\前回のウルトラブライルーブ!サンシャイン!!/「ずら!」
花丸「自分が初めからいなかったと知って思い悩んだ千歌ちゃんは家出してしまったずら。だけど紆余曲折ありながらみんなとの絆の強さを再確認! 予備予選と学校説明会も大成功に収めて、Aqoursは順調! ……と、言いたいけれど……」
「はぁ~……どうしよう」
スクールアイドル部の部室で、千歌がテーブルに突っ伏していた。
「今度は何?」
梨子が何事か問いかけると、千歌はそのままの姿勢で答える。
「ほら、説明会とラブライブと、二つもステージがあったでしょ? だからお金が……」
「もうなくなっちゃったの?」
ルビィの問い返しに沈黙で肯定する千歌。のっぽパンをかじっている花丸がため息。
「このままだと、予算がなくなっちゃって……仮に決勝に進出しても、東京までの足がアヒルボート一隻だけずら」
「沈むわい!」
善子のツッコミ。次いで、果南が千歌に尋ねる。
「でも、前にサルモーネがマトリョーシカを買い取った時のお金があるんじゃないの? あれのお金を頼るのは癪だけど……」
「いや~……あれは教育に悪いからって、お母さんに管理されてて……」
「いくら残ってるの?」
梨子がうちっちー型の貯金箱を開いて、残金を確かめると……中から出てきたのは……。
「ワーオ! 綺麗な五円デース!」
「ご、ご、五円だけ……?」
「ご縁がありますよーに!」
「So Happy!」
「言ってる場合かっ!」
善子たちと戯れる果南、鞠莉の様子を、呆気にとられたように見つめるダイヤに、顔を上げた千歌が気づいた。
「どうしたんです?」
「あっ、いえ……果南さんも鞠莉さんも、随分皆さんと打ち解けたと思いまして……」
「果南ちゃんはどう思うずら?」
「そうだねぇ……」
「……果南……ちゃん?」
しみじみ語ったダイヤだが、花丸のひと言でハッと顔を上げた。
夕暮れに染まる内浦の砂浜で、沈みゆく太陽によってオレンジ色に染まる広大な海面を、沙紀がじっと見つめていた。
――彼女の目は、常人では捉えられない、海中に動く『何か』を捕捉していた。
「……」
その『何か』を確認した沙紀は、海から目を離すと次に空の彼方に視線を向けた。
『四つ角』の居間で、功海がテレビのニュースを見ている。テロップには、『駿河湾の怪 消える魚介類!』とある。
『ほんにねぇ、商売上がったりですよ! 魚がぜーん然取れない! ソナーでも魚影がこれっぽっちもねぇんですわ! 何かに食い尽くされちまったかのようでさぁ』
インタビューを受けている漁師がそう証言していた。これを見た功海がつぶやく。
「明らか普通の事態じゃねーなぁ……これも怪獣が関係してるのかも。また俺たちの出番かもしれないぜ、克兄ぃ!」
振り返って克海に呼びかけるが――克海は床に散らばったチラシを拾い集めている。
「千歌の奴……またこんな散らかして」
「克兄ぃ、それ何? チラシ?」
「ああ……バイトの広告だ」
綾香市の様々なバイトの広告を見せてそう答える克海。
「バイト? 千歌が?」
「Aqoursがだな。千歌たち、この間のライブで予算使い果たして、部費に困ってるそうなんだ。自分たちで補填しないと、今後の活動に支障が出るそうだ」
「ふ~ん……千歌たちももう結構人気集めてるのに、それでも金に困るんだな」
「スクールアイドルはあくまで部活動。それで利益を得るのは、原則禁止されてるって」
「そうなんか。けど、スクールアイドルのグッズとかショップとかあるよな。それならあれって誰が稼いでんの?」
「それは知らん……」
と話していたら、インターホンが鳴らされて来客を報せた。
克海が出ると、玄関前に立っていたのはダイヤだ。
「ダイヤちゃん。今日は何の用? 千歌を呼ぼうか?」
「いえ……本日は克海さん、出来れば功海さんにも相談がありますの。千歌さんには、内密で……」
「えッ、千歌に内緒で……?」
やや重々しい前置きに緊張を覚えつつ、ダイヤを居間に上げる克海。
そして功海とともに彼女と向かい合って腰を下ろすと、眉間を寄せながら尋ねた。
「それで、どういう話なんだ? まさか、千歌のことでまた何かあったんじゃ……」
「い、いえ、そういうことではありませんわ。ただ、ちょっとした私事で……」
克海が厳めしい顔をしているので、ダイヤは誤解を解くように返した。
「私事?」
「ええ。実は……」
コホンと小さく咳払いして、ダイヤは克海と功海に尋ねかける。
