東方新記伝 : リメイク版   作:黒鉄球

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どれくらい期間空いたか忘れました。多分一週間(テキトー)。どうも黒鉄球です!

式上零人さん、戦場 rimさん、イリュドラさん、お気に入り登録ありがとうございます!


第十一話 紅魔館の主人

 

 

 

「落ち着いたかしら?」

 

「あぁ、見苦しいもん見せたな」

 

多分五分ほどだろうか。俺は泣いていた。子供のようにあやされて正直かなり恥ずい。なんか生暖かい視線送ってくるし、すげぇ格好つかねぇ。

 

「気にすんなって。私はどんなお前でも受け入れてたからな!それに私たち友達だろ?お前がどんなもん抱えててもそれは変わんないって!」

 

魔理沙はそうやって得意げに帽子を上げ、ニカッと笑った。まったく敵わねぇな。もし、こいつのような奴が外の世界にいたのなら俺ももうちょいマシな生活送ってたのかな。ま、仮定の話に意味なんてないけど。

 

「霊夢さんいいな……羨ましいです」

 

 

「何かあったかしら?」

 

「え!?いや、なんでもないです!」

 

「?……ならいいんだけど」

 

「美鈴顔赤いよ?どうしたの?」

 

「な、なんでもないです!」

 

「私は聞こえてたけど」

 

「パ、パチュリー様!」

 

なんか向こうはワイワイやってなんだか楽しそうだ。やっぱり身体を張った甲斐があった。でなきゃこんな光景は見れなかっただろうからな。そう考えると俺の存在も少しは役に立ったんだな。

 

そんなことをしみじみと思っていると霊夢の視線が俺の腕へと移っているのがなんとなくわかった。

 

「ねぇ、その傷っていつ治るの?」

 

「こんだけの傷だし、完治するには四日から一週間はかかると思う」

 

実のところ俺は自分のこの再生能力を把握しきっているわけじゃない。分かっているのは傷口が小さけりゃ一瞬で治るし、大怪我ならもっとかかる程度だ。

 

「なんかいい加減な能力ね」

 

「言うと思ったわ。でもしょうがねぇだろ。これが俺の能力なんだから」

 

「なぁ皐月」

 

次いで魔理沙が口を開いた。

 

「なんだ魔理沙」

 

「その能力って他人にも適応されるのか?」

 

「ある程度な。死にさえしなければ俺の能力の効果領域だよ」

 

魔理沙は俺の説明に驚きの声をあげて更に質問を続けようとした。が、それを遮るようにドアをノックする音が聞こえた。

 

「し、失礼します」

 

扉を開けたのは赤い長髪をして、黒い羽を生やした、白いシャツ、黒のベストと黒のロングスカート、赤のネクタイを着用した女の子だった。

 

「あら、こあじゃない。どうしたのかしら?」

 

どうやら彼女の名前は『こあ』と言うらしい。珍しい名前だな。是非とも名付け親に名前の由来を聞きたい。

 

「あの……お客様に、さ、皐月様にお嬢様が、お会いしたいと」

 

……俺を見るたびに言葉に詰まるのは何故なのだろうか。いや、こんな怪我人前にしたら普通そうなるか。再生してるしな。

 

「レミィが?………分かったわ。皐月、立てるかしら?」

 

「問題なく」

 

霊夢に少しずれてもらい、俺はベッドから降りた。少しバランスを崩したが霊夢が支えてくれてなんとか倒れなかった。

 

「大丈夫?」

 

「あぁ、腕を欠損したの久しぶりだからちょっとな」

 

「過去に一度欠損したという事実に驚きなんだけど……」

 

俺の言葉に思わずといった感じでツッコミを入れたパチュリー。まあ普通はありえないからな。あの時は左腕だったかな。今でも鮮明に覚えている。あの時は『姫様』を……っと、んなこと思い出してる場合じゃねぇな。早く行こう。

 

「えっと、こあだっけ?案内してくれるか?」

 

「!あ、え、あの、……はい」

 

俺はこあの前に立った。やはり俺の前だと何故か目をそらし、言葉が少し詰まる。ベッドからじゃ見えなかったが手が震えているのが分かった。

 

「皐月、彼女は男性が苦手なの。だから悪い気はしないでほしいの」

 

