エンリ・エモットはその2人を前にして、違和感を抱いていた。目前にいるのは、現在自分の使用人となっている彼女の妹たちであるという。片目を何かで覆っている者と、どこか作り物めいた顔を持つ少女たちであったが、やはりこの世のものとは思えない美しさを持つ者たちでもある。それにしても、
(何だろう?)
何だか悪寒を感じるのであった。
(この娘達は……)
ルプスレギナにしては大変珍しく、本当に珍しく焦りを感じていた。その2人の妹、シズとエントマが目の前にいる姉妹に抱いている感情が分かるからだ。
それは殺意交じりの嫉妬。
(まったく)
珍しく駄々をこねるので、何とかあちらこちらに頭を下げ、かの主にも許可を貰い、この場を設けた訳であるのに。特にシズはその事情からすごく苦労したのだ。それでこれでは何とも言えない。が、彼女たちの気持ちも分からないものではない。
双子の守護者達もそうであるが、墳墓に所属する者たちで特に年少の者達、彼女たちにとって、アインズ・ウール・ゴウンとは仕えるべき主であるが、同時に親代わりのようなものでもあるのだ。
さて、そんな主がこの世界での足掛かりとする為にある姉妹の後見人になったのは有名な話である。自分に姉、アルベドを始めとした者達などはその決定をむしろ喜ばしく思ったものだ。なんせ、他の至高の方々がいないと分かっている以上。ほかに繋がりをもってもらうのはきっとその御心にとって穏やかなものであると断言できるからだ。
それだけではない、これまで自分たちを護る為に自らのすべてを抑えてきた御方が自ら何かを求めてくれるのは間違いなく良い傾向である。
だが、これはいわば大人の喜びとも言えよう。面白く思わない者達もいたのだ。その筆頭がまさか、妹たちとは思いもしなかったが。
(本当にお子様なんだから)
最初は単に主の養子たる姉妹に興味があるということであったが、今、確信した。彼女たちは自分たちでこの姉妹を見定めに来たのだ。
『アインズ様の養子に相応しいのか?』
と、それこそ主の決定に意を唱える愚かな行為でもあるというのに。
(私も姉ね)
何とかこの場を丸く納めたいと思ってしまう。これで自分が姉に殴られるのは良いが、この妹たちが同様の目にあうのはあまりにも可哀そうであるからだ。
確かに不敬であるが、それはこの娘たちがそれだけ主を慕っている事でもあるし、先日の件でお褒めの言葉を貰った時の喜んだ顔は中々忘れる事はできない。しかし、どうしたものか?
(お嬢様達の方は……何とか気づかれてはいないわね)
これは妹たちの最後の良心とも言うべきか、その殺気は何とか抑えてあるようであった。だからといって、このまま放置するのはまずい。
そんな彼女の葛藤を止めたのは無邪気な声であった。
「かっこいい!!」
姉妹の妹であるネムだ。その一声に僅かであるが、妹たちの殺意が和らぐ。
「すごくすご~くかっこいい!!」
「…………そう?」
「そうですかぁ?」
「うん!!」
「ネムったら」
(これは?)
具体的にどこか褒められた訳ではないと言いうのに2人は嬉しそうにしている。すごく単純だ。
「…………それなら」
「これはどうですかぁ?」
2人はいつかの訓練の時に見せたように銃火器と札を出して見せる。それにネムの視線は釘付けであった。エントマが札を10枚程適当に投げてみせて、それをシズが打ち抜く。打ち抜かれた札が軽く炸裂して色鮮やかな光を放つ。2人が共同で作った簡易式花火だ。
それに見とれるエンリにはしゃぐネムの姿があった。
「ごめんす。エンちゃん、改めて紹介するっす。こっち妹のシーちゃんとエンちゃん、ほら2人とも挨拶するっす」
「…………シズ・デルタ」
「エントマ・ヴァシリッサ・ゼータと言いますぅ」
礼儀作法で言えば、間違いなく落第点であり姉であれば怒るだろうが、自分はそこまで厳しくするつもりはない。
「えっと、その……」
「ネム? どうしたの? すいません挨拶が遅れてしまって」
「大丈夫っすよ! こっちはエンちゃん達のことは共有しているっすから」
「そう、ですよね。ネム? 本当にどうしたの?」
そこで、その少女は妹たちに迷うように視線を向けてようやくその言葉を口にした。
「お姉ちゃんて呼んでもいい?」
「「!!!」」
ルプスレギナは確信した。完全に落ちたと。
「…………うん、良い」
「良いですよぉ」
「ありがとう‼ シズお姉ちゃん! エントマお姉ちゃん!」
「「!!!」」」
「あの、良いんですか?」
「別に問題ないっすよ~」
ルプスレギナは手を軽く振りながら、問題ないとエンリへと伝える。
(流石ネーちゃんっす!)
特に心配することはないと彼女はその少女へと感謝する。これも一つの武器であろう。属性という名の。
無邪気なネムのお陰で特に問題なく時間は過ぎるのであった。