僕のヒーローアカデミア(若本規夫)
轟の繰り出す氷結が対戦相手である出久とエイリアスに向けられる。
だがその攻撃全てが出久の個性として現れた力…“エイリアス”の空圧砲により妨げられる。
授業やUSJ事件で見てきた物とは違う、出久の力。
自立起動で動く“エイリアス”と、自らも武装を装着する個性…その圧倒的な強さの前に轟も攻めあぐねていた。
「どうした!出したまえ!君の本気を!!それとも同級生には力を出せないのか?それほどまでに君は律儀な男か!!」
「………」
氷結による身体の冷え。
それにより動きが鈍くなっている轟に対して出久が叱咤する。
普通なら特待生であり、体育祭2種目を上位で突破したエンデヴァーの息子である轟に対してその発言は身の程知らずと言われるだろう。
だがこの試合を見ている観客は、この発言をした出久に対して侮蔑的な視線を向けていない。
何故なら試合が始まってから出久は、その場から一歩も動いていないからだ。
遠距離からの氷結は全てエイリアスに遮られ、接近して直接掴もうとすれば出久自身が武装している個性で吹き飛ばされてしまう。
しかも段々と動きが鈍くなっている轟を追うのは誰の目から見ても難しくはなかった。
「…だったら初戦でぶっぱなしてねえよ!!」
狙いを一点に…出久に定め、今まで見たことのない速度の氷結を繰り出す轟。
「違う!足りないッ!その程度の抵抗など見たくもないッッ!!」
最高速…今まで以上のスピードを思わせる速さの氷結さえも、出久の両手の武装から放たれる空圧砲で押さえ付けられる。
「エイリアスッ!!」
「チッ!!」
飛び出してくるエイリアスに舌打ちしながらも氷結で足止めをする轟。
だがエイリアスに意識を向けている隙を逃すほど出久はお人好しではない。
「この程度かぁ!君の力は!!」
「ガハッ!!」
出久は装備された両腕の空圧砲を利用し、一気に轟の目前まで飛び込み…正面から殴り飛ばした。
殴られた勢いで地面を転がるが、場外に落ちるギリギリで踏ん張り外に出ることを堪える。
思いっきり拳を喰らい、ふらつきながらも立ち上がる轟。
だが力の差を明らかにされ、戦意が少しずつ削れていくのを体感する。
「これでは母親の仇はとれないな!」
「…ッ!!」
失いかけた戦意。
それが出久の罵倒により再び燃え上がる。
「大切な物も守れない!信念も貫き通せない!!」
父親に向けていた憎悪…
轟の中で、それ以上の怒りがふつふつと沸いてくる。
「母に申し訳ないと思わないのか!一歩たりとも前に進めず、それでも父への憎悪を盾にして右の力に執着する!!」
「それでも!それでもここでヒーローを目指している男か!!轟焦凍ッ!!!」
大切な母親を出しての罵倒。
それは轟の逆鱗であり…怒りを爆発させるには十分の言葉だった。
「貴様ぁぁぁぁぁ!!!」
「ッ!?」
轟の左から燃え上がる炎。
絶対に使わないと言っていた父親から引き継いだ個性。
それが出久の言葉によって引き出された。
この試合を見ていたエンデヴァーは内心焦っていた。
テストベッドとして有益だと思っていた出久の圧倒的な力。
これほどまでに完璧に個性を扱い、息子を圧倒する者。
例え息子が左の力を使う切っ掛けになったとしても、あの力はエンデヴァーですら脅威と感じている。
それを相手に焦凍が勝てるかどうか……
「……緑谷出久、ヤツは何者だ…?」
左の炎により体温が正常に戻る轟。
出久から目を離さず左手を握ったり広げたりし、自分の感覚を確認する。
「…力が欲しい訳じゃない。ただみんなを救えるヒーローに……母さんも笑顔で見てくれるヒーローになりたい…それだけだった」
ぐっと拳を握り、出久を睨み付ける。
「ああ、そうだ…今でもそうだ。そのためにお前を倒さなければならないのなら、あとはもう…何もいらない!!」
左手に炎、そして右手に氷を出し…力をためる。
次の一撃で出久を倒す…憎悪は消え、その意志だけが轟の瞳に宿っていた。
「そうだ、その目だ…それでいい。それが見たかった」
