あと投稿ペースまじですみません
姉様たちにだした提案、それは俺の生まれた町、内浦に帰るという話だ。
わがままというよりは、姉様を巻き込みたくなかったから。実際には数年間隠れ回ったので、ここまでかかったのも、アブスターゴやアサシンの目はバカにできないレベルなのは間違いないだろう
「覚えてないな…」
とはいえ、内浦の家なぞ既に燃えカスが残っているかどうかさえわからないため、沼津に安いアパートを借りた。バイト片手間、奴らへの警戒といったかんじになる。俺は死んだことにしたほうがよいというので、司法の力を濫用してここに俺がいる
しかしながら、沼津駅前に部屋を貸してくれるという大家さんが待ってるという話だが、いざ来てみると、まぁいないこと。
「探した方が良いかもな」
確認のため、上から見渡せるような場所がないか周りに目を這わせてみる
「……?なにしてんだ、あの娘」
駅前できょろきょろと明らかにこのあたりに慣れていない風だ。鮮やかな赤髪、かなり落ち着いた雰囲気が目立ち、それが第一印象だった
なんとなく、声をかけてみようと思った。もちろん、警察沙汰になれば、こっちの苦労は水泡に帰すのにだ
それでも、一度目標を後先見ずに定めれば、足どりは速い。群衆と一体化して目立たないように歩きながら目的の場所まですらすらと進む
ものの数秒で、その場でおろおろとし続ける少女の元へとたどり着く。成人男性が駅前の少女へ近づいているなんて通報のあった日には、俺の社会的名誉に多大な損害がでる。既に納税義務もろくにはたしていないのに名誉とはこれいかに
そんな話は外野へ押し退け、少女へできるだけ明るみのある無理の無い声で話しかける
「君、どうかしたのか?」
口調や表情にはでていないが、今更のようにやらかした、という後悔が押し寄せてくる
「えっ、…えっと…」
まずい。あからさまに困惑している。これはやらかした。仮にも仇敵とはいえ、アサシンの末端としては恥というものではなかろうか。いや、それ以上だ。勿論、これがアサシンがやらかした、という事実だけなら清々しいのだが、自分の身にふりかかる不幸は蜜ではなくヘドロである
「その…切符…なくしちゃって…」
「え?」
思わずふざけた声をあげてしまうが、実際に、今どき切符を買うのか、という言い訳には少し苦しい理由であったりする。だが、よく考えてほしい。最近はICカードにすると特典が付くという話もある。勿論、俺もICカードにしている。バスと電車両方に対応してるやつで、さっき買った
「ICカード、買ってないの?」
「今度、買うつもりだったので…」
「今から買ってきなよ」
「今、学生証がないんです…」
「…どこまで行くの?」
「内浦です…」
しかも結構かかるし
「よし、わかった。探そう」
「え…探す…ですか?」
「ああ、探す。電車いつ?」
「あと3分、くらい…しか」
「買いなおすとかすればよかったのに…よし、俺のやつ貸すから、内浦ついたら駅員の人に渡して。落とし物って」
「えっ、でもそれって」
「遅れるよ、迷惑ならそれで内浦ついてからだ」
ICカードを押し付けながら少女を催促させる。荷物は少なかったし、問題ないだろう
「あ、ありがとう…ござい、ます」
「ああ、じゃあ、また縁があれば」
「あの、私、桜内梨子っていいます…」
少女がぼそぼそと小さな声で自分の名前を告げてきた。ほんとに消え入りそうな声で、周りの喧騒も相まってようやく聞き取れるほどでしかない
「そうかい、じゃあ俺も返事しとこう。沖田華乃、また会うとしたら沖田でいい」
「…!はい!」
梨子ちゃんは意外といい反応を示してくれた。その後はそこで別れ、俺は家主さんを探しに再び駅前をうろつくことにする。普段から根なし草だったこともあり、最低限の生活のため、引っ越しなどと大層に言っても、ボストンバッグひとつに収まる程度である
「ほんとにいんのかよ…」
そろそろ大家さんの存在そのものを疑おうというときだった
「あー、いたいた!沖田君ね?」
後ろから突然声をかけられ、一瞬、背筋に寒気と緊張が走る
「ごめんねー、探したでしょ?」
いかにも主婦やってます、みたいな様の初老の女性がその見た目に反した高い声で俺を労り始める
「でも、実はね、今、水道管が破裂しちゃってて、一週間くらい、その、どこかに泊まってほしいの」
俺の予想からはゆうに80度は反しているであろう一言が盛大にぶちまけられる
こうして、俺の帰郷初日は、星空の歓迎が激しいであろうことが、120%確定してしまった