ウルトラブライルーブ!サンシャイン!!   作:焼き鮭

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幕間「東京スクールアイドルワールド」

 

 ――千歌たちは現在、『東京スクールアイドルワールド』という、全国の注目度が高いスクールアイドルを集めてライブ形式でパフォーマンスをしてもらうイベントに参加するため、東京は秋葉原を訪れていた。

 秋葉原……そこはかの伝説のスクールアイドル、μ'sが在籍していた音ノ木坂学院と、そのライバルであったA-RISEのUTX学院がある、スクールアイドルの聖地。それ以外にも、日本中のサブカルチャーの最先端が集う土地でもある。そんな場所に来たAqoursの六人は、綾香市ではまずお目に掛かれないような店舗や品ぞろえにすっかり夢中になっていた。

 

「うん……うん。大きなビルの下。見えない?」

「あっ、いましたー!」

「すみませーん!」

 

 それぞれが勝手に自分らの好きな店に入り、てんでバラバラに行動しているので、千歌が何とか召集を掛けようとしている。ルビィと花丸は合流したが、曜と善子が不在だ。

 

「善子ちゃんと曜ちゃんは?」

「二人とも場所は分かるから、もう少ししたら行くって」

 

 その善子と曜はただ今、それぞれ黒魔術ショップと制服専門店に入り浸ったまま動こうとしていなかった。

 

「もう少しって?」

「さぁ……」

「もう、みんな勝手なんだから!」

 

 ぼやく千歌だが、一番にスクールアイドル専門ショップに突入したのは彼女であった。

 

「しょうがないわね……。克海さんから頼まれたのに……」

 

 とため息を吐く梨子も、傍らの女性向け同人誌店の看板を見つけると、ひどく興味をそそられた。

 

「はっ……!? 壁クイ……!?」

「梨子ちゃん?」

「な、何でもないっ!」

「何が?」

「いいえ! あ、私、ちょっとお手洗い行ってくるねー!」

 

 梨子は言い訳して駆け出すと――こっそりと同人誌店に入っていった。

 

「えー!?」

 

 すっかり纏まりをなくしたことに絶叫する千歌。……その一方で、ルビィがふと背後に振り向いた。

 

「ルビィちゃん、どうしたの?」

「ううん。その……誰かがこっち見てるような気がして……」

 

 ルビィが首を傾げながら答えると、花丸がふふっと笑い飛ばした。

 

「気のせいず……気のせいだよ。マルたち、そんなに目立ってないって。多分」

「そうかなぁ……」

 

 ルビィは首をひねり続けていたが、特におかしな様子は見られなかったので視線を正面に戻した。

 ――その隙を突いて、ひよこ色のドローンが物陰から物陰へと素早く移っていった。

 

 

 

 ドローンが撮影する映像は全て、アイゼンテックの愛染のところへと送信されている。

 

「……」

 

 愛染は秋葉原ですっかりはしゃいでいるAqoursの姿を観察して、チッ……と大きな舌打ちをした。

 

 

 

 その日の夕方、内浦の『四つ角』。

 

「千歌たちは今頃東京かぁ~……。何か、千歌たちがいねーと寂しく感じるな」

 

 功海が居間の机に頬杖を突きながら、克海相手にぼやいた。

 

「千歌がスクールアイドル始めてから、ずっと騒がしかったもんな。母さんはまた出張で、父さんは相変わらず影薄いし……すっかり静かだ。しいたけ、お前も寂しいだろ~」

「わふっ」

 

 しいたけの喉元をくすぐって戯れる功海。克海の方は、洗い物をしながらひたすらに黙っていた。

 

「……克兄ぃ、聞いてんのか? さっきから黙りっぱなしだけど、どうかしたの?」

 

 功海に呼び掛けられ、克海はようやく顔を上げた。

 

「あ、ああ、いや……千歌たちはイベント、大丈夫かなって思ってな。今までにない大舞台になるだろ。それで……」

「克兄ぃ、心配しすぎだって~。何も取って食われる訳じゃねぇだろ」

 

 功海が呆れていると、高海家の玄関のインターホンが鳴らされ、外から呼び声がする。

 

「ごめんくださいまし」

「お客さんか? こんな時間に」

「今の声……!」

 

 克海が出迎えに玄関に行き、一人の女の子を家に上げて戻ってきた。功海はその少女の顔に見覚えがあった。

 