「だが!私とて退くわけにはいかない……エイリアスッ!!!」
轟の攻撃が来る前にエイリアスを突撃させる出久。
だがそれを予見していたかのように轟は氷結でエイリアスを固め…
左の炎で、出久をも飲み込む最大火力を放った。
「…いい目になったじゃないか、ヒーロー」
轟の目を見て満足そうに呟いた出久。
だがその声も炎の直撃と、冷えた空気の膨張による爆発にのまれ…掻き消されていった。
爆発により場外へと弾かれた出久は失格となり……三回戦への切符は轟の物となった。
「…緑谷、どうしてあんなことをした」
「……なんの話かな」
治療室で寝ている出久の横に座る轟。
思いっきり背中を壁にぶつけたため治療室へと運ばれたが、特に異常も無かったのでそのまま寝た状態になった出久。
勝負に勝利した轟は次の試合のため他の試合も見るべきだが、さっきの怒りを誘発するような言動が気になるため出久の横で起きるまで待っていたのだ。
「…お前の挑発がなければ、俺は左を使わず…そのまま負けてただろうよ」
右手しか使わない轟に圧倒していた出久。
たしかに、そのまま勝負を続けていれば出久は確実に勝ててただろう。
だが出久はそれをせず、轟に全力で来るよう挑発した。
全力で来る相手を倒して実力を見せる…たしかにそういう人間もいる。
だが轟が知る限り出久はそういう類いの人間ではない。
むしろ勝機を見ればその点を突いて勝ちに行く人間だ。
だからこそ、轟は勝ったことに喜びはしたもののその疑問だけは心に残っていた。
「…君の目を見たからだ」
「俺の目…?」
優しげに微笑みながら出久は続ける。
「戦闘訓練で初めて君を見た時、私は目を離せなかった」
「他者を守るための氷、敵を倒すための炎…その2つを兼ね揃えたヒーローがそこにいたのだから」
「だが、それを使う本人の目はヒーローとは違う…何か得体の知れない物を映していた」
「一体何が君の瞳を曇らせているのか……それを知ったのがついさっき、騎馬戦が終わった後だ」
「父親への畏怖と憎悪、母親への後悔と懺悔…学生が背負うにはあまりにも酷すぎる過去を、君は一人で抱えていた」
「復讐に似た君の目的…それを否定するつもりはない。だが、それでは君自身が救われない…何よりも轟焦凍というヒーローの未来が閉ざされてしまう」
「…まさか緑谷、俺を怒らせたのは……炎を使わせたのは…」
「氷結と火炎、その2つを使い私を倒す時…君の目は濁った復讐心ではなく、私を倒す真っ直ぐな瞳をしていた」
「すまなかった…本気を出させるために、私は君のことを酷く罵倒した…」
「緑谷……お前、なんでそこまでして……」
「君の救いに、なりたかった」
異常が無かったとはいえ、強打により身体が起こせない出久は握手を求めるよう…ゆっくりと右手を轟に差し出す。
「許しを請える立場ではないのは重々承知の上だ…だがせめて、健闘した君と握手を交わしたい」
相手から憎まれようとも救おうとする出久の行動。
それに比べ、自分勝手な感情で戦っていた自分があまりにも小さく見えた。
轟は言葉にできない感情を抱き、差し出された手を強く握った。
「ありが…」
「礼を言うな、緑谷」
出久の言葉を轟が遮る。
許される立場でないのは知っている…だから出久は悲しそうな顔をしながらゆっくり頷いた。
「違うだろ……礼を言うのは、俺の方だろうが……」
助けられた上に礼まで言われたら轟に立つ瀬がない。
だから轟は出久の言葉を遮り…頭を下げた。
「……ありがとう、緑谷…」
轟の心の底からの感謝。
それを見て出久は、静かに微笑み……ゆっくりと眠りについた。
この出久は老練ですので原作より顔立ちが大人ですが、個性によって老化はしないのでただ眠ってるだけです。
人間ワープもしませんし、ギャランドゥも出しません。
他にもスクライドのキャラクターで何かしら思いついたら時系列やこの話関係なく僕のヒーローアカデミアで投稿するかもしれません。
……マスキュラーVS緑谷(スーパーピンチ)