ナザリック地下大墳墓第9階層を移動する女性がいた。どうしてそんな言い方をするかというと、彼女は床に足をついて歩いているのではなく、無重力空間のスペースシャトル内を移動するように浮いていたからだ。しかし、それは別に魔法だとか、ここがそう言った場ではないというのは彼女の事を知っている者であれば、直ぐに分かること。
広げた黒い翼とくちばしのような装飾品を顔につけた女性。
彼女の名はレヴィアノール、第7階層守護者デミウルゴスが直属部隊「七罪真徒」の次席を務める人物だ。
本来飛行系の魔法を使えない彼女であるが、かといって、翼をはためかせる訳ではなく。まるで、宇宙を遊泳飛行する宇宙飛行士のような動きを見せている。それができる理由はいくつかある。まず彼女の場合、その翼を広げている所にある。といってもこれだけで上記のような動きをするには無理がある。次に彼女の職業だ。
ウェザーロード。
文字通り天候をある程度支配できるもので、彼女はそれで風をおこして飛行機の原理を再現する形で飛んでいる。が、これでもすべてではない。その割に風の勢いが弱いからだ。では、最後の要素は何かと言うと。彼女の右手中指にはめられている指輪にある。これもまたマジックアイテムであり、その効果は彼女自身の質量を1000/1程までに落とすというもの。
これは、例えば50㎏であれば、0.05㎏まで落ち、そうなれば僅かな風で飛行できている事の説明もつくというもの。では、何故彼女は飛んでいるのか?それは大きく2つの理由があった。1つは彼女自身が単純に空を飛ぶのが好きだからというものであり、そこは鳥の本能と言うべきか、あるいはそれ以外から来ているかは彼女自身分かっていない。
次に彼女自身が心掛けてのものであった。彼女の種族はハーピィ、つまり硬質的な足をもっている訳であり、それでこの墳墓の第9、第10階層を歩こうものなら絨毯を引き裂いてしまいそうであるから、というもの。ならば、この階層に来ないで、自分の持ち場である第7階層からでなければ良い。なんて言うのは流石に彼女が気の毒である。そうでなくても仕事の関係上、どうしてもここに来る必要が出てくる訳であり、その都度訪れるものとしてはやっぱりそう考えるしかない。
しかし、現在の彼女は特に何か仕事をしている訳ではなく、唯遊覧飛行を楽しんでいた。それは、これから自分がやる仕事の重大さを理解しているからそ、気分転換がしたかったのかもしれない。
(やっぱり良いわ、こうして浮いている感覚……翼を持つ者の特権ね)
ふと、そんな彼女の耳に声が聞こえた。
『申し訳ございません、ユリ姉様。遅れてしまって』
『別に良いわよ、ナーベラル。まだ時間にはなっていないのだから』
『…………後は、ソリュシャンとルプー』
『ですわぁ』
(???)
それは、彼女たちの部屋からであった。戦闘メイド、プレアデス。その姉妹たちに与えられた所だ。そこに全員が集まるらしい。何をするか直ぐに察しがつく。
(壮行会、てモノかしらね)
仲が良い事だと思うと同時に羨ましくなってくる。まるで、チームのようではないかと、そこで彼女は思いつく。自分たち、七罪も似たような催しが出来ないかと。
(あの面子……)
正直、彼女たち程仲良しとは言えないけど、それでも仲間のはずであると彼女は目的地を定め、飛行を続ける。
第7階層、そこは灼熱の大地とも呼ぶべき場所だ。常人であれば、ほぼ生存は不可能である。そんな中、彼女が訪れていたのは、地下洞窟とも呼ぶべき場所であった。
七罪真徒とは、階層守護者であるあの悪魔の直属部隊であると同時に領域守護者でもある。そんな自分たちが守っている地点というのは、ばらけており、その周囲も結構凝っていたりする。同時にそれぞれの自室も兼ねているからだ。
そして目的の人物がいるであろう所は、溶岩地帯だと言うのに、花が咲き乱れている所であった。それもすべて、特殊なもの、いわゆる魔性植物というものであろう。
その部屋、階段を下りた先の地下空間というのは変であるがそうとして言いようがないそこに来て、彼女は声をかける。
「リーダー、あたし達で壮行会やりませんか?」
「必要ありますか」
冷たく抑揚のない声、唯台本を棒読みしたような声が彼女の耳に届く。声の主はグリム・ローズ、自分たちの筆頭である人物だ。彼は現在、茨を使って器用に椅子を作り、そこで手に持った羊皮紙を確認しているようであった。嫌でも自分が彼を見上げる形になってしまう。
「いや、でも。プレアデスの皆はやっているみたいだし」
「彼女たちと私たちはまた違いますから」
全然、その気がないようであった。これは難航しそうだと思っていたら、続けて声が聞こえる。それは説教であった。
「レヴィアノール」「あなたは自分の立場をもっとよく理解しなさい」「それでは大きな失態を演じますよ」
「大丈夫です。あたしの事はあたしが一番わかっていますから」
そうそう、大きな間違いはやらない。それは彼女自身の自信だ。そんな彼女の様子を見た、いや性格には感じた彼は少々言葉を強くする。それでも声音が変わっているという事はなかった。
「もしも何かあれば私はあなたを縛ります」
「どうぞどうぞ、その時はご自由に。絶対ありえませんから」
彼の腕に巻きついている茨が蛇のように蠢く、しかしそれを見ても彼女は全然怖くないと言わんばかりに軽くそれを言ってみせ、再度確認する。
「壮行会、や」
「必要ありません」「何度でも言いましょう必要ありません」「他にやる事があるでしょうに」
(これは、駄目ね)
「分かりました!」
まだ、全然言葉を言っていないのに全力の拒否を受けてしまい、彼女は諦めてその場を立ち去るのであった。
しばらくこの話は続きます。