継の軌跡(一時凍結中)   作:無限ループ

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はじめまして。無限ループという者です。今まで二次小説を他のサイトで書いてきましたが今回は閃の軌跡Ⅲの二次小説を書いていこうと思ってます。自己満足8割で書いてるのをご了承の上でお読みくださると嬉しいです。まだ序章だけですが所詮この程度と見下しながら読んでやってください。今週中にはオリ主設定とかオリキャラ設定とか作ります。多分。


七耀暦1206年 4月
序章 七耀暦1206年 4月1日 Ⅶ組・特務科の発足


七耀暦1206年 4月1日

 

 エレボニア帝国西部の近郊都市リーヴス。ライノの花びらが舞う春の朝。碧銀の髪に青い瞳の青年カイス・イングヴァルトは生まれ育ち慣れ親しむこの町を歩いていた。目的地はトールズ士官学院・第Ⅱ分校。入学式が始まるまでもう少し時間はあるが焦って駆けこむような状況だけは避けたいと早めに向かう事にした。カイスは歩きながら入学する第Ⅱ分校について呟く。

 

「うーん、第Ⅱ分校は普通の軍学校じゃ無さそうだしな…」

 

 入学する事になる第Ⅱ分校は間違いなく普通の軍学校ではない。それはカイスにも分かった。何故このリーヴスに新設されたのか。明らかに大金が掛かるであろう分校の建造費用など。気になる事はまだまだあるがトールズ士官学院という名門軍学校である事に変わりないので何か大きな思惑があるとしても自分一人じゃどうしようもない事だからとカイスは考えるのをやめた。

 

「トールズ士官学院か。分校であっても名門校なんだし求めてくるレベルは相当高い筈。

 気合い入れないとな」

 

 そう言いつつカイスは正門を通りグラウンドに歩いていく。そこで早めに来ていた他の新入生達の後ろから気付かれないよう気配を消しながら並ぶ。完全に技術の無駄遣いであるがその消し過ぎないように消している気配に当然ながら気付けた新入生は一人もいなかった。新入生徒全員が集まり総勢21名が教官達と入学式の始まりを待っていた。新入生同士が入学式の始まりを待っている間に雑談していたりしていたり誰とも喋らずに静かに待っている生徒もいる。

 

 カイスも気配を少しずつ消していた気配を戻しつつ誰とも雑談せず静かに待っていた。そして時間通りに教官達も姿を見せ新入生が集まるグラウンドに歩いてくる。ランドルフ教官、トワ教官、リィン教官、ミハイル教官、オーレリア分校長。黄金の羅刹オーレリア将軍に、今では帝国の英雄として有名な灰色の騎士リィン・シュバルツァー。その姿を見た新入生達のざわめきをやめさせるミハイルの一声に雑談していた新入生達は口を閉じ注目した。

 

「静粛に!許可なく囀るな!――これよりトールズ士官学院、

第Ⅱ分校の入学式を執り行う!」

 

 入学式が始まり略式の為、式辞や答辞は省略された。クラス分けも手早く進んでいくがランドルフとトワの二人に名前を呼ばれる事もなくカイスを含めた四人がグラウンド中央に残されそのままオーレリア分校長の話が始まった。

 

「自らを高める覚悟なき者は今、この場を去れ!

教練中に気を緩ませ女神の下へ行きたくなければな…」

 

 勿論教官も新入生にも覚悟があった。新入生も教官達も去る者はいない。カイスは爆弾発言を連発する分校長オーレリアの話に驚きつつも納得する。捨て石だからこそ第Ⅱ分校での経験は平時では得難き物になるという言葉に納得したのだ。だが同時にカイスは軽く放たれる覇気を感じ取り瞬時にこの武人は自分より強いと直感する。

それなりに自身の武術は強い方だと思っていたカイスだがオーレリア分校長の異名『黄金の羅刹』の名は伊達ではないようだと理解する。超える目標が増えた事に喜びを感じつつもそれを表情や行動に出さないようにできるだけ感情を抑えつつ心を落ち着かせた。

 

 分校長はカリスマある話を終わらせて入学式は締めくくられる。Ⅷ組・戦術科とⅨ組・主計科が二人の教官達とそれぞれ移動する中、四人はクラス分けに呼ばれずそのまま校庭で待たされていた。カイスもどうすればいいのか困惑する。Ⅷ組でもⅨ組でもなかった四人の内の一人であるピンク髪の少女も先程の気迫に呑まれていたが今の状況に気付きどうすればいいのかと呟く。

 

「…って、何か気迫に飲み込まれちゃったけど……」

 

 蒼灰髪の青年もピンク髪の少女に戸惑いながら同感する。

 

「ああ…結局のところ、僕たちはどうすれば良いん…」

 

 銀髪の少女は黙ったまま戸惑いを感じさせない冷静な表情で指示を待つ。カイスも少し冷静になって考えた。今の状況から考えると自分達がどのクラスなのかも分かりやすい。担当教官が誰なのかもすぐに分かった。その予想が間違っていなければカイス達四人の担当教官は…

 

「……もしかして俺達のクラスの担当教官はリィン教官ですか?」

 

 カイスの質問は特別大きな声ではないがハッキリと残っていたオーレリアやリィン達教官や待機している他三名の新入生にも聞こえた。

 

「――え?」

 

 ピンク髪の少女は驚きを隠せない表情でカイスの方を見る。蒼灰髪の青年もカイスの顔を見ながら驚きつつも納得した表情をしている。

 

「安易な考えなので間違っていれば俺が恥を掻くだけなんですけど…

ランドルフ教官が名前を呼んだⅧ組・戦術科でも俺達の名前は呼ばれず、

トワ教官が名前を呼んだⅨ組・主計科でも俺達の名前が呼ばれなかったですから。

兼任はないでしょうしお二人の教官は候補から外れます」

 

「ほう?」

 

 オーレリア分校長がカイスに興味を示す。ロックオンされてはいけない人にロックオンされているカイスであった。

 

