ウルトラブライルーブ!サンシャイン!!   作:焼き鮭

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GALAXY MemorY(A)

 

\前回のウルトラブライルーブ!サンシャイン!!/

 

善子「暴走する鉄巨人に囚われてしまった千歌! 功海たちは美剣沙紀と手を組み、千歌を解放するために奮闘したわ。激闘の果てに、無事に千歌を救い出して鉄巨人を打ち破ったのだけれど、沙紀がまさかの背信! 二人のジャイロが、奪われてしまったわ!」

 

 

 

 ――それは、遠い過去、どれだけ願っても最早戻ってこない時間。虚空の銀河に散っていった、星屑の記憶。

 1300年前、彼女は二人の兄とともに、星を食らう大怪獣ルーゴサイトに立ち向かった。だが、ルーゴサイトは彼女たちの想像をはるかに上回る強さであり、まるで歯が立たなかった。どうにかルーゴサイトを楕円軌道上に追放することは出来たが……三人は力を使い果たして、背にしていた惑星に墜落。彼女は辛うじて無事であったが……二人の兄は、ルーゴサイトの攻撃から彼女をかばったことにより――命を燃やし尽くしていた。

 無数のクリスタルとなって砕け散った、本来のロッソとブルを目の前にして――グルジオボーンに変身していた、1300年後に美剣沙紀と名乗る少女は慟哭を上げたのだった。

 

 

 

「……」

 

 克海と功海から奪い取ったルーブジャイロを、自分のものと一緒にケースに収めた沙紀は、当時のことを静かに回想していた。

 

[他人の変身アイテムを奪うのは、自分の力に自信のない卑劣な宇宙人のよくやる手だと前社長が……]

 

 意見してきたウッチェリーナを、沙紀は険しくにらみ返した。

 

「奪ったのではない! 取り戻したのだ、星空に散った兄たちの力の結晶を」

 

 そう主張する沙紀の元に、氷室が現れる。

 

「高海の兄弟からジャイロを回収したのですか。では、計画を確実なものとするために分析を……」

 

 言いながら手を伸ばしかけるが――すぐに沙紀がケースを抱え、氷室の手から遠ざけた。

 

「これは私の兄たちの形見だ。何人にも触らせん」

「……」

「そもそも貴様、一体どこへ行ってたのだ! あれだけの事態が起きたというのに!」

 

 キッと目尻を吊り上げる沙紀に、氷室が淡々と弁明。

 

「申し訳ありませんでした。たまたま、急用で遠出してましたので……。災難に見舞われたあなたに何の力添えも出来ず、心苦しく思っています」

「ふん、たまたま……たまたまか」

 

 沙紀は氷室に胡乱な視線を向けつつ、彼から離れて社長室の扉に歩いていく。

 

「貴様が何を考えていようとも、私は成し遂げる。兄たちに果たせなかった使命を! 子の力で必ず……!」

 

 その宣言を残して、ジャイロを持ったまま社長室から退室していく沙紀。

 氷室はその後ろ姿を、光を怪しく反射させる眼鏡のレンズ越しに見つめていた。

 

「……」

 

 

 

『GALAXY MemorY』

 

 

 

『――まさか、そんなことになっていたなんて……!』

「はい……。もう色んなことが起こって、大変で……」

 

 『四つ角』。千歌が巨大ロボットのアイゼンテック社襲撃事件のニュースを見て、安否の連絡を入れてきた聖良に、近況を伝えていた。聖良は電話口でひどく驚いている。

 

『……分かりました。ともかく、皆さんがひとまずは無事で何よりです。では、また』

「はい。何かあったらまた連絡します」

 

 千歌が通話を終えた一方で、梨子たちは克海の身体を気遣っている。

 

「克海さん……お身体はもう何ともないんですか?」

「ああ、大丈夫だ、ありがとう。果南ちゃんと曜ちゃんも、痺れが残ってたりしないか?」

「うん、平気」

「私も。だけど……」

 

 居間には重い空気が漂い続けていた。それは当然だろう。ウルトラマンに変身するために必要なルーブジャイロを、二つとも奪い取られてしまったのだ。これでは何かあった時に、どうすることも出来ない。

 

「い、功海さん、無理しちゃ駄目ずら!」

「ちょっと落ち着いて……!」

「どいてくれッ!」

 

 そんな時に、止めに入る花丸とルビィを振り切って功海が上着を羽織って裏口に向かうのを、克海が立ちはだかった。

 

「どこ行くつもりだ、功海」

「決まってんだろ。アイゼンテック社に乗り込んで、ジャイロを奪い返すんだよ!」

 

 逸る功海を落ち着かせようとなだめる克海。

 

「少しは頭冷やせって!」

「よく平気な顔してられるよな。助けてやったってのに、あんな目にまで遭わされといて、何とも思わねーのかよ!?」

「だからって正面から行って返してくれる訳ないだろ!」

「今まで綾香市守ってきたのは誰だ。怪獣と戦ってきたのは誰だ。美剣じゃない俺たちだろッ!」

「あいつは言ってた。これは私の兄たちのジャイロだって。何かあるんだよ……!」

「そうだよ! 沙紀ちゃんは悪気があったんじゃないの!」

 

