第十二話 宴会〜鴉の襲来〜
「偉い人数が来たもんだな」
「いつもの事よ。あんたの歓迎会でもあるんだからあんたも楽しみなさいよ?」
レミリアとの話が終わった数日後、博麗神社にて異変解決を祝して宴会が開かれた。しかも俺が幻想入りしたということもあり、いつもより豪勢になっているらしい。魔理沙や紅魔館の連中、その他知らない顔がいた。ざっと数えても50はいる。しかもその半分以上が羽生えてる。霊夢曰く、妖精らしい。妖精、子供ばっかだな。
「しかし、よくまぁここまで集まったな」
「みんな騒ぎたいだけよ。いつもいつも騒ぐだけ騒いでゴミは私が捨てる羽目になるんだから……」
少し憂鬱そうに話す霊夢。なんか苦労が偲ばれる。本当に苦労してるんだろうな、と容易に想像がつく。さっそく酒瓶倒してるやついるし。
「てめぇなに酒倒してんだゴルァ!お前啜れよ?!それ勿体ねぇから啜れよ!!」
「え、あ、ちょ、おま、待てってゴブボボボボボっ!!!」
……酒を倒したやつが怒られて地面に顔面を押し付けられてる瞬間に俺はそっと目を逸らした。あの黒い羽と赤い下駄には見覚えはないが多分鴉天狗だろう。カラスの要素は黒い羽しかないが
「どうもどうもどうも!!!」
「うおっ!?」
踵を返してその場を立ち去ろうとしたら目の前にいきなり女の子が降り立ってきた。思わず驚いて後ろに飛んでしまった。その時に全体像が見えた。黒いスカートに白のワイシャツ。胸には黒のリボンをつけた赤い下駄を履いた女の子。そして一番特徴的だったのは背中に生えてる黒い羽。鴉天狗(仮)か。てか……。
「いきなり出てくるんじゃねぇよビビるだろうが」
「あやや。これは失礼しました!」
俺の指摘にすぐ反応して謝ってきた。そして右手を額にあて、敬礼をした。といっても手に持ってるメモ帳がとても気になるが。
「私、清く正しい射命丸こと、射命丸文です!あなた、最近外の世界からきた方ですよね!ぜひ話を伺いたいのですが!!!」
めちゃくちゃグイグイ前に来るなこいつ。鴉天狗は頑固で真面目。融通が利かず、縦社会に厳しいって聞いてたんだけどなんで
「あの……聞いてます?」
「え、あぁ、悪い。少し考え事をな。で、さっきから気になってたんだけどその手に持ってるメモ帳は?」
話を聞いてるか不安になって敬礼が崩れていたので少しだけ申し訳なくなったがそれよりもこいつの態度と手に持ってるメモ帳が気になったからとりあえず話を進めてみることにした。
「え、あぁ。私は文屋なんですよ。『文々。新聞』というものを書いてるんです」
「……新聞?」
どうやらこの鴉天狗は新聞記者らしい。あぁ、だからメモ帳を持ってたのか。確かにそれならメモ帳を構えてる理由に合点がいくが……なぜ今構えてるんだろうか?
