「風見!向こうの向日葵にも水が来てるわよ!」
「分かってるわよ!貴方は鈴蘭畑を見てなさい!」
自然が荒れ狂う花畑で、風見幽香は奮闘していた。
「邪魔にもほどがあるわね…」
傘の一降りから放たれた一筋の光が、自然を切り裂く。
熱線が起こした風のみで、自然を押さえつけていた。
風の隙を見つけ、風見は花達を移動させる。
が、さらに自然はその隙をつき、横で必死に花達を守るメディスンに、岩を一投してきた。
「……っメディスン!後ろ!」
「…………え…!?」
メディスンの体ほどあるそれは、軽々とメディスンの体を砕くだろう。
「親愛『華人小娘』!」
だが、その危機は彼に防がれる。
突如現れた春良の一蹴りで、岩は石になって地面へと落ちた。
「い、戌井春良!?」
「メディスン、大丈夫か!?」
霊撃使用で、春良の体はぼろぼろだ。
親愛の符でさえも、一瞬で解けてしまうほどに。
「春良さん、無茶したらだめですよ!」
「……けど、ここを守らないと…!」
疲れで膝をつく春良の前に、疲労した上海とこあくまが立つ。
その二人は、一人は春良以上に疲れているだろうに、笑う。
「春良さんは休んでいて下さい」
「こあと上海は…?」
「上海さんの霊撃は燃費が良いみたいです。私は……」
ばっ、とこあくまは手を挙げ、その手に何かをつかむ。
「……助けを、もう呼んでいますから」
本だ。
いつしかの時のように、こあくまの周りをいくつかの本が飛び回っている。
「春良さんからいただいた力ですよっ」
「……はは…」
足手まといでも、邪魔でもない。
二人とも、横に並べるほどに、強くなりたいと願い、実現させていたのだ。
「発動します」
光が空から落ち、春良を囲む。
暖かいその光は、その見た目通り春良の体と心を癒していく。
「……これ、すごいな…」
「フォトシンセンス…、これはパチュリー様のお力です。傷と疲れを癒してくれます」
ニパッ、と笑うこあくまを見ると、自然と安心できる。
少しの間任せようと決めた春良は、その光の中で耐える事に決めた。
「あなた達……」
「手伝わせて下さい。いいですよね?」
「……勝手にしなさい」
冷たくあしらうような幽香の言葉に、こあくまと上海は笑みを見せる。
「行きますよ……っ!」
手を高々と挙げ、本に集中する。
それを邪魔するかのように岩が飛来してくるが、その邪魔者は上海の霊撃によって排除される。
「……顕現せしは、火日の灯火…」
ぽぅ、と小さな光の玉が空へとのぼっていく。
その様子に気づいた幽香はすぐさま花達を一カ所に集めた。
「……君在りし場所で輝けっ…!」
小さな明かりが、一瞬の収縮を見せたかと思うと、その直後ふくらむ。
「発動します! ……ロイヤルフレアっ!」
太陽と見間違うほどのそれは、煌めきと共に辺りを蹂躙する。
「…………ふぅん…?」
興味なさそうに幽香は花達だけを光から守り、息を漏らした。
「メディスン!こっちに!」
「う、うんっ!」
「頼む…、『霊撃』ッ!」
春良はメディスンの体を抱き、己を守る為の霊撃を拡散させる。
ほぼ連続で二度目は流石に辛いが、メディスンが居る以上、気を抜くことは許されない。
「……はぁ…はぁ…っ」
光の拡散が終わり、辺りには雲一つ見えなくなっていた。
「パチュリー様……、こんな魔法使ってたんですね……」
あまりに素直すぎる魔力の放出。
見合った結果は得られたが、これをいつも使って平然としているパチュリーが分からないこあくまだった。
「……疲れ、ました…」
そのまま濡れた地面に前のめりに倒れ、こあくまは動くことすら敵わない。
「ねぇ、貴方」
「……は、はい…?」
