ウルトラブライルーブ!サンシャイン!!   作:焼き鮭

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兄弟Hand in Hand(A)

 

\前回のウルトラブライルーブ!サンシャイン!!/

 

曜「春、巨大生物の目撃情報を知った功兄ぃたちと私は、綾香山に探しに行った。すると私たちの前に本物のグルジオが出現! 公園は一気に大パニックになった。功兄ぃと克兄ぃは梨子ちゃんを助ける代わりに、怪獣の攻撃に見舞われた……。その時! 見たことのない二人の巨人が現れ、グルジオをやっつけた!」

 

 

 

 AM4:20。克海と功海の兄弟はこっそりと「四つ角」を脱け出し、人のいない深い山の中にまで来ていた。

 

「よし。克兄ぃ、準備はいい?」

 

 功海が近くに時計をセットすると、二人は自分たちの身体をほぐし始めた。

 

「功海、あんま無茶すんなよ。俺たちの力を確かめるだけだからな」

「分かってるって!」

 

 軽いやり取りの後、克海と功海は拳を打ち合わせてからの手と手のスパンキングの兄弟の合図を取る。準備が完了すると、神秘のアイテム・ルーブジャイロを構えて同時に叫んだ。

 

「「俺色に染め上げろ! ルーブ!!」」

 

 二人はこれから、自分たちが手に入れた超常の力、ウルトラマンの力を確認しようとしているのだった。

 

 

 

『兄弟Hand in Hand』

 

 

 

 日が昇ってから、「四つ角」に帰ってきた克海と功海は机を囲みながら、ノートにウルトラマンについて判明したことを纏めていた。

 

「大体こんなところか……」

「もっと他にも試したかったんだけどなぁ~」

 

 功海が大きくあくびをしながらぼやいた。

 二度目の変身で分かったことは、最大で約50メートルの身長にまで巨大化できるということ、ただ大きくなるだけでなく身体能力も超人級に向上すること、原理は不明だが空を自由自在に飛べること、精神を集中することで山を砕くほどの威力がある光線を出せるということ……後、一番重要な部分だが、一度に変身していられる時間はおよそ三分程度であり、一度変身するとしばらく間を置かなければいけないようであるということだ。功海は再三の変身を試みていたが、結局戻らなければならない時間までに再変身が出来るようにはならなかった。

 

「変身の限界が近づくと、胸の光ってるのが青から赤に変わって報せるって訳か……」

「色が変わって点滅して、時間を示す……さしずめカラータイマーってとこかな」

 

 二人のウルトラマンの姿に共通して存在する、胸部の発光体について触れていると、克海と功海の背後から浦女の制服に着替えた千歌がやってきた。

 

「お兄ちゃんたち、何やってるの?」

「「千歌!?」」

 

 驚いた二人は振り返りながら、咄嗟にノートを後ろ手に隠した。

 

「あれ? 今何か後ろに隠さなかった?」

「い、いや、何もないぞ?」

「ほんとに~? 何だが怪しいなぁ……」

 

 千歌に詰め寄られて冷や汗を垂らす克海。が、千歌の注意は彼からつけっぱなしのテレビの画面に移った。

 

「あっ、こないだの事件やってる」

「何!?」

 

 テレビの方に振り向く克海と功海。テレビにはアイゼンテックの番組の生中継が流れていた。

 

『先日、アイゼンワンダーランドに現れた、三体の巨大生物。その正体を巡っては、様々な憶測が飛び交ってます』

「この時はほんと大変だったよね。ねぇお兄ちゃん……」

 

 同意を求めた千歌だが、克海と功海はテレビに集中していて聞いていなかった。

 

「お兄ちゃん……?」

『本日は、アイゼンテック社社長、愛染正義氏にお話しを伺います』

『きゃ~! 理事長~!』

 

 現場のアイゼンワンダーランドで、アイゼンテック経営の芸能女子高の生徒たちの黄色い声を浴びている愛染にリポーターがマイクを向けた。

 

『この度は大変でしたね……』

『愛と正義の伝道師、愛染正義です!』

 

 愛染はリポーターの言葉をさえぎるように名乗り、自身のトレードマークであるハートを手で作った。そして巨大生物――ウルトラマンとグルジオボーンについて言及する。

 

