――十二年前、静岡県綾香市内浦の旅館「四つ角」の縁側で、小学校高学年ほどの少年が絵本を開き、小学校低学年ほどの少年に読み聞かせていた。
「むかーしむかし、伊豆半島に空から妖奇星が降りました。星からはグルジオ様という物の怪が生まれました。グルジオ様は、戦で争っていた人々を皆呑み込んでしまいました。人々はグルジオ様を畏れ敬い、妖奇星が降った山を妖奇山と呼ぶようになりました」
「それがおれたちのすんでる、この町の名前のゆらいなんだよね、克兄ぃ」
「ああそうだ、功海」
功海と呼ばれた年少の少年の方は、克兄ぃという年長の少年の方に尋ねかける。
「グルジオ様ってほんとにいるのかな? いるのなら、おれがショーライみつけてやるぜ!」
「ハハッ、こんなおとぎ話を信じるなんて、功海はまだまだ子どもだな」
「なんだと~!? おれ、子どもじゃねーし! もう小学生になったんだし!」
からかう兄に対してムキになる功海。と、その時、
「「ん?」」
二人がふと顔を上げ、家の庭の端を見やった。
その視線の先、家の門の側に、幼稚園児くらいの小さな女の子がいて、こちらを見つめている。
女の子を視界に入れた二人の少年は、彼女に向かって呼びかけた。
「千歌ー! そんなとこで何やってるんだよー!」
「こっちこいよ千歌ー! にいちゃんたちが、えほんよんでやるぜー!」
呼ばれた女の子は二人の少年をじっと見つめて、口を開いた。
「……おにいちゃん……」
ひと言つぶやいて、女の子は少年たちの方へと駆け出した。
「おにいちゃん!!」
――十二年後、早朝の「四つ角」に、内浦の女子高校「浦の星女学院」の制服を纏った女子高校生が駆け込み、裏口の玄関で元気よく挨拶した。
「おはよーございまーす!」
するとその声に呼ばれて、中からエプロン姿の好青年が出てきた。
「おはよう、曜ちゃん」
「おはよーございます、克兄ぃ。千歌ちゃんもう起きてる?」
浦の星女学院に通う生徒、渡辺曜はこの「四つ角」を経営する高海一家の長男、高海克海にそう尋ねかけた。
「ああ。昨日の晩からやたらと張り切っててうるさいくらいだったよ、例のアレで」
「アレって……千歌ちゃん本気なんだ」
例のアレ、というもので、克海が苦笑いを浮かべた。
「俺も功海も、こんな田舎じゃ無理だって言ったんだけどなぁ……。ああそうだ、悪いけど功海の奴を起こしてやってくれないか? 俺はモーニングコーヒーの用意があるから」
「功兄ぃを? ああ、功兄ぃ寝起き悪いから……」
「あいつ、大学春休みだからって毎日毎日昼まで寝ててな……。ほんとだらしなくて困る」
疲れたようにため息を吐く克海に曜は苦笑しながらも、少し頬を赤らめながらピッと敬礼した。
「ヨーソロー! その任、謹んでお受け致します!」
「よろしく頼んだよ」
克海に通されて「四つ角」に上がった曜は、二階の高海家の私生活スペースに向かい、「功海の部屋」と表記のある部屋の襖を思い切り開けた。
「おはよー功兄ぃ! さっさと起きろー!」
「ふがッ!?」
部屋の中に入ると、ベッドの掛け布団を引っぺがして、寝ている青年をベッドから引っ張り出した。畳の上に落とされた青年は、頭をさすりながら起き上がる。
「いっつつつ……曜か。いきなり何すんだよ……」
「功兄ぃがねぼすけなのが悪いんだよ! また夜更かししたんでしょー?」
大きくあくびする青年、高海一家の次男、高海功海にピッと指を立てる曜。功海は眠そうに頭をかきながら言い訳した。
「夜更かしじゃねーよ。ちょっとバイブス波の反射率を解析してただけ……」
「そーいうのを夜更かしっていうの。ほらさっさと顔洗ってきて。克兄ぃが下で待ってるよ!」
「おい押すなって。全くかわいくない奴だな」
「ちょっと~、幼馴染に向かってその言い草は何? もうお世話焼いてあげないよ! 功兄ぃったら昔から……」
憎まれ口を叩く功海にむぅと頬を膨らませた曜だが、彼を部屋から追い出したところでポンと手を叩いた。
