大切な会議の場が余りにも阿保らしい(しかし当の2人にしてみれば、何よりも重要な事である)理由でお開きになりそうな危機が主に次いで墳墓最強である彼女のおかげで何とか納まり、また同じ事を繰り返さない為に彼女にも参加してもらう事となり、再開する事となった。
「では、改めまして」一度咳払いをして、アルベドが再度続ける。「アインズ様に付いてもらう者を決めるとしましょうか……」そこで、彼女は何か言いたげである義兄でもある彼に一度視線を向ける。どこか不安を抱えた光が灯っている。「……念の為に言っておきますが、私は墳墓に残り以降のナザリック運営の中心に立つつもりであります」
「アルベド、どうしてですか?」
当然の如く、彼女の言葉に食い掛るのはやや過保護気味な統括補佐であった。
「ウィリニタス様。お言葉ですが、彼女の適正ですとそれが最も良い配置であると、貴方だって理解出来ていますでしょう」
先は彼らのその余りの親馬……熱意に口を出すことも出来なかった為に、そうなってしまう為にデミウルゴスが先に言葉を発した。この人物だって分かっているはずなのだ。何故なら、彼は現統括アルベドが創造されるまで、この墳墓をまとめる立場であったし、この会議に参加しているのだって、相応の頭脳があると言う事が主を含めた墳墓の者達が認めているからである。
しかし――そんな後輩の思いを知らない彼は止まらない。
「墳墓の事であれば、僕が担当しておきますから」
「てめえ、いい加減にしな!」
口をはさむのは、当然の如く彼女であった。その様子に新たに会議の席に着き、今しがた声を上げた彼女の妹分でもある人物の目が徐々に険しくなり始める。いつでも戦闘態勢を取れるように手を空にかざして、その事に主の息子とも呼べるドッペルゲンガーは戦々恐々と身を震わせる。その事は発言した彼女だって分かっているようであり、努めて冷静に彼へと説得を始める。
「良いかい? 私らで回していた時と今では、このナザリックだって大きく変わっているんだよ」
「そう だね」
彼女の言葉に同じ位この墳墓で多くの時を過ごした彼も口を開く。彼の声はいつも平坦であるが、その時の言葉はまるで昔を懐かしむような温かさがあり、珍しい事でもあった為に思わずその場の全員が彼の次の言葉を待った。
「懐か しい 。 あの 頃、 まだ 第6 階層 まで しか なか った」
「おお、素晴らしき墳墓の歴史。出来る事であれば、私も聞きたくあります!」
その言葉に真っ先に反応を示したのは、やはり彼であった。わざわざ立ち上がり胸に手をあて、もう片方の腕を高々と掲げるパフォーマンス付きであった。それは彼の性格もあるが一歩間違えれば再び殺伐となりそうであった空気を少しでも和らげようと思っての事であったのだろう。彼はそういう奴だ。
(ありがとう。パンドラズ・アクター)
アルベドは彼に感謝しながらも、己もまた自分に甘すぎる義兄に説得を試みる。
「兄さんが優秀であるのは知っていますし、私の代わりが務まるのも兄さんだけだと思っています……ですが、イブ・リムス様が仰る通り、兄さん達が現役だった頃と今では全く違うものでもあると言うのも確かなんです」
実際彼女の言う通りであった。ナザリック地下大墳墓。元は、ユグドラシルと呼ばれる世界の1ダンジョンでしかなかったここは、主を始めとした至高の方々の手で大きく姿を変えている。トラップの数は倍増どころの話ではないし、僕の数だってそうだ。それらを完璧に管理出来るのは、現役である彼女にまた防衛責任者である彼位であると彼女は訴える。その言葉をウィリニタスは静かに聞いており、そして彼女は畳みかける。
「兄さんの気持ちは素直に言えば嬉しいものです。私だって出来る事であれば、アインズ様の御傍にいつでもいたい……ですが、それ以上に此処を守りたいという思いもあるのです」
それもまた彼女の本心であった。この墳墓は愛する主の宝であるのだから。その言葉に彼は感極まったようで手を顔に当てている。その頬には涙が流れており、まるで我が子の成長を喜ぶ親のようでもあった。
「アルベド、立派になりましたね。妻だって喜んでいる事でしょう」彼はハンカチを取り出して頬を拭う。「分かりました。貴方がそこまでいうのであれば、僕からはもう何もありませんよ」