『巨大生物と言っても、知性を感じる人間型の二体と、凶暴な野獣型の一体は別種でしょうね』

『と、言いますと?』

『凶暴な一体を、私は「怪獣」と呼びます。そして、人間型の二体を、私は……!』

 

 話の途中で愛染は言葉を切り、もったいぶってから堂々と発言しようとする。

 

『ウル……!』

『ありがとうございましたー!』

 

 しかし今度は自分が台詞をさえぎられてしまった。

 

『綾香市に突如現れた、三体の凶暴な巨大生物。今もなお不安に包まれる現場からお送りしました……』

「……凶暴な巨大生物か……」

 

 番組が終わると、克海がリポーターの発言を復唱し、功海は憮然とした顔となっていた。

 

 

 

「またね。バイバイ!」

 

 アイゼンワンダーランドでは、愛染がリポーターに挨拶してから生徒たちの方へ向かっていった。

 

「みんなお待たせ~!」

「理事長~!!」

 

 大勢の生徒たちはこぞって愛染を取り囲む。

 

「ハッハッ、みんな元気いいね~! その調子でラブライブ目指して頑張ろう! 愛と正義の伝道師、愛染正義です!」

 

 生徒の一人一人と手を合わせてハートマークを作っていく愛染。だが人だかりがリポーターとぶつかり、彼女が転倒しそうになる。

 

「あっ!」

 

 その瞬間、ボーイッシュな生徒の一人が颯爽と飛び出して、リポーターを優しく受け止めた。

 

「大丈夫ですか?」

「あ、ありがとう……!」

 

 ボーイッシュな生徒の凛々しい笑顔に、リポーターは思わず赤面した。彼女の活躍に気づいた他の生徒たちの間からもため息が漏れる。

 

「かっこいい……!」

「流石王子様ねぇ……」

「おおッ!」

 

 更に愛染がボーイッシュな生徒に、拍手しながら駆け寄った。

 

「素晴らしい~! 君、いいもの持ってるねぇ! よし、新設の特待生コースに入れてあげよう!」

「えっ……!?」

 

 いきなりの話に面食らう生徒の両肩に手を置いて、愛染が宣言した。

 

「君の力、お借りしますッ!!」

 

 

 

 その日の夕方。

 

「たっだいま~!」

「ああ、お帰り千歌……」

 

 元気よく帰宅した千歌を迎えたのは、彼女とは対照的に元気のない克海だった。それで千歌は面食らう。

 

「克海お兄ちゃん、暗い顔してどうしたの? 功海お兄ちゃんは?」

「あいつなら部屋。今日は晩飯いらないってさ……」

 

 語気に覇気のない克海のことを、千歌は心配して顔をしかめた。

 

「功海お兄ちゃんと喧嘩でもしたの? て言うか、お兄ちゃんたち何だか最近変だよ? 一体どうしたの?」

「……いや、まぁ、俺たちにも色々あるんだよ」

 

 克海は、千歌には本当のことを話すことが出来なかった。彼は功海と、ウルトラマンである自分たちのあり方を巡って対立してしまったのだ。

 功海は町を守って怪獣と戦ったのに、凶暴な生物扱いされたことに納得が行かず、自分たちがウルトラマンの正体でありヒーローだということを発信しようと考えた。しかし怪獣がまだまだ現れるかもしれないこと、正体を明かしてしまったら怪獣と戦い続ける危険を負い続けなければいけなくなることなどを危惧した克海はそれに強く反対。結果、言い争いとなってしまったのであった。

 

「大丈夫、兄ちゃんたちで何とかするさ。お前は心配してくれなくていい。お前だって、スクールアイドル部設立で色々忙しいんだろ?」

「そうだけど……」

 

 それでも心配をぬぐい切れない千歌であったが、無理矢理自分を納得させて追及をやめた。

 

「分かった。だけどその代わり、明日私と一緒に、果南ちゃんのとこに行ってほしいの!」

「うん? 果南ちゃんの? 何でまた」

「梨子ちゃんと、海の音を聞きに行くの!」

「海の音……?」

 

 克海には、千歌の言うことが今一つ分からなかった。

 

 

 

 翌日、克海は千歌、そして梨子を松浦家のダイビングショップに連れてきていた。

 

「しかし驚いたな。あの時の女の子が、お前のクラスに来た転校生だったなんて」

 