「ミハイル教官は入学式の進行もしていたけど担当教官として名前を呼ぶ事なかった。

 あの人を一目しか見てない俺だけど敢えて言わない事は絶対ないだろうと思うので、

 候補から外します。オーレリア分校長は流石に分校長という立場としても、

 担当教官は出来ないと思いますし一応候補から外れます。

 白衣の方は…こちらも一目見た第一印象だけですが教官というより研究者です。

 自身の研究を優先しそうな人なので担当教官をする事はないでしょう。

 担当教官候補からは外れると思います。…あと残っている教官は一人。

 リィン教官だけです。まぁこんな穴だらけの消去法ですが、

 大外れという事は無い筈です……外れていましたか?」

 

 周囲がしばらく静まり返るがリィンはその推理を称賛しながらオーレリアにクラス分けの続きを発表する。

 

「いや…正解だ。まさか説明もしていないのに俺が担当教官だという事を素早く見抜くとはな。本当は将軍…いや分校長にそろそろクラス分けの続きを発表してもらうつもりだったんだが、良い推理だったよ」

 

「確かにまだ粗い所はいくつかある…が悪くない推理であった。

 まぁクラス分けもまだ続きがある。

 今回は試したつもりはないが答え合わせをさせてもらおう

 ――本分校の編成は、本校のⅠ~Ⅵ組に続く、Ⅶ~Ⅸ組の3クラスとなる。

 そなたら四名の所属はⅦ組・特務科。担当教官はその者、

 リィン・シュバルツァーとなる」

 

 こうして入学式は終わったがカイスは入学式だけでここまでの精神的に疲れるのか?と溜め息を吐いてしまうのであった。

 

 

 

ー~ー~ー~ー~ー~ー~ー

 

 

 

 ミハイルとリィン達二人の教官とそしてシュミット博士と呼ばれた白衣の老人。その三人を金髪の少女とⅦ組の四人も付いていく。第Ⅱ分校にある外観を考えず実用の為だけに作られたような大きな建物の前に辿り着く。その建物を見た金髪の少女は驚喜しながら声を上げた。

 

「わああっ……!送られた図面で見ましたけどこんなに大きいなんて……!」

 

「フン、この程度ではしゃぐな。伝えていた通り、

 お前には各種オペレーションをやらせる。

 ラッセルの名と技術、せいぜい示してみるがいい」

 

「は、はい……!」

 

 そして建物の前で少しの間リィンを含めた五人が少しの間待機しているとミハイルが何故この建物にⅦ組・特務科に連れてきたのかを最低限説明し始めた。

 

「現在、戦術科と主計科はそれぞれ入学オリエンテーションを行っているが、

 Ⅶ組・特務科には入学時のテストとしてこの小要塞を攻略してもらう」

 

 その最低限の指示にリィンとカイスはその言葉の意図を考えて無言になり、ピンク髪の少女は首を傾げながら呟く。蒼灰髪の青年も質問する。

 

「こ、攻略……?」

 

「そもそもこの建物は一体……」

 

 その疑問に答えたのはシュミットだった。

 

「アインヘル小要塞――第Ⅱと合わせて建造させた実験用の特殊訓練施設だ。

 内部は導力機構による可変式で難易度設定も思いのまま

 ――敵性対象として魔獣なども多数放たれている」

 

 この発言に蒼灰髪の青年は驚き、ピンク髪の少女はその言葉を疑う。

 

「な……!?」

 

「ま、魔獣――冗談でしょ!?」

 

「成る程…Ⅶ組、そして特務科。

 思わせぶりなその名を実感させる入学オリエンテーションですか。

 新米教官への実力テストを兼ねた」

 

「そっか。教官も試される側なのか…

 (試さなきゃいけない何かが起こるのか?

  もう何を言われても俺驚けない気がするよ…)」

 

 リィンは自身の経験から話の意図を読み取った。カイスはそう呟きながら試す意味について考え予想する。ミハイルはリィンに肯定しその話に補足した。

 

「フッ、話が早くて助かる。と言っても、かつて君がいたⅦ組とは別物と思う事だ。

 教官である君自身が率いる事で目的を達成する特務小隊

 ――そういった表現が妥当だろう」

 

「なるほど……それで」

 

 リィンはアルティナに視線を向ける。アルティナは顔をリィンとは別方向に逸らした。その話を聞き自分達の意思も聞かずに進む話に痺れを切らしたピンク髪の少女は待ったと話を中断させ反論を言った。

 

 その反応が普通かもしれないが。説明が少な過ぎると普通の学院ならば言えただろう。普通ならば。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!黙って付いてきたら勝手な事をペラペラと……

 そんな事を……ううん、こんなクラスに所属するなんて一言も聞いてませんよ!?」

 

 しかしその反論はバッサリと正論で切られる事となった。ミハイルは簡潔に説明する。

 

「適性と選抜の結果だ。クロフォード候補生。

 不満ならば荷物をまとめて軍警学校に戻っても構わんが?」

 

「くっ……」

 

 論破されてしまったピンク髪の少女。蒼灰髪の青年は冷静に状況を理解する。不満という感情が分かりやすく表情に出ているが。カイスは小要塞攻略に納得し自身は大丈夫だと意思を伝える。

 

「……納得はしていませんが理解はしました。それで、自分達はどうすれば?」

 

「俺も問題ないです。いつでも動けます」

 

「ああ――シュバルツァー教官以下五名は小要塞内部に入りしばし待機。その間、各自情報交換と、シュバルツァー教官には候補生にARCUSⅡの指南をしてもらいたい」

 

「了解しました」

 

 ミハエルはリィンにマスタークオーツを渡して待機中の指示を出した。シュミットもやれやれと言わんばかりに呟く。

 

「フン、これでようやく稼働テストが出来るか。

 グズグズするな、弟子候補!十分で準備してもらうぞ!」

 

「は、はいっ!」

 

 そうしてアインヘル小要塞内に入ったⅦ組とシュミットにラッセルという少女。しかしカイスは背後から金髪のラッセルという少女への視線と消されている気配を感じていた。

 

 だがその気配に関してはミハイル教官も気づいているだろうとあえて気付いていないフリをしてそのまま小要塞に入った。

 

 

 

~ー~ー~ー~ー~ー~ー

 

 

 

 アインヘル小要塞の内部に入るとその内装は導力革命により近代化している現在でも殆どの人間は見る事が少なく、詳しい職業の人間でもなければ理解もできないような機械仕掛けの施設であった。指定された場所で待機するⅦ組候補生達と担当教官リィン・シュバルツァー。リィンはこの施設をシュミットらしいと呟きつつもアルティナに話しかけた……知り合いのように。

