(もう、体が限界だって言うのに…!)
一降り目を、何とかしゃがんでかわす。
すると、しゃがんだ春良の眼前に、小さな花が咲いた。
「……ん…?」
ふわ、と一瞬感じた花の香り。
鼻孔から体中へと一瞬で巡ったその香りは、春良の疲れを完全に消し去った。
(……まさか…!)
(「戌井春良、一応借りはこれで返したということにしておくわ」)
(幽香さん!?)
(「……まぁ、そうなった理由は分かってるけど自分で悩んでみなさい。そこの死神と一緒に」)
パッ、とそれだけで頭に響いた声も消え、花も散り、あっけなく幽香は離れていった。
「ほらほらぁ!避けてばかりじゃ勝てないよぉ!?」
「……親愛…」
鎌を避け、その鎌を蹴って体制を崩す。
その隙に、春良は符を唱えた。
「『狂気の赤眼』!」
「……なかなか面白い仮装をするね」
目は赤くたぎり、頭にはピンと立ったウサ耳が装着される。
まずは、動きを止める。
「行きますよ…っ!」
それの性能の良さは、一度体で受けた春良自身がもっとも良く知っている。
自分の目を中心に、狂気のフィールドを展開、小町を体ごと飲み込んだ。
「よし……っ!」
「……それで、これがなんだって?」
鎌どころか、小町の動きさえも止まらない。
「なんっ…!?」
鎌を大きく跳ねて避け、空中から鈴仙のまねで銃弾を発砲。
三点バーストで放たれた弾幕を前に、小町は鎌を一降りした。
「死神が、狂気に飲み込まれるはずも、迷うはずもないからねぇ」
三発の弾が両断され、霧散するのを確認するほど時間はなかった。
着地を狙った小町の鎌が、春良の目の前まで伸びてきていた。
「っ……!」
「そうじゃないだろう?お前さんには、もっと見たい物があったろう!?」
「見たい物…っ!?」
鎌を避け、発砲し、避けられる。
繰り替えしの中、春良の疲れは貯まっていく一方だ。
「お前さんが、今!知りたかったことはなんだ!!」
「……っ!」
知りたい事。
迷いなく、それは自分の記憶だ、と答えられる自信がある。
けれど、そうじゃない。
「親愛、解除」
おせっかいな自分は、どうやら他人のことしか気にならないらしい。
「……そのまま、親愛」
春良の行動に気づいたのか、小町は鎌を置き、ニッと笑った。
そして、春良は今一番知りたい人を、叫んだ。
「『三途の水先案内人』っ!!」
鎌が二振り、クルンと回る。
小町の持つ鎌はいびつに大きく、春良の鎌は、蒼く滑らかな鎌だ。
「案外、軽いんですね」
「鎌は、鏡のようにその人柄を映す。良かったね、お前さんのは綺麗な鎌だ」
ヒュカンッ、と鎌と鎌がクロスする。
根元で鍔迫り合いのように押し合い、硬直する。
「……で?わかったかい?」
「いやぁ…、きっかけがないとなかなか知ることができないんですよね…っ!」
離れ、目の前の空間を一閃する。
すると、切り裂かれた空気は互いに固まりあって前方へと射出された。
「へぇ…、まるで知ってたかのような使い方をするねぇ」
「貴方に教えてもらったんですよ…!」
小町の方も、負けじとカマイタチを放る。
ぶつかり合った風は、霧散し辺りに微風を巻き起こす。
「それじゃぁ……」
距離は、20メートルほど。
その距離で、小町は鎌を振りかぶる。
(……カマイタチなら、相殺できる)
「これならどうだい?」
音もなく、小町が目の前に移動した。
詳しくは移動ではない、能力を利用し距離を縮めただけのこと。
だが、それは油断していた春良にとって不意打ち以外の何物でもなかった。
(――――まずい――ッ!)
「死符」
とっさに鎌を振るうが、片手で柄を掴まれて止まる。
ニィッと笑った小町が大きく鎌を振り下ろした。
「『死者選別の鎌』ッ!!」
光の、中。
春良は良く知っている神社にいた。
「あんたねぇ。だいたいサボリに理由づけしようとするのがダメなのよ」
「そう言わないでおくれよ。本当なんだからさ」
博麗神社で、小町と霊夢がお茶を啜っていた。
(……最近の出来事か…?)
「映姫様は無理をしてる。このままじゃぁ過労で倒れてしまうほどにね」
「……死神の目、だったっけ?」
「そう。映姫様は永くない。もちろん、このままじゃぁ、の話だけどね」
(…………っ!?)
ずずっ、と茶をすすり、霊夢は呆れたように溜息をつく。
「はぁ…。そこに大量の幽霊がきたもんだから、あんたは急いでサボリ始めたってわけ?」
「そうさ。異変にするつもりはなかった。どうせ花が咲くだけだからね」
地面に突き立った鎌を足で軽く蹴りつつ、小町は苦笑をもらした。
霊夢は、そんな小町の様子を見て、もう一度溜息をつく。
「ちゃんと相談し合えばいいのに。つまらない意地張るわねぇ」
「……そうだねぇ。この鎌の歪さは、きっと私のそういうところを映したのさ」
まったく、憎いやつだよ。と小町は湯呑みを置き、顔を下に向ける。
「けれど、後悔は今のところないよ。なんせ、一石二鳥だからね」
「あら、難しい言葉を知ってるのね」
「…………あたしを湖上の妖精と一緒にしないでおくれよ」
冗談よ、と霊夢がお茶を注ぎ、飲む。
こくこくと鳴る喉の音が、静かな空間に心地よく響いた。
「……で?どんな鳥を落としたのよ」
「あたしがサボるだけで、映姫様の寿命は鰻登りだ。流石閻魔様だね、人間の比じゃない回復具合だよ」
「いい鳥じゃない。もう一羽は?」
すっくと立ち上がり、鎌を引き抜くと、小町は境内の方へ歩いて行く。
そして、いくつかのお金を賽銭箱へ投げいれ、二礼二拍一礼。
すぐに戻ってきた。
「珍しいわね?鰻でも欲しいのなら夜雀の屋台に行きなさいよ」
「死神も神頼みしたくなるときがあるもんさ」
フォンッ、と鎌を回し、空を見上げる。
「……二羽目の鳥はね」
「小町ーっ!また仕事をさぼっていますねー!」
「……こうして、それだけであたしの元へやってきてくれる鳥なんだよ」
涙。
飛翔してきた映姫には見えないよう、霊夢にだけ顔を向けてほほ笑む。
春良も、その表情を見て、感じるものがあった。
「それじゃ、巫女。サボらないで仕事しなよ」
「あんたに言われたくないわよ!」
「小町!あなたという人はなぜそんなにさぼってばかりなのですか!」
「すいませんすいませんー。もうしませんからぁ」
そういう態度が…!と叱りながら映姫と小町は自分たちの居場所へ飛翔する。
「……惚気(ノロケ)てんのかなぁ、あれ」
(……たぶん、そうでしょうね)
残された霊夢のつぶやきと共に、春良の視界は光に塗りつぶされていった。