 入院中の父に代わり店を取り仕切っている果南と話している梨子を見つめながら、克海がそうぼやいた。グルジオボーンから彼女を助けた時のことを思い返す克海に千歌が振り向く。

 

「克海お兄ちゃん、あの時はありがと! お陰でこうやって梨子ちゃんとここに来れたよ」

「いや、別に構わないけど。それより、桜内さんだっけ? 何であの子、海になんか入りたいんだ? まだシーズンには早いってのに」

 

 疑問を持つ克海に説明を入れる千歌。

 

「梨子ちゃん、ピアノやってるそうなんだけど、最近スランプなんだって。それで環境を変えて、何かを変えたいんだって」

「スランプ打破のためか……。そのためにこんな田舎にまで来るなんて、それだけ一生懸命ってことなんだな……」

 

 ふと、克海の脳裏にウルトラマンとなってしまったことがよぎった。自分たちは、梨子のように怪獣と戦うことをあきらめずに続けられるだろうか……。

 

「お待たせしました」

 

 そう考えていたらウェットスーツ姿の梨子が克海たちの元に歩いてきた。代わりに、果南が千歌のことを呼ぶ。

 

「千歌ー、ちょっと手伝ってくれる?」

「うん!」

 

 千歌が離れると、梨子は克海に向かい合ってお辞儀した。

 

「克海さん……この間は助けていただいてありがとうございます!」

「いや、いいんだよ。それより、千歌が迷惑掛けなかったか? あいつ、随分と君に言い寄ってたみたいだからな」

 

 謙遜した克海が尋ね返すと、梨子は苦笑いを見せた。

 

「正直、大分つき纏われて辟易もしました……」

「やっぱり……」

「だけど……」

「?」

 

 梨子は苦笑しながらも、続けざまにこう言った。

 

「私のために真剣になってくれてることには、少し感謝してます……。こんなにも私のことを考えてくれた人なんて、今までにいませんでしたので……」

 

 少々はにかみながら語った梨子の言葉に、克海は意外な気持ちとなった。

 

「そうなのか……。千歌の奴、俺が思った以上に頑張ってるんだな……」

 

 それと比べたら俺たちは、いや俺は……と考えていると、ふと梨子が問いかけた。

 

「そういえば、いつも千歌さんと一緒にいる、渡辺曜さん。あの子は今日は来てないんですか?」

「ああ、曜ちゃんなら……」

 

 

 

「……ヒーローの責任か……」

 

 その頃、功海は海沿いの路肩にたたずんで、ぼんやりと海をながめていた。深く考えずにウルトラマンのことを発表しようと思っていた彼に対して、克海は言ったのだ。そんなことをしてしまえば、自分たちは怪獣に負けることが許されなくなる。そんな重い責任を背負っていけるのかと。

 つい感情的に突っぱねてしまったが、克海の言う通り、大きな力を持つということはそれだけの責任が生じるということだ。その重い責任が自分たちの未来をどうしてしまうのか、背負い続けていけるのか……とやり場のない思いを抱いていると、後ろから誰かの手が自分の目をふさいだ。

 

「だーれだ?」

「……」

 

 功海はその手をどかして後ろに振り返った。

 

「曜……」

「あったり~」

「何でこんなとこにいるんだよ」

「千歌ちゃんから聞いたんだよ。克兄ぃと喧嘩したんだって?」

 

 不機嫌そうに曜を振り払おうとする功海だが、曜は彼の周りをクルクル回ってつき纏う。

 

「克兄ぃと何を話してたのか知らないけど、克兄ぃはきっと功兄ぃのこと心配してるんだよ。昔から克兄ぃはそうだったじゃん」

「そんなこと……分かってるけどさ……」

 

 力なくつぶやいた功海は、ふと曜に質問を投げかけた。

 

「なぁ曜。もしも自分のやったことが他人から理解されなくて、心ないこと言われたとしても、お前は気にしないでられるか?」

「ん? 急にどうしたの。まさか宇宙考古学のことでまた何かひどいこと言われた? 訳分かんないことやってるーとか。それで克兄ぃと喧嘩したんだ~」

「いいから、答えろっての」

 

 からかい気味の曜だったが、功海の真剣な面持ちに触発されて顔を引き締めると、次のように答えた。

 

