波風 閃は中学に入って最初の夏休みまで自身は両親と同じ無個性だと思っていた。
一歩間違えば死んでしまう様な体験を経験したことで己の力、“個性”を自覚する事が出来た。
それから家に居るときは“個性”で何が出来るかを調べ、“個性”を鍛えた。無個性だと思っていた時から無個性でもヒーローになる為には必要な事だと思い筋トレやランニングで身体は鍛えていた。
ヒーローの中でも無個性に近い人を調べ、その人のスタイルを見て参考にもした。力が弱いならば、物を投げるなどして“敵”を鎮圧すれば良いのでは?と考えてボールや苦無、手裏剣を狙った場所に投げれる様にもした。
“個性”届けには「瞬間移動」にしているが、瞬間移動は“個性”の力の一端であり自身が使って最もしっくりときたのが瞬間移動だったからに過ぎない。
ゲームや漫画で言うところの〈氣〉や〈魔力〉に近いエネルギー。閃はこのエネルギーを〈チャクラ〉と命名した。このチャクラが波風閃の“個性”である。
瞬間移動はこのチャクラを使って行われている。
チャクラを手に込めながら生物、非生物問わず触れた場所にマーキングを施す。そしてマーキングのある場所にチャクラを消費して瞬間移動が出来る。
■■■■■■■■■■■■■■
実技試験で用意した鉄串にはテーピングした持ち手にマーキングが施してあり、投げた鉄串に瞬間移動するという移動方法を用いて他の受験生を出し抜いた。
閃は誰よりも早く試験場に入り、道を駆け抜けていく。
『ターゲット発見!ブッ殺──』
ガッシャーンっ!
「まずは1ポイントっ」
突撃してきた仮想敵に心の中で驚きつつも顔には出さず対処する。
マーキング鉄串を仮想敵の頭の上に投げて仮想敵の攻撃を避けながらその機械の体に触り、一緒に投げた鉄串に跳んだ。空中に跳んだから重力に従い落下するが、既に跳ぶ前に前方に投げて地面に刺していた鉄串に跳び自分だけ地面に立ちやり過ごす。上に投げていた鉄串はしっかりと回収している。
この方法で何体もの仮想敵を
(他の受験生もやって来たみたいだね。乱戦状態になるからこれから仮想敵を上に跳ばすのは危ないかな。……この試験が敵ポイントだけしか見ていないなら戦闘系や捕縛系の“個性”ばかりしか合格しない、もちろん最低限の力は必要だ。でもやっぱり敵ポイントだけな訳ない。ヒーローとして資質があるかどうかも観ているはずだ。敵だけを倒すのがヒーローじゃない、人を救けてこそヒーローってね)
受験生の一人が素早い仮想敵に狙われていたため割って入り受験生と一緒に飛雷神で跳ぶ。
「うわぁ!……って、あれ?仮想敵は?てか景色が変わった?」
「ゴメンよ、オレの“個性”で危なかった君を移動させてもらったよ」
「マジかよ…すまん、助かった」
「どういたしまして。ヒーローは困ってる人を救けるお仕事だからね、助け合いは当然の事だよ。それじゃあオレは行くから君も気を付けて」
地面に刺していた鉄串を抜き、別のマーキングに跳んでその場から消える閃。
それから閃は仮想敵を見つけるよりも周りの受験生を優先的に救ける様に行動した。
各試験場のモニターを観る雄英の教師たち。
「この入試は敵の総数も配置も伝えていない。限られた時間と広大な敷地…そこからあぶり出されるのさ。状況をいち早く把握するための情報力。遅れて登場じゃ話にならない機動力。どんな状況でも冷静でいられるかの判断力。そして純然たる戦闘力……。市井の平和を守る為の基礎能力がポイント数という形でね」
ネズミっぽい人物から語られるヒーローに必要なモノ。
「今年はなかなか豊作じゃない?」
「いやーまだわからんよ。真価が問われるのは…これからさ!」
指定の時間になり一人の教師があるスイッチを押した。そのスイッチにはYARUKI SWITCHと書かれていた。
■■■■■■■■■■■■■■
轟音と共に出現した0ポイントの仮想敵は試験場に建てられていたビルよりも高かった。
「うーん、どっちかって言うとドッスンじゃなくてクッパだよ、アレ」
0ポイントの仮想敵を見てズレた感想を述べた閃はビルの屋上に飛雷神の術で跳んでいた。
(あの大きさを跳ばすにしても跳ばす場所が確保出来ないし、チャクラが足りるか分からない。まだ未完成の『螺旋丸』を使うか…それならば『颶風丸』で吹き飛ばした方が良いか……ん?)
地上の方を見てみると受験生の女の子が瓦礫に足を挟まれて倒れていた。
「くっ、間に合え!───え?」
女の子の近くの地面に鉄串を投げ、飛雷神で助けに向かおうとした瞬間……何かが0ポイントの仮想敵に向かっていった。
すぐにそれを確認しようと顔を上げるとあの縮れ毛の少年が0ポイントの仮想敵を殴り壊していた。
そして彼の身体を視て持っていた鉄串を彼に当たらないスレスレの位置に投げて縮れ毛の少年が落ちた柘榴にならない様にする為に、ヒーローとして困ってる人を救ける為に跳んだ。
「おおおお!!?(オールマイトの力だぞ!たった十ヶ月!ギリギリ収まっただけ!僕はまだ!スタートラインに″立つ権利″を与えられただけなんだ!)」
縮れ毛の少年緑谷は右腕と両足の痛みに耐えながら考える。
(考えろ!どうしよう!両足と右腕は壊れた!
「安心して、オレが来たからもう大丈夫だよ」
「───へ?」
いきなり耳に入った来た言葉に素っ頓狂な声を出してしまう緑谷。
そして、視界が振れたと思ったら地面にうつ伏せで横たわっていた。
「ふぅ……
「う、うん。私は一応大丈夫!そこの地味目の彼は!?」
「視たところ右腕と両足がバッキバキだ。これ以上の試験の続行はムリだね」
突然救けられて呆然とした緑谷だが「試験の続行」、その言葉を聞いて残った左腕を使い1ポイントだけでも取ろうと左腕を動かそうとしたら左肩を掴まれた。
「動いちゃダメだ!今の君は重症なんだよ!?」
「離してください!…せめて1ポイントだけでも!!」
鬼気迫る声に少女麗日は口を噤んでしまうが、緑谷の左肩を掴む閃は口を開く。
「……恨んでくれて構わない。でもこれ以上はヒーローを志す者として、一人の人間として、君に殴られても君を、この手を離すわけにはいかないよ」
覚悟ある閃の言葉に緑谷は歯を食い縛る。痛みに堪える緑谷の呻き声が響くなか、その時がやって来た。
『終了~!!!』
試験終了の合図であるプレゼント・マイクの声が響いた瞬間、緑谷は我慢していた痛みに耐えきれず気絶した。
気絶した緑谷を見て閃は大きく息を吐き出した。緑谷を飛雷神で一緒に跳ばすときは着地の事でかなりの神経を磨り減らしたからだ。
試験が終わったから改めて気絶した彼、緑谷を見た。まるで“個性”が身体に馴染んでいない、そんな印象を持った。
その後、リカバリーガールが来てくれた事で緑谷は怪我を治す事が出来た。
試験会場から戻って着替えを済ませ、予め決めていた待ち合わせの場所である校門で唯を待つ閃。
「…閃、お疲れさま」
「お疲れさま、唯。それじゃ、帰ろっか!」
「ん」
こうして、長いようで短い一般入試が終わった。