ウルトラブライルーブ!サンシャイン!!   作:焼き鮭

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幕間「二学期開始」

 

 裏の星女学院の二学期が開始してから、数日が経ったある日のこと。

 

「ん~……むむむぅ……」

 

 千歌が居間で歌詞ノートを前にしながらうなっていた。

 

「ふい~、手強かったぜ。しいたけもそろそろ冬毛だな」

 

 そこをしいたけのブラッシングから戻ってきた功海が目撃する。

 

「……何やってんだ、千歌。そんな難しい顔してさ」

「功海お兄ちゃん。ちょっと、予備予選用の曲の歌詞を考えてて」

「歌詞? そういや、ラブライブって一ステージ毎に未発表の曲って決まりあるんだっけ? きついルールだよなぁそれ」

「出場者を篩に掛けるためだな。スクールアイドルは資格とかないから、母数が大きすぎる。そうでもしなきゃエントリーの管理をし切れないんだろう」

 

 肩をすくめる功海のひと言に、克海が見解を述べた。それから千歌の方に目を向ける。

 

「しかし、それにしてもまた熱心そうだな。ルーズな千歌にしては」

「もぉ、ルーズってひどいなぁ。歌詞考えるのって大変なんだからね!」

 

 むくれる千歌だが、すぐに重い面持ちとなる。彼女のただならぬ様子を克海と功海が気に掛けた。

 

「また何かあったのか?」

「うん……それが……」

 

 首肯した千歌がポツリポツリと、鞠莉から知らされた凶報を打ち明ける。

 

「えッ……!? 学校説明会が中止!?」

「統廃合が正式に決定!? マジかよ! 二学期始まったばっかじゃん!」

「でも、鞠莉ちゃんの話だと、話自体は二年前から持ち上がってて……鞠莉ちゃんがどうにか待ってもらってたらしいの。でも……」

「とうとう限界が来た、ってことか……」

 

 想像もしていなかった内容に、克海と功海もショックを隠せなかった。

 

「マジかよ……。せっかく希望者が十人にまで増えたってのに……。千歌たちの頑張りが、こんな急に終わっちまうのか?」

「本当に、もうどうしようもないのか?」

「まだ分かんない……。だけど、鞠莉ちゃんが最後の交渉をしてくれるって。その結果次第」

「まだ希望の芽はあるか。けど、どう転んでも厳しい返答が来るだろうな」

 

 腕を組んで顔をしかめる克海。既に決定された事項を撤回してもらうからには、簡単な条件は出されないのが目に見えている。

 しかし、千歌の瞳にはそれでも希望が宿っていた。

 

「だけど、あきらめたくない! 私たちは最後まで奇跡が起こることを信じる! ううん、起こしてみせるっ!」

「おお! 燃えてんな!」

「だから今は、鞠莉ちゃんがどうにかしてくれるのを信じて、歌詞を考えてた訳なんだけど……。なかなか出てこなくってさぁ~」

 

 再び頭をひねり出す千歌。どれだけの意欲があろうとも、それが結果につながるかは別の話である。

 

「何か歌詞になりそうなネタが転がってないかな~」

「大変そうだな……。そういう時は、身の回りのものに目を向けてみたらどうだ? いいアイディアというのは、案外身近なところにあるものだぞ」

 

 克海のアドバイスを受けて、千歌はポンと手を叩いた。

 

「そうだ! ウルトラマンのこと、歌詞にならないかな!」

「「えッ!?」」

「と言うかよく考えたら、私だけウルトラマンのこと全然知らない! お兄ちゃんたち、ずっと教えてくれなかったんだもん」

 

 ジトーッと恨めしげににらまれて、克海と功海の後頭部に冷や汗が流れた。

 

「だから、それは悪かったって……」

「謝るのはいいから! チカに教えてよ、お兄ちゃんたちのこと~! みんなばっかりが知ってるなんてずるい~!」

「おいおい……趣旨すり変わってね?」

「いいからー! まだチカをのけ者にするんだったら、もうお兄ちゃんたちと口利かないんだからね!」

 

 ぷんすかとそっぽを向いてすねる千歌に、二人の兄たちは参ってしまってため息を吐き出した。

 

 

 

 数分後、克海と功海はメモ用紙にこれまでの自分たちの足跡を簡潔に纏めて書き出し、千歌に見せていた。

 

「始まりは、グルジオが最初に出てきた時だ。あの時、グルジオに炎を浴びせられそうになった瞬間に、俺と功海はルーブジャイロとクリスタルを手に入れて、ウルトラマンに変身できるようになった」