「ええ!私はここ幻想郷で起きた出来事を記事にしてみんなに配ってるんです!もちろんお金は取りますけどね♪」
成る程なんとなくわかってきた。こいつは俺のことについて書く気なんだな。外来人の幻想入り&異変解決。この両方を抑えれば確かに売れ行きも話題性もある。目立ちたくない俺としては出来れば断りたいところだけど……。
「取材させてください!」
こんな目を輝かせてるやつを諦めさせるのは骨が折れそうだ……。
「答えられんものは答えないからな」
俺自身が折れる。これが最善で最短の答えだった。
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場所を変えて縁側に座った。立ち話もなんだから座って酒でも飲みながらやろうと提案した。外の世界じゃ酒は二十歳からだったし、飲んだことないのに我ながら変なことを提案したものだ。
「それでは取材の方を始めたいのですが………」
最初の方は「え!いいんですか!じゃあそうしましょう!」と乗り気だった文が縮こまってしまっている。まぁ理由はわかってるんだけど。
「「………」」
霊夢とフランがなぜか睨みをきかせているせいで本当にやりずらそう。この視線だけで人殺せるんじゃねぇかと思うくらい怖い。向けられてない俺がいうのだから間違いない。
「お前ら落ち着けって。ただの取材だから」
「だからでしょうが。こいつロクなこと書かないわよ」
霊夢が目つきを変えないまま言った。俺としてはそれは少々困るから例えばどういうことを書くのか興味がある。
「例えばどんなのだ?事件ばっかり取り上げるとかか?」
「そんなわけないでしょ。こいつの書く新聞の半分は本当のことを書くの。でも残りの半分は話題作りのために変なのが書き足されるのよ」
霊夢は少し遠い目をしながら言った。まるで過去の黒歴史を振り返るように目が死んでいた。こいつ一体何を書かれたんだろうか。ものすごく気になるんだが。
「てか、全然清くも正しくもねぇじゃん」
「いやぁ、あれはああ書いた方が面白いかなって思いまして。でも反省はしてますよ?……霊夢さんが鬼の形相で追い回して来たので流石に」
今度は文が死んだような目をしていた。それだけ怖い体験をしたということか。そしてそんな事をするまでに霊夢を怒らせたのか。ほんとどんな記事書いたんだこいつは。
「当たり前よ。あんたのせいで魔理沙と誤解を解くのに凄い時間かけたんだから」
霊夢の言動的にどうやら魔理沙にも被害はあったようだった。可哀想に。だが余計にその記事を読みたくなったのは内緒だ。こんど文に読ませてもらおう。
「それでお兄様どうするの?しゅざいうけるの?」
さっきから空気だったフランが声をかけてきた。ただ、タイミングが少し悪い。具体的には最初の言葉が危うい。
「あ、お前今それ言ったら…「
ほら見ろ文が食いついた。霊夢がまだ睨みをきかせているというのにそんなものは後回しだと言わんばかりにメモ帳とペンを構えている。まずいな。何がまずいってこのままじゃ要らんゴシップ記事を書かれそうだ。下手なことは言わないようにしないと。
「そのままの意味だよ?」
フランが悪びれもなく答えた。当然かのように。俺はすかさずフォローを入れた。
「フランの相手をした結果だから。やましい意味はないから」
いや、もっとマシな言い訳あっただろ。何テンパってんだ俺。絶対変な事を書くなこいつは。だが、目の前の光景は文が「なるほど、異変解決が……」とブツブツ言いながらメモを取っていた。
「それじゃあ次の質問いいですか?」
メモを終えた文が更に質問をしてきた。どうやらさっきのでスイッチが切り替わったらしい。ここまできたら断るのも申し訳ないので頷いておいた。文はじゃあ、と一言置いて次の質問を決めたらしい。
「皐月さんと霊夢さんって付き合ってるんですか?」
「は?「ぶはっ!?」
いきなり異変とは関係ない上に予想だにしない事を聞かれた為素っ頓狂な声を上げてしまった。そして霊夢は口に運んでいた酒を文に向かって噴き出した。
「うわっ!ちょっ、いきなり吐かないでくださいよ!」
「あ、あんたが変なこと聞くからよ!!」
霊夢が顔を真っ赤にして猛抗議をしていた。別に恥ずかしがってるとかではなく、普通に怒ってる。何故ならこめかみに青筋が浮かんでいたからだ。ほんと、このゴシップ記者は下世話が好きらしい。
「……とりあえずハンカチ貸してやるから顔拭け」
俺は左ポケットからハンカチを取り出して文に差し出した。流石に酒まみれのやつと話はしたくない。それに風邪を引かれても困る。
「え、あぁ、ありがとうございます」
「気にすんな。そんでさっきの質問の答えだけど『ノー』だ」
さらっと質問に答えて適当に流す。文はハンカチで顔を拭いて、すぐにその事をメモし始めた。
「………」
なんでか知らないけど霊夢の視線が俺に向けられている。しかも睨みつけてるように見える。なんか怒られるようなこと言っただろうか?わからん。霊夢の事で悩んでいるところでフランが俺の服の袖を引っ張っていた。どうかしたのだろうか?おしょんか?
