

 

春良がそう言って立ち上がると同時に、階段の方から誰かがおりてきた。

 

「す、諏訪子様……っ!」

 

随分と息切れした早苗が、膝に手をつき呼吸を整えようとする様を、ゆっくり眺めていた。

 

「……ねぇ、ハル。これ誰?」

「妖怪の山にある神社の神様だってさ」

「元、だけどね」

 

ようやく離したフランの腕に、小さな手形がくっきりと残っている。

 

「……それで?まだやるんなら私も手を出すよ」

「あなた、強いの?」

「さぁね、試してみる?」

 

一触即発。

何故諏訪子がここまで切れかかっているのか、春良は理解出来ていなかった。

ただ、鈍感なのだ。

 

「んー、いいや!ハルとで楽しかったもん」

「そりゃありがとう……」

 

ぱーっ、と手を開いて一番始めの笑みを見せたフランは、宝石の羽を揺らして階段を上っていった。

 

「戌井さん、無事で何よりです」

「……すいません。また迷惑かけたみたいで……」

「いいんですよ。私より、諏訪子様にお願いします」

「は、はい……」

 

早苗に手を引いてもらい、春良はいつの間にか落ちていた腰を上げる。

階段の方を見つめている諏訪子の肩に、手をのせた。

 

「っひゃぁ!?」

「あ、ごめん」

 

ビクン、と跳ねた諏訪子から一歩離れ、顔を見あう。

視線の交差が恥ずかしいのか、諏訪子は目玉帽子を取り、くるくると回す。

 

「その、な。ありがとう」

「う、うん……。いいよ、別に」

「借りは、絶対返すからさ」

 

そう言って諏訪子の頭を撫でる。

 

(…………!)

 

それは、全く無意識の行動だった。

頭を撫でる。と言うことを春良は子どもにしかしない。

仮に見た目は子どもだとしても、何年も生きてきた神の頭を撫でるのは、相当失礼だ。

 

「……うん…」

 

だが、そんな春良の心配も関係無しに、諏訪子は嫌そうに、しかし手をどかすでもなくただなでなでを受け入れた。

 

(精神年齢は、意外と低いのかな…?)

 

今度、歳を聞いてみようか。

そんな死亡フラグ満載な事を、春良はうっすら考えていた。

 

「そうだ、上海!」

 

急に思い出した春良は、若干石を背負い部屋の隅に倒れる上海を拾い上げた。

 

「それ、人形だよ?」

「確かアリスって人が作った人形なんだけど、意思があるみたいで、俺の事何度も助けてくれたんだ」

「へぇー……」

 

じろっ、と諏訪子の視線が上海を射抜く。

ボロボロの上海は、その視線にただおびえるのみだ。

 

「壊れたら大変だし…。早苗さん、アリスって言う人の家わかりますか?」

「確か、魔法の森でしたよ」

「魔法の森って、俺と上海が会った所だっけ?」

 

こくん、と体のほとんどが動かない上海は首だけで返事をする。

 

「それじゃぁ、早苗さん。案内お願いします」

「はい、わかりました」

 

そう言って階段を上がっていく早苗。

その後に続く春良に、置いて行かれないよう、諏訪子も慌てて駆けだした。

 

 

 

 

 

 

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