 

「機械仕掛けの訓練施設……博士ならではといった感じだな。

 ――で、概要についてどこまで知っているんだ?」

 

「――詳しくは何も。地上は一辺50アージュの立方体、

 地下は拡張中という事くらいです」

 

 既にお互いを知っているような問答に置いていかれたように話が進んだのでⅦ組の候補生他三人は驚く。蒼灰の髪の青年はリィンに確認するように聞いた。

 

「……知り合いですか?」

 

「まあ、そうだな。こんな場所で会うなんて流石に想定外だったが。――それはともかく」

 

「準備が整うまでの間、互いに自己紹介をしておこう。

 申し訳ないが到着したばかりで君達三人の事を知らなくてね。俺は――」

 

 そこから始まった自己紹介は三人の候補生が脱線させつつも話は何とか進んだ。Ⅶ組・特務科の担当教官となる帝国の英雄、灰色の騎士リィン・シュバルツァー。武術・機甲兵教練と歴史学を教える教官。帝都ヘイムダル出身で武門として知られるヴァンダール家の青年、クルト・ヴァンダール。エレボニア帝国を良く思っていないクロスベル警察学校の出身の少女、ユウナ・クロフォード。帝国軍情報局所属だったと自称する幼い容姿の少女アルティナ・オライオン。そして…

 

「最後は俺だね…カイス・イングヴァルト。帝都の近郊都市リーヴス…

 つまりこの町が出身です。武術は心得ていますが誇れる程ではありません。

 それでもこれから勉学と合わせて、この第Ⅱ分校で伸ばしていきたいと思っています。

 どうぞよろしくお願いします」

 

「…イングヴァルト?

 (その名前…何処かで聞いた事があるような。

  殿下へ献上されたオーダーメイドの指輪に確か…)」

 

「イングヴァルト?……帝国…彫金…あっ!?

 ゼムリア大陸中で有名な彫金師イングヴァルト!?」

 

「そうか!?皇族へ献上される程の指輪の彫金をしたという彫金師イングヴァルトか!?

 それじゃあ君は…」

 

「お察しの通り彫金師イングヴァルトは俺の親父です。

 俺はその一人息子で彫金師は継ぎませんでした。

 まぁ技術は叩き込まれたし簡単な手伝いや家の家事なんかはしてましたけど…」

 

 父親の有名さに相変わらずだなと苦笑いを浮かべるカイス。

 アルティナが詳しく補足をする。

 

「彫金師イングヴァルト。私の知る限りでも彫金師イングヴァルトが彫金した物と言うだけで、外国や帝国内でさえ希少性が高く、一つ一つが全てオーダーメイドで彫金しているので同じデザインや同じ物は一つも出回らず、裏のオークションなどでも彫金された物は滅多に出回らないらしいです。出回ったとしても桁外れの買値が付くとか。外国からも帝国からも予約が殺到していて知る人じゃなくても知っているゼムリア大陸最高峰の彫金師。まさかリーヴスに住んでいるとは知りませんでした…」

 

「まぁ脱線しましたけど…気軽に接してくれると嬉しいです。よろしくお願いします」

 

「ああ。よろしく、カイス」

 

「はい!」

 

 長くなった軽い自己紹介も一旦終わり、

丁度ラッセルと呼ばれた少女の声が聞こえてきた。

 

「お、お待たせしました!アインヘル訓練要塞、LV0セッティング完了です!

 ARCUSⅡの準備がまだならお願いします!」

 

「これって、さっきの金髪の……」

 

「僕達と同じ新入生だった筈だが……」

 

 その声に思わず疑問を呟くユウナとクルト。リィンは返事をして候補生達に戦術オーブメントを取り出しながら確認するように質問した。

 

「了解だ、少し待ってくれ!さて――いきなりになるが、

 四人共、これを持っているか?」

 

 カイスも送られてきた物を持ってはいるが武術だけで今まで戦ってきた事もあり戦術オーブメントを持つのは初めてだったので下手に触れる事を怖がりまだ一度も起動していなかった。

 

「ええ、それなら――」

 

「送られてきた奴ね。まだ起動はしてないけど……」

 

「俺も起動してなかった…昔の戦術オーブメントさえ持ってなかった俺の初めて使う戦術オーブメントだから下手な動作で壊さないか心配だったし……」

 

「戦術オーブメント。所持者と連動する事によって様々な機能を発揮する個人端末だ。

 導力魔法が使えたり、身体能力が向上したりするが……

 この最新端末。ARCUSⅡでは更なる新機能が実装されている」

 

「ARCUSⅡ――」

 

「ENIGMAとは違う帝国製の戦術オーブメントか……」

 

「正確には、帝国ラインフォルト社とエプスタイン財団の共同開発ですね。

 いよいよ実戦配備ですか」

 

「俺は戦術オーブメントの最新ってだけでもう十分便利そうだと思うんだけど

 …勉強不足かな、もう少し導力学の勉強増やそう」

 

 戦術オーブメントARCUSⅡを開きながら感想を呟く候補生達。リィンは説明を続けつつマスタークオーツを四人にそれぞれ手渡した。

 

「ああ、新機能についてはおいおい説明するとして――四人共、これを受け取ってくれ」

 

「これは……」

 

「確かマスタークオーツだったかな…」

 

「うん。エニグマにもあったからすぐに分かったけど、マスタークオーツ…でしたよね?」

 

「ああ、基本概念は同じ筈だ。開いたスロット盤の中央に嵌められるから、

 セットしてくれ」

 

「……了解」

 

「えっと、ここかな……?」

 

「おお…これだ」

 

 こうしてマスタクオーツを嵌め終わった時、リィンを含む五人の体が光る。すぐに光は消えたがマスタークオーツを装着する事が出来たようだ。ARCUSⅡと所持者と同期したとリィンは四人に説明する。身体能力の強化も完了し導力魔法も使えるようになった。そして準備の終わりを待っていたシュミットが声を掛けてくる。

 

「フン、準備は済んだか」

 

「シュミット博士。ええ、いつでも行けます」

 

「ならばとっとと始めるぞ。LV0のスタート地点はB1、地上に辿り着けばクリアとする」

 

「は、博士……その赤いレバーって……ダ、ダメですよ~!そんなのいきなり使ったら!」

 

「ええい、ラッセルの孫の癖に常識人ぶるんじゃない!