 克海と功海の間に、千歌が必死に弁解しながら割って入った。そんな彼女に振り向いて、克海が問いかける。

 

「千歌……教えてくれ。美剣から何を聞いたんだ? あいつから何か話してもらったんだろ?」

「千歌ちゃん……!」

 

 曜たちの目も千歌に集まる。皆の注目を一身に浴びた千歌は、真剣な面持ちとなって――。

 

 

 

「――という訳なの!」

 

 お手製の紙人形劇で、沙紀から聞いた話の内容を全員に伝えた。

 聞き終えた克海たちは、そろって唖然と固まっている。

 

「……どうせ私、説明下手だもんっ!」

「ああ違うよ千歌ちゃん! 言ってること分かんなかったとかじゃなくて……!」

「ええ……。あまりに衝撃的な内容でしたので、どうリアクションすればいいのかが……」

 

 勘違いして泣き崩れる千歌を曜たちがなだめ、ダイヤは額を指で支えてうなった。

 鞠莉は千歌の説明を、ゆっくりと振り返る。

 

「ちょっと整理させて……? つまり、沙紀さんは元々のウルトラマンに変身する人たち……克海と功海の先代の人たちの妹の、宇宙人……」

「うん!」

「そして1300年前に三人は、怪獣と刺し違えて地球に落下して、二人の兄はそこで亡くなった……。これが偶龍璽王伝説、この綾香市の土地で起きたことの真相で、クリスタルは二人のウルトラマンの破片……!」

「うん!」

「怪獣は今まさに地球に戻ってこようとしてて、沙紀さんはかつて倒せなかった怪獣を倒そうとしてるのが、地球爆破の理由!!」

「そういうことっ!」

 

 話を呑み込んだ善子が、途方に暮れたように壁にもたれかかった。

 

「何てぶっ飛んだ話……。私の設定を軽く超えることが、現実の話だなんて……」

「善子ちゃんがショック受けすぎて、堕天使を設定って言っちゃったずら……」

 

 善子じゃなくてヨハネ、と返す気力すら、今の善子にはなかった。

 功海も呆気にとられている。

 

「1300年前から生きてたなんて……あいつ滅茶苦茶お婆ちゃんじゃん」

「功兄ぃ、気にするとこそこ?」

 

 曜が突っ込んでいると、千歌が皆に向けて沙紀の弁解をする。

 

「沙紀ちゃんは、お兄さんたちが倒せなかった怪獣に一人で立ち向かおうと必死なんだよ!」

「けど、そのために地球を爆破しようなんて無茶苦茶じゃん!」

「第一、そんなすげぇ怪獣がまた地球に来るなんて、本当かどうか……」

「ええ……。今の話が真実だという保証はありませんわ」

 

 克海に同意するダイヤであったが、そこにルビィがおずおずとスマホを持ち上げた。

 

「それがぁ……そうでもないみたいだよ……」

「え?」

 

 画面に映っているのは、緊急生放送のニュース。

 

『緊急速報をお伝えします。先ほど、NASAや国立天文台など、各国複数の機関が、地球に向かって飛来する未知の物質を捉えました。このままの軌道と速度では、約一週間後に地球に衝突する計算になっているということです』

「……一週間後って……」

「アイゼンテックが発表した、怪獣の到着予測の日と、一致するわ……」

 

 振り返った果南に、鞠莉が日にちを計算して答えた。皆、顔が青ざめている。

 

「……えっ、ほんとに……? 星を丸ごと食べちゃうような怪獣が、地球に向かってきてるの……?」

「前のウルトラマンたちが命と引き換えにしてでも、問題を先延ばしにするのが精いっぱいっていうようなのが……」

 

 曜と梨子のポツリとしたつぶやきを最後に、室内が沈黙で満たされた。

 

 

 

 アルトアルベロタワーの隠し部屋に三つのジャイロを運び込んだ沙紀は、機材をセットしながらウッチェリーナに告げる。

 

「これよりルーブジャイロ起動実験を開始する」

[そのようなプログラムは存在しません]

 

 ウッチェリーナがそう答えても構うことなく、沙紀は装置につなげた己のジャイロに、何も描かれていないクリスタルを嵌め込んだ。

 

「あと一週間で、奴はこの星に来る。三つのジャイロの力でガス状から実体へと変異させ……」

[そして、地球ごと爆破させる作戦ですね?]

 

 沙紀は無言の肯定をして、ウッチェリーナに命令する。

 

「これよりエネルギーを注入する」

[エネルギー……?]

