東方春命録   作:Poteto305

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『使命』とは何かを悟り・漆符

 

「兎に角、無事で何よりです。戌井さん」

「早苗さんの奇跡がだいぶ役に立ちました…」

 

それは良かったです、とにこやかに笑う早苗の後を追い、春良は階段をのぼる。

薄暗い空間を抜け、また紅い壁が目に入ってきた。

 

「来たのは初めてだったけど、本当に紅いんだね」

「そだな…。吸血鬼だし、合ってるけど」

 

3人で歩きつつ、玄関に向かうが、春良はあることを思いだした。

 

「……そういえば、俺魔理沙と来たんだった」

「魔理沙さんですか?」

「知ってるんですか?」

「はい、結構前に出会ってから、宴会に呼ばれてます」

「用があるって言ってたな…。どこにいるんだろ」

「あの魔法使いなら、パチェの所じゃないかしら?」

 

急に聞こえた声に振り返ると、そこにはなかなかご機嫌そうな顔持ちをしたレミリアがいた。

 

「フランが喜んでいたわ。『ハルは壊れなくて楽しいよ!』って」

「それは喜んで良いんですかね…?」

 

もちろんよ。

蝙蝠羽をパタパタと振りながら、レミリアは嬉しそうに微笑んだ。

 

「……でも、あれは『使命』じゃなかったですね」

「あら、そう?それは残念だったわね」

 

簡単に言うレミリアに、春良はため息をもらした。

とにかく、今は上海だ。

 

「それで?パチェの所へ行くのかしら?」

「あ、いや。今から魔法の森の方に行きます」

「魔法の森……、そう。フランに伝えておくわ」

 

身を翻してレミリアは小さな体で天井を見上げる。

その幼く肥えた瞳には、何が映っているのか、春良には到底理解出来ない。

 

「あ、そうそう」

「?」

「……能力の開花。おめでとう、春良」

「え?」

 

言うだけ言うと、レミリアは何匹もの蝙蝠に姿を変え、拡散した。

 

「去り方まで格好良いわね。真似しようかな」

 

それを見ていた諏訪子が、感嘆の声を上げる。

 

「たくさんの蛙になるんですか?」

 

数えられるくらいの蛙ならいいが、流石に子ども一人分の蛙となると、目をふさぎたくなる。

 

「私は蛙じゃないんだけど…」

「とにかく、行こう。上海が心配だ」

 

肩の上改め今は大きめの胸ポケットに収まる上海が、春良を見上げて申し訳ないようにしゅんとうなだれた。

空を駆ける蒼い巫女と翠の幼神。

春良は、諏訪子に背負われるという何とも言えなく情けないポジションに収まっていた。

 

「そういえば春良。さっき言ってた使命って何?」

「俺が元の世界に帰るには、ある5つのことを幻想郷でしないといけないらしいんだ」

「ぁ……」

 

春良がそう言った瞬間。

何かに気づいたように早苗が口をおさえた。

 

「……早苗さん?」

「戌井さん、能力に目覚めたんですよね?」

「レミリアさんも言ってたけど、いまいち良く分かんないです」

「もし能力に目覚めていたら、元の世界には帰れないかも知れません…」

 

申し訳なさそうにそう言った早苗は、諏訪子を見る。

神は、何も言わない。

 

「えっと、まじですか?」

「能力を消すことができれば、あるいは…」

「……多分、このカードですかね」

 

春良は自分のポーチから符を一枚取り出す。

『親愛』の符だ。

 

「これ、最初はスペカ名も載ってたんですけど、使ったら消えたんですよね」

 

その符に書かれているのは、『親愛』の文字のみ。

その後に続く言葉が、何も書かれていない。

 

「どんな能力でしたか?」

「美鈴さんの動きを手に入れました。『華人小娘』って書いてましたかね」

「美鈴さん…。門番の方ですよね?何か関係が?」

 

関係の二文字に諏訪子の体が少し揺れる。

胸の上海も、少しむっとした顔つきになった。

 

「弾幕勝負(かなり肉弾戦だったけど)して、仲良くなった。くらいですね」

「弾幕勝負をした相手の力を借りる能力…?」

「それだったら、私の力も借りれるんじゃないかな?」

 

飛行しつつ、諏訪子が春良に目を向ける。

春良は符を見つめて、うーんと唸っていた。

 

「……はぁ、とりあえず、この話は後でにしよう」

「そうですね。本当に能力かどうかも分かりませんし」

 

眼鏡を整えつつ、春良は前を向く。

眼下には、つい何時間か前に見た森が広がっていた。

 

「諏訪子、アリスさんの家は分かるのか?」

「一本杉の近くって聞いたし、大丈夫」

「それでしたら、私は神社に戻りますね」

 

すっ、と早苗の飛行軌道が春良達の軌道からそれる。

そして、にこりと笑ったまま、

 

「戌井さん、諏訪子様をよろしくお願いしますね」

「ちょ、ちょっと、早苗!?」

 

神の声に体を止めることなく、早苗は遠く山の方へ飛びだっていった。

残された春良と諏訪子は見あい、上海を見る。

 

「諏訪子?」

「なんでもない、降りるよ」

 

鬱蒼とした木々が生い茂る森に二度目の踏み込みをした春良は、何となく身構える。

 

「どうしたの?」

「いや、また妖怪が来ないかと…」

「春良、妖怪に襲われたの?」

「言っただろ?上海が助けてくれたって」

 

その言葉に、諏訪子の体が強張った。

そして、つい最近聞いた神の言葉を思い出した。

 

『戌井だっけ?その外来人、死んでるかも知れないな』

(本当に……、そうなりかけたんだ…)

 

守らなければ。

誰かの助けがなければ、この人間は簡単に死んでしまうのだから。

吸血鬼の館でも死にかけた。

 

「あ、おい。あの家じゃないか!?」

「え?あ、うん」

 

春良はポケットの上海に顔を向けると、上海は嬉しそうにこくりと頷いた。

 

「すいませーん!」

 

ドアを二回ノック。

その後に声を上げるが、中からの反応は無かった。

 

「……?上海、アリスさんは…」

「私に何か用?」

 

家の中とは逆方向から聞こえた声に、諏訪子と春良は同時に振り向く。

 

「どうしたの?私の家の前にいるって事は……、って上海?」

 

綺麗で短めなブロンド髪と控えめなカチューシャ。

まさに人形のように可愛い女の子がそこにいた。

 

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