ウルトラブライルーブ!サンシャイン!!   作:焼き鮭

11 / 70
届かないイカロスだとしても(A)

 

\前回のウルトラブライルーブ!サンシャイン!!/

 

ルビィ「お世話になった監督さんの引退試合に臨む克海さん。だけどそんな時に怪獣が現れて、克海さんは監督さんから送り出されて出動した! 怪獣はやっつけられたけど、試合は結局負けちゃった……。だけど、監督さんに後悔はないみたいだった」

 

 

 

 綾香のとあるマンションの一室。昼間なのにカーテンを閉め切り、照明を落とした暗い部屋の中で、一人の少女が蝋燭の灯りに照らされながらカメラのレンズに向かっていた。その服装は、ゴスロリ調なのはまだいいとして、頭と背にそれぞれ黒い輪っかと羽をつけたかなり奇抜なものであった。

 彼女の名は津島善子。一応、浦の星女学院の一年生なのだが……最初の自己紹介で盛大に失敗して以来、一度も登校していない。

 

「――かの約束の地に降臨した、堕天使ヨハネの魔眼が、その全てを見通すのです!」

 

 そんな不登校児善子は、扇風機で羽をはためかせながら、動画投稿サイトの生放送の中継を行っていた。ブイサインを右の目元にやり、左腕で右ひじを支えるポーズを決めながら、小難しいようでいて何の中身もない言葉を並べる。

 

「全てのリトルデーモンに授ける! 堕天の力を!!」

 

 善子が最後にカッ、とまぶたを開くと、蝋燭の火が風で消え、生放送の中継も同時に終了した。

 

「ふっ……」

 

 善子は一人嗤うと――カーテンと窓をシャッと開いて、叫んだ。

 

「やってしまったぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 先ほどまでの澄まし顔とは打って変わって、大声を発しながら自らにツッコミを入れていく善子。

 

「何よ堕天使って! ヨハネって何!? リトルデーモン? サタン!? いる訳ないでしょそんなもーんっ!! 最近怪しいけどっ!」

 

 部屋に引っ込んで鏡の前に立った善子は、自らに言い聞かせる。

 

「もう高校生でしょ、津島善子! いい加減卒業するの……! そう、この世界はもっとリアル……! リアルこそが正義! リア充に、私はなるっ!!」

 

 と、善子は誰にともなく宣言した。

 

 

 

『届かないイカロスだとしても』

 

 

 

「おーよしよしよし! おーよしよしよしよし! いい子だぞしいたけ~」

 

 『四つ角』の居間で、功海がしいたけの首をわしゃわしゃかいてじゃれながら、克海の方を振り向いた。

 

「ところで克兄ぃ、千歌たちの活動は今どんな感じなの?」

「あんまり芳しくないみたいだな……」

 

 ノートパソコンでラブライブのサイトにアクセスし、Aqoursのランキングを確かめた克海が顔をしかめた。

 

「現在が4768位……まだまだ底辺だ。順位は落ちてこそいないが、上昇具合がゆっくり過ぎる。こんな調子じゃ、地区予選すら通過できないだろうな」

「目安は100位以内だっけ? 全然届いてねーのな」

「ライブの評判はいいみたいなんだけどな……」

 

 難しい表情で腕を組む克海。自分のことのように悩む克海に、功海がこう指摘した。

 

「一番のネックはさ、抜きん出た個性がないってことだと思うぜ。他のスクールアイドルと見比べたら分かると思うけど、何かどれもこれもありきたりなんだよな。だから埋もれちまってるんだよ」

「なるほどな……」

「スクールアイドルは今や5000組もいるとはいえ、ほとんどが今の千歌たちみたいに伸び悩んでるとこばっかで、注目されてるのはひと握りだけさ。何か客に強くアピールできるものがありゃ、きっと一気に大化けするはずさ」

「流石、理系なだけあってそういう分析は上手いな……」

 

 克海が関心していると、上の階から下りてきた梨子が廊下を通りがかった。

 

「おッ、来てたんだ」

 

 功海に声を掛けられた梨子が振り返るが、しいたけと目が合った彼女は、凍りついた笑顔を浮かべて冷や汗をダラダラ垂らす。

 

「ん?」

「梨子ちゃん……?」

「わふっ!」

 

 梨子のただならぬ様子を兄弟が訝しんでいると、梨子のことを気に入ったのか、しいたけが遊んでもらおうと勢いよく彼女に飛び掛かっていった。すると、

 

「いやぁぁぁぁぁ――――――――!! 来ないでぇぇぇぇぇぇぇ――――――――――!!」

 

 奇声を上げてしいたけから逃げ回り出した。しいたけはそれに興奮してますます追いかけ、梨子が更にパニックになる悪循環。

 

「ちょッ!? 落ち着けって!」

「や、やめろしいたけ!」

 

 功海と克海の制止の声も聞かず、逃げる梨子は階段を駆け上がり、襖を蹴り倒し、同時に千歌も下敷きにして、障子を吹っ飛ばして窓から跳躍!