「何とか納まったようだね、本当に手がかかる奴だよ」
呆れたように息を吐くのはイブ・リムスであった。彼女は本来の姿に似合わず、墳墓では2番目に最年長の部類に入る。シャルティアが数百年単位で生きているのに対して彼女は数千年単位であるのだから。そして、彼女は新たに参加というより、会議の御目付役として参加している妹分へと問いかける。それは、分かりきっていると言うのに、それでも念の為に聞いておきたくて言葉にしたという感じであった。
「シャル助、あんたはどうすんだい?」
「決まっていんす。私も辞退させてもらいんす」
その言葉に彼女の性格をよく知る者達は驚きを胸に抱いた。無論、誰一人顔には出さないが……元より表情がない者達も交じっているけど。
「シャルティア、一応理由を聞いても良いかな? 私が知る君であれば迷いなくアインズ様について行くはずでしたので」
代表して問いかけるのはデミウルゴスであり、彼にしては珍しく疑問を孕んだ非常に珍しい表情をしている。他の者達も彼同様に彼女へと視線を向ける。その事に内心辟易としながらも、シャルティアは己なりの思いを言う。
「今の私がアインズ様と共に行ったとしても、役に立てそうにありんせん。で、あらば、別の所で事に当たるのが最も合理的でありんしょう」そこで、彼女は一度視線を落とす。しょんぼりとした子供を連想させる。「けど、私はどうすれば良いのかさっぱりでありんす。だから、主たちに頼みんす」
自分の配置はと締めくくり彼女は緊張していたのか、予め用意されていたカップへと手を伸ばす。
「はあ、そう言う事なら仕方ないさね」
残念がるようにイブ・リムスはそう言う。出来る事であれば、この妹分を主の供にしたいと言うのも本当であったから。彼女の性癖は困ったものであり、その外見に似合わず同性であれば経験は豊富であり、それだけで頭が痛くなる。が、同時に主に対する思いが本物である事も確かであり、それは誰にも負けない物であるとイブ・リムス自身が断言できる事であったから。
「では、アインズ様の供は……」
「ならば、私が立候補いたしましょう!」
再び会議が振り出しに戻り、話し合いに入るべき口を開きかけたアルベドの声はそれを塗り替える程に大きい声によってかき消された。
「パン ドラ ズ・ア クタ ー君」
一同を代表してプラネリアが彼の名を呼ぶ。出来る事であれば、おかしな事を口にしないでくれとその場全員が思っていたから。それを知ってか、知らずか彼は自分を売り出し始める。
「私であれば、創造主の事を誰よりも理解していると!」彼は、椅子を立つと片足を椅子にかけ、軍帽に右手を置き顔をやや下に傾ける。悲壮感を演出するつもりであったかもしれないが、意味は全く分からない。ついでに言えば、言動とも合っていないように思える。「自信があります!」今度は両手を広げ、胸をそらす。同時に椅子の上へと立つ。空から落ちて来た少女を抱きしめる前動作のようだ。「それに! 私の能力であれば、どのような事でも可能です! 文字通り我が創造主の助けとなってみせましょう!」椅子を飛び降り、外に広いた右腕を胸の前にもってきて、左手で軍服の裾を軽くつまみお辞儀をしてみせる。
「何卒、私パンドラズ・アクターにお任せを!」
彼としては、完璧に決めたつもりであるらしいが。
「却下よ」「却下ですね」「きゃ っか」「却下だね」
4人が否定して、残った統括補佐が謝罪する。ちなみに、シャルティアは口を開けて固まったままだ。
「パンドラズ・アクター様。非常に申し訳ないのですが、貴方様には別の事をやって頂きたくあります」
「何と! 確かに私であれば、他に回った方が創造主のお役に立てるという事ですか!? アルベド様、シャルティア様同様に!」
「ええ、そうなりますね」
言葉を返す統括補佐の声は先に義妹の覚悟を聞いて涙ぐんだ時とは全く声音が異なっていた。確かにそれもある。しかし……
(何なのかしらね)
(上手く言葉には出来ませんが)
(特に 心 当たり が あった 訳 では ない けど)
(別にあんたを信用していないという事ではないさ)
それでも、何だか不安が生まれてしまい。彼の発案を否決にする事にした墳墓の知恵者達であった。
偉大なる支配者のお供が決まるのはまだまだ先のようだ。