「あれ? 克兄ぃ、その子って確か……」

「黒澤ダイヤちゃん。ルビィちゃんの姉で、浦女の生徒会長だ。お前も体育館のライブで見てるだろ?」

「あーやっぱり! あの時の」

「どうも。改めまして、黒澤ダイヤと申しますわ」

 

 一礼をしたのは、口元のほくろが目を引く少女、ダイヤ。功海がこうして面と向かったのは初めてであった。

 克海がダイヤに座布団を勧めつつ、尋ねかけた。

 

「今日はどうしてウチに? 千歌なら留守にしてるけど」

「存じてますわ。東京のイベントに出場すると、ルビィから聞いていますので」

 

 と返したダイヤが、続けて克海たちに告げる。

 

「実は、その件に関して少しお話しがありまして、本日はお伺いしました」

「話……?」

「俺たちにか? まさか生徒会長さん、まだスクールアイドル部に反対なんじゃないだろうな? 千歌言ってたからな、会長さんはスクールアイドル嫌いって」

 

 ややトゲのある言い方をする功海を克海がたしなめた。

 

「功海、失礼だぞ! それにダイヤちゃんがスクールアイドル嫌いなんてのは誤解だ」

「え? 何でそんなこと言えんの?」

「それは……」

 

 克海が言い淀んでダイヤにチラリと目を向けると、ダイヤは寂しげな微笑を返した。

 

「大丈夫です。功海さんにはわたくしから、一からお話し致しますわ」

 

 そう言い切ったダイヤが、功海の方へ身体を向け直した。

 

「もう二年も前のこととなります。当時一年生だったわたくしは――果南、鞠莉と三人でスクールアイドルをやっていました」

「へ!?」

 

 ダイヤの告白に、功海は仰天。

 

「ま、マジ!? そうだったの!?」

「二年前から、既に浦の星が統合になるかもということは噂でありました。わたくしはμ'sのように学校を救おうと思い立ち、果南と鞠莉を誘ってスクールアイドル部を立ち上げたんですの。克海さんのことは、その頃に果南に紹介してもらいました。わたくしたちのファン第一号になっていただいて、練習場所や衣装作製の仲介など色々とサポートをしてもらっていたのですわ」

「し、知らなかった……。克兄ぃ、何で教えてくれなかったんだよ?」

 

 功海が唇を尖らせると、克海は冷めた視線を返した。

 

「一応、その当時に話をしたぞ。けど千歌はまだスクールアイドルに興味なかったし、お前は宇宙考古学に夢中で、完全に聞き流してたな」

「あッ……あー、そういやそんなこともあったような……。けど仕方ねーじゃん? こんなことになるなんて思う訳ないって」

 

 当時のことを思い出しながら目を泳がした功海が言い訳した。それからダイヤが再び口を開く。

 

「わたくしたちのことを知らなくても無理はありませんわ。わたくしたちが活動していたのは、ほんの三か月程度の間だけ……東京で現実を思い知らされて帰ってきてからは、ぱったりとスクールアイドルと縁を切っていましたから……」

「えッ……東京って……」

 

 功海は何だか、嫌な予感を覚えた。

 

「ええ……わたくしたちは、今のルビィたちとほとんど同じ経緯をたどりました。そしてちょうど今の時期に、挫折してしまいました……。今日は、千歌さんたちが打ちのめされて帰ってきても、お二人には温かく迎え入れてもらって、彼女たちの心を支えてあげてほしいとお願いしに来たんですの」

 

 千歌たちが打ちのめされる、という言葉に功海がショックを受けている間に、克海が険しい顔でダイヤに尋ね返す。

 

「千歌たちは、厳しいのか……?」

「残念ながら……。わたくしの見立てでは、一票でも投じてもらえたら感謝というような結果を迎えるでしょう」

「そ、そんなことある訳ねーだろ!」

 

 功海がややムキになりながらダイヤに反論した。

 

「千歌たち、あんなにがんばってんだぜ! いっぱい努力して……他にどんなスクールアイドルがいるのかなんて知らないけど、負けるはずがねぇよ!」

 

 力説する功海だが、ダイヤは冷静に聞き返す。

 

「7236。何の数字か分かります?」

「え? えっと……」

「去年最終的にラブライブにエントリーした、スクールアイドルの数ですわ。第一回大会の十倍以上です」

「えぇッ!? スクールアイドルってそんないんの!? 千歌たちがエントリーした時には、5000程度じゃ……」

「まだエントリーしていない子たちは、全国にいくらでもいますわ。今年は、更に多くなることでしょう。エントリー数は増加傾向にありますから」

 