 

「とりゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――!!」

「えぇぇーッ!?」

「おお、飛んだ……」

 

 しいたけを抑えようと追ってきた克海たちはそれを目の当たりにしてあんぐり。千歌たちも呆然。

 梨子はそのまま空中で綺麗に一回転して、隣の自宅のベランダに着地した。

 

「おぉー……」

「……梨子ちゃん、犬が苦手だったのか……」

 

 思わず拍手する千歌たちと功海。克海はようやくしいたけを捕まえながら、ポツリとつぶやいた。

 と、ここで我に返った功海が、千歌たちの中に一人、見慣れない少女がいることに気がついた。

 

「ん、その子誰? 新しい部員か?」

「よく見たら、みんな何でそんな恰好を……」

 

 克海も、今の千歌たちの格好に疑問を抱いた。全員、ゴスロリを着用しているのだ。

 その中で一番着こなしている件の少女が――ビシッとポーズを決めながら名乗りを上げた。

 

「ふっ……私は天界からこの地上へとドロップアウトした、堕天使ヨハネ! あなたたちも私のリトルデーモンに、なってみない?」

 

 と、ヨハネと自称した少女に流し目を送られた克海と功海は――目が点。

 

「……はっ!?」

「新しいメンバー候補の津島善子ちゃんだよ」

 

 自称ヨハネが我に返っていると、曜が本人に代わって克海たちに紹介した。

 

「へ、へぇ……また随分と個性的、というか個性が際立った子を見つけてきたんだな……」

「テコ入れって奴か? キャラ作りすごい上手いな!」

 

 克海は引き気味だが、功海は面白がっている。が、当の善子は自分がしたことが恥ずかしくなったのか赤面した。

 

「ち、違……今のは違うんです! 私は堕天使とかそんなんじゃなくて……普通の女子高生なんですぅぅぅぅぅ――――――――――!!」

 

 そして羞恥心のあまり、千歌の部屋からバッと飛び出して逃げていってしまった。それを呆然と見送る功海たち。

 

「……今日はよく人が逃げる日だなー」

「何かよく分からないキャラ作りだな……」

 

 克海が呆けていると、花丸とルビィが訂正を入れる。

 

「あの……違うんです。善子ちゃんのアレは、キャラ作ってるとかじゃなくて、素なんです」

「へ?」

「善子ちゃん、中学時代はずっと自分のこと堕天使だと思い込んでたらしくて……まだその頃の癖が抜け切ってないって……」

「……自分のことを堕天使とか……親御さんも大変だろうな」

 

 克海はすっかり呆れ返っているが――功海の方は、ますます興奮した。

 

「何だそれ、すっげー面白い子じゃん! まさにスクールアイドル向き!」

「功海お兄ちゃんもそう思う? 私もビビッと来たんだよ! 堕天使こそが、今のAqoursに必要なものだったんだって! これで一気にランクアップだよー!!」

「おぉッ! 意気込んでるな千歌! よぉしその調子で思いっ切りアピールしてこい!」

「もっちろん! 楽しみにしててねー!」

 

 二人でやいのやいのはしゃぐ功海と千歌だが、克海はすっかり呆れ顔であった。

 

「そんな上手く行くか……?」

 

 

 

 翌日、克海と功海は千歌たちが新しく撮ったAqoursのプロモーションビデオを確認していた。

 

『ハァイ。伊豆のビーチから登場した待望のニューカマー、ヨハネよ。みんなで一緒に、堕天しない?』

『しなぁい?』

 

 中央に立つ善子がポーズを取ると、他の五人が昨日の格好で同じポーズを取る。これを見て、現在のランキングを確認した功海が感嘆した。

 

「へぇ~、思ったよりも効果あったなぁ。克兄ぃ、俺の言った通りだったろ? 抜きん出た個性があるだけで、こんなにも変わるんだよ!」

 

