「それで、どう? やらない?」
「何?」
いきなりの話題転換に継ぎ接ぎだらけの体を持つ。戦闘メイド姉妹の長女よりもゾンビらしい体を持つ少女は唖然とした様子である。自分の話を終えれば、それで終わりだと思っていたのに目前の彼女は違うらしい。
「だから~壮行会」
そう、彼女は諦めるつもりはない。これからの事を考えれば少しばかり馬鹿をやらないと気が持ちそうにないのだ。
「それって、リーダーの命令?」
それを聞いて、彼女、レヴィアノールは少し不満を覚えた。自分のいう事は頑なに拒否するのにあの石頭のいう事には従うのかと。
(違うわね)
それは、少女が純粋に仕事熱心であるという事でもある。これまで、何度か彼女と共に仕事をする機会があったが、その外見、普段の振る舞いと幼さが大分残っているように見えるのに、ひとたび切り替えれば、墳墓に所属する者として恥ずかしくない働きを見せるのだ。実際そうなった彼女は強く。近接戦闘であれば、
「別にそうじゃないわよ」
「じゃあ、……聞く必要ない。仕事じゃないし」
正論ではある。普段、彼女は己の役割をしっかりとこなしており、今はその合間にある貴重な休憩時間でもあるし、その間をどう過ごすのかは彼女の自由であるし、自分にどうこうする権利はない。それでも諦めるなんて事は出来ない。
「ねえ、良いでしょ?」
「……――くたばれ」
始まったと思う。そして同時にこうも考える。やっぱりこいつはまだ子供であると。この少女は不機嫌が頂点に達した時、必ずその言葉を口にするのであった。そこで、彼女は気になったことを言う。
「あんたのそれって、単純に『死ね』じゃ駄目なの? 別にそれを本気にする奴はこの墳墓にはいないわよ」
そう、少女は見た目こそゾンビであるが、その職業の1つに死神があるのだ。別に本気で言う訳ではないし、それ位言っても良いのではないか? と、彼女は己も知らない内にかつてこの墳墓に居た者達の影響を強く受けて言うのであった。それに対して、少女は少し考えるように頭を左右に振って――無意識にやっている所からも分かる通り、これも彼女の癖、あるいはそうあれと創造された事かは分からないが――やがて、答える。
「駄目、って言われた」
「誰に?」
「チグリス・ユーフラテス様に」
至高の41人の名前が出てしまえば、それ以上聞くのは不敬であろう。彼女は続ける。
「『死ね』は、駄目だって、でも『くたばれ』は良いって」
「そうなの、ならそうなんでしょ」
(死ねとくたばれって意味は一緒、よね? 何が違うのかしらねえ?)
しかし、至高の方がそう言うのであればそうなのだろうと彼女はひとまずその話を流す。
「壮行会やりましょ」
「くたばれ、くたばれ、くたばれ」
最早少女は話を聞くつもりはないようで、その単語を呪詛のようにその言葉を繰り返す。しかしながら、その姿は癇癪をおこした子供の物で彼女にはまったく効かない。苛立ちを覚えることも、不快感を抱くこともなかった。むしろ目前の少女が子供であると再認識させ、かすかであるけど安心を感じていた。
(こういう存在って結構貴重ね)
吐いている言葉は乱暴を通り越して良くない事であるが、それがかえって微笑ましさを生んでいるようであった。しかし、次に少女が発した言葉には彼女も反応せずにはいられなかった。
「くたばれ、くたばれ、…………――鳥頭」
「あんたねええ‼ いくら何でも言って良い事と悪い事があるわよ‼」
鳥頭。それは彼女にとっては禁句であった。こんな話がある。「鳥は3歩歩けば物を忘れる」というものだ。
そして彼女はハーピィであり、鳥の部分も多大にあるのだ。そんな彼女にとって、その言葉はやはり許せるものではない。しかし、彼女自身が一番分かっていた。自分は別にその言葉だけに怒りを感じている訳ではないと、その禁句自体は先ほど少女を釣る為に出した名前の同僚や何だったら、あの人狼メイドさえ、頻繁に言ってくるのだ。
(ベルウゥ! ルプスウゥ!)
それを思い出すだけで彼らへの怒りと殺意が湧いてくるのだから、相当だ。その都度、わりかし本気の魔法を放っている。そうでもしないと彼らはやめない。彼らはその言葉の意味を分かって言っているのだ。
しかしながらこの少女は違う。はっきり言うが、彼女はあまり知識を持ち合わせていないし、本を読むこともしない。その点をあの石頭が戦闘メイドの長女に相談していたと思う。つまりだ、少女は意味合いを分かって悪意で言っているのではない。自分の見た目で、その印象で言っているのだ。
それが何よりも腹立たしく、彼女から冷静さを奪っていく。それを知ってか、知らずか少女の罵倒は続く。
「くったばれぇ~くったばれぇ~鳥頭~♪~。とっとと、くったばれぇ~、鳥頭~♪~」
その声は、歌詞が整っていれば、それこそ一流の歌い手、あるいはハープが織りなす音色のような歌声であった。が、何せ内容が内容であり、それを聞いている者もただ1人。それもその声に聞きほれている余裕などなく。
「あああ、もう分かったわよ‼」
彼女はそれだけ言うと飛び立ってしまう。このままここにいれば、感情に任せて少女と殺し合っていた事であろう。先にそうなれば、自身の負けを認めていた彼女であるが、実戦と想定はいつだって噛み合わない事が常である。かと言ってそんな事をすれば、他の者達に迷惑が掛かる訳であるし、何より恩人たる主が悲しむだろう。それは出来ないと去ったのである。
そんな彼女の葛藤をこの少女がどこまで察する事が出来たのかは不明であるが、飛んでいった彼女を見送った後、彼女は鼻を鳴らした。まるで、突然やって来た嵐がやっと去って行ったかと言いたげだ。それから大切な人形を抱きしめて再び眠りにつく、その夢は良い物だったらしく眠り顔は晴れやかなものであった。