「やっぱり、あの時からお兄ちゃんたちがウルトラマンだったんだ。道理で何か変なことばっかやってるって思った」

「おい、俺たちをどういう目で見てんだよお前はぁ」

 

 千歌の失言に、功海が咎めるように突っ込んだ。

 

「でも、ジャイロとクリスタルってどこから出てきたの?」

 

 千歌の質問に首をひねる克海たち。

 

「それが未だに分からないんだよな。元々は愛染……サルモーネが発掘したものだったらしいが」

「何で俺たちがウルトラマンに選ばれたのか、こっちが聞きたいくらいだ」

 

 と話をしている最中に、玄関のインターホンが鳴らされる。

 

「あっ、お客さん」

「はーい」

 

 克海が立ち上がって玄関に向かうと、その来客は、

 

「あれ、果南ちゃん?」

「克兄ぃ……」

 

 果南は何故か妙に落ち着かない様子であった。

 

「今日は一人? 千歌なら今いるけど」

「ううん、今日はスクールアイドルのことじゃないの。ちょっとおじさんに用があって……」

「父さんに? 改まって何の用……まぁいいや。上がって」

「お邪魔します……」

 

 果南を家に上げて、父親のところまで連れていく克海。それから果南が彼に告げる。

 

「こっちは私だけでいいから。克兄ぃは忙しいでしょ?」

「別に今は忙しくもないけど。まぁちょうど千歌の相手してたところだし、ゆっくりしてってくれ」

 

 克海が居間に戻っていくと、果南は高海家の父にこう頼み込んだ。

 

「すみません、おじさん……。ちょっと、みんなのアルバムとか見せてもらえませんか?」

 

 

 

「克海お兄ちゃん、誰だったの?」

「果南ちゃんだ。何か、父さんに用らしいけど……。まぁ向こうは父さんに任せよう」

 

 果南のことはひとまず置いて、克海が居間に戻ると先ほどの話を再開する。

 

「それでウルトラマンになった俺たちは、まぁ知ってる通り色んな怪獣と戦った。その中で剣のルーブスラッガーや、新しいクリスタルを手に入れてきた」

「クリスタルにはそれぞれ属性があってさ、俺たちの姿と能力を変えたり、スラッガーを強化したり出来るんだぜ」

「それから……梨子ちゃんたちの力を借りて、ともに戦うようにもなった」

「最初は偶然だったんだよなー。曜を助けようと必死になってたら、何か体内に入れて変身しちゃってさ」

「あの時はほんと驚いたぞ……」

 

 しみじみ語る功海と克海。千歌もAqoursの仲間たちのことなので、一段と興味を示す。

 

「それをきっかけに、みんなが助けてくれるようになったんだね」

「ああ。初めはこっちも、みんなを危ない目に遭わすから断ってたんだが……それでも力を貸してくれてな。本当にありがたい」

「けど……今から思えば、そうなるように仕組まれてたんだよな。サルモーネの野郎に……」

 

 苦々しい顔の功海。そのお陰で今があるとも言えるが、やはり簡単に割り切れるものではない。

 

「……愛染さん、悪い人だったんだよね……」

 

 サルモーネの名前が出てきて、千歌も複雑な表情となった。渋い顔でうなずく兄たち。

 

「正体は愛染正義という人間に取り憑いた宇宙人だ。奴の目的は、自分が理想とするウルトラマンとアイドルを作ること。それに俺たちを利用してた。だが見切りをつけると……今度は、自分自身がウルトラマンになろうとした」

「けど、あいつのやってたことはデタラメのインチキだ! ヒーローになるためにマッチポンプ働いて、町に滅茶苦茶な被害出してさ! ルビィも、鞠莉もひどい目に遭わされた……」

「Saint Snowって子たちがいただろ。あの子たちも騙されて利用されてたんだ」

 

 サルモーネの悪行に胸を痛める千歌だが、

 

「……でも、何でウルトラマンとアイドルなの?」

「さぁ? 聖良ちゃんたちの話じゃ、入れ込んでるアイドルグループがあって、その人たちがウルトラマンと深い関係にあるらしい。その人たちみたいなアイドルを自分の手で育てようと考えてたみたいだな」

「迷惑なドルオタって奴だなー。あの野郎、スクールアイドルの味方って触れ込んどいて、本心じゃ見下してて自分の道具ぐらいにしか考えてなかったんだ! ダイヤもマジギレだったよな」