 ――それでは見せてもらうぞ。Ⅶ組・特務科とやら。

 この試験区画を基準点以上で合格できるかどうかを――!」

 

 カイスは理解した。待機していた床の下にある謎の空間が何のためにあったのかを。それが落とし穴だったことに気付き即座に身構えた。

 

「そういう事か!」

 

「みんな、足元に気をつけろ!」

 

 リィンも落とし穴を察してそう言うが怪訝な表情を浮かべる間もなくクルトとユウナは勾配がきつなった床を掴めずそのまま落ちていく。リィンは落下時の対処法を先に落ちていった二人に聞こえるように言う。

 

「バランスを取り戻して落下後の受け身を取れ!カイスとアルティナは…」

 

 カイスとアルティナの二人は冷静さを失っておらず余裕そうに対処した。

 

「よっと…」

 

 カイスは壁を蹴りながら下へ降りていく。

 

「クラウ=ソラス」

 

 アルティナは黒い傀儡「クラウ=ソラス」に乗ってゆっくりと降下していき、

 

「心配無用か……」

 

 リィンも二人に続くように傾いた床に摑まっておくのをやめて共に降りていった。

 

 

ー~ー~ー~ー~ー~ー

 

 

 降下後の状況を簡単に言ってしまえばユウナがクルトの上に落ちて胸で顔に乗っかってしまうというラッキー?スケベが起きていたのだった。後に壁を蹴って降りてきた事で状況を把握したカイスは言った。「頭が痛い状況だ」と。

 

 それは長々と続ける話でもないので…と武装を見せ合う事になった四人。最初に見せたのはクルト。ヴァンダール流の双剣術で戦闘を行う為に双剣を得物として扱う。ユウナはクロスベルで開発された銃機構付きの特殊警棒ガンブレイカーを武装として戦うようだ。その紹介をしつつ帝国の剣を昔ながらの武器と挑発していく。アルティナは容姿が最も幼い少女なのでユウナとクルトの二人には流石に戦えないのではといわれるのだがカイスは戦えないならこのクラスに来ないんじゃない?と呟く。その言葉に流石にないだろうと言う二人へ実力を証明するようにアルティナはクラウ=ソラスを見せた。今更ながら余りの戦術殻の技術力にユウナとクルトにカイスも驚きを隠せなかった。

 

そしてⅦ組候補生最後は…カイス・イングヴァルト。武装は格闘用の黒い籠手。

 

「俺は籠手を武装として…って何でそんな疑いの目で俺を見るんだよ二人共!戦えるからな!」

 

 客観的に見るとカイス・イングヴァルトは男子の制服ではなく女子生徒の制服を着ても違和感が全くない程に小柄で低身長。女顔だ。俗に言う男の娘である。小柄で低身長で女顔の要素はどれかが突飛して多すぎる訳じゃない。容姿が整い過ぎてる訳でもない。どれも平均より小柄、平均より低身長、平均より女顔なだけだ。

 

 その三つの要素が何故か上手く合わさりあって碧銀の髪に青い瞳の青年は美少年に見えるのだ。そんな小柄な少年が籠手を嵌めて拳を振るって戦うのは、

フィクションのように信じられない物として映ってしまっても仕方がないのだが。

 

「いや…その小柄な体格だとを付けて戦うのは危ないだろうと思ってね。

 壁を蹴って降りれた訳だしそれなりに鍛えてるようだけど、

 少なくともその籠手は見た目は軽そうだけど実際はかなりの重量だろう。

 拳を振るうにしても戦闘では枷になるんじゃないか?」

 

「華奢だから前に出るのは危ないんじゃない?元は平民みたいだし、

 帝国は好きじゃないけど…その、仕方ないから守ってあげても……」

 

「ま、まあまあ」

 

「私も先程同じ事言われたのでカイスさんには同情します」

 

 リィンは思わず口を挟もうとする。アルティナは同情していた。そしてカイスはキレた。自身の力を証明する事に決めたカイスはこう言う。

 

「上等だよ!籠手付けてから少し拳振るったり蹴りを放つから良く見てろよ!!

 それでも納得してくれないなら大人しく守られるよこんにゃろぉ!?」

 

「それでハッキリと分かるか。じゃあ一度だけ頼む……」

 

「まぁ…うん。私も見極めるから」

 

 そうしてカイスはその籠手をつけたまま戦えるかを見せることになるのだった。ここまで実力を意図的に感じさせなかったがカイスは強い。

 

 幼い頃に母を失う事が原因で先祖の記憶、技術、思いを継承する異能が発現してしまいその異能は受け継いだ血に残されていた後悔や記憶、戦いの経験、父方の叔父の代で途絶えた筈の武術さえも蘇らせた。

 

 その武術、覇王流と共に受け継いだ無力感や後悔に潰されかけていたがカイスだが十歳の頃に異能で継承してしまった先祖達の思いに決着をつけた。自身を別人として受け入れる事で、自分らしく後悔しないように守る力にしたいと後悔や無力感をあまり感じなくなり覇王流を昇華させ完璧に受け継いだ。

 

 そうして受け継いだ記憶や感情に追い込まれ鍛練していた頃よりは無理をせずに魔獣相手に実戦を積むカイス。

 

 今や日常生活でもかなり実力を隠して過ごしているが自身の戦闘能力の高さは理解していたので父親である彫金師ラクス・イングヴァルト以外に自身の実力を見せた事は今まで決してなかったが、幼い頃から鍛錬を一日も欠かさず続け今では達人クラスにまで至り強くなった。

 

「…いくぞ!」

 

 その域に至っても満足せずに向上を続けるカイス。まずは基礎からと拳を構えた。全く隙を見せないその基礎の完成度にクルトやリィンも驚いた。

 

 そして全力を10とすると10分の3ぐらいまで手加減しながらも誰もいない空間に拳を振るい蹴りを放つ。分かりにくいフェイントや柔の技も巧く一撃もとても重い。更に見た目は普通の籠手だが実は鈍重で頑丈な籠手を軽々と自身の拳として振るう動きの速さ。部屋の端の方に離れているユウナやクルトにアルティナとリィン達が立つ場所にまで風圧が届き髪や服を揺らした。

 

 もういいかとカイスは拳を振るうのをやめて、どう見てもウザく見えないドヤ顔しながらカイスはユウナとクルトに話しかける。

 

「これでも駄目か?ユウナにクルト?」

 

可愛げのある悪戯好きな子供のような表情に二人は苦笑しつつも謝罪した。

 

「…君の実力を見誤っていたみたいだ。生意気に忠告した事を謝罪しよう。

 すまなかった」

 

「そこまで戦えるとは知らなかったし…そこは謝らないと……ごめん」

 

「納得してくれたなら別に構わないよ。じゃあ俺も戦えるという事でOKですよね?」

 

「ああ。そこまで重い籠手を振るって、それでも息が少しも上がっていないから

 問題ないだろう。カイス、頼りにさせてもらう」

 

「はい!」

 

「(これ程の戦闘能力を持っていて無名の平民?