「そうそう千歌ちゃん! 千歌ちゃーん、起きてるー?」
思い出した曜は別の部屋――「千歌の部屋」へ向かい、襖を開けた。
その部屋の中央に立っていた、彼女と同じ浦の星の制服を着た女子高生が、クルリと回りながら曜に向き直った。
「あっ、おはよう曜ちゃん!」
「うん、おはよう千歌ちゃん!」
高海一家の末の妹、高海千歌が、快活に曜に挨拶した。
それから、功海は台所と一体となっている居間で、朝食を取りながらパソコンを広げて綾香市の地層を調べ出した。
「功海、そんなへんてこなもんはお客さんの前には出すなよ。お客さんの迷惑だから」
「はいはい、分かってますよ克兄ぃ」
克海は功海の手元にある、クリスマスツリーのようなアンテナを見咎めながら注意した。
その時に二階からドスンと大きな音がする。
「何の音?」
「また千歌だな。おーい千歌! 静かにしないと、お客さんの迷惑だぞー!」
「ごめんなさーい!」
克海が呼びかけて注意すると、二階から千歌が謝った。
「全くウチの兄妹たちは……。もうちょっと旅館のこと考えてもらいたいよ。ただでさえ小原のホテルに客が流れてるってのに……」
ぶつくさ文句を言う克海に功海が苦笑を浮かべる。
「そうカッカするなって克兄ぃ。接客業は笑顔が基本だろ? なぁしいたけ~」
「わんっ!」
言いながら、功海は高海一家の飼い犬のしいたけの頭をなでくり回した。
克海はため息を吐き出しながらぼやく。
「にしても千歌の奴、本気で始めるつもりなのか……。今までスクールアイドルなんて、ちっとも興味なかったってのに」
功海がパソコンの画面を凝視しながら克海に相槌を打った。
「この前秋葉原行ってからすっかりハマッたみたいだなー、μ'sに」
「全く、伝説のスクールアイドルだか何だか知らないが、四年も前に解散したグループに何を夢中になってることやら……」
「まぁ何でもいいけどさ、千歌たちの奴、時間大丈夫なのか? もうバス来るぜ」
八時十五分前の時計をあごでしゃくる功海。その言葉の直後に、千歌と曜が慌ただしく二階から駆け下りてきた。
「遅刻~!! 遅刻しちゃうよ千歌ちゃん! 早くぅっ!」
「ああちょっと曜ちゃん押さないでよ!」
「こら! こっちの玄関使うなって言ってるだろ!」
「「ごめんなさ~い!!」」
克海のお叱りの声を受けながら、千歌と曜は旅館としての玄関から飛び出してバス停に到着しつつある浦の星女学院行きのバスへと走っていった。
「「行ってきまーすっ!!」」
嵐のように去っていく千歌と曜に、克海は大きく肩をすくめて再三ため息を吐いた。
「何て落ち着きのない……。あんなんでスクールアイドルなんて出来るのか?」
「ま、なるようになるんじゃね?」
無関心そうな功海に振り向いた克海は、ふと話題を切り替えた。
「そうだ功海。今日から隣の空き家、東京から引っ越してきたってご家族さんが入るから」
「あー、そうなんだ」
「お前もちゃんとご挨拶しろよ。お前はそういうこといつもいい加減に済ますからな」
「へーい」
注意されても生返事の功海に肩をすくめる克海は、そのことについて話を続ける。
「それでそこの娘さんが、浦女に通うことになるんだって。もしかしたら千歌と同じクラスかもな」
「歳が同じならそーなるんじゃね? 確か浦女、すっかり生徒数が減少して一学年一クラスしかないんだろ?」
「まぁな。ダイヤちゃんが頭悩ませてるみたいだ。……浦女は大丈夫なのか? 俺たちの母校も、お前の代で廃校になったしなぁ……」
一抹の寂しさと不安を覚えた克海だが、気分を切り替えるように首を振った。
「いかんいかん、仕事に集中だ。さッ、モーニングの準備準備。功海もたまには手伝えよ」
「へいへい」
克海たちは雑談を終え、「四つ角」の運営のために朝の業務を始めていった。
その日の晩、帰宅した千歌が居間でしいたけに後ろから抱き着きながら、深いため息を吐いた。
「はぁ~……どうしよっかなぁ」
「どうしたんだよ千歌。スクールアイドル部作ったんだろ?」