 

 

 

「い、功兄ぃ、ちょっと落ち着いて……!」

「克兄ぃも、今はこんなことしてる時じゃ……!」

 

 しばらく沈黙に包まれていた『四つ角』だが、今は克海と功海が止める果南たちも目に入らずに言い争っていた。

 

「地球を犠牲にして敵を倒すなんて、そんなの自分勝手なだけじゃん!」

「あいつは兄を亡くしてるんだぞ!」

「だから許せねぇんだよ! 他の人間はみんな死んでもいいってのか!」

「あいつは千歌を救ってくれたじゃないか! 話の通じない相手とは思えない」

「裏切ったじゃんッ! 何でそんな奴の肩を持つ!」

「そうじゃないッ!」

「そういうことじゃんッ!」

「俺たちみんなが力を合わせれば……地球を爆破させずに済む方法が見つかるかもしれないだろ!」

「はッ! どこまで脳味噌お花畑なんだよ!」

「……何だと……!?」

 

 お互いに胸倉を掴み合う克海と功海に、梨子たちが息を呑む。

 

「ちょっ……!」

「やめなよ克兄ぃ功兄ぃ! まだ分かんないの!?」

「ここでお二人で争って、どうなるというのですか!?」

「仲間内で反目してても、馬鹿を見るだけよっ!」

 

 果南たち三年生組が制裁に入っても、今回は克海も功海も収まらない。

 

「どいてくれ! この分からず屋が悪いんだッ!」

「分かんねぇのはそっちだろうがよッ!」

 

 牙を剥き出しにし合う二人に、千歌もたまらずに声を荒げた。

 

「やめてよ! お兄ちゃんっ!!」

 

 

 

 沙紀は装置の椅子に座り、自らの四肢にコードを取りつけていく。それを諌めるウッチェリーナ。

 

[あなた一人の生命エネルギーで、三つのジャイロを起動させるのは命の危険が……!]

 

 しかし沙紀は聞き入れようともしなかった。

 

「果たしてみせる。兄たちの想いに応えるためにもっ!」

[ああ……!]

 

 装置の起動を強行し、自らの命のエネルギーを、同時に三つのジャイロ全てに注ぎ込み始めた。

 

「うぅ……!」

 

 

 

 克海と功海が争っている場で、バイブス波測定のアンテナがやおら回転し始めた。ルビィたちがバッと振り返る。

 

「ぴぎっ! 怪獣だよ!」

「こんな時に……!」

 

 最悪なタイミングでのアンテナの反応に、梨子が絶句した。

 

「くそッ……!」

「あっ、克兄ぃ!」

 

 克海が先駆けて居間を飛び出していき、それに対抗するように功海が後を追う。ダイヤたちも反射的に追いかけていく。

 

「行ってどうするんですか!? ジャイロはありませんのよ!?」

 

 それに克海たちは、返答を寄越さなかった。

 

 

 

 内浦の外れの山間部の地中にて、1300年前に飛び散って以来、誰にも知られることなく眠り続けていた一枚のクリスタル。それが、三つのジャイロの強引な同時起動というイレギュラーが起こしたバイブス波に影響されて、実体化を果たしてしまった!

 

「ギャオオオオオオオオ!」

 

 古のクリスタルから出現した怪獣ゴモラが、バイブス波に引き寄せられてアイゼンテック社に向かって進撃を開始。その姿を目撃した人たちは、悲鳴を上げて一目散に逃げていった。

 

 

 

「うぅぅ……!」

 

 歯を食いしばって生命エネルギーをジャイロに注ぎ込む沙紀であったが、ジャイロはどれ一つとして正常な反応を見せなかった。

 

[ルーブジャイロ、起動を確認できません! あなた一人の力で三つのジャイロを……]

「出来る! 私はこの時を、1300年待ち続けたんだ!」

 

 ウッチェリーナの忠告を封殺する沙紀だが、空中のモニターにアラート画面が映し出される。

 

[警戒レベル4! これ以上は命が危険です!]

「やめるなっ!」

 

 それでも強行し続ける沙紀であったが、ジャイロは依然として反応を示さない。

 

「何故だ……! あんな素人二人にも扱えたというのに、何故この私が……!」

 

 実験を続ける沙紀だが、突然激しい震動が実験室を襲って、その揺れによって椅子の上から転げ落ちた。

 

「くっ……! 何だ……!?」

 

 

 

「ギャオオオオオオオオ!」

 

 ゴモラは綾香の市街地に入り込み、着実にアルトアルベロタワーに接近していた。タワー内の社員は駆け足で避難していく。

 

 

 

「くっ、こんな時に……!」

 

 状況を把握した沙紀はやむなく実験を中止し、迫りつつあるゴモラへの対策を開始する。

 

「怪獣拘束システムを起動!」

[了解!]

 

 タワーのアンテナから拘束光線が発射され、ゴモラに命中。

 

「ギャオオオオオオオオ!」

 

 しかしゴモラのボディは光線を反射し、返ってきた光線がタワーを撃って電気系統にダメージを与えた。地下室の照明器具も火花を散らす。

 

「うわっ! 何だと……!?」

[異常な乱れのエネルギーの影響により、怪獣のバイタルに著しい上昇が見られます! 拘束システムは通用しません!]

「おのれ……まさかこんなことになるとは……!」

 

 刺激を受けたゴモラはますます凶暴になって、鼻先の角から超振動波を飛ばして周囲を薙ぎ払う。

 

「ギャオオオオオオオオ!」

 

 激しい破壊を撒き散らしてタワーに歩を進めていくゴモラ。

 

「……!」

 

 それに先回りするように、克海たちもアイゼンテック社前に到着した。

 


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