「克海さん、功海さん……お二人は、わたくしの名前を、気軽にダイヤちゃん、ダイヤと呼びますわよね」
「ああ。果南ちゃんに合わせたんだけど……」
「もしかして嫌だったか? なら改めるけどさ……」
「いえ、そうではありませんの! 実は……」
ダイヤは何故か少し恥ずかしそうにしながら、次の通り打ち明けた。
「わたくし、気がつきましたの……」
「何を?」
「千歌さんたちが、いつの間にか……果南さんや鞠莉さんを、気軽にちゃんづけで呼んでいると」
何が言いたいのかよく分からず、克海と功海は思わず顔を見合わせた。
「それが?」
「ですが、わたくしのことは……さんづけなのです」
「それで?」
「それで……どうすれば、わたくしも果南さんたちのように呼んでもらえるようになるのかを、相談したくて……」
これを聞いた功海が――プッと噴き出してしまう。
「何だよーそんなことかよ。要は、千歌たちともっと仲良くなりたーいってことだろ? 変にガチガチしてるから何事かと思ったじゃんか」
「わ、笑わないで下さいまし! まぁ、つまらないことを聞いているとは承知していますが……」
「そんなの、素直に気兼ねなく呼んでくれていいって言うだけでいいんじゃないか?」
克海が肩をすくめながら提案するも、ダイヤは目を泳がせながら拒んだ。
「ですが、わたくしは生徒会長……。イメージというものがありますので……」
「めんどくさいな~」
「す、すみません。ですが、どうにかわたくしのイメージを壊さずに、距離を縮められないものかと悩んでおりますの。果南さんと鞠莉さんに話せば、きっと笑われてしまいますし……他に相談できる人がいませんので。どうか、お力になって下さいませんか?」
と頼られる二人だが、腕を組んで首をひねる。
「そうは言ってもなぁ……俺たちにとってはダイヤちゃんは年下だから気兼ねないけど、千歌たちは逆だろう?」
「立場が全然違げぇからな~。どうすりゃいいかなんて聞かれてもな」
「そう……ですか……」
残念そうにしょげるダイヤ。それを見かねて、克海と功海は思案して案を出す。
「そうだな……ここは単純に、距離を縮めてみるのはどうだ?」
「距離、ですか?」
「ああ。相手と親しくなるには、こっちから近寄っていかないとな」
「固い顔してたら向こうも緊張するぜ。笑顔で、あとこっちからもちゃんづけで呼んでみたらどうだ。そしたら合わせてくれるって」
「それで、上手くいくでしょうか?」
「それはダイヤ次第だな」
功海たちに諭され、ダイヤもやる気を出していく。
「そうですわよね……何事も、やってみなくては始まりません。克海さん、功海さん、ありがとうございます。わたくし、挑戦してみますわ!」
「ああ。がんばれよ!」
「上手くいくよう応援してるぜ!」
「はい! きっと吉報をお知らせいたしますわ! それでは、本日は誠にありがとうございました」
ペコリとお辞儀して、意欲に燃えながら退室していくダイヤ。それを見送りながら――功海がそっと克海に囁きかけた。
「本人張り切ってるけどさ……克兄ぃ、実際のとこどう思う?」
「分からん……。ただ、ダイヤちゃん、結構不器用だからなぁ……。どうなることやら……」
克海は内心、一抹の不安を抱えながらダイヤの背中を見送っていた。
後日、Aqoursの九人はイベントのバイトにより、綾香の水族館に訪れていた。
千歌と花丸は食堂で皿洗いをしているが……シンクが泡まみれになって床にまでこぼれていた。
「花丸ちゃん、洗剤全部入れたから洗い物は早く済んだけど、床がビショビショだよ」
「盲点だったずら……。拭かないとダメずらね」
「私、雑巾もらってくるね」
そう言って厨房から離れる千歌だが、外に出たところで、後ろから声を掛けられる。
「古き友は言った。人生が始まるや否や、そこに危険はある。ラルフ・ウォルド・エマーソン」
「えっ、その口調は……!」
振り向くと、後方で沙紀が、腕を組んで壁にもたれかかっていた。
「危機はいつ、どこにでも存在している。そして大きな危機は、もう鼻先にまで迫っているかもしれない」
「沙紀ちゃん……! それってどういう?」
沙紀は首を動かし、海と、空の方向へと目を向ける。
「お前も知っている通り、1300年前にこの星にクリスタルが散逸し、そのために自然環境のバランスに大きな影響を与えた。更に『アレ』の接近により、バランスの歪みは深刻になっている」
「アレ?」