 想像していたよりもはるかに多いスクールアイドルの総数に、流石の功海もしばし呆然となった。

 

「スクールアイドルは以前から人気がありましたが、ラブライブの大会の開催、更にA-RISEとμ'sの存在によって知名度は爆発的に向上。それとともに、レベルの向上を招きました。もちろん千歌さんたちも努力していることは存じていますが……ランキング上位の方々のパフォーマンスは、最早別格。ただ歌が上手いだの、観ていて楽しいだのといった程度では通用しない世界になっているのですわ」

「マジかよ……」

 

 初めて知る、スクールアイドルの厳しさに功海も言葉がない。にわかには信じがたいような話だが、実際に体験した者が言う以上はそうなのだろう。

 

「わたくしたちは上位陣との次元の違いを見せつけられたことで、東京では歌うことすら出来ませんでした……。軽い気持ちで、μ'sのようになろうとしたのがそもそもの間違いでしたの」

「じゃあ、スクールアイドル部に反対してたのって……」

「他の人たちに、わたくしたちと同じ思いをしてほしくなかったからですわ……」

 

 ダイヤの真意を知り、押し黙る功海。ダイヤは自嘲めいたわびしい微笑を浮かべる。

 

「帰ってきてからは、μ'sに関わるものを見る度に、挫折したわたくしをみじめに思ってしまい、それら全てを周りから遠ざけました。でもそのせいで、ルビィに苦しい思いをさせていた……。後悔していますわ……」

 

 そこまで語って、ダイヤは改めて克海と功海に頼み込んだ。

 

「人は本気であればあるほど、くじけた時に心に深い傷を負います。わたくしたちの場合は、互いの関係に大きなわだかまりを残すほどとなってしまいました。千歌さんたちも最悪の場合は、今後の人生にも影響を及ぼすようなことになってしまうかもしれません。ですので、克海さんたちには彼女たちの心のケアをしてあげてほしいのですわ。よろしいでしょうか?」

「元よりそのつもりだ。他ならぬ妹のことなんだからな」

「……俺はそれでも信じられねぇ、いや信じたくねぇよ。千歌たちが、そんなぐらいにボロ負けするなんてこと……」

 

 克海と功海は窓の外の夕焼け空を見やり、その向こう側にいるはずの千歌たちのことを案じた。

 

 

 

 夜。Aqoursは秋葉原の旅館に泊まり、明日のイベントに備えて英気を養っていた。

 

「あと十数時間もしたら、いよいよ始まるね! 大きなステージで歌うなんて初めてだから楽しみっ!」(千歌)

「でも、あんまり大勢の前だと緊張が……」(梨子)

「そんな気負い過ぎないで! いつも通りでいいんだよ!」(曜)

「うんうん。リラックスずら~」(花丸)

「ふふふ……この魔都に降臨せし堕天使ヨハネが、観客たちをリトルデーモンに変えてあげるわ」(善子)

 

 各人がそれぞれの形で意気込んでいると、千歌がぐっと手を握りながら宣った。

 

「愛染さんも私たちに期待してくれるみたいだし、いいところ見せなくっちゃね!」

「あっ……」

 

 愛染の名前を出した瞬間――ルビィが何か言いたげにうつむいた。

 

「どうしたの、ルビィちゃん? 愛染さんがどうかしたずら?」

 

 気がついた花丸が問いかけると、ルビィはおずおずとしながらも、次のような疑問を口にした。

 

「あの……愛染さんって、ほんとにスクールアイドル好きなのかな……?」

「へ?」

 

 予想だにしていなかった質問に、千歌たちはそろって目が点となった。

 

「何でそんなこと言うの? あんなにスクールアイドルを支えてる人なのに」

「そうだよ。好きじゃなかったら、アイドル学校の理事長なんてやる訳ないよ」

 

 千歌と曜がそう返すが、ルビィは自分の疑問の根拠を示す。

 

「でも……ルビィが入院してた時に愛染さんがお見舞いに来て、そこでμ'sのクイズを出したんですけど……愛染さん、一つも正解できなかったんですよ? 結構簡単なのも出したのに……。スクールアイドルが好きで、あのμ'sを知らないなんてことあるのかな……」

「……そういえば、前に少し妙なことがあったわね……」

 

 梨子はルビィの疑問に同意を示す。

 