後ろについていたパチュリーが少し慌てたように言った。恐らく俺の能力のことを怖がっているのだろうと思っていたのだろう。まぁ思ってたけど。まぁそういう理由があるのなら気にはしない。俺はその意を手振りだけの伝え、パチュリーも一緒に来いという意図を伝えた。流石に彼女一人に俺の相手をさせるのは気がひける。

 

「それじゃ案内頼む」

 

「あ、は、はい……」

 

………とてもやりにくいんだが。

 

 

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

 

「あ、こ、ここが、お嬢様のお部屋……です」

 

「……おう」

 

長い廊下を歩きお嬢様の部屋へと着いた。廊下が長すぎて退屈だったのは口には出さない。怒られるかも知れんから。

 

「お嬢様、連れてまいりました」

 

「入りなさい」

 

こあが部屋の扉をノックしたらすぐに返事が返ってきた。俺は「失礼します」、と一言入れてから部屋に入った。

 

「ようこそ、私の部屋へ」

 

そこには高級そうな椅子に座る幼女がいた。その姿はどこか凛としていて、カリスマ性を感じさせた。

 

「あぁ。えーっと、自己紹介しとくか。俺は神条皐月だ。皐月って呼んでくれ」

 

「そう。私はレミリア・スカーレット。レミリアで構わないわ」

 

一通りの自己紹介を終え、お嬢様改めレミリアは俺の後ろにいたパチュリーとこあを下がらせた。二人で話しがしたい、という理由だ。こういう時の空気は少し気まずい。その空気をレミリアが壊した。

 

「一先ず、貴方にはお礼を言うわ。貴方のおかげで美鈴も咲夜も、フランも誰一人死なずに済んだ」

 

「気にすんなよ。俺がやったことはただの自己満足だ。ただあいつらを守りたかった。そんだけのことよ」

 

事実嘘ではない。俺は霊夢を死なさない為に行動し、フランを止める。結果的に他の人たちの被害が最小限になったと言うだけのことだ。俺がやりたかっただけのことだ。あまり過大評価されても困る。

 

「それでもよ。結果的に貴方はみんなの命を救い、フランの心さえ救ってくれた。だから主人として、姉として貴方にはお礼と謝罪をするわ。ありがとう、そしてごめんなさい」

 

レミリアはそういうと俺の顔、腕と順番に見た。どうやら今回の異変での被害を受けた俺に負い目を感じているようだった。なるほどこいつもか。

 

「礼はともかく謝罪なんていらん。俺が勝手に首突っ込んで負った怪我だぞ。だからお前は謝らなくていい。それでもなんかあるんなら一つだけ言わせてもらう」

 

「ええ、なんでも言ってちょうだい」

 

お?いまなんでもって言った?なら遠慮なく言ってやろう。

 

「今回の異変で目に見えた怪我を負ったのは俺だけだ。俺はこの傷に関しては胸を張って誇るし、後悔もない。だからもう謝んな」

 

「……わかったわ」

 

俺はただ俺の想いを伝えた。俺には後悔も憂もない。霊夢達を救うことができ、結果的にだが俺を認めてくれたみんなとも繋がりを持てた。レミリアは少し不満そうではあったがそれを了承した。一応これで俺とこいつとの蟠りはなくなったと見ていいだろう。

 

「………貴方がフランに好かれた理由が分かった気がするわ」

 

「別に特別なことはなんもやってねぇよ。信頼する。ただそれだけであの子は報われたはずなんだ。あんな大掛かりな異変を起こさなくてもあの子の狂気は軽減されてた」

 

「!………気付いてたの?」

 

「まぁな」

 

レミリアは意外そうに驚いた。実は此度の異変はすべてフランの狂気を解消するために行ったものだ。あの紅い霧で太陽を隠し、フランを外へ出す。吸血鬼にとって太陽は大きな弱点となり得る。それ故に太陽は邪魔となった。そこでこの大掛かりな異変だ。これが止められなければ人間に甚大な被害が出ていた代わりにフランは自由に空を飛べ、狂気に侵されずに過ごせると考えてたのだろう。そう推論を立てた。まぁこれはレミリアにも恩恵があるから完全にフランの為というわけではないと思うが。

 

「貴方、面白いわね。どう?紅魔館で雇われない?貴方のその洞察力と力を私のために使わない?」

 

レミリアが席から俺の前に移動して手を差し伸べながらそう言った。なんというかとんでもなく図太い性格だ。……俺一応勝者なんだけど。まぁそれはどうでもいいや。レミリアの提案は正直魅力的だし三食飯付きで金も入る。魅力しかない。もちろん俺は。