「ああ。一度は完敗を喫した俺たちも、あいつの所業が許せずにリベンジを果たした。その時に取り上げたのが、あいつが変身するのに使ってた、このオーブリングNEOだ」

 

 克海たちがオーブリングNEOを取り出すと、千歌が指差す。

 

「お兄ちゃんたちのフェイスローラー!」

「いやいや、フェイスローラーじゃないっつぅの」

「……思えば、これって何でNEOなんだろうな。よく考えずに使ってたが……」

 

 今更ながらに疑問に思う克海。

 

「サルモーネがこいつを使って変身してたのはオーブダーク。つまり、どっかにオリジナルのウルトラマンオーブって人がいるんだろ」

「そのウルトラマンは、どこで何をやってるんだろうか」

「さぁなー。人間は未だに地球のこともろくに知らないのに、広い宇宙のことなんか分かりようもねぇって」

 

 ぐっと背筋を伸ばす功海。この辺りで二人の説明は区切りがついた。

 

「まぁこんくらいが、俺たちのウルトラマンとしてのこれまでだな」

「どうだ。これで歌詞のインスピレーションになりそうか?」

「ん~……やっぱり、ただ話に聞いただけじゃイメージ湧かないなぁ」

「おい……じゃ、この時間何だったんだよ」

 

 ぼやく千歌に、功海が疲れたようにつぶやいたのだった。

 

 

 

 その頃――綾香の街頭テレビを、黒装束の少女が見上げていた。その画面に映っているのは、先日の地区予選のステージのプレイバック。

 画面いっぱいに表示されているのは、Aqoursのパフォーマンス。少女は九人のスクールアイドルのステージ上で踊り跳ねる様子を見つめている――特に、千歌の姿を、食い入るように。

 

「……」

 

 不意に少女は、己の手の平に目を落とした。その手の中には、二枚のクリスタルが握られている。

 

「古き友は言った。願いが正しければ、時至れば必ず成就する。徳川家康」

 

 少女がつぶやくと、手の内の「光」と「闇」のクリスタルが一瞬きらめいた。

 

 

 

 アルトアルベロタワー社長室。

 

「完・全・ふっかぁ―――――つッ!!」

 

 サルモーネが最後の包帯を自分の身体から解いて豪快に投げ捨てた。それに首を垂れる氷室。

 

「おめでとうございます、社長」

「うむ、ありがとう! ただ、快気祝いには君からオーブリングNEOをもらいたかったんだけどねぇ~」

「……申し訳ありません」

「なーにもういいさ。私がこの通り完治したからには、私がやろうじゃあないか! って訳で、早速ジャイロ返してくれる?」

「分かりました」

 

 促されて、氷室はAZジャイロを返却しようとするが――その直前、サルモーネには気づかれないように手の平から怪しい電流を流し込んだ。

 

「どうぞ」

「よしよし。氷室君、君も頑張ってはいたみたいだが、どうにも残念だったねぇ。力押しばっかりでは芸がないよ君ぃ! 一つ、私が手本を見せてあげよう!」

 

 ジャイロを受け取ったサルモーネは嬉々としながら、早速「角」のクリスタルをセットした。

 

 

 

 千歌と話をしていた克海と功海だが、突然功海のバイブス波探知機が激しく反応し、二人がそちらに振り向く。

 

「功海ッ!」

「ああ!」

 

 すぐにタブレットでニュースを確認すると、綾香に怪獣出現の速報がアップされていた。

 

『グビャ――――――――!』

 

 映像には、鼻先に巨大なドリルを持った、足の生えた魚型の怪獣が暴れている姿がある。深海怪獣グビラ!

 

「お兄ちゃん……!」

「悪い千歌。俺たちちょっと行ってくる!」

「夕飯までには帰るから!」

「あっ、ちょっと……!」

 

 克海と功海は有無を言わさずに、あっという間に家から飛び出していった。それを呆然と見送る千歌。

 

「もう、お兄ちゃんたちったらせっかち……。果南ちゃんが来てるのに」

 

 と噂すると、当の本人が千歌の下にやってきた。

 

「あっ、果南ちゃん! ちょっと大変なの。また怪獣が出てきて、お兄ちゃんたち行っちゃって……」

 

 状況を告げる千歌だが――果南はひどく深刻な顔をしており、千歌の言ったことが聞こえていないようであった。

 

「千歌……」

「うん?」

 

 果南は眉間に深い皺を刻みながら千歌を見つめて、たどたどしく尋ねかけた。

 

「千歌って……誰……なのかな……?」

「――え?」

 

 千歌は、何を言われたのかが理解できなかった――。

 

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