「ガオオオオオオウ!」
「きゃあ――――――!? 怪獣ぅ!」
「いやぁぁぁ―――――――!」
海から出現したデッパラスは、身を乗り出して水族館のアシカショーのステージを覗き込む。巨体の陰が覆い被さって、観客席にいる人たちは悲鳴を発して大パニックとなった。
千歌たちももちろん、怪獣の出現に驚いている。
「沙紀ちゃんがさっき言ってたのって、まさかこれ……!?」
デッパラスはアシカの餌の魚が詰まったバケツを見つけると、それを手で掴んでムシャムシャと貪り食った。ルビィが叫ぶ。
「ああっ! アシカさんのご飯が!」
「海から魚がいなくなったのは、あいつの仕業かッ!」
デッパラスの食欲を目の当たりにした功海が推測する。
だがデッパラスはバケツ一杯分の魚では到底足りなかったようで、ステージ上をジロジロと見回して次の獲物を探す。
「大変! アシカさんが危ないずら!」
「危ないのは私たちかもよ……!」
「ぴぎぃ! 果南ちゃんやめてよ!」
「いいえ……!」
鞠莉が冷や汗まみれになりながら首を振った。
何故なら、デッパラスの視線は、驚いて泣き出してしまい、引率の先生だけではとても逃がし切れない幼稚園児たちに注がれているからだ。
「危ないのはあの子たちよっ!」
「こいつはやべぇぜッ!」
焦る功海が、素早く指示を飛ばしながら駆け出す。
「千歌たちは子供たちを頼む! 曜は俺と来い!」
「よ、ヨーソロー!」
「功海お兄ちゃん、お願い!」
園児たちを千歌らに託した功海の後に、曜が着ぐるみの足をバタバタ振りながら走っていく。
観客席の陰に飛び込んだ功海と曜の元へ、克海とダイヤが駆けてくる。
「克兄ぃ、こっちこっち!」
「急いで!」
「ああ!」
人の目から隠れると、克海と功海は即座にルーブジャイロを構えた。
「「俺たち色に染め上げろ! ルーブ!!」」
大急ぎでクリスタルを選択し、セットしてグリップを引いていく。
[ウルトラマンビクトリー!]
[ウルトラマンギンガ!]
「ダイヤッホー!」
「ヨーソロー!」
そうしてダイヤ、曜とともに変身!
[ウルトラマンロッソ! グランド!!]
[ウルトラマンブル! アクア!!]
デッパラスは今にも園児たちを捕まえようと手を伸ばしている。
「ガオオオオオオウ!」
「こ、来ないでっ!」
子供たちをかばいながら、必死に叫んで少しでも威嚇する梨子。その時に、
『『はぁぁッ!!』』
ロッソとブルの拳がデッパラスの鼻先を殴りつけた!
「ガオオオオオオウ!」
不意打ちに驚いたデッパラスがよろけて後ずさった。ロッソとブルは海上に着水すると、急いでいたので変身してから拳を打ち鳴らし合う。
「みんな、もう大丈夫だよ! ウルトラマンさんが助けに来てくれたの!」
「ふぅ……ラグナロクは阻止されたわ」
千歌が子供たちをあやし、善子は助かったことに安堵の息を吐いた。
『『はッ!』』
「ガオオオオオオウ!」
ロッソとブルが大見得を切ってデッパラスを威嚇。しかし食事を邪魔されたデッパラスは怒って二人に襲い掛かってくる。
『水族館には近づけるなよ!』
『分かってるって! 行くぜッ!』
ロッソたちは背にしている水族館を守るために、こちらからもデッパラスにぶつかっていって進撃を食い止めようとする。だが、デッパラスの全体重を乗せた体当たりに二人がかりでも跳ね返された。
『「うわわっ!?」』
『「途轍もないパワーですわ……!」』
デッパラスの突進の威力を見せつけられたダイヤたちが冷や汗を垂らした。
「ガオオオオオオウ!」
デッパラスは更に口から火炎を吐いて攻撃してくる!
『うわッ!? 熱ッ!』
『「いけません! 水族館が燃えてしまいます!」』
ロッソたちが熱で苦しめられるだけでなく、水族館への延焼をダイヤが危惧した。
『ここは俺たちに任せてくれ!』
『「火には水だよっ! 消火消火!」』
火炎放射に対抗して、ブルが手の平から水流を発射する。
「『アクアジェットブラスト!!」』
水流で火炎を消し止め、更にデッパラスの腹にも食らわせる。
『このまま押し出すッ!』
「ガオオオオオオウ!」
が、デッパラスは水流を浴びせられても数歩後ずさっただけであった。
『「びくともしないよ!?」』
『重すぎだろ! ダイエットしろッ!』
文句をつけるブル。
『なら俺たちが!』
ロッソが土のボールを握り、振りかぶる。
「『グランドコーティング!!」』
土の塊をデッパラスにぶつけて全身を包み込み、封じ込もうとするも、
「ガオオオオオオウ!」
覆い込む前に、拘束を力ずくで破壊されてしまった。
『駄目か……!』
『「あのパワーが厄介ですわね……!」』
目論見がことごとく破られて苦戦するロッソとブル。
デッパラスは、今度は長い牙を二本とも切り離して飛ばしてきた!