 Aqoursの現在ランクは、1526位。昨日と比べると、一気に3000位以上も上昇したことになる。

 しかし克海は浮かない顔だ。

 

「けどな、さっきは900位くらいだったんだぞ。それがこの短時間で急落だ。やっぱり、ちょっと変わったことしたくらいじゃ人気出るのなんて一瞬の間だけなんじゃないのか?」

 

 と聞く克海だが、功海は平然としていた。

 

「いや、そりゃあそうだろ。そんな簡単に上位をキープできるんなら、誰も苦労なんかしちゃいないって。大事なのは継続と、地道な努力。克兄ぃも現役球児時代はよく言ってたじゃん」

「まぁな。けど、千歌たち……特にこの津島善子ちゃんは、この結果はショックだろうな」

 

 克海が映像の中の善子に目をやりながらつぶやいた。

 

 

 

 果たして、千歌たちは目立つ目的でこんなPVを撮ったことをダイヤから叱責されたこともあり、落胆していた。夕焼けの波止場で腰を落として、顔もうつむいている。

 

「確かにダイヤさんの言う通りだね……。こんなことでμ'sになりたいなんて、失礼だよね……」

 

 そしてこのことの責任を感じた善子は、スクールアイドルを辞退することを宣言した。

 

「少しの間だけど、堕天使につき合ってくれて、ありがとね。楽しかったよ……」

 

 そう言い残して千歌たちの元から離れ、海沿いの道をトボトボ歩いていく善子。

 その手の中の、イデンティティーの黒い羽根を放し、羽根が風に吹かれて飛ばされていくが――。

 

「よっと!」

 

 ジャンプした功海がキャッチして、見事に着地した。

 

「あなたは……! 千歌さんのお兄さんの……」

「へへッ、ナイスキャッチだったろ。克兄ぃにも負けてなかったぜ」

 

 自賛した功海は、羽根を持ったまま善子に近寄っていく。

 

「どうしてんのかなと思って様子見に来てみたら……そんな暗い顔してどーしたんだ? スクールアイドルは元気が基本だぜ」

「……いいえ。もう私は、スクールアイドルじゃありませんから」

 

 功海の指摘を、善子が意気消沈したまま否定した。

 

「堕天使も今日限りにするって決めたんです。明日から、今度こそ普通の女子高生になります……」

「おいおい、ランクが落ちたのをそんなに気にすることないだろ。あんなのは一過性で当然さ。続けていって、初めて結果が結ばれんだよ。特にヨハネは、あれが素なんだろ? それって十分才能だぜ。とびっきりのな」

「だから私はヨハネなんかじゃありません。才能なんてものもない……何も特別なんかじゃないんです……」

「……自分は特別な存在でいたかったのか? もっと詳しく聞かせてくれよ」

 

 功海が頼むと、二人は近くに腰を落ち着かせて、善子の身の上話を始めた。

 

「私、昔から自分が普通なのが嫌でした。だからいつも思ってました。これは本当の私じゃない。本当の私は天使で、地上に落ちて人間の世界に紛れ込んだ堕天使。いつか空を飛んで、天の世界に還る時が来るんだって……」

 

 それが、善子の堕天使趣味のルーツであるようだ。

 

「だけど、もうとっくに気づいてます。天使なんかいる訳ない、自分は堕天使なんかじゃない、普通の人間……。空を飛ぶことなんか出来やしないってこと……。いとも簡単に飛ぶウルトラマンとは違うんですよ……」

 

 語りながら、ますます表情が暗くなっていく善子。功海は腕を組んでただ黙っている。

 

「イカロスの話、知ってるでしょう? あれと同じで、特別なんかじゃない人間の私が天使を夢見て飛び立とうとしたって、空には届かないで落ちるだけです。そうなるくらいなら、きっぱりとあきらめますよ、天使になるだなんてこと……」

「……」

 

 善子の話を聞いた功海は――すっくと立ち上がると、善子の腕を引いた。

 

「ヨハネ! ちょっと一緒に来てくれ!」

「えっ!? だからヨハネじゃ……!」

 

 困惑する善子だが、功海は構うことなく、半ば強制的に彼女を連れ立っていった。

 

 

 

 そうしてたどり着いた先は、山の中の一画の、地面に亀裂が走る場所。

 