  それにまだ全力ではないようですが……今は攻略に専念するべきでしょうか)」

 

 その後リィンの武装である太刀にユウナが反応して皮肉を言うがそれを流すリィン。ようやくアインヘル小要塞の攻略が始まろうとしていた。

 

「――よし。それじゃあ攻略を始めよう。

 現在B1、地上に出ればこの実力テストも終了だ。

 実戦のコツ、アーツの使い方、ARCUSⅡの機能なども一通り説明していく。

 迅速に、確実に――ただし無理はしないようにしっかり付いて来てくれ」

 

「っ……言われずとも!」

 

「……やるからには全力を尽くします」

 

「俺も最後まで気を抜かないようにします。

 あの博士さんはこの小要塞の出口まで容赦ないと思いますし……」

 

「それでは状況開始、ですね」

 

 そうして正面の扉から教官であるリィンを先頭にⅦ組候補生達四名も付いていく。小要塞内に敵性対象として魔獣が本当に放たれている事を確認したユウナが信じられないという心情がそのまま表情に現れている。

 

 そうして戦闘。難なく突破していく。その後クルトが今度は逆にユウナを挑発したりその状況にアルティナが他人事のように前途多難ですねと言ったり、リィンとカイスが頭を抑えてこの仲の悪さをどうすべきかと考える。

 

 リィンはひとまず攻略を進める為に先に進む事でその問題を置いておくことにした。意外と効果的だったりするのでただの後回しと馬鹿にできない解決法でもある…が、それでも長引いて解決できない場合はリィンが動くことになるだろう。これからのリィンの苦労に思わず同情し他人事ではないので手を貸そうと決めたカイスなのであった。

 

ー~ー~ー~ー~ー~ー

 

 その後、先に進み遭遇した昆虫系の魔獣を相手に導力魔法(オーバルアーツ)を使う事を試しカイスがアーツを初めて発動させた事に容姿相応な喜び方をして周りからとても温かい目で見守られた。

 

 クオーツをユウナが見つけそのままユウナの戦術オーブメントに嵌めることにしたり、ガンブレイカーの真価をユウナが見せたり少々強そうな魔獣相手に戦術リンクを人数が合わないのでリィンは一度リンクできているかアルティナとリンクして周辺の魔獣相手に確認し、その後リィンはカイスにアルティナとの戦術リンクを譲った。

 

 戦闘の基本を実践しながら教えたリィンとユウナにクルト、アルティナと共に残り半分といえる場所まで到達するカイス。そのまま順調に進んでいたⅦ組・特務科だったが、大型の魔獣が道を塞いでいた。

 

「あれは…」

 

「あの魔獣……ほかの魔獣より一回り大きいけど…」

 

「現有戦力では若干手こずりそうですね……」

 

「ふう、まさかあんなものまで徘徊しているとはな……」

 

「厄介そうだな…リィン教官、どうします?

 (でもこのレベルの魔獣なら今のⅦ組でも苦戦しつつもいけそうな気も…

 俺も10分の4ぐらいの力でプチっと潰せそうだし。

 まぁ部隊である以上率いているリィン教官次第だけど……

 いきなり落とし穴に落とす博士さんだし難易度が最後の最後で跳ね上がりそうだな。

 …安易に想像できる)」

 

「……迂回して別ルートを探しますか?」

 

「いや――ここは正面から仕掛けよう」

 

 その発言にクルトとユウナは驚く。流石に無謀すぎないかとユウナはリィンに問う。

 

「正面からって……ちょっと無謀すぎません?」

 

「そうとも限らないさ。こちらの数は五人。

 今なら戦術リンクの連携も可能だ。

 ここまでの基本を押さえていれば必ずや撃破できる筈だ」

 

「あ……」

 

「……いいでしょう。自分も異論はありません」

 

「俺がアルティナとの戦術リンクを外して回復アーツに専念しましょうか?

 相手からの攻撃を避けつつ回復に回れますし、

 回復役も一人いれば有利に戦いが進むと思います。

 そうすれば戦術リンクがなくとも多少役に立てると思いますので。

 リィン教官も前衛なら誰かと戦術リンクを繋ぐ方が良いでしょう

 ……別に繋いだままでいいならこのまま戦いますけどどちらにしますか?」

 

「分かった。戦術リンクを俺とアルティナで繋げさせてもらう。

 …繋いだ、回復は頼んだぞカイス」

 

「カイスさん、ここまで戦術リンクを繋いでいただきありがとうございました」

 

「ああ、戦いやすかったよアルティナ。それと了解!回復は任せてください!」

 

「了解――戦闘態勢に移行します」

 

 Ⅶ組の存在に気付いた大きめの魔獣は叫び声を上げつつ襲い掛かってきた。

 

「状況を開始する…一気にいくぞ!」

 

 リィンが号令を掛けてⅦ組の士気も少し上げつつ魔獣に先制攻撃を仕掛ける。クルトにユウナが続き戦術リンクを繋げている二人が高度なコンビネーションで敵を抑え込む。

 

 カイスも回復の準備をしつつ待機。動きが鈍くなった魔獣の背後にはリィンとアルティナがいる。リィンとアルティナの二人の連携攻撃で弱り始めた魔獣。そこへユウナとクルトが重い一撃を叩き込んだ。

 

「敵性魔獣の沈黙を確認」

 

「はああ~……結構手こずったけど……」

 

「(……思っていた程大した相手じゃなかったか)」

 

