空から、何かが落ちてきている。
(――――っ!)
小町の攻撃であろうそれを、春良は見据える。
何故か、恐怖は沸いてこない。
「……『見えた』みたいだね?」
ゴッ!と衝撃が春良を包み、小町の髪をたなびかせる。
霧のように辺りを砂煙が包み、春良の姿を確認することすらできなくなっていた。
「うん。やっぱりお前さんに頼んで良かったよ」
笑う小町の手にあった蒼い鎌が霧散して散らばった。
小町の後ろで、砂煙が拡散する。
鎌を大きく振りかぶった春良が、背後からの強襲を仕掛けた。
「……らっ!」
「甘い!」
振り向きざまに、小町が鎌を振るう。
ガキン、と刃と刃がぶつかり合い甲高い音を響かせる。
いつ吹き飛ばされてもおかしくはない、そんな状況な中、春良は小町に声をかける。
「いろいろと、わかりました」
「へぇ?それで、どう思ったんだい?」
「……正直、小町さんの事をよく思っていなかったんですけど、改めます。すいませんでした」
「おぉ。そいつは光栄だねぇ。…………で?」
にぃ、と笑う小町に、春良も顔をゆがませる。
そして、高々と、吠えた。
「それとこれとは、話が違いますッ!!」
「そうだ!それでいいんだよ外来人!!」
再び、甲高い音が響き始めた。
「映姫さんを、悲しませてどうするんですか!」
横降りの鎌を、小町は縦振りの鎌で地面にたたきつける。
動きが一瞬止まった春良に一歩近づき、鎌を振るう。
「何よりも、大切にしなければならないものがあるだろう!?それが命だ!」
体を大きく曲げ、鎌をかすらせるだけにとどめた春良は、バックステップで距離を取る。
「限りある時間を、大切にしようとは思わないんですか!」
「あたしは、映姫様に生きていて欲しいんだ!できることなら、この命を差し出しても良い!」
「それが貴方の願いですか! そんなことを、神にすがってまでやろうとしたんですか!!」
「ああそうさ! 何が悪い! 好きな人が生きる事を願うことの、何が悪い!!」
「何も悪くないですよ! でも違う、やり方が間違ってるんですよ!! それで映姫さんが喜ぶと、本当に思っているんですかッ!!」
十字に鎌を振り、カマイタチを飛ばす。
「…………っ…」
「じゃぁ、あのプレゼントはなんですか!何故一緒に出かける約束をしたんですか!」
小町の鎌が真空を切り裂く。
能力で距離を詰め、上段から鎌を思い切り振り下ろした。
「耐え切れなかったんでしょう!? 今を楽しみたい気持ちを!」
「しゃ、喋るなっ!!」
「死神が迷うはずがない!?心を持つ小町さんが、迷うのは当然でしょう!?」
「――っ!」
あまりに大降りすぎるその一降りを、春良は横に少し移動してかわす。
「迷って、くだらない正義で正当化して、それで何が変わるのか知りませんけど!」
カンッ、と地面に突き立った鎌を大きく払い、小町の体制を崩す。
「自分に!嘘を吐かないで下さい!!」
いつしかの、鬼のように。
動揺した小町の体を、数多のカマイタチが切り刻んだ。
「………………っ…!」
ザザッ、と大きく後退するが、小町は倒れない。
被弾した体には、少々の切り傷が見えた。
「……はぁ……はぁ…っ!」
「……やっぱり、こうびしっと言われると身に染みるねぇ」
「……どうするんですか…?」
手放してしまった鎌を拾い、小町は笑う。
その笑みには、確かな暖かさが見えた。
「勿論、今までのことを全て伝える。なんてことはしないさ」
映姫様は、きっと気にするだろうからねぇ、と小町は困ったように春良を見つめる。
「でも…」
「でもだ。プレゼントはきっちり渡す。サボリも……まぁ、少しは減らすよう努力するよ」
「じゃ、じゃぁ…!」
「あぁ。お前さんの言ってくれた事は、間違っちゃぁいないからね」
あっはっは、と豪快に笑う小町は、どこか鬼に似ていた。
表面はおおらかで、内の奥底に、悲しさを秘めていたあの鬼に。
「んで、戌井春良」
「は、はい?」
「一応なんだけど、決着はつけさせてもらうよ?」
「…………へ?」
弾幕勝負で、負けただなんて言われたら嫌だからね、と小町は鎌を振りかぶる。
「構えな、外来人。それごと吹き飛ばすから」
「……れ、『霊撃』ッ!!」
一瞬後。
ただの一降りから生まれた数多の衝撃が、完全防御に入った春良の体をいとも簡単に吹き飛ばした。