「見てくれよ、ここ。こないだのウルトラマンと怪獣の戦いで亀裂が出来たんだけど、この辺り、地面の下から風が吹いてるんだぜ」

 

 と功海が言うので、善子が亀裂に手をかざすと、確かに手の平が下から空気の流れに押される感触がした。

 

「ほんとだ……」

「原因は不明だ。不思議だろ? ここ、元々は何の変哲もない場所だったんだぜ」

 

 亀裂の周りを歩きながら、得意げに語る功海。

 

「これと同じように、最初は何も特別じゃなくても、後から特別になれることなんかいくらでもある! 俺もな、大学で宇宙考古学を専攻してるんだ」

「宇宙考古学? それって宇宙の学問ですか? 考古学なんですか? 変なの……」

「ははッ、よく言われるぜ。最近出来たばっかの学問だから、認知度も低い。だけど、俺は宇宙考古学ですっげぇ発見してやるって決めてるんだ!」

 

 堂々と夢を口にする功海。その姿が、今の善子にはまぶしく見えた。

 

「人間はさ、誰だって生まれた時は特別なんかじゃない。それからの生き方で、特別に変わってくんだ! と、俺は思ってる。ヨハネも、堕天使であることをあきらめなきゃ、空を飛べる日が来るぜ!」

「……本当に、私でも空を飛べるのかな……?」

「まッ、とりあえずは、スクールアイドルやってみたらどうだ? 自分を押し殺して生きるよりかは、ずっと天の世界に還る可能性があるはずさ」

「……考えてみます……」

 

 功海の説得に、善子は回答を一旦保留にすると、下から風が吹く亀裂に視線を戻した。

 

「地面から吹く風……。これみたいな風が、私を空に導いてくれるかな……?」

 

 善子の後ろ姿を少し離れたところから見守る功海だが――ふと懐に違和感を覚えて、クリスタルホルダーを取り出した。

 開いてみると――火と水のクリスタルが、何もしていないのに淡く輝いていた。

 

「クリスタルが……!」

 

 功海はハッと、善子が側に立っている亀裂に目をやった。

 

 

 

 その翌日、『四つ角』で功海は千歌に、善子とのやり取りのことを話した。

 

「善子ちゃん、スクールアイドル続けてくれるんだ! よかったぁ~!」

「いや、まだそうと決めた訳じゃないみたいだけどな」

「それでもいいよ! 辞めるのを思いとどまらせてくれただけで!」

 

 千歌は功海が説得をしてくれたことに感激していた。

 

「責任感じてたんだよね。私の軽はずみな思いつきで、善子ちゃんを苦しめちゃったって。だから私からも善子ちゃんとお話しするね! 功海お兄ちゃん、大好き!」

「全く大袈裟だよな、千歌は。それよか、何やってんだ?」

 

 千歌は居間に、家中の雑貨などを集めて吟味していた。

 

「えへへ。今度のフリマで何か売れるものないかなーって。昨日のPVの衣装が思ったより高くてさ、活動費がちょっと苦しいんだよね。その足しにしようと思って」

「千歌、勝手に売りに出すんじゃないぞ。母さんたちの私物まで混じってるじゃないか。勝手に売ったりなんかしたら怒られるぞ?」

 

 克海が、千歌がテーブルの上に広げた物品に目を落として顔をしかめていると、

 

「ほほーうフリーマーケット。いいねぇ~。貴重な掘り出し物はそういうところから出てくるものだ」

「! その声は……!」

 

 三人が振り向くと、いつの間にか廊下に白いスーツの男が立っていた。

 

「失礼、勝手に上がらせてもらいました。愛染正義です」

「愛染さん!」

 

 振り返った愛染は克海たちに親しげに呼び掛けていく。

 

「いやぁ~この前の草野球、楽しかったよぉ克海君!」

「ありがとうございます! 今お茶菓子出しますね!」

「いやいやお構いなく。あッ、千歌君、新しいPV見たよぉ! またいい子見つけたじゃな~い! その調子で頑張ってね!」

「は、はい! 頑張りますっ!」

「いやぁしかしここは変わらないねぇ~! 君たちのお父さんがここを守っている証拠だ! 実に立派なことだよぉ君たち……」

 

 歯が浮くような台詞をまくし立てていた愛染だが、千歌が家の中から集めた物品の中から、マトリョーシカ人形に目を留めると途端にテンションを更に上げた。

 