 武装を解いたユウナとクルトは魔獣に背を向けた。しかし敵の沈黙を完全に確認できるまで警戒を続けていなかった二人は魔獣がまだ力尽きていない事に気付いていない。一早く気づいたリィンとカイスは動く。

 

「――まだだ、二人共!」

 

 起き上がる魔獣に驚き咄嗟に動く事ができない二人。

 

「……え」

 

「しまっ――」

 

「クラウ=ソラス!」

 

 戦術殻クラウ=ソラスをユウナとクルトの前に出して庇わせたアルティナ。

 

「空破断!……怯ませましたリィン教官!」

 

 カイスは加減を少し忘れて10分の4程の力で衝撃波を掌から飛ばしてダメージを与えつつ魔獣を確実に怯ませた。

 

「助かる二人共!うおおおおっ!七の太刀…落葉!」

 

 今度こそリィンの攻撃でしぶとかった魔獣も確実に沈黙する。

 

「……ぁ……」

 

「くっ…!」

 

「ふう。ユウナ、クルト……アルティナにカイスも大丈夫か?」

 

「は、はい……」

 

「………なんとか」

 

「こちらも損傷なし――問題ありません」

 

「俺は遠くから怯ませただけなので疲れてすらないです。

 (冷汗はかいたけど…ユウナとクルトに怪我がなくて良かった)」

 

「そうか……アルティナにカイスも、咄嗟に良く動いてくれた。

 ユウナとクルトは敵の目の前で武装を解いたのはまずかったな?

 敵の沈黙を完全に確認できるまで気を抜かない――実戦での基本だ」

 

「っ……はい」

 

「………すみません。完全に油断していました」

 

「いや……偉そうに言ったが今のはどちらかと言えば指導者である俺のミスだな。

 やっぱり俺も教官としてはまだまだ未熟って事だろう。

 だが、それでも今は俺が君達の教官だ。

 この実戦テストで、君達と同じく試される立場にある、な。

 だから君達も、君達自身の目で、俺を見極めてくれ。

 本当に俺が――Ⅶ組(君達)の教官にふさわしいのかどうかを」

 

 その言葉を聞き驚いているユウナやクルトにカイス。アルティナは首を傾げている。

 リィンは話を続けた。

 

「このテスト終了後、君達が望むなら転科という選択肢も無い訳じゃない。

 その時は、俺から直接分校長に掛け合うと約束する。――そんなところでどうだ?」

 

 そうリィンが言ってすぐに空気を読まないようなシュミットの急かす言葉が聞こえてきた。

 

「――何を立ち止まっている?時間を無駄にするんじゃない。

 とっととテストを再開するがいい」

 

 そしてラッセルと呼ばれていた少女も終点まで後少しと教えてきた。

 

「終点も近付いてます――気を付けて進んでくださいっ」

 

 リィンは長話を反省しつつ先に進む。

 

 アルティナやカイスは返事をして後ろを付いていった。

 

「はは……長話がすぎたみたいだな。探索を再開する。

 最後まで気を抜かずに行くとしよう」

 

「「了解(です)しました」」

 

 ユウナとクルトはお互い慢心を恥じ、険悪だった仲もかなりマシになった。

 

 リィンやアルティナとカイスにこれ以上後れを取らないように…と、

 やる気を上げて追いかけていく二人。

 

 そしてⅦ組は終点に辿り着いた。

 

「あ……」

 

「はぁ……そ、外の光……?」

 

「地上階――指定にあったテスト区画の終点なのでは?」

 

「ああ……そうみたいだな」

 

 これでようやく…そう思ったユウナはシュミットの滅茶苦茶さに愚痴を呟いた。

 

「ああもう、ホント帝国人って……!

 学校にこんな訓練施設を作るなんてあり得なさすぎるでしょう!?」

 

「あの博士と一緒にされるのは困るな。

 あんなに色々な意味で凄い人が沢山いる帝国なんて、

 間違いなく敵にとっても味方にとっても絶望だし…」

 

「ふう、帝国人で一括りにしないで欲しいんだが……

 ――G・シュミット。本当にあの高名な博士本人なんですよね?」

 

「ああ……残念ながらと言うべきか。

 どうして第Ⅱ分校の顧問としてきているのかは知らないが――ッ!これは――」

 

 アルティナとカイスも感じ取る。その気配を。

 

「センサーに警告。霊子反応を検出しました」

 

「普通じゃない奴が来る…こんな気配は初めてだけど、構えた方がいいと思うぞ」

 

「へ……」

 

「霊子反応……?それに一体何が…」

 

 ラッセルと呼ばれた少女が慌てて警告をしてくる。

 

「み、皆さん、逃げてくださいっ!」

 

 だが敵は待ってはくれない。

 

 暗黒時代の魔導ゴーレム魔煌兵(まこうへい)ダイアウルフ。

 そうう呼ばれる存在が終点への道を阻む壁として立ち塞がるのであった。

 

 しかも一体だけではなく二体。

 新入生へのテストというレベルじゃない強さの相手である。

 

「……!?」

 

「こ、これって……帝国軍の機甲兵!?」

 

「いえ、これは――」

 

「そもそも機甲兵は自律して行動できないから違う筈だけど…

 (二体、機甲兵よりは出力も無くて装甲も薄い。

 手加減を多少外す事になるけど俺なら一撃で十分だ

 …リィン教官はどうするか。それにしても面白い形した人形だ)」

 

 魔煌兵ダイアウルフは二体同時に雄叫びをあげる。

 だが耳を塞いでる場合ではない。そしてリィンにはこの二体に心当たりがあった。

 

「魔煌兵――暗黒時代の魔導ゴーレムだ!それも二体も…

 シュミット博士!まさかこれも貴方が!?」

 

「内戦時に出現していた旧時代マシナリィを捕獲した。

 機甲兵よりも出力は落ちるが自律行動できるのは悪くない。

 それらの撃破をもって今回のテストは終了とする」

 

「くっ、本気か……!?」

 

「ちょっとマッド博士!いい加減にしなさいよね!?」

 

 リィンはこのメンバーでは分が悪いと灰の騎神を呼び出そうとするが、

 

 シュミットに止められる。

 

「来い!灰の騎神――」

 

「騎神の使用は禁止だ。LV0の難易度は騎神の介入を想定していない。

 その程度の相手に使ったら正確なテストにならぬだろう。

 シュバルツァー、せいぜいお前が奥の手を使うか

 ――まだ使っていないARCUSⅡの新機能を引き出してみせるがいい」

 