「どったの?」
「え、えっと……」
何かを言おうとしているが口ごもっている。本当におしょん案件なんじゃないかと思う反応だった。しかし、俺の予想とは違う答えが返ってきた。
「い、今までにいたことって……あるの?」
どうやら俺の彼女歴を聞きたかったらしい。ふむ、彼女いない歴史=年齢の俺にその質問をしてくるとはこいつ、無自覚に俺のHPを削ってきやがる。ま、別に気にしてないけど。だからそんな恐る恐る聞くな。なんか悪い気がしてくるから。
「いねぇよ。じゃなきゃ今頃俺は
多分俺に彼女がいたらどこかに行こうなどとは思わなかっただろう。俺は割と自分の性格を理解している。俺の性格上、
「そ、そっか……よかった」
俺の答えに満足したのか、安心した顔をした。何故だろう。隣では霊夢が落ち着いた顔をして酒を口に運んでいた。ものすごいペースで。明日二日酔いにならないか心配である。
「次変な質問したら叩きだすからね」
「い、嫌だなぁ霊夢さん。もうしませんって。だからお酒を飲みながら殺気をぶつけないでくださいよ」
お怒りモードで酒飲むとかこいつ怒り上戸じゃないだろうな?文は咳払いをした。
「それじゃあ次の質問に行きますね。なぜ幻想郷に?」
さっきとは打って変わって真面目な質問をしてきた。まぁでも人を取材するのに当たってこの質問は至極真っ当な質問だ。しかも俺がすんなり答えられるような質問。
「そうさなぁ。強いて言えば家出だな。俺は人を信用してなかったし疎まれてたからな。旅でもしようかと思ってその祈願でちょっと山奥の神社にお参りしようと思った矢先に
あれから約二週間ほどしか経っていないのに少し懐かしく感じた。それだけ
「……では次行きます!ぶっちゃけどうやって異変を解決したんですか?というかなぜ紅魔館へ?」
「え、あー、それか。そりゃ嫌なもん見ちまったからな。霊夢を死なせるわけにはいかなかったし。まぁ答えは誰も死なせたくなかったからだな」
俺の能力のことは伏せつつ、ありのままを説明した。実際のところ嘘は一つも言ってない。俺のポンコツ能力である『未来予知』で霊夢が殺される未来を見たからそれを阻止するために動いた。それだけのことだからな。文は頭に?を浮かべていて、つまりどういうことだってばよ状態だった。そして文はそういう事かという顔をした。
「つまり愛ですね!」
だめだこのバ鴉全然反省してない。ついさっき霊夢に怒られて叩き出すって言われたのに同じ系統のことを言いやがった。霊夢は冷静に懐からお札を取り出して霊力を込めた。
「さ、話は終わりよ。帰りなさい」
「ご、ごめんなさいつい」
霊夢の凄みですぐに文が「あやや……」と少し残念そうに
「それじゃあ次で最後にしますね。私だけに時間を取らせるのも申し訳ないので」
次が最後。この言葉を聞いて安堵したのは気のせいだろう。霊夢が不機嫌になったりフランが抓ってきたり被害を被っていたとはいえ、流石に安堵するのは失礼というものだ。いやまぁこいつの自業自得なんだけどね。まぁそんなこいつでも流石にもう失礼な質問はしてこないだろう。
「皐月さんって、どんな能力持ちなんですか?異変を解決するくらいの力がある人間なんてそうそういませんからね。私気になります!」
その瞬間、場の空気が凍った。今までタブーとされてきた能力の話。霊夢とフランは気まずそうな顔をしていた。恐らく俺の境遇のことが頭を過ぎったのだろう。しかし、当の俺は全く違うことを考えていた。いずれバレる事。今明かそうが後からバレようが結果は変わらない、そう考えていた。恐らくここの人たちは受け入れてくれるはずだ。ここは幻想郷。外とは違うのだから。