「アイゼンテックで、愛染さんが口にした会社の合言葉を、穂乃果ちゃんの口癖から来てるって言われてうなずいてたけど……μ'sの結成は五年前。十何年前からやってる会社の合言葉になるはずがないわ」

 

 訝しむルビィと梨子だが、他の四人は深く捉えなかった。

 

「考えすぎだよー。私だって、ダイヤさんが出したクイズには正解できなかったし」

「いやぁ、千歌ちゃんの場合とは全然違うだろうけど……でも、深い事情なんてないと思うよ。きっとみんなのこと気遣って、接待してたんだよ。愛染さん大人だし」

「ですよね。考えすぎずら」

「ヨハネもたまに、リトルデーモンに試練を投げかけることがあるわ。ヨハネのこと好きかしら? とかわざとらしく聞いたりして。それと同じようなものでしょう」

「そうなのかな……」

 

 ルビィたちはやや腑に落ちないものを感じながら、それ以上の言及はよしたのであった。

 

 

 

 翌日、『東京スクールアイドルワールド』――その閉会後。

 

「9位か……。入賞は無理だとは思ってたけど、予想以上に厳しい順位だね」

「姉さま、早く帰って練習を再開しよう! 上位のグループは、こうしてる今も実力を磨いてる!」

 

 会場のビルを離れながら、結果について反省している二人組のスクールアイドルがいた。名前は『Saint Snow』。姉の鹿角聖良と、妹の理亞による姉妹スクールアイドルである。

 

「うん。勝ってA-RISEやμ'sと同じ場所に立つには、もっと励まないと……」

 

 今回の決して良いとは言えない結果を踏まえて次に活かそうと、北海道に帰ろうとしていたこの二人であるが、その行く手に白い背広の背中が直立していたので思わず足を止めた。

 

「いやぁ実にいいパフォーマンスでした。まだまだ粗削りながらも、抜群の将来性が感じられましたよぉ!」

「あなたは……」

 

 白い背広の男がクルリと振り向き――愛染が手でハートマークを作りながらにこやかに笑いかけた。

 

「どうも初めまして。わたくし、愛と正義の伝道師、愛染正義です!」

 

 押し黙る理亞を傍らに置きながら、聖良が愛染に聞き返す。

 

「あなたが、あのアイゼンテックの社長の……」

「おおッ! 私のことを知っていたのかね?」

「もちろんです、有名ですから。そうでなくても、ラブライブに関わる人のことは大体は調べてます。どこで役立つか分かりませんので」

「おぉ~流石ッ! 私が見込んだだけのことはあるッ!」

「……私たちに、何の御用でしょうか?」

 

 今一つ真意が見えない愛染に、聖良が慎重に尋ねた。

 

「ふふふ……私のことを調べたというのなら、当然私が特待生を募ってるということもご存じだろうね?」

「まさか、私たちを? でも、私たちは今回のイベントで結果を残せませんでした」

「私が重視するのはそこではないッ! 君たちには飽くなき向上心がある。何が何でもアイドルの頂きに登ろうという強い決意……そこを私は評価する! 君たちは、スクールアイドルの勝者となり得る器だッ!」

 

 やたらと褒めそやされて、聖良は思わず理亞と目を合わせた。

 

「ですが……」

 

 しかしここで、愛染の話の方向性が変化する。

 

「だが……その器を、スクールアイドル程度で満足させていいのかな?」

「は……?」

「スクールアイドルは、『ここ』では大人気だ。しかし、その寿命は短い。かのμ'sとて、実際の活動期間はたったの一年未満だ。君たちのアイドル生命は、そんな儚いものでいいのかな?」

「プロへの勧誘でしょうか? それでしたら、残念ですけど私たちは……」

「そんな小さい話でもないのだよッ!」

 

 声を張って否定する愛染。聖良たちは、ますます訳が分からない。

 

「あの、おっしゃってる意味が……」

「私は知っているッ! 真に輝きを放つアイドルたちを! 永遠に色あせることのない、空に瞬き続ける綺羅星をッ! 君たちにも見せてあげよう、『本物』の世界を! そしてそれを知った時、君たちは思うことだろう。私たちも、『永遠』になりたいとッ!」

 

 ついていけずに困惑する聖良たちに構うことなくまくし立てた愛染が、二人に向かっておもむろに腕を広げた。

 

「君たちには素質がある。私が導いて(プロデュースして)あげよう……真なるアイドルの頂点の座に。――アイドルマスターにッ!!」

 

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