 しかし…その前にカイスは動いた。魔煌兵を一体だけにする為に。

 

「リィン教官。独断専攻を許せとは言いませんが少しだけ勝手に動きます。

 後のお叱りは覚悟していますので!」

 

 状況が一変した。

 リィンがその言葉に反応をした頃には既に一体の魔煌兵は砕け散っていた。

 

 カイスの拳によって。(・・・・・・・・・・)

 

「断空拳!」

 

「え………な!?」

 

「へ?」

 

「なっ!?」

 

「ッ!?」

 

 神速の速さで魔煌兵に跳躍しながら足先から練り上げた力を逃さずに拳から撃ち出した。魔煌兵さえも一撃で砕いたカイスに全員は驚きを隠せなかった。

 

「あれ程の相手を一撃で!?」

 

「嘘でしょ!?」

 

「格が違います……!?」

 

「リィン教官、独断専攻をしてしまい申し訳ありませんでした。

 一体は仕留めましたがそういう問題ではないでしょう。

 …お叱りは残りの一体が動かなくなってからしっかりと聞く事にします」

 

「気にしないでいいさ。良く一体減らしてくれた。後は…」

 

そんな時ラッセルと呼ばれている少女が助言をした。

 

「ブレイブオーダーモードを起動してください……!

 オリビエさん――オリヴァルト皇子が、

 リィン教官ならきっと使いこなせるって言ってました!」

 

「そうか――了解だ!」

 

 その言葉を聞いたリィンはARCUSⅡの新機能ブレイブオーダーを発動させた。

 

 Ⅶ組全員が繋がる。

 戦術リンクとはまた別の機能であり繋がりだが、

 それは間違いなくこの状況を打破できる手段の一つだった。

 

「これは――!?」

 

「な、何かがあの人から伝わってくる……!?」

 

「戦術リンク――いえ、それとは別の……」

 

「後は大分楽に戦える筈だけど…」

 

 太刀を魔煌兵に向けながら号令を掛ける。

 

「Ⅶ組総員、戦闘準備!ブレイブオーダー起動。

 ――トールズ第Ⅱ分校、Ⅶ組特務科、全力で目標を撃破する!」

 

「「「「おおっ!!」」」」

 

 魔煌兵ダイアウルフは肥大化している両腕が特徴の格闘戦に長けている魔煌兵であり、力任せに振るわれる腕の一撃はまともに喰らえば大ダメージを受ける。当たりどころが悪くなくても死を予感させてしまう危険な相手である。

 

 生身で一対一で魔煌兵を相手にする事ができるのはそれこそ猛者のような武人の中でも上位。もしくは最高位の武人でありほぼ人間をやめている達人クラスだと称される武人ぐらいである。リィン達の前で見せた断空拳はカイスの奥義ではないがそれなりに強い技ではある。そんな強烈な一撃を放っておいて疲れてもいない。

 

 そしてもう一体のダイアウルフを倒す事に協力できる時点でカイスは若くも達人クラスの武人であるとリィンとクルトにアルティナは気づいた。

 

 ユウナもどれだけ強いのよ!と内心驚いてはいるが。

 

 逆に言ってしまえば今まで武術を嗜む程度の平民レベルの演技が最初は上手すぎたのだ。本人がその覇気や実力を隠していなければ侮られる事もなかっただろう…多分。

 

 警戒はされるだろうが。話を戻すがダイアウルフは近接格闘や力任せに振るう腕で発生させる衝撃波が攻撃手段である。多少大振りだからこそ攻撃の範囲は広く、一撃も見た目通りかなり重い。等々の情報が分かるだけで戦況はかなり有利になる。

 

 なのでまずアルティナが魔煌兵ダイアウルフの情報を解析して情報を収集し攻撃手段や弱点を見抜く。

 

「解析、完了しました。共有します」

 

「助かるアルティナ!」

 

 リィンは礼を言いつつ太刀を巧みに振るいダイアウルフに傷をつけながら注意を引く。ダイアウルフはリィンに狙いを定めるが攻撃を放つ事は出来なかった。転倒させられたのだ。カイスの足払いによって(・・・・・・・・・・)

 

 左足に忍び寄っていたカイスの強力な足払いに大きな音を立てて転倒したダイアウルフの致命的な隙をユウナとクルトは見逃さない。

 

「ユウナ!クルト!」

 

「「任せて(された)!」」

 

 二人は戦術リンクを繋げてある以上の連携攻撃でバランスを崩しているダイアウルフにどんどんダメージを与えていく。その連携は阿吽の呼吸と言っても言い過ぎではない程に息が合っていた。

 

「「はあああ!!」」

 

「リィン教官!」

 

「決めるぞアルティナ!」

 

 リィンとアルティナは今まで共に戦い背を互いが守り預けてきたような関係でもある。当然だがユウナとクルトよりも更に高度な連携を戦術リンクを繋がずとも出来る。今は戦術リンクを繋いでいるのでもはや心さえ読み合っているような連携であった。

 

「クラウ=ソラス!」

 

「うおおお!!七の太刀、落葉!」

 

 二人の連携で何もできずにもう一体のダイアウルフも消滅した。戦闘が終了し息切れしながらユウナとクルトは膝をつく。アルティナも体力が残っておらず座り込む。

 

「はあはあ…………た、倒せた……」

 

「……っ……………………はあはあ…………」

 

「……体力低下。小休止します」

 

 敵の完全な沈黙を確認し太刀を収めたリィン。息を切らすこともなく四人の無事を確認している。カイスも息が切れる気配すら全く見えずまだ拳を構え続け警戒する。武器である黒い籠手も外さない。そして終了と伝えてくる声が届いた。

 

「お、お疲れ様でした!テストは全て終了です!

 ――博士!いくら何でも無茶苦茶ですよ~!」

 

「フン、想定よりも早いか。次は難度を上げるとして……

 しかしイングヴァルトの息子に黒い籠手…あの籠手はまさか?

 イングヴァルト!その籠手を明日にでも見せてもらうぞ!

 奴は独自のルートでアレを採掘して既に加工をしているのか?

