東方春命録   作:Poteto305

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「戌井春良!大丈夫!?」

「……気絶してるわね、適当に寝かせときなさい」

「じ、地面ってのもなんだし、私が膝枕でも……」

「ま、まってください!それは私の役目です!」

「……間を取って、私の家のベッドで寝る、というのはどうかしら?」

「風見、今Sな目した…」

「だ、だめです!春良さんは渡しません!」

「起きたら四肢に鎖が。なんて、面白そうじゃない?」

「面白いはずがないじゃないですか!」



花映の使命
花映の使命・壱符


 

暗い。

暗い。

何も見えない闇の中、春良は息を吸った。

 

「……ここは…?」

 

視線を動かす。

すると、小さな、ほんの小さな輝きが、春良の目に映った。

 

「……これは…?」

 

その光の中に、自分がいるのが見えた。

笑っている。

 

「……俺…?」

 

しかし、こんな自分を、春良は知らない。

そうだ、つまり、これは。

 

「俺の、記憶……っ!?」

 

ダッ、と駆けだして光の元へ手を伸ばす。

しかし、手は触れることはない。

闇の中から蠢いてきた何かが春良の体に巻き付いて離れない。

 

「……離せ…っ!離してくれ……っ!!」

 

言葉を無視して、蛇のようなそれは春良を光から引き離していく。

光の中の春良は『誰か』と楽しそうに話をしている。

 

「……絶対、取り戻す!……使命も、後少しなんだ…!」

 

暗い闇のそこへ引きずられていく自分の体は無視して、されど春良は光に手を伸ばす。

 

「誰の仕業か分からないけど、俺は俺を取り戻す…!」

 

最後、完璧に光が闇の中へとけ込んでいく瞬間、春良は足を床に叩きつける。

 

「……待ってろよぉぉぉぉぉおおおおおッ!!!」

 

無情に吸い込まれた声は、誰にも届くことはなかった。

 

 

 

「――はぁっ!」

「は、春良さん!?」

「い、戌井春良!?」

 

がば、と上半身を起きあがらせる。

目の前に、メディスンと上海とこあくまの顔があった。

 

「……あ…?」

「お、起きましたか!よ、良かったです…」

「な、何も今目覚めなくてもいいのに……」

「…………」

 

がっくりと三人の顔がうなだれる。

心配してくれたのだろうか。

 

「わ、悪い。心配かけたな」

「ほんとですよ。元気なら、私は良いですけどね」

「……小町さん、は…?」

「もう、大丈夫ですよ。三途の川に帰っていきました。『喝を入れられたよ』って」

 

安堵のため息が落ちる。

後は、上手く転がってくれること祈るのみだ。

 

「それで?一体何をしたのかしら?」

 

傘をもった幽香が不適に笑いつつ春良を見下ろす。

 

「……幽香さん。気づいてましたよね?」

「さぁ?私は何も知らないし、何もしていないわ」

「……『プレゼントをしっかりあげるように』、そう伝えました」

「あら、それはけっこうねぇ」

 

そう言えば、と春良がメディスンと幽香の顔を見て一言もらす。

二人がこちらを見たとき、春良は小さく聞いた。

 

「何の花の種をあげたんですか?」

 

何も知らない春良の言葉に、幽香とメディスンは顔を見合わせ、小さく笑った。

 

 

 

三途の川。

誰かが暇つぶしに積み上げた石の山を蹴り壊し、小町は後ろを見る。

 

「そ、それで?今度は何の用なんでしょうか…?」

 

心配するような、期待するような顔の映姫を見て、小町は小さな笑みをもらす。

 

「いえですね?先日のお詫びもかねて、映姫様にプレゼントしたいものがあるんですよ」

「ぷ、ぷれぜんと…?プレゼント!?こ、小町が、私にですか…!?」

「え、えぇ、嫌ですかね?」

 

リアクションに不安を感じた小町がおそるおそる聞くと、映姫は服の裾をぎゅっとつかみ顔を大きく横に振った。

 

「い、嫌なわけないじゃないですか!う、嬉しい、です」

「まだ、何を差し上げるか言ってませんよ?」

「そ、それでも!……小町から何かもらえるのなら、何だって嬉しいですよ」

 

にこ、と笑う映姫の姿に、小町の目がくらむ。

あぁ、好きだなぁ、と声に出してはいけない思いを、頭の中で響かせ、小町は後ろ手に隠していた花を差し出す。

 

「……映姫様の好みに合うかどうか分かりませんが、花です」

 

主に赤い花でコーディネイトされた花束を差し出す。

驚いた表情の映姫は、それを小さな手で受け取った。

 

「……!!」

「……何か、嫌いな花でも…?」

 

花を見てさらに驚いた様子の映姫を見つめる。

映姫はぷるぷると震えて、小さく涙を流し始めた。

 

 

 

「あの花達はね、赤色を中心にコーディネイトしたわ」

 

幽香の得意げな言葉を、春良は地面に座り込んだまま聞く。

 

「まず、赤いアンスリウム。花言葉は『粋で可愛い』」

「うわぁ…」

「次は桃と赤のカーネーション。これは有名ね。『熱愛』と『純粋な愛情』よ」

 

そして最後に、と花の説明となると楽しそうな幽香は手から一輪の花をどこからともなく出現させた。

 

「綺麗だとは思われにくいけど、赤いキク。花言葉はストレートに『愛しています』」

「……バラとかはいれなかったんですか?」

「薔薇は多分誰でも花言葉を知ってるだろうから、あの子が気づくと面白くないわ」

「……幽香さん、策士ですね」

 

あら、そう?と怪しい笑顔で微笑む幽香。

春良は、空を見上げ、小町に手を合わせる。

 

「閻魔の子なら、花言葉くらいは把握してるでしょうね……。あぁ、今頃どんな事になってるのかしら…」

 

快感を得たかのように体を震わせ、うっとりとした表情を見せる。

あぁ、この人純粋なSだ。

少し前、こあくまが何をされたのか気になってきた春良だった。

 

 

 

「え、映姫様!?ご、ごめんなさい!何か嫌な花があったんですね!?」

 

目の前で肩を揺らす映姫を見て、花の妖怪を仇として思い浮かべる。

三途に沈めてやろうかとまで考えたとき、小町の服の裾を、小さく引く手があった。

 

「え、映姫様…?」

「す、すいません。小町…。少し、びっくりしてしまっただけなんです…」

「ほ、本当に大丈夫ですか?仕事に支障が出る花でも?」

 

その花なら、以前の小町は喜んだことだろう。

だが、今は違う。

 

「……はい…。少しだけ、支障が出てしまうかもしれませんね」

 

仕事魔の映姫らしからぬ笑顔で、そう小町に告げる。

 

「や、やっぱり!すいませんでした。どの花ですか?捨ててきます」

「なっ、何を言ってるんですか!捨てていい花なんて一輪もありませんっ!」

「え、えぇ…?」

 

それは、プレゼントを喜んでいるということだろうか。

そう考えると、頬が緩むのを抑えられなくなってしまう。

 

「……ならいいですけど。……本当に、嫌ではないのですか?」

「え!?……そ、それは、どういう、意味、ですか…?」

「…? その花、受け取ってくれるんですか? ってことです」

 

映姫の顔が今までに見たことのないくらい、赤く染まる。

なぜ映姫がそんなに可愛い表情をしているのか、小町はまったく気づけないでいた。

 

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