「もしかして、いきなり問題にぶつかったのか?」
克海と功海が何事かと問いかけると、千歌はバッと起き上がって二人に飛びついてきた。
「克海お兄ちゃん! 功海お兄ちゃん! 聞いてよ~!!」
「うわッ!? ど、どうしたんだ一体……」
戸惑う二人に千歌が、学校で起こったことを早口に説明した。
「何? 部の設立を許可してくれない? 生徒会長が?」
千歌の説明を功海が端的に纏めた。
本日、新一年生の入学式であった浦の星女学院で、千歌はスクールアイドル部の勧誘を行っていたそうだが、実はまだ部の申請もしていなかったので、生徒会長の黒澤ダイヤに咎められたという。その上、部員をそろえたとしてもスクールアイドル部の承認はしないと断言されてしまったのだそうだ。それで困っているという訳である。
「でもそれっておかしくね? よっぽどおかしな部とかじゃなけりゃ、ちゃんと手続き踏めば承認はされるもんだろ。それを生徒会長とはいえ絶対ダメなんて。職権濫用じゃん」
「そう言われても、何でなのかは私にも分かんないし……」
「克兄ぃからも、そのダイヤって子に何か言ってやんなよ。確か知り合いだったろ?」
「そうなの、克海お兄ちゃん!?」
功海に話を振られ、千歌からも期待の眼差しを向けられるが、克海は妙な様子で目を泳がせた。
「いや……それはちょっと難しいな。ダイヤちゃんとも最近会ってないし……」
「そんな~……」
「まッ結局のところ、千歌はそのちゃんとした手続きも出来ねぇ段階なんだから、こんな話ししててもしょうがねぇんだけどな」
「うっ……それを言わないでよ~」
言葉を詰まらせて落胆した千歌に、功海は冗談交じりに聞く。
「それで、あきらめんのかよ千歌? お前のやる気はその程度のもんだったのか?」
すると千歌は奮起されて勢いよく立ち上がった。
「ううんっ! 私はあきらめない! あきらめちゃダメなんだから! あの人たちも歌ってたし!」
千歌の決意を聞いた功海は苦笑いを浮かべた。
「その意気だぜ千歌! 何事もまずは気持ちからだ! 兄ちゃん応援してるからな」
「俺も、一応ダイヤちゃんに話をしとくよ。妹のためだもんな」
功海と克海の言葉を受けた千歌は、感激して二人に抱き着いた。
「ありがとぉ~! お兄ちゃん、だーい好き!!」
「お、おいおいよせって。全く、いつもながら大袈裟な奴だな~」
苦笑しながら千歌を引き離す功海。すっかり元気を取り戻した千歌はビッと天井を指差す。
「よーし! がんばるぞぉ千歌ー! 目指せ! 脱・普通怪獣っ!」
千歌の決心の言葉に、克海はやれやれと肩をすくめた。
「何だよ、普通怪獣って。怪獣なんている訳ないだろ」
千歌がスクールアイドル部の設立を目指し出した週の金曜日の晩。綾香のあるマンションの一室。
「感じます……聖霊結界の損害により、魔力構造が変化していくのが」
津島善子という名前の女子高生が暗い部屋の中、カメラを前にしてネットの生中継を行っていた。
「世界の趨勢が、天界議決により、決していくのが……」
ゴスロリの黒い天使のような衣装で、変に格好つけた台詞を読み上げる善子だったが、不意に部屋がズシン、ズシンと大きな連続する揺れに見舞われたので、何事かと顔を上げた。
「ちょっと何この揺れ。変な地震……」
思わず素に戻り、黒地のカーテンを開けて外を確認する。
その目が、綾香の街の狭間に立つ巨大な怪物の爛々と光る眼と合った。
「ギュオオォォ――――ン!」
「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――っ!!?」
咆哮を発する怪物に、善子は大絶叫を上げた。
土曜の早朝。
「へぇ……その転校生の子が、作曲できるのか」
「うん! これはもう運命だよっ!」
千歌がスクールアイドル部設立を目指しての進捗状況を克海に話していた。