 門外漢でありながら腹立たしい程に優秀な男だ……」

 

「あうううっ……聞いてくださいよ~っ!?」

 

 そんな自分勝手極まりない言動にⅦ組は全員呆れてしまう。そして次という言葉にクルトとユウナにアルティナが反応する。リィンは彫金師イングヴァルトがシュミットさえ優秀と評される事に驚く。カイスは籠手を見ながら呟いた。

 

「……滅茶苦茶すぎだろう」

 

「次って、また同じ事をやらせようって訳……?」

 

「…可能性は高そうですね」

 

「シュミット博士さえも優秀と評するのか…彫金師イングヴァルト。一体どんな人なんだ、カイス?」

 

「節度をギリギリ弁えない親バカ人外彫金師ですよ。戦闘や家事なんかはできませんが、

それ以外は大抵本職より上手くこなしちゃうような…ね。彫金師を継がなかったのは別の理由もありますけどあの人の彫金が怪物過ぎて俺個人としてやっていくのが無理だと思ったからですし。期待とか後継とか唯一の弟子とか言われそうですからね。この籠手も一から加工するし…それと籠手を見せろ…か。シュミット博士もそりゃ気になるよな。うん」

 

「凄く気になる事が増えたがまた後々聞かせてくれ。

 答えてくれてありがとう。さてと。――いずれにせよ実力テストは終了だ」

 

 そう言いながら膝をついているユウナに手を貸し立ち上がらせるリィン。そのまま話を続ける。カイスも構えるのをやめてリィンの方に向く。クルトとアルティナも立ち上がって話を聞く。

 

「四人共、良く頑張った。ARCUSⅡの新モード、ブレイブオーダーも成功。上出来と言っていいだろう。それぞれ課題はあるだろうが一つ一つクリアしていけばいい。Ⅶ組・特務科。人数の少なさといい、今回のテストといい、不審に思うのも当然かもしれない。士官学院を卒業したばかりでロクに概要を知らない俺が教官を務めるのも不安だろう。先程言ったように、希望があれば他のクラスへの転科を掛け合うことも約束する。だから、最後は君達自身で決めてほしい。自分の考え、やりたい事、なりたい将来、今考えられる限りの自分自身の全てと向き合った上で今回のテストの手応えを通じてⅦ組に所属するかどうかを。多分それが、Ⅶ組に所属する最大の決め手となるだろうから」

 

 そうして少しの間沈黙の時間が生まれる。その間にこちらを見ている複数の視線にカイスは逆に視線を向ける。もう既に自身がⅦ組・特務科に参加する事とその理由と意志を言えるのでこちらを見ている人達に挨拶をと送った視線であった。まず最初にユウナが参加を表明した。

 

 理由はリィンを見返せるようになるまで結果を出せるまではⅦ組・特務科で頑張りたいという理由だった。次はクルトが参加を表明した。積極的な理由は無いが受け継いだ剣を錆び付かせない為にもハードな内容は望む所だと言う。そして八葉一刀流の剣にも触れてみたいう理由もあるらしい。思った程じゃなかったらしいがそれでも二人は参加を表明し正式にⅦ組・特務科の一因になった。

 

 そしてアルティナも命令されたからではなくリィンをサポートしたいという意志と以前以前アルティナの前に立ち塞がったトールズ士官学院Ⅶ組への興味が理由で参加を表明し、正式にⅦ組・特務科の一員となる。そして……

 

「カイス・イングヴァルト。Ⅶ組・特務科に参加します。

 理由は二つあります。

 一つはここでなら更に先へ行けそうに気がするからです。

 戦闘だけでなく勉学や心も。

 そしてⅦ組に所属した方が内容の厳しさは上だろうと思ったので、

 修行になるかと思ったのが一つです。

 二つ目はリィン教官が何だか一人で何でも背負っていそうだからです。

 灰色の騎士はいくらか話に聞いて凄い人がいるなって思ってたぐらいだったのですが、

 今回導いてくれたリィン教官の表情を見てると、

 俺達はこんなに精一杯頑張ってる辛そうな顔の人に苦しい事を押し付けて、

 英雄という重荷まで背負わせていたんだと思うと無力感を感じました。

 俺自身にも腹が立ちました。

 困っている人や大切な人達の為を守る為に継いで鍛えた力が聞いて呆れると、

 そう思うぐらいに。だから…

 リィン教官、俺は英雄としての貴方ではなく、

 リィン・シュバルツァー教官に何か手助けしたいんです。

 だからその何かを探しながら出来る事から手助けする為にも…

 Ⅶ組・特務科に参加させてください!!」

 

「…ぁ」

 

ユウナはその言葉に少し反応するがすぐにその感情と言葉を抑え込む。リィンは不意を打たれたような嬉しそうな表情でカイスを歓迎した。

 

「そうか……それがカイスの理由…その気持ちだけで俺は報われた気がするよ。無理せずにでいいからな。Ⅶ組へようこそ、カイス」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

そうしてⅦ組・特務科に全員が参加した。

 

「それでは…この場をもってⅦ組・特務科の発足を宣言する。

 お互い新米同士、教官と生徒というだけではなく

 …仲間として共に汗をかき、切磋琢磨していこう!」

 

 始まったばかりなのに雛鳥の中に親鳥よりも逞しい雛もいるが、カイスもまだまだ成長途中である。もう既に動き始めているゼムリア大陸を暗躍する結社身喰らう蛇に多数の猟兵団。そして鉄血宰相(てっけつさいしょう)ギリアス・オズボーンやルーファス・アルバレア率いる鉄血の子供たちも動いている。もう既に賽は投げられているのだ。これから始まるのは覇王と称されし武と血、記憶に経験まで継いだ少年と教官や仲間達の軌跡だ。果たしてどんな結末に辿り着くのか。これは戦い続けた教官達と生徒達が沢山の人々と共に終焉へと諍う物語。その序章である。




気付いたら序章を一話にする為に1万8000字以上使ってて驚きました。長ったらしいですね。こんな感じでキリを良くするために長く書いたり逆に短く書いたりする事もあります。そんな小説でもよろしければどうぞこれからも読んでやってください。原作コピーで警告来そうですが、来たら来たで大人しく加筆して修正します。原作に迷惑がかかるようなら消します。そんな自己満足で書いていくので何かありましたらお伝えしていただければ全力でその問題の解決や謝罪をさせていただきます。それでは!

2019年1月31日木曜日 加筆修正しました。
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