「おおーッ!! これを譲ってくれ! ひと足お先にッ!」

「すみません。それは両親の新婚旅行の記念品なので、売り物には……」

 

 克海が断ろうとしたが、愛染は最後まで言わせずに、小切手にサラサラと金額をしたためて差し出した。

 

「これでいかがかな?」

 

 金額をひと目見た克海たち三人が、目を飛び出させた。克海が慌てふためく。

 

「こんなにもらえませんよッ!」

「克兄ぃ真面目すぎるって! 売っちゃおうよ!」

「そうだよこれがあれば十年、ううん百年はスクールアイドルできるよ!」

「何年高校生やってるつもりだよ! いやそれより、あれは父さんと母さんの思い出の品で……!」

「お父さんたちには私から言っておくからぁ!」

 

 あまりのことに兄妹が混乱している間に、愛染はカウンターに近づいて、克海が用意したお茶請けのクッキーの皿の中に、クッキーに偽装した物を紛れ込ませた。

 

 

 

 愛染が帰り、千歌に片づけをさせた後に、功海は克海に昨日のことを報告し出した。

 

「山の地下に、クリスタルが埋まってる……?」

 

 功海の言葉を繰り返す克海。功海は、自分たちのクリスタルが地面の亀裂の前で反応を示したことから、亀裂の下にはクリスタルが存在するという仮説を立てたのだ。

 クリスタルホルダーを開きながらうなずく功海。

 

「こいつと同じバイブス波を検知した。風もその影響だと思う。属性があるとするなら」

「風か。でも誰が埋めたんだ?」

 

 克海と功海が話し合っている後ろで、皿の中のクッキーが一枚、ほんのかすかに蚊の羽音のような駆動音を立てていた。

 

 

 

 アルトアルベロタワーに戻った愛染は、屋上のヘリポートでお茶をしながら、イヤホンからの声に耳を傾けていた。

 

『化石と一緒で、上に土が降り積もったんじゃないかな? 前に愛染さんが言ってたじゃん、妖奇星の話』

 

 声は功海のものであった。愛染は『四つ角』に置いてきた、クッキーに偽装した盗聴器を使って兄弟の話を盗み聞きしているのだ。

 

 

 

「山巓から観測して深さを調べたら、そこの地層は1300年前の土で、時期が重なる」

「じゃあ……」

「克兄ぃ、功兄ぃ! いる?」

 

 まだ見ぬクリスタルについて話し込んでいた功海たちだったが、そこに果南が上がり込んできたので慌てて口をつぐんだ。

 

「? 何かやってたの?」

「い、いや別に?」

「それより果南ちゃん、何の用だ?」

 

 克海が素知らぬ顔で話をそらすと、果南は持参した魚の干物を差し出した。

 

「これ、父さんから。ご心配をお掛けしたお詫びだって」

「ってことは、おじさん治ったのか?」

「まだリハビリの途中だけどね。でももうじき仕事に復帰できるし、そしたらまた改めて贈り物するって」

「へぇ。じゃあ果南ももうすぐ復学するってことだな?」

「まぁね。あ、一枚もらってもいい?」

「ああ」

 

 断りを入れてから、果南がクッキーを一枚つまみ上げて口に運ぶ。

 

「いただきます」

 

 ガリッ!

 

「……いったぁ~……!? 何これ、作り物だよ?」

 

 噛み砕こうとして出来なかった果南は、涙目になりながらクッキーを口から出した。

 

「功兄ぃ、また悪戯? ひどいことするなぁ……」

「ええ? 俺は知らねーぞ」

「さっき千歌が色々散らかしてたから、その時に紛れたんじゃないか? 果南ちゃん、ごめんな」

「いや、まぁいいんだけど……」

 

 果南は手の中の、クッキーの偽物に目を向けて訝しげに首を傾げた。

 

 

 

「……つぅ~! 耳がキーンってした……」

[大丈夫ですか、社長?]

 

 果南が盗聴器を噛んだ音がダイレクトに伝わり、愛染は耳を抑えてうずくまっていた。ウッチェリーナが通り一遍の心配をする。

 愛染はイヤホンに意識を向けたが、もう誰の声も聞こえず、砂嵐のノイズが流れるばかりであった。

 

「壊れちゃったか……。でもまぁいいや。肝心な部分はちゃんと聞けたからねぇ……」

 

 気を取り直した愛染がニヤリとほくそ笑んで、風が吹く亀裂のある山へと首を向けた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。