ダイヤに部の設立承認を再び頼み込んだ千歌は、彼女から全スクールアイドルが目指す大会、ラブライブの出場のためにオリジナルの曲が必要となることから、作曲が出来る人材が必要だと説かれた。それで難儀していたところに、かのμ'sを生んだ音ノ木坂学院からの転校生が浦の星に来たのだという。それでその子をスクールアイドルに勧誘し出したそうだが、袖にされてばかりなのだそうだ。
「でもあきらめないっ! 私、絶対梨子ちゃんをスクールアイドル部に入れてみせるんだから!」
「まぁ、嫌がられない程度に頑張れよ」
熱意に燃える千歌を克海は適当に応援した。その時に、
『24分テレビ、『愛染は地球を救う』! 社長の愛染正義さんにお話しを聞いてみましょう』
「あっ、愛染さんだ!」
テレビ番組に綾香市に拠点を置く大企業アイゼンテック社の社長、愛染正義(まさよし)が出てきたので、千歌はテレビ画面に食いついた。
『愛と正義の伝道師、愛染正義です! 今日も我がアイゼンテック開発の新技術をご紹介しましょう!』
筋肉の電気信号を解析、増幅する製品の紹介をする愛染の立ち振る舞いを観て、千歌は感心の吐息を漏らす。
「いつ見ても、愛染さんはすごいなー」
「そうか?」
「そうだよぉ! 克海お兄ちゃんだって知ってるでしょ? 綾香市はアイゼンテックのお陰で発展したんだって!」
千歌は瞳を輝かせて愛染とアイゼンテックの解説をする。
「それにアイゼンテックはラブライブに出資もしてるし、アイドル専門校の運営だってやってる、スクールアイドルの味方なんだよ! お母さんアイゼンテックに勤めてるんだし、愛染さん紹介してくれないかな~」
「ならいっそのこと、その専門校とやらに転校してみたらどうだ? 部活の立ち上げもままならない現状よりいくらかマシだろ」
「それは違うよ克海お兄ちゃん! 私はこの内浦の、浦女でスクールアイドルやりたいの」
千歌が反論している内に、愛染が番組の目玉である「本日の言葉」を発表する。
『本日の言葉は、『石橋にノンストップで行ってみましょ』です! 新しいことにチャレンジするのに怖気づいてはいけな~い! 思い切りが大事ですッ!』
「思い切りかぁ~……私も頑張らなくっちゃ!」
愛染の言葉で千歌が一層張り切っていると、この場に功海が飛び込んできた。
「克兄ぃー! これ見てよッ!」
「どうした、騒がしいな」
「功海お兄ちゃん、どうしたの?」
功海が差し出してきたタブレットの画面を覗き込む克海と千歌。
画面は動画投稿サイトのページで、「綾香山で巨大生物を見た?」というタイトルの動画が流れていた。暗闇の中で、巨大な怪物のようなものが蠢いていた。
「これ、どう思うよ?」
「すっごい! 本物の怪獣!? しかも綾香山で!」
千歌は興奮するが、克海は冷めた態度で一瞥するだけだった。
「だから、怪獣なんているもんか。こういうのはフェイク、CGか何かに決まってるさ」
現実的な意見をする克海に対して、功海はノートパソコンを引き寄せて画面を見せつけた。
「じゃあ……このデータはどうだ!?」
パソコンの画面は、功海の専攻の宇宙考古学で使用するバイブス波解析のものであり、サーモグラフィーで表現されている綾香の地図上で赤い光点が山から街に移動した。
「バイブス波の発生源が、山中から街中に移動してる! 綾香山には、絶対何かいんだよ!」
功海が主張していると、千歌が何かを思い出して古い絵本を引っ張り出してきた。
「それって、もしかしてグルジオ様じゃないかな?」
「グルジオ様ぁ?」
「お兄ちゃんたちが昔読んでくれた、これ! 綾香山には、グルジオ様がいるんだよ!」
絵本の表紙には赤い怪物が描かれている。が、千歌が力説しても克海は呆れていた。
「そんなのはお伽話だって」
「お伽話じゃねーって! 綾香市っていう街の名前になってるくらい歴史的な事実じゃん!」
功海は千歌の説を支持する。
「妖奇星は今じゃ隕石ってことになってるけど、俺にはただの隕石とは思えねぇ。地磁気の異常はそれだけじゃ説明がつかないからな……」
「功海お兄ちゃんの言ってることはよく分かんないけど、千歌もそう思うよ!」
