少女の罵倒交じりの唄によってその場を離れた彼女は再び第7階層の空を駆ける。当然、その胸の内は彼女への不満で溢れていた。
(フェリのアホ! 阿保! ド安保!)
やはり餓鬼はガキであったと、結論付ける。何にしても不味い、現在6人中2人が駄目であったのだから。
(まだ大丈夫よ! まだ半分以上いるんだから)
やけくそ気味にそんな思考をする彼女は次に訪ねる予定の人物を誰にするか、考える。
(残っているのは)
脳裏に浮かぶのは4人、比較的仲が良いと言える青年に、性格の悪いクソガキ、アルベドと同じように仕えている
(誰から行くべきかしら?)
最も話に乗ってくれそうなのは彼である。ならば、先に引き込むべきであるか? それとも後回しにして保険にするべきであるか?
(悩ましい所よね)
そう考えながら、飛行する彼女は無意識的に第7階層のそこへと飛行していた。彼女の下に広がるのは溶岩の海とも呼ぶべきものだ。
本来であれば、全ての生物が触れた途端に蒸発する地帯であるが、ここはナザリック地下大墳墓。そんな事は関係ないように泳ぎ回っている魚型のモンスター――当然、墳墓のシモベだ――姿もある。そして、彼女は忘れていた。この辺りは、同僚の1人の守護領域でもあると。
彼女の耳に乾いた音が届く。
(ん? これって、銃声かしら)
銃と言えば、戦闘メイドの下の方にその専門職の娘がいたはずである。そこで彼女は思い浮かべる。
(は~ユリにルプスが羨ましい)
その娘の他にも蟲っ娘と彼女たちの妹たちは大変素直であり、そして良い子であるのだ。出来る事なら、フェリアネスと取り換えて欲しい物だと。
しかしながら、これは結局の所「隣の芝生は青く見える」という物であり、ユリだって同様の事を時折考えているとは夢にも思わないレヴィアノールであった。
そんな事に時間をかけたために対応が遅れたとも言える。音は大きくなっていた。
(???)
ようやく彼女もその事に違和感を抱く、空気を割く音。それは、何かが高速で宙を飛んでいるものであるのだ。
(!!!)
気づいた彼女は慌てて身をよじる。その傍を通過したのは、金属片、否、弾丸であった。その瞬間、彼女は全て理解した。いや、思い出したと言うべきであろう。あの良い子なメイドがこんなことをするはずがないのだ。
(あいつ! いきなりぶっ放しやがったわね!)
これが、奴の仕業であればまだ終わりではない。耳に聞こえる空気を切り裂く音が変質していく、それは無理やり軌道を捻じ曲げているもの。
つまり――
そう考えた彼女は羽を羽ばたかせ、全力で飛行を行う。目に力を入れてみれば、先程飛んだ弾丸がまるで、アクロバット飛行のように上空でUターンしてみせているのだ。その狙いは言うまでもなく、自分だ。
(ロドニウス!)
この攻撃を仕掛けて来たのはそのクソガキ以外にいないだろう。
ロドニウス。
七罪真徒の1人であるが、彼には色々と困った所がある。本来であれば、この行為は許されないものであるが、彼には特別な事情があった。ある特権が与えられているから。
それは、裏切り者の粛清。
彼には墳墓を裏切る可能性のある者を判別して、そして攻撃する事が許されているのだ。だが、実際の所墳墓を裏切ろうなんて者は存在しない。現在攻撃を受けているのだって、何も自分が主に対して反意を持った訳ではない。実際彼はその為というか、相手の思考をある程度読めるという感情を読める自分以上にとんでもないスキルを持っているのだ。そして、此処までの自分の思考にそんな物はなかったはず。
(待って)
まったく無いとは言い切れなかった。先程自分は何を考えていた? 至高の方々がそうあれとされた事に対して不満を持ったではないか?
(待ちなさい! 悪いのはあたしじゃないわ!)
その事を考える前に銃声が響いたのである。ならば、あいつは問答無用で発砲した事になる。なんて奴だと彼女は思う。
(これも)
複雑に軌道を変え、自分へと迫る弾丸を避けながら彼女は考える。性格の悪さの原因を、何でも彼を創造したのは、今では唯一墳墓に残ってくださった慈悲深き主であるアインズ・ウール・ゴウン、モモンガも少し苦手に考えていた御方だと言うのだ。その御方もお隠れになって大分経つ為、もう詳しい事は分からない。それでも現在自分が厄介ごとに巻き込まれているのは確かである。
(仕方ないわね、やってやるわよ!)
ひとまずは自分を狙って飛び回る弾丸を何とかしなくてはならない。これは正当防衛であると、自分とこの事により口うるさくなる者たちへの言い訳を整えて、彼女は構える。その右手に透明な液体がまとわりつく、彼女はその持ち合わせている職業により、気温だって操ることは出来るのだ。
雨とは空気中の気体が熱によって、液体となったものが地上へと落下する自然現象である。よって、これ位の芸当は彼女にとっては朝飯前であるのだ。
彼女はその液体を鞭のように振ってみせると、自分へと迫っていた弾丸を捉える。
(どんな物質でもね)
水中であれば、その移動速度を落とす事が出来る。そもそもそれを想定して作られていないのだから。次に彼女はそれを自分の右手に持ってきて弾丸を握りしめる。そこまでしても暴れるのをやめないそれに苛立ちが募る。
(ホントにも~!)
今度は右手の熱を上げる。天候を支配できるとは熱をも自在であるという事なのだから、弾丸と言えど、金属である事には変わりない。ならば溶かしてやると、もしも現実であれば彼女も蒸発する温度まで一気に上げる。やがて、振動は収まり手を開いてみれば、溶けた金属片だった液状のものが流れ落ちる。
「ロドニウス! これ以上の攻撃はご法度よ!」
すかさず彼女は叫ぶ、こうでもしないとすぐに次弾がくることを知っているからだ。その言葉が聞こえたのかは分からないが、銃声はしなかった。
(はあ)
ため息をつきながらも彼女は降下する。困った奴ではあるが、あれでも一応、同僚の1人だ。声を掛けてみるべきであると判断しての事であった。