そんなこあくまに、一歩、笑顔の風見幽香が近づいてきた。
「もしかして、花の事を考えずにあの力を使ったんじゃ、ないわよね…?」
「……ひっ…!?」
背筋を氷で撫でられるかのような感覚。
「燃えてしまう所だったのだけれど…?」
「すっ、すすすすいませっ…!夢中で…!き、気づかなくて…っ!」
「気づかない……?この可愛い子達が…?」
あぁ、これは何を言ってもダメだ。
小さな諦めと大きな絶望がこあくまの精神を満たした。
「それ相応の罰は受けてもらうわね…?大丈夫よ、痛いのは最初だけだから…」
「ま、待って、まってくださっ!は、春良さんっ!助けて下さいぃぃいぃぃいいっ!!」
「あぁなった風見は怖いわよ…」
「あぁ、遠目で分かる…」
メディスンと密着したまま、春良は家の中へと連れて行かれるこあくまに手を合わせる。
すると、正面から上海がふよふよと飛んできた。
「お、上海。お疲れ様」
「……!?」
「ん?ど、どうした?なんでそんなに怒ってるんだ?」
二人の密着具合を目の前にした上海は、とりあえず春良をぽかぽかと叩く。
それからメディスンをひと睨みすると、メディスンの方がようやくその意味に気づいた。
「……っな、なんでくっついてるのよっ!」
「え、あ、悪い。守るのに必死だったから…」
「……ま、まぁ、別に悪かったわけじゃないけど…」
「そか。怪我とかないか?」
「……うん。あ、ありがとう…」
どういたしまして、と何度目かのやりとりを終えると、上海がいつも通り肩に乗ってきた。
「そう言えば、幽香さんって花を操る能力なのか?」
「ん。100パーセント当たり。『花を操る程度の能力』だよ」
通りでこの不自然な花の移動。
一体どういう仕組みなのかは分からないが、ぴったりな能力だ。
「あ、出てきた」
「……は、春良さん…」
家からでてきたこあくまは何故かかなり憔悴している。
倒れるように春良に抱きつき、小さく涙をこぼしていた。
「わ、わたっ、私、もうお嫁に行けません……」
「こ、こあくま、大丈夫か?」
「もしいけなかったら、も、もらってくれますか…?」
いけなかったらなー、と全くそんな事態は考えていない春良は、かなり適当に答えた。
「まぁ、ありがとうとだけ言っておくわよ」
ぶっきらぼうにそう言う幽香を、メディスンは笑って見つめる。
これで、この一連の出来事も終わりを告げた、と思っていたが。
「……いや、あと一つか」
「映姫さんと小町さんですね?」
「そだな。気になるけど、確かめることも……」
できない。
そう言おうとした瞬間だった。
「……直接、教えてくれるみたいよ?」
キュン、といつしかの時のように、目の前に鎌をもった小野塚小町が姿を現す。
「こ、小町さん?」
「さっきぶりだね、面解屋」
「……どうしてここに?」
「ちょっとばかし、頼みたいことがあってねぇ」
緩やかな動きと共に鎌が回転する。
その回転した鎌が、動きに従って地面に浅く突き刺さった瞬間、一瞬の光を見せ、
「面倒事、解決してはくれないかい?」
刹那。
すぐ後ろに居たはずのこあくま、上海、果ては幽香とメディスンまでもが、視界から消えた。
「……!? こあ! 上海!?」
「心配はいらないよ。少しばかりあたし達との距離を広げただけだから」
「小町さん……! 何が目的なんですか…?」
「目的…とは違うけど、『どうしてこんな事をするのか』、気になっていただろう?」
ガッ、と小町は鎌を背に構え、短い髪を揺らし、春良を笑みと共ににらみつける。
「あたしが直接教えてあげようと思ってさ!!」
「――――!」
まさに強襲。
三途の渡し船頭が、春良に斬りかかってきた。