「このようなアンバランスゾーンに、人智を超えた事態は起こる。用心しておくといい」
それだけ言い残し、沙紀は足早に立ち去っていく。
「あっ、待って……!」
追いかけようとした千歌だが、角を曲がった時にはもう沙紀は忽然と姿を消していた。
千歌は呆然としながら独白する。
「沙紀ちゃん……相変わらず難しいこと言うなぁ。何て言いたかったんだろ?」
少し悩むも、花丸を待たせていることを思い出して、慌てて雑巾を探しに踵を返した。
その後、克海と功海が千歌たちの様子を、そしてダイヤの様子を見に水族館を訪れた。克海は、ダイヤに直接会って話を伺う。
「……そうか。上手くいかなかったんだ」
「はい……。どれだけやっても、皆さんから怒ってると思われたり、不気味に思われたりばかりで……」
やはり、ダイヤは思い通りに事を進められていなかった。むしろ逆効果で、千歌たちとの距離は離れていくようにすら思えていた。
ダイヤはすっかり意気消沈してしまっている。
「やはり、今更わたくしが皆さんと打ち解けようというのが間違いなのでしょうか……。思えば千歌さんには、最初は理不尽に辛辣に接したものです。それで仲良くしましょうなんて、虫のいい話かもしれませんわ……」
落胆してネガティブになっているダイヤに、克海が説く。
「そんなはずないさ」
「え?」
「家では千歌、ダイヤちゃんのことをこう言ってるよ。ダイヤさんは賢くて頼りになる、あんな先輩がいてくれてとってもラッキーだって」
克海から知らされたことに、ダイヤが驚いたように目を丸くした。
「千歌さんが、そんなことを……」
「他のみんなだって、ダイヤちゃんのことを尊敬してるみたいだ。だからこそ、ダイヤちゃんのことをダイヤさんと呼ぶんだろう。決して、近寄りがたいなんてことは思ってないはずだよ」
「そ、そうでしょうか」
ダイヤの頬がやや上気し、徐々に気分が晴れていく。
「だから、無理して自分を作ろうとしなくてもいいんじゃないかな。何せ、ダイヤちゃんは今のままで十分に可愛らしい女の子なんだから」
ニコッと微笑みかけた克海に、ダイヤの頭からボッと湯気が出た。
「な……どさくさに紛れて、わたくしを口説こうとしてませんか! いくら克海さんでも、わたくしはそういうことを考えるつもりは、まだありませんわよ!」
「いや、そんなつもりじゃないよ。自分を作ろうとしてるのは俺の方だな、これじゃ」
「もう……」
自嘲気味に笑う克海にそっぽを向きながらも、ダイヤは気恥ずかしさからもじもじ悶えていた。
千歌たち他の八人の方には、見かねた功海がダイヤのことについて打ち明けている。
「そうだったんだ、お姉ちゃん……」
「ダイヤの奴、きっと自分だけみんなと距離があるって思って、それで悩んでたんだと思うぜ。決して怒ってたとかじゃないから、誤解はしないでやってくれよ」
「ダイヤ、ほんとはすごい寂しがりだからねぇ」
肩をすくめる果南。首から下にうちっちーの着ぐるみを纏っている曜は、皆を見渡しながら尋ねる。
「それじゃあ、これからはダイヤさんも、ダイヤちゃんって呼ぶべきかな?」
「それが本人の望みならねぇ……」
善子はため息交じりにつぶやくも、千歌は複雑そうな顔をする。
「う~ん……だけどなぁ……」
と、その時――水族館に遠足に来ている幼稚園の園児が、引率の先生に向かってこんなことを叫んだ。
「せんせー、セイウチ!」
「うーん、惜しいわね。あれはアシカよ」
先生はプールの方に目をやり、水族館の目玉のショーの主役を務めるアシカを見やりながらそう返した。
しかし、園児の目は海の方に向けられていた。
「ううん、キバがあったもん! それに、すっごいおっきいの!」
「え?」
「……大きい?」
功海は耳に入った園児の言葉が引っ掛かって、ベンチから臨む海に首を向けた。
その時に――海面が下からどんどんと持ち上がっていく。
「What’s!?」
「何事!?」
異常事態に気がついた梨子たちが咄嗟に腰を浮かした。功海のスマホからは、バイブス波検知のアラートを鳴らす。
「ガオオオオオオウ!」
そして盛り上がった海面が割れ――中から長い牙を口の端から伸ばした、直立した海獣のような巨大生物が姿を現す!
これをひと目見た千歌が叫ぶ。
「お……おっきいうちっちー!?」
「違うッ! 怪獣だッ!!」
功海が訂正した通り、海から出現したものの正体は、セイウチが自然環境のバランスが崩れた歪みの影響によって異常に成長した結果誕生した、海象怪獣デッパラスであった!