「そりゃ、全く気にしないなんてのは無理だよ。だけどそこでムキになっても、自分がみじめになるだけだって思うな。だから、誰に何と言われようともぐっとこらえて、自分の信じたことをやり続けるのが一番だって思うな。そしたら他の人たちだって、いつかは分かってくれるよ」

「そんなに上手く行くか……? そこまでやり続けられるかどうかなんて分かんねぇし、途中で挫折しちまうかもしんないだろ」

「何だか難しいこと言うね……」

 

 眉をひそめた曜だが、気を取り直して功海に返す。

 

「功兄ぃが何をしようというのか知らないけど、それはやってみないことには分からないでしょ。千歌ちゃんだって、前途多難な道のりだけどスクールアイドルをあきらめずにやろうとしてるんだよ」

「……だよな。千歌の奴も、頑張ってんだ……」

「だから、克兄ぃと早いとこ仲直りしなよ。昔から言われてたでしょ? 兄弟が力を合わせれば何だって出来るって。功兄ぃの一番の味方は、克兄ぃの他にはいないんだよ。克兄ぃはどんな時も、功兄ぃのこと助けてくれるって」

「……」

 

 仲直りを勧める曜の説得を受けて、功海は克海がいるだろう沖に目を向けた。

 

 

 

 ――どこかで何者かが、「力」と書かれたクリスタルを、克海たちのルーブジャイロと酷似したジャイロの中央に嵌め込みんだ。

 

ブラックキング!

 

 何者かの手はジャイロの左右のレバーを握り込むと、三回引いてエネルギーを充填させた……。

 

 

 

 船で沖に出た千歌と梨子は、海中に潜って意識を集中していた。その様子を船上から見守りながら、克海が果南に話しかける。

 

「果南ちゃん、親父さんの容態はどうだ?」

「悪くないよ。ただ、退院するのにはまだちょっと掛かりそうだって」

「なら果南ちゃんが復学するのも当分先か。何か困ったことがあるんなら、何だって言ってくれていいからな」

「ありがと、克兄ぃ」

 

 少しだけ頬を赤らめながら、果南が礼を言った。そんな彼女の顔を見つめながら、克海が眉をひそめる。

 

「それで……千歌のことだけどな。本気でスクールアイドル始めるみたいだ」

「……」

「果南ちゃん……何だったら、俺から千歌に言い聞かせるが……」

 

 何かを言いかける克海を、果南がさえぎった。

 

「気にしないで。千歌ちゃんは千歌ちゃん。私……私たちとは、違うかもしれないんだから」

「……」

 

 果南のことを気に掛けて、沈んだ表情を見せる克海だが、その時に千歌と梨子が海面に顔を出した。

 

「聞こえた!?」

「うん!」

 

 二人の様子を見届けた果南が微笑をこぼす。

 

「ほら、何か掴んだみたいだよ」

「そうみたいだな……」

 

 克海も微笑みを見せたが……直後に海面に、奇妙な細かい震動が起こり出す。

 

「な、何だ? この揺れ……」

「何か様子が変……。二人とも、すぐ上がって!」

 

 嫌な予感を覚えた果南が、すぐに千歌と梨子を船に呼び戻す。克海も手を貸して二人を引き上げていると、内浦の町に異常なものが見えた。

 

「何あれ!?」

 

 町の中から、異様な量の土砂が噴き上がっている。ここからでもはっきりと分かるほどの勢いだ。明らかにただごとではない。

 克海はハッと、先日のグルジオボーンのことを思い出して、顔色を一変させた。

 

「果南ちゃん! すぐ陸に引き返してくれ! 功海たちが心配だ!」

「う、うん!」

 

 果南が操縦席に走り、船は直ちに異常事態の起こる内浦へと引き返していった。

 

 

 

 陸ではこの異常が地揺れとなって、よりはっきりとした形で功海たちに感知されていた。

 

「あの土砂何!?」

 

 驚愕する曜の横で、功海も克海と同様、怪獣のことを思い出していた。不吉な予感に駆られた彼は曜に言いつける。

 

「曜、先に避難してろ! 危険だ!」

「功兄ぃ!? ちょっとどこ行くの!?」

 

 曜が止めるのも聞かず、功海は噴き上がる土砂の方向へ駆け出した。

 そして噴き上がる土砂の下から、黒い蛇腹状の皮膚をした巨大な怪物が地上に這い出てきた!