『何ッ!?』
『うおぉ危ねッ!?』
咄嗟に牙から身をよじるロッソたち。しかし牙をよけられてもデッパラスは突っ込んできて、二人を殴り飛ばす。
「ガオオオオオオウ!」
『ぐッ! なかなかやるじゃん……!』
『けど、これ以上暴れられたら被害が千歌たちに及ぶかもしれないぞ……!』
なかなかデッパラスを水族館から引き離せないことに焦りを覚えるロッソ。それでブルが呼び掛けた。
『だったらぶつけてやろうぜ! 俺たちの全力!』
『よし! 行くぞッ!』
ロッソの合図で、ダイヤが極クリスタルを掴み取った。
[極クリスタル!!]
『「「セレクト、クリスタル!!」」』
つながったインナースペースでダイヤと曜が叫び、クリスタルから三本角を展開する。
[兄弟の力を一つに!]
ダイヤがクリスタルを、曜が掲げるジャイロにセットする。
『『纏うは極! 金色の宇宙!!』』
そしてダイヤと曜でジャイロのグリップを引いて、エネルギーをチャージ。
『「「サンシャイン!!」」』
極クリスタルが金色に輝き、その力でロッソとブルが融合!
[ウルトラマンルーブ!!]
「デュワッ!」
合体して一人のウルトラ戦士と化したルーブに、デッパラスが驚いて目を見張った。
『「まずは私から!」』
インナースペースで曜が前に進み出ると、極クリスタルの文字が「航」に変化する。
[ルーブ・クルーズ!!]
「ハァッ!」
タイプチェンジしたルーブは足から水のジェットを噴出し、海上をスキーのように高速で走り回る。
「ガオオオオオオウ!」
己の周囲を駆け回るルーブの動きに、重量級故にパワーはあってもスピードが鈍いデッパラスはまるでついていけず、翻弄された挙句に目を回してしりもちを突いた。
『「次はわたくしですわ!」』
曜と交代してダイヤが進み出ると、クリスタルの文字が「煌」に変わった。
[ルーブ・ブリリアント!!]
ルーブの身体に琥珀色と赤色のラインが走り、更にルーブコウリンを取り出す。
「『ルーブコウリンロッソ!!」』
コウリンを正面に構えると、それを中心に煌めく鉱石を集めて巨大な岩の球体を作り上げる。
「『「『ブリリアント・グランドコーティング!!!!」』」』
それをコウリンの操作で投げ飛ばすと、デッパラスの全身が岩の中に包み込まれた。今度は破壊されない。
「オォォッ!」
ルーブは手の平から念動力を発し、封じ込めたデッパラスを持ち上げてはるか遠くの海洋にまで運び去り、そこで海の中に沈めた。
デッパラスは海底に封印され、長い眠りに就いたのであった。
「シュアッ!」
怪獣の脅威を取り除いたルーブは、大空高くに飛び上がって去っていった。
元の姿に戻って水族館に戻ってきた克海たちだが、怪獣がいなくなってもそこは惨状であった。
「えーん! えーん!」
「ママぁ――――――!」
「み、みんな落ち着いてぇ……!」
「怖いのいなくなりましたよー。だから泣きやんで~……」
恐怖に晒されていた園児たちが、一向に泣きやまずに大声で喚き続けているのだ。千歌、梨子たちもどうにか落ち着かせようと手を焼いているが、効果は出ていない。
「お、おいおい、大変なことになってるな……」
「これじゃ収集つかねぇぜ……。克兄ぃどうする?」
「どうするって言ったってなぁ……。千歌が泣いてた時はどうしてた?」
「千歌とは違うぜ克兄ぃ……」
「あれ? ダイヤさんは?」
ふと、曜が一緒に戻ってきたはずのダイヤの姿がいつの間にかなくなっていることに気がついた。
その時、ピピーッ! とけたたましいホイッスルの音が鳴り響き、全員が思わずその発生源に気を取られる。
「さぁ、みんな! スタジアムに集まれー!!」
見れば、ダイヤがステージの真ん中に立ち、明るい声を出して園児たちに呼びかけた。
「わぁっ!?」
「何なにー?」
ダイヤの活気にあてられた園児たちはコロッと泣きやみ、笑顔に変わってプール越しにダイヤの前へと集まっていく。
「園児のみんな、大声を出すのは他の人の迷惑になるから、ぶっぶーですわ! みんな、ちゃんとしましょうね」
「はーい!」
子供番組の司会のお姉さんのような所作で園児たちを諭すダイヤの様子に、功海はヒュウッと口笛を吹いて感心した。
「ダイヤの奴、やるじゃんか。みんなあっという間に泣きやんだぜ」
功海の傍らでうなずく克海。
「ダイヤちゃんの元気さに感化されたんだな。子供は純粋だから」