 

「断る」

 

その勧誘をける。外の世界での憂いを断ち、自由に生きると決めた。たとえ好条件であっても俺は今ある生活(・・・・・)を大切にしたい。レミリアはやっばり、と言った顔で手を引いた。

 

「分かってはいたけどここまでキッパリと振られると流石に堪えるものがあるわね」

 

分かってた。その言葉に疑問を抱いた俺はどういうことか説明を求めた。

 

「貴方は知らないんだったわね。私は【運命を操る程度の能力】を有しているの。と言っても自力で使えないんだけどね」

 

「それ操るって言わなくね?」

 

ちょっとした矛盾に速攻でツッコミを入れてしまった。レミリアはクスクスと笑いだした。

 

「確かにね。でも間違ってないのよ。私の能力は未来予知に近いの。その人の運命を見ることでその人に訪れるはずの幸や不幸をなんらかの形で干渉することで運命を左右することができる。だから【運命を操る程度の能力】なの」

 

レミリアの懇切丁寧な説明のおかげで納得いったがここで一つ疑問を抱いた。

 

「その能力で運命ってのはいつでも見れるのか?」

 

「見れるのなら早めにこの力を行使してフランの狂気をどうにかしてるわ。わたしの能力はいきなり頭にそのビジョンが見えたり、夢で見えたりするの。滅多に起きないけど」

 

レミリアの一言で確信した。こいつの能力は俺のと同じだ。俺の場合は夢でしか見れないから使い勝手は悪いが能力としての効果はほとんど変わらない。俺の能力の一端のことを話すか悩ましい。そんなことを考えているとレミリアは「でも」と話を続けた。

 

「でも、私の見た運命と違う未来になったのは初めてだわ」

 

レミリアは少し神妙な顔になり、話をさらに続けた。見たものが違う。どういうことだろうか。

 

「お前が見たものってのはどんなのだったんだ?」

 

「私とフランが外で霊夢と魔理沙を相手に戦ってたわ。でも、途中でフランが狂気に落ちるのよ。それで……」

 

レミリアはそこから先を話そうとしなかった。流石にここまできたらわかる。俺の見たものと同じだ(・・・・・・・・・・)。ならここからは俺から言ってやろう。俺の能力とともにな。

 

「霊夢がフランに殺されるんだろ?【ありとあらゆるものを破壊する程度の能力】で心臓でも握りつぶされてな」

 

「!な、なんで分かったの……」

 

レミリアは目を見開いて驚いていた。心でも読まれたのかと一瞬眉間にシワが寄ったのが見えたのですぐに説明を始めた。

 

「俺の能力だよ。【自然を操る程度の能力】の一端である超自然能力と呼ばれる【予知夢】でその結果を三日前に見たんだよ」

 

「……あなたも同じ能力を?」

 

「ちょっと違う。俺の場合は夢でしか見れない上に頻度がかなり少ない。その上厄介なことに直前にしか見えない。ついでだ。俺の能力のことを話しておこう」

 

俺はレミリアに俺の能力のことを話した。自然現象から超自然現象たる超能力の一端を操れること、俺の傷が再生した理由もフランたちに話したことを余さず説明した。

 

「………そうだったのね。あなたもフランと同じような境遇にいたのね」

 

「俺もあいつも能力を恐れられてたけど、ここにはそれを気にしない奴らがいる。むしろそれしかいないけどさ。当たり前だけど俺も放ったりしない。中途半端に投げるのは嫌いだからな」

 

過程はどうであれ、俺はフランの苦しみを知った。今は部屋の外を出て普通にしているがいつ狂気に侵されるか分からない。だから俺は手を伸ばす。救われぬものに救いの手を、なんて言葉を何処かで聞いたが少なくとも俺は救われた。その意図がなかったとしてもその事実に変わりはない。だから今度は俺が手を差し伸べる。後悔の無いように、誰も失わないように。あの時(・・・)と同じように。

 

「ふふっ、やっぱり貴方は面白いわ」

 

「だからって俺はお前のもとにゃいかんぞ」

 

「分かってるわよ。だから貴方は」

 

レミリアはそう言って俺に告げた。多分俺はこの時のレミリアの顔を一生忘れないであろう。

 

「私の友達として、仲良くしたいわ」

 

吸血鬼としてでも紅魔館の主人としてでもなく、少女としてのレミリア・スカーレットが満面の笑みを浮かべていたのだから。

 

 

 




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