「え?は、はい。でも、この前みたいにすっぽかしたりしませんよね?」
「うぇぇ、もう忘れて下さいよ。今後は誠実な死神として生きるんですから」
「……まぁ、いいですけど。…………小町がサボらなかったら、私も注意しに来られない訳ですし……」
「え?何か言いました?」
「い、言ってませんっ!とりあえず、ここにいる幽霊達を全部連れて行き終わったら、行きましょうか」
「うわー。また仕事ですかー」
「小町!」
「へいへい。分かってますよー……あ、映姫様、ススキですよ」
「す、すきっ!?そ、そう言うことをいきなり言わないで下さいっ!」
「え、えぇ?映姫様ー? ……行っちゃった。ススキがそんなに悪い草だったのか…?」
非周知の難しさを片手に・壱符
「早苗さんの作るみそ汁って美味しいですよね。何か隠し味とかあるんですか?」
「そうですねぇ……。愛情ですかね?」
「おぉ……」
いつも通りの朝が春良達を包み込む。
守矢神社の一室、いつもの面々+αは大きめのちゃぶ台を囲んで朝ご飯に勤しんでいた。
「……ふむふむ。外来人と守矢の巫女の愛情は本物、と…」
「そ、そう言う意味ではありません!」
「……射命丸さん。どうしてここに?」
αである射命丸は、みそ汁を一すすりすると、手帳を置いて立ち上がった。
「私ですか?私はですねぇ…」
「ブンヤ、食事中に立ち上がるもんじゃないよ」
「し、失礼しました」
あぐらなのに姿勢が良く見える神奈子が射命丸を一喝する。
座った射命丸を、諏訪子、春良、上海、こあくまが見つめた。
「新聞のネタが最近入って来なくてですね、突撃取材に行こうと思っているんです」
「文屋の強引取材には、みんな呆れてるって聞いたけど…?」
「な!情報は共有するべきでしょう?私はその先頭に立っているだけですよ」
「それで、この守矢神社にも取材に来た、と言うわけですか?」
こあくまが射命丸に聞くと、正座の射命丸は足をあぐらにしてリアクションを取りつつ返す。
「えぇ。半分正解です」
「後半分はなんなんですか?」
「後半分は貴方ですよ。春良さん」
「え?」
指を鋭く春良に向け、射命丸は手帳を開き、春良に見せた。
「貴方にも、私と一緒に取材をして頂きたいんです」
「お、俺がですか?何もわかりませんよ?」
その手帳には、これからの予定だろうか、様々な地名と人物名と思わしき文字が書かれている。
「それが良いんですよ。時には別からの視点が必要な時もあるんです」
「ま、まぁ、俺に手伝える事なら…」
「だめ!春良はレンタル禁止だから!」
「諏訪子、俺を物扱いしないでくれ」
バン! と諏訪子がちゃぶ台を叩く。
神奈子と早苗は、ほとんど話を聞いていないようだ。
興味がないのだろう。
「でも、私も反対です。そんなモラルに欠ける事を、春良さんがする必要はありません」
「へぇ?春良さんが他の女性と親しくならないか、心配なんですね?お二人さんは」
「なっ…!?そ、そそそんなんじゃないっ!!」
「わ、私は……そりゃぁ嫌ですけど……じゃなくて!そう言う問題じゃありません!」
春良の手から手帳を取り、射命丸はそれを胸のポケットへしまい込む。
その際に、最後のページの文字を、ちらりと見せられた。
『上海さんだけ、同行しても構いません』
横目で上海を見ると、不思議そうな瞳で見返してきた。
その文字の意図がなんなのかは分からないが、とにかく、射命丸は春良に同行してもらいたいらしい。
(……さて…、どうしようかな…)
これが使命だとは思えないが、人助け好きな春良では、断ることができない。
断るのは、先ほどから顔を赤くしている二人の役目なのだ。
そう言えば、何故射命丸の力を借りることができなかったのか、気にはなっていた。
これに手伝えば、少しは信用がもらえるのかもしれない。
「……それじゃ、少しだけなら手伝いますよ」
「だ、だめだって言ってるでしょ!?」
「んー……大丈夫だって、射命丸さんもいるし。そうだ、上海も一緒に来てくれないか?」
さりげなく上海を誘うと、肩の上海は喜びを表すかのように春良の周りを飛び回った。
「……そうですねぇ。上海さんだけは同行を許しましょうか。できれば、一人が良かったのですけれど」
「わ、私は!?」
「失礼ですが、神様がいては上手く相手の方も答えにくくなってしまいますので…」
「そ、それじゃぁ、私はダメですか?」
「駄目です。誰にでも言えることですが、三人という数は人が若干の固さを感じてしまう最小の人数なのです」
上海さんは、まぁノーカウントと言うことで、と射命丸は手を挙げる。
「……うー…!」
「ま、まぁ、そんなに心配するなって言ってるだろ?すぐ戻ってくるよ。……ですよね?」
「えぇ、一日以上はお借りしませんよ」
みそ汁をすすり、射命丸が手帳を見る。
さっき見せてもらったが、そこそこ多かった。
本当に一日で回りきることができるのだろうか。
「か、神奈子ぉ…」
「戌井は使命をこなさなければならないんだろう?願ってもない機会じゃないか」
助けを求める諏訪子を一蹴し、神奈子は白飯を豪快に口へかき込む。
がたん、と茶碗を置くと、手を合わせて立ち上がった。
「ご馳走様。美味しかったよ、早苗」
「はい。ありがとうございます」
「それじゃぁ、私はちょっと野暮用を片づけてくるよ」
「……はい…?……お気をつけて…?」
すたすたと歩いていく神奈子を、早苗は不思議そうに、射命丸は不安そうに見つめる。
そして、それを区切りにしたかのように、射命丸が大きく手を叩いた。
「は、はい!主の許可は頂きましたことですし。行きましょうか」
「は、はい…。諏訪子、いいか?」
「……しらない。勝手にしなよ…」
ぷい、と顔を背けられ、少し心が痛む。
そのままこあくまに顔を向けて、
「ごめんな、こあ。いってくる」
「し、仕方がありませんよね…。で、でも、すぐ帰ってきて下さいよ?」
「おう。約束する」
それじゃ、早速行きましょう。
射命丸が先に手を合わせ外へ出て行く。
それを追うべく、春良も手を合わせて玄関へ向かった。
「春良」
玄関で靴を履いていると、背後から諏訪子の声がした。
「な、なんだ?」
「……すぐ、帰ってきてよ。待ってるから」
「……あ、あぁ!もちろん!」
靴をしっかりと履いて、立ち上がり、諏訪子に視線を向ける。
諏訪子は、自分の顔を隠すかのように帽子を持ち、
「あ、あと……あとね…?」
「おう」
「えっと……そのさ…」
もじもじ、と顔をしっかりと隠そうとする諏訪子をしっかりと見る。
「ぶ、文屋にはああ言ったけど……」
「……ぶんや…。あぁ、射命丸さんか。それで?」
「……あんまり、他の子とは仲良くしないでね…?」
静寂。
正直なところ、春良には言葉の意味は分かっても、言葉の理由は何もわかりはしなかった。
「………すわ…」
「そ、それだけっ!それじゃ、いってらっしゃい!!」
あり得ないほどのダッシュで居間の方へと走っていった諏訪子はすぐに見えなくなってしまった。
伸ばした手を下ろして、春良はほんの少し笑う。
「……行ってきます」
そうして、春良は外へ歩き出した。