「なるほどな。けど、こんな簡単でいいなんてなー。何で分かんなかったんだろ」
「いや……こうして見れば簡単に見えるが、さっきの状況で冷静に、的確に、即座に行動するのはなかなか出来ることじゃないだろう。それだけ、ダイヤちゃんの分析力、リーダーシップが優れてるってことさ」
すっかり園児たちをしつけたダイヤのことを高く評価する克海の側で、千歌が満足げな笑みを浮かべてダイヤの姿を見やっていた。
その日の夜、バイトが終わって水族館の入り口前で、ダイヤが皆に対してぽつりと述べた。
「結局、わたくしはわたくしでしかないのですわね……」
「それでいいと思います」
千歌が、ダイヤの言葉にそう返した。
「私、ダイヤさんはダイヤさんでいてほしいと思います。確かに、果南ちゃんや鞠莉ちゃんと違って、ふざけたり冗談言ったりできないなって思うこともあるけど……でも、ダイヤさんはいざってなった時、頼りになって、私たちがだらけてる時は、叱ってくれる……ちゃんとしてるんですっ! だからみんな安心できるし、そんなダイヤさんが大好きです。ね?」
千歌の呼びかけに、他の七人が笑顔で肯定の意を示した。
「だから、これからもずっと、ダイヤさんでいて下さい。よろしくお願いします!」
「……わたくしはどっちでもいいのですわよ、別に」
千歌の頼みに、ダイヤは口元のほくろを指でかきつつぶっきらぼうに答えてごまかした。
それを悟って笑いをこらえる果南と鞠莉に、千歌たちが不思議そうに振り返っている間に、克海がダイヤに呼びかける。
「言っただろう? 今のままでいいって」
「……そうですわね。わたくし、些細なことにこだわって、皆の気持ちが見えていませんでしたわ……」
「まぁ、そんなことは誰にだってあるさ。俺たちにだって」
ウルトラマンを始めてから今日までの、決して平坦とは言えない道のりを思い出して、克海は苦笑を浮かべた。
「みんな、迷いながら、間違えながら、自分の進んでく道を選んでいく。むしろ一本の道しか知らない方が危ないんだろう。だから迷ったり、自分が分からなくなったりすることも、決して悪いことじゃないと思うな」
「ふふっ……そうですわね。今までも、そうでしたわ……」
これまでの、スクールアイドルとしての、二人のウルトラマンの仲間としての、艱難辛苦を思い返し、ダイヤは感慨に満ちていた。
そんな彼女に、仲間たちが声をそろえて呼び掛ける。
「せーのっ!」
「「「「ダイヤちゃーん!!」」」」
その声に、ダイヤは柔らかい微笑みを浮かべて応えた――。
『Aqoursのウルトラソングナビ!』
ダイヤ「ダイヤッホー! 今回ご紹介致しますのは、『ウルトラ六兄弟』ですわ!」
ダイヤ「この歌は『ウルトラマンタロウ』で挿入歌として使われたもので、前作『ウルトラマンA』で設定され人気を博した、歴代ウルトラ戦士によるチーム「ウルトラ兄弟」のテーマ曲ですわ。この時点では六番目のタロウが最新でしたので、六兄弟ということですわね」
ダイヤ「とてもテンポが良く覚えやすく、かつウルトラ兄弟が登場する印象深い場面での挿入歌ですので、使用回数が多かった訳ではないものの記憶には残りやすくなっております。そのため後年アレンジ版やカバーバージョンが発表されましたわ」
ダイヤ「この曲の印象のために、ウルトラ兄弟といえばゾフィーからタロウまでの六人だという方もいらっしゃるのではないでしょうか」
克海「そして今回のラブライブ!サンシャイン!!の曲は『恋になりたいAQUARIUM』だ!」
功海「Aqoursの二枚目のシングルの表題曲だな! 第一回センター総選挙で一位になった曜を中心に歌唱されてる歌で、タイトル通り水族館、つまり海を連想させる歌詞が特徴だ」
克海「アニメーションPVも制作されてて、実在の伊豆・三津シーパラダイスが舞台になってる。マスコットのうちっちーとの縁はここからスタートしたんだ」
ダイヤ「それでは、次回でお会い致しましょう!」
ルビィ「梨子ちゃんは相変わらず犬が苦手。だけど、ひょんなことから善子ちゃんとワンちゃんのお世話をすることになったの」
花丸「善子ちゃんも梨子ちゃんも随分可愛がってるずら。だけど、お別れはそう遠くないずら……」
ルビィ「でも、そんな時に忍び寄る影! 功海さん、克海さん、梨子ちゃんたちを助けて!」
花丸「次回、『激突!TONIGHT』!」
ルビィ「次回もがんばルビィ!」