「だろ!? よし、じゃあ俺たちで調査しようぜ! これは大発見だぞ~!」
「おぉー! 曜ちゃんも誘おーっと!」
功海と千歌はすっかり乗り気になって「四つ角」を飛び出していく。
「お、おいおい……! あいつら本気かよ……」
克海はすっかりと呆れ返りながらも、二人を放っておけずに追いかけることにした。
綾香山のふもとにある、アイゼンテック社の作った自然公園に高海兄妹と、千歌に誘われた曜が到着した。
「よーし、早速やるぜ! 曜、ついてこい!」
「ヨーソロー! グルジオ様探しなんて面白そ~!」
既に興奮気味の功海は曜を連れて、バイブス波感知機を手に公園内を駆け出していった。その背中を見つめながら、千歌が克海に呼びかける。
「ねぇ克海お兄ちゃん、小さい頃はよくここにピクニックしに来たよね」
「ああ、そうだな」
相槌を打った克海が当時のことを思い返す。
「懐かしいな……。最初にみんなで来たのは、千歌が六歳の頃だったっけか。曜ちゃんと果南ちゃんも一緒で……」
「え? もっと昔から来てなかった?」
「ん? そうだったか? まぁあんまり前のことは記憶が曖昧だしな……」
克海が腕を組んでよく思い出そうとしたが、そこに功海が戻ってきた。
「おーい克兄ぃ! このデータ見てくれ!」
功海が興奮気味にバイブス波感知機の画面を見せつけてきた。
「プラズマイオンとバイブス波の値を見ろよ! すげーだろ!」
「ああ……お前の言ってることはさっぱり分からん。……おいどこ行くんだよ!?」
話についていけていない克海を置いて、功海がどこかへ走っていく。
「こっちの方が線量高けーんだよ! ほら克兄ぃこっちだって!」
「全く、ほんと騒がしい奴だな……」
呆れながらも功海についていく克海の後ろで、曜が千歌につぶやきかけた。
「相変わらず、功兄ぃの言うことは難しいね」
「うん。だけど功海お兄ちゃん、楽しそう。ああいう顔の功海お兄ちゃん、私大好きだよ!」
とのたまう千歌に、曜は苦笑を浮かべる。
「千歌ちゃんも相変わらず克兄ぃたち大好きなんだねー。何かにつけて大好きって言うし。何でそんなにお兄ちゃん好きなの?」
曜は軽い問いかけのつもりだったが、千歌は妙に真剣に首をひねった。
「さぁ、何でなんだろ? 自分でもよく分かんないや。昔からそうだったの……」
と話しながら兄たちを追いかけようとした千歌だったが、視界の端に知った顔が見えたので、そちらに気を取られた。
「あっ……梨子ちゃん!」
「えっ……!? 何でここにいるの……?」
音ノ木坂からの転校生、桜内梨子は千歌の顔を見止め、思わず身震いした。千歌はそちらの方に駆け寄っていく。
「ちょっとお兄ちゃんたちとピクニックに来ててね! 梨子ちゃんも?」
「私は、不思議な伝説のある綾香山の音からインスピレーションを得られないかって思って……」
「そうだったんだぁ。奇遇だね! あっ、秋月先生も来てたんですか……」
浦の星の知り合いと話し込む千歌と功海たちの方を少し困ったように見比べた曜だが、軽く苦笑いしてから千歌の方へと歩み寄っていった。
バイブス波の値を確かめながら公園を散策する功海は、熱中するあまりに立ち入り禁止の区域に入っていこうとした。
「こっちが一番反応が強い!」
「おい! こっちは駄目だって書いてあるだろ! アイゼンテックの研究所だ」
慌てて止める克海だが、功海に反省の色はなかった。
「でもほら、この数値見てよ!」
画面上の地図では、研究所のある地点が赤く染まっていた。
「普通の数値じゃねぇ! 絶対あそこに何かいる……」
功海が言いかけた、その時――。
研究所がいきなり崩壊し、その下から真っ赤な巨大生物が出現した!
「「うわぁッ!?」」
「ギュオオォォ――――ン!」
怪物は赤く染め上げられた、恐竜の骨格のような容貌であった。そして克海には、その姿に見覚えがあった。
「グルジオ様……?」
怪物は、絵本に描かれていたグルジオ様によく似た姿をしているのであった――。