「わかった。教えてやるよ」
かなり意外だったのだろう。霊夢とフランが顔をバッと上げて俺の方を見た。霊夢は「いいの?」と聞いてきたが俺はすぐに「構わない」と答えた。たった二言ではあったが霊夢は納得したように顔をそらした。フランは袖をつかんで、心配してますと言わんばかりに力を込めていた。だが、俺の言葉を聞いてすっと袖から手を離した。
この一連の光景を見ていた文は申し訳なさそうな顔をしていた。いけない地雷を踏んだのではなかろうかと思ったのだろう。俺は気にするなと一言言って話をつなげた。
「俺の能力は【自然を操る程度の能力】だ。自然災害、自然治癒、超自然、不自然。ありとあらゆる自然の名を冠するものを操れる。ただし自然の概念そのものは操れない。例えば人が『これ
「え、何ですかそれメチャクチャ強い能力じゃないですか!」
文は興奮しながらメモ帳にスラスラと書き込んでいた。小声でとくダネだぁ!とか言っていたが気にしない方向で行こう。文が鉛筆を止め、そういえばと言葉を繋いだ。
「そういえばなんで皐月さん、右腕ないんですか?」
「「……」」
突然の爆弾発言に思わずフランと霊夢は顔がこわばっていた。霊夢からすれば守るべきものを守れなかった結果であり、フランからすれば自分の暴走のせいで失ったものだ。居た堪れなくなる気持ちはわかるが気にしないでいただきたい。そう言っておいたはずなんだけどな。
「あれ、もしかして聞いちゃいけないこと聞きました?」
流石の文も爆弾を投下したことを認識したらしい。
「気にすんな。そんで右腕のことだったな。これは今回の異変での傷だ。じき治るから気にすんなって言ってんのにこいつらがまだ気にしてるだけだから」
俺はなんてことのないというふうに言った。実際気にしてないから言えたことだが少なくとも二人からすれば負い目にしかならないだろうが、いつまでも気にしないでいただきたい。
「じきに治る!?それも能力の一端ですか!?」
不用意な発言をしたのは俺も同じのようだ。別にもう隠す必要のない事だから普通に暴露してしまった。
「まあな。俺自身が『自然と不自然の境界線』上にいるからか普通じゃ治らない傷も時間はかかるけど再生するんだよ」
流石に死んでも復活するという点は伏せた。別にこれは知られて困るとかではなく、倫理的に考えてアウトラインだと思っただけのこと。そんなことを知らずに文は「とんでもないことを聞いたぜひゃっはー!」とテンションが上がっていた。これからはこいつの前で不用意な発言するの止めようと思った。
「いやぁこれはなかなかいい記事が書けそうですよ!ありがとうございました!」
文は一通り書き終わったら凄い勢いで空へと飛び上がった。フランが小さな悲鳴をあげた。それほど唐突で、素早い動きだった。
「……慌ただしいやつだな」
「それが射命丸文よ。でもあれでも『風神』の異名を持つくらいの強さはあるわよ」
「……What?」
あっけらかんと言っていたが今霊夢は風神と言っていた。
『風神』。書いて字のごとく、風の神様。一般的に風神の名は風を操り、素早い動きをする者に与えられる二つ名である。この名を冠するということはつまり文は風を操れると見て間違い無いと思う。参ったな、こりゃとんでもないやつと知り合ってしまったかも知れないな。
流石の俺も『風神』の名を持った奴とは会ったことがない。
「く、くくくっ」
「……皐月?」
不意に笑いが、笑みがこぼれた。なぜ笑ったのかは分からない。だが唯一わかったのは。
「ほんと、面白えな。幻想郷ってのは」
俺の中に流れる血が滾った感覚があった、ということだ。
評価、感想等よろしくお願いいたします