 

「グアアアアァァァァ!」

 

 内浦に出現した巨大怪獣ブラックキング! ブラックキングは付近の家屋を踏み潰し、山の斜面を腕でえぐり飛ばして大暴れを開始する。町はすぐに大パニックに見舞われた。

 

「出たな巨大生物!」

 

 克海の懸念が的中し、再び現れた怪獣の姿を確認した功海はルーブジャイロを取り出した。しかしそれに手を掛けると、克海の言葉がよみがえる。

 

「……それでも、俺たちがやんなきゃ! 俺たち以外にいねぇんだ!」

 

 現実に現れた怪獣を前に、功海は確かな決心をつけた。だが小さな田舎町とはいえ、周りにはブラックキングから逃げる人たちが大勢いる。

 

「流石にここじゃ目立ちすぎる……どこか人の目につかないところで……!」

 

 そう考え、家屋の陰に飛び込んで身を隠した。そこでルーブジャイロを構えようとするが、

 

「功兄ぃ! 功兄ぃー!」

 

 自分を呼ぶ声が耳に届き、思わず手を止めて顔を出した。そうして目に映ったのは、人の波に逆らって自分を捜す曜の姿であった。

 

「曜! 追いかけてきちまったのか!」

 

 ブラックキングの方に振り向く功海。ブラックキングは既に、彼らの近くにまで接近していた。

 

「曜! こっち来ちゃ駄目だ!!」

 

 焦った功海が身を乗り出して警告を飛ばした。しかしそれで刺激してしまったのか、ブラックキングは口から熱線を吐いて、功海の隠れている家屋を爆破した!

 

「グアアアアァァァァ!」

「うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

 どうにか爆発の直撃からは逃れた功海であったが、倒れてきた柱の下敷きになって身動きが取れなくなってしまう。

 

「……何の、これくらい……ウルトラマンに変身すれば……!」

 

 強がる功海だが、ルーブジャイロは爆発の衝撃で彼の手から離れていた。転がったジャイロに手を伸ばすものの、

 

「届かねぇ……!」

 

 腕も押さえつけられていて、手元にあるジャイロに指が触れられない。その間にブラックキングが更に近づいてくる。

 

「まずい……!」

「功兄ぃっ!」

 

 青ざめる功海。そこに彼に気づいた曜が駆け寄ってきた。

 

「大丈夫!?」

「何やってんだ! 俺はいいから、一人で逃げろ!」

「嫌だよ! 功兄ぃを置いて逃げれないよ!」

 

 功海の言いつけを拒否し、曜は彼を押し潰す柱をどかそうとするが、その細腕では到底動かせる重量ではなかった。

 

 

 

 陸に帰ってきた克海たちは、すぐに「四つ角」に戻って家族や客の安否確認と避難を行った。しかし、

 

「功海がいない!」

「曜ちゃんもいないよ! 功海お兄ちゃんと一緒のはずなのに!」

 

 功海たちの姿がないことに焦る克海たち。

 

「電話は!?」

「駄目! つながらないよ!」

 

 果南が問いかけたが、スマホを確かめた千歌はそう答えた。怪獣の出現で電波も通じなくなっているのだ。

 苦悶の色を浮かべた克海は、しいたけを千歌たちに押しつけながら言い聞かせた。

 

「功海たちは俺が捜す。みんなは早く避難しろ!」

 

 梨子がしいたけから遠ざかる中、果南が反論する。

 

「私も捜すよ! 手分けした方がいいって!」

「危険なんだぞ!」

「危険なのは功兄ぃたちの方でしょ!」

 

 食い下がる果南。迷う克海だが、時間がないことで引き下がらざるを得なかった。

 

「分かった……。ただし無茶はするなよ! 自分の身が最優先だからな!」

「うんっ!」

「千歌たちはしいたけを頼んだぞ!」

「分かったよ!」

 

 克海と果南は別々の方向に走り出していった。千歌はしいたけのリードを引きながら梨子に呼びかける。

 

「梨子ちゃん、こっちに!」

「えっ……!?」

 

 だが梨子はしいたけを見るや否や後ずさり、克海の後ろ姿と見比べてから答えた。

 

「わ、私も功海さんたちを捜してくるね! 千歌さんは先に逃げてて!」

「えぇぇっ!?」

 

 仰天する千歌だが、梨子は有無を言わさずに千歌の反対方向に駆け出していったのだった。

 

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