雄英の黄色い閃光   作:ヴォルト

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3話

 

 

 雄英の一般入試が終わり実家に帰ってきた閃は家の庭で未完成のままの螺旋丸の修行をしていた。

 

 チャクラの回転と維持は出来ているが、チャクラの圧縮と威力が上手くいっていない。ゴムボールを片手に載せてグニョグニョさせていた。

 

 

「う~ん。なかなか上手くいかないね。颶風丸は結構簡単に出来たのに……」

 

 

 閃の言う颶風丸は螺旋丸に必要な要素の一つである回転を主軸にしたものだ。颶風丸という名前のように竜巻を球状にした様なもので、破壊力を削り吹き飛ばす力に重きを置いた螺旋丸よりも殺傷力が若干低いのが特徴である。

 

 

『───おい、セン。螺旋丸の修行も良いが、そろそろ尾獣化の修行もするぞ。中学卒業までにバージョン3に入っときたいからな。テメェが自分の力だけでやりたいって言うから観てたが、ワシの力を使っとけばあんな小僧にデカブツを横取りなんざされなかったのによぉ』

 

「九喇嘛、でも流石に庭や実技試験の時じゃ出来ないよ?バージョン1はまだ良いけどバージョン2と3は(ヴィラン)に間違えられちゃうからね。でも、やってもバージョン2までしかしないよ?バージョン3の縮小化の目処はたってないし……」

 

『んなこと言わんでも分かっとるわ!だから何時ものところに行くぞと言ってんだろうがっ』

 

「ん!了解だよ。ちょっと準備するから待ってね」

 

『ふん、早くしろっ』

 

 

 九喇嘛。

 それは閃の“個性”である『チャクラ』の塊で、橙色の毛並みと九つの尾を持つ恐ろしい狐の姿をしている。

閃が“個性”を扱えるようになって初めて認識出来るようになり、腹をわって話をして良好な関係を築く事に成功している。

 普段は閃の体の中で寝ているが今の様に自分の力を扱えるように修行させようとする。

なんだかんだ言っても気にかけてくれる相棒だと閃は思っている。

 

 

「母さん。今から修行しに行くからね」

 

「はーい。あ、閃ちょっと待って。はいこれお茶」

 

 母からボトルを渡された閃はそのボトルからくる微かな臭いとラベルからボトルの中身を理解した。

 

「母さん……これ、お茶じゃなくて麺つゆだよ」

 

「あれ?色が似ていたから間違えちゃったのかな?」

 

「いや、ラベルに大きく麺つゆって書かれてるよねコレ」

 

「あ、今日は肉じゃがを作ろうと思ってたんだけど。じゃがいもを買うの忘れちゃってたのよね」

 

「それってただ肉を煮込んだだけだよね」

 

 

 閃の母親は“無個性”だが医者も匙を投げる程の天然というある種の絶滅危惧な個性を持っている。因みに、父親も閃も軽い天然が入っている天然一家である。

閃の中でその様子を見ている九喇嘛はそんな家族に頭を抱える。

それもそうだろう、九喇嘛の姿を見た母親の一声が「まあ、可愛いワンちゃんね!」だった。

 

そりゃ頭を抱えるも同然だ。

 

 

「九喇嘛ちゃん、閃の事よろしくねー」

 

 

 

 

 

 

 九喇嘛は諦めた。

 

 

 この家族に一々ツッコミをしていれば自分はおかしくなる、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「実技総合成績出ました」

 

「救助ポイント0で一位タイとはなあ!」

 

「仮想敵は標的を捕捉して近寄ってくる。後半他が鈍っていく中寄せ付けた仮想敵を迎撃し続けた。タフネスの賜物だ」

 

「対照的に敵ポイント0で八位。0ポイント仮想敵に立ち向かったのは過去にもいたけど…ブッ飛ばしちゃったのは久しく見てないね」

 

「そっちもスゲーけどもう一人の一位タイの奴もスゲーだろ」

 

「スタートダッシュは誰よりも早く、向かってくる仮想敵は瞬間移動で倒す。他の受験生が来てからは空中に落とさず、仮想敵のカメラに一寸の狂いなく鉄串を投げ込んでいるな」

 

「危ない受験生を救けるタイミングもスゴイな。八位の子に向かって鉄串を投げたときはどうしたのかと思ったが、八位の子にギリギリ当たらない様に投げてる。あの一瞬でそんな事が出来るなんてスゴイ技量と言わざるを得ないな」

 

「それもそうですが、私は波風少年の立ち振舞いがスゴイと思いますよ。それに、八位の緑谷少年に言ったあの言葉には確かな覚悟があった」

 

「そうだね。まるでオールマイト(キミ)みたいなセリフだったね。この子は良いヒーローに成るだろうさ。さて、このあとは合格者に送る映像を撮らないとね。オールマイト準備は良いかい?」

 

「HAHAHA!それくらいは大丈夫ですよ校長先生!」

 

(波風か……個性届けには出された当初は瞬間移動だったが今はチャクラってのに変えている。瞬間移動は応用ってことか?まだ何か隠してそうだな、勘だが)

 

 

 

 

 

 

 

 

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「閃~九喇嘛ちゃん、雄英合格おめでとう~」

 

「はい?」

 

『は?』

 

 

 誰もいない山で尾獣化の修行を終えて家に帰ってきた閃と九喇嘛は突然の母からの雄英合格の言葉に素っ頓狂な声を出した。

 

 

「えっ…と、母さん?なんで合格だって分かるの?」

 

「雄英からの合格通知を見たからに決まってるじゃない!はい、これ」

 

『ワシ、なんか疲れた……』

 

 

 

 母から手渡されたのは確かに雄英からの合格通知だった。……封が切られた状態のだが。

 

 一応、確認の為に自分の部屋で同封されていた映像装置を再生させる。

 

 オールマイトが映り今回の試験内容の話を聞き、合格の言葉と実技一位タイの言葉に軽くガッツポーズをとる閃。九喇嘛からは満足するなというダメ出しを食らう。

唯からの合格したというメールに返信し、夕食を食べる為にリビングに向かう。

 

 夕飯のおかずはちゃんとした肉じゃがだった。

 

 

 

 


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