転生とらぶる   作:青竹(移住)

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番外編041話 if 真・恋姫無双編 11話

「どうしてこうなった……」

 

 目の前で自らの獲物でもある金剛爆斧を大きく振り回している華雄を眺めながら、アクセルが呟く。

 その手に握られているのは、この世界でのアクセルの武器でもある鉄の棍。

 ただし、鉄の棍の強度を考えると、金剛爆斧の一撃をまともに受ければ、曲がったりするのは目に見えている。

 つまり武器を駄目にしない為には、出来るだけ攻撃を食らわずに華雄を相手に勝たなければならない訳だ。

 

(……ん? 楽勝じゃないか?)

 

 内心で呟く。

 黄巾党との戦いの時に華雄が戦う光景を見たアクセルの正直な気持ちだった。

 確かに華雄はその辺の雑兵とは比べものにならない程に強いのだろう。だが、武将と呼ばれる者達の中で見れば、決して突出して強いという訳ではない。寧ろ中の下といったところ。それがアクセルが華雄に関して抱いている感想だった。

 更にその程度の実力にも関わらず、武の実力に対する過剰な自信から猪突猛進の気もある。あらゆる意味でアクセルにとってはいいカモでしかない。

 

「アクセルー、もし良かったら私が代わろうかー?」

「いやいや。あの兄ちゃん……アクセルとか言ったか? 見た感じかなり強そうやなぁ。華雄だとちょっと厳しいやろ。な、恋もそう思わん?」

「……お腹減った……」

「恋殿、これをどうぞ。こんな時の為に買っておいた肉まんですぞ!」

「ありがと、ちんきゅ」

「ああもう、袁紹の檄文を早めに知ったんだから、早く手を打たなきゃいけないのに。何でこんな事になったのかしら。華雄を呼んだのが僕の失敗?」

「お前の気持ちはよく分かるぞ、賈クよ。私もいつもいつも雪蓮に引っかき回されては苦労している……」

「周瑜……あんたとは心の底から分かり合えそうな気がするわ……」

「へぅ、詠ちゃん。止めなくていいのかな?」

 

 そんな風に聞こえてくるそれぞれの声を聞きながら、アクセルは一応念の為という事でやる気満々の華雄へと尋ねる。

 

「で、改めて聞くが……何で俺がお前と戦わなきゃいけないんだ?」

 

 どこかうんざりとした様子で尋ねられた華雄は、金剛爆斧を振り回しながら堂々と宣言する。

 

「決まっている。董卓様と孫呉が同盟を組む以上、それを率いる孫策と戦うのは色々と不味い。だが、私は孫家に対して思うところがある以上、それを晴らしておきたいという気持ちもある。そして何より……貴様は我が武を振るうに相応しい男だからだ!」

 

 その声を合図として、一気に前に出る華雄。

 アクセルの胴体を砕かんとばかりに振るわれる金剛爆斧に、董卓が思わず目を瞑る。

 だが……

 

「この程度の武力で、何を誇る?」

 

 武器である鉄の棍……ではなく素手で、しかも右手一本で金剛爆斧の柄の部分を掴んで止める。

 渾身の力を込めた一撃であったにも関わらずの結果に、驚愕の表情を浮かべる華雄。

 

(……こいつ、危険だな。自分の力に自信を持っているのはいいが、それがいきすぎて過信になっている。このままだと単なる猪でしかない。一度徹底的に潰すか? いや、これから反董卓連合軍と戦うんだから手は多い方がいい。何より、同盟を結んだとはいっても他の軍の武将を叩き潰すのも色々と不味い、か)

 

「ぐうううううう、負けん、私は絶対に負けん!」

 

 アクセルに掴まれている金剛爆斧を両手の力を持って引き離そうとするが、ピクリともしないその様子に、華雄の額に汗が滲む。

 

「くそっ、くそおおおおおおお!」

「っと」

 

 アクセルが握っていた柄の部分が曲がりそうになっているのに気が付き、手を離すとそのままの勢いで後方へとよろける華雄。

 次の瞬間、気が付くとアクセルが左手で持っていた棍がピタリと顔面の前へと突きつけられていた。

 

「まだやるのか?」

「ぐぐぐぐ……も、もう一度」

「はい、そこまでや! 次はウチの番やで!」

 

 張遼の声が響き、飛龍偃月刀を手に瞳をキラキラとさせながら前に出て来る。

 

「なっ、まだ私の勝負は終わってないぞ!」

「いや、終わってるやろ。どう考えてもあそこから逆転の目はないし。なら次はウチがアクセルと戦う番や」

「……むぅ」

 

 華雄にしても、今の状態でアクセルと戦っても勝ち目はないと判断したのだろう。悔しげにしながらも、結局その場は大人しく引き下がる。 

 その後、張遼との模擬戦も華雄に比べれば多少苦労したがあっさりとアクセルが勝ち、更に何に惹かれたのか呂布までもがアクセルとの立ち合いを望んだ。

 張遼はともかく、呂布との立ち合いでは練武場が半壊するというアクシデントにも襲われたが、結局はアクセルの勝利で終わる。

 ……もっとも、アクセルの武器である棍は攻撃を受け止めるような事はせず、攻撃にしか使われなかったが。

 その後、賈クに怒られつつも、同盟を結んだ信頼関係の証という意味も込めてそれぞれ真名を交換し――アクセルには真名がないという事で驚かれたが――反董卓連合軍にどう対処するのかを話し合う事になる。

 

「まず、この檄文を見る限りだと袁紹達はシ水関を抜いてくるつもりね。他にも洛陽に通じる道はあるんだけど、ここを選んだのは兵の数が多いからでしょうね」

「ふむ、確かに。ついでに言わせて貰えば袁紹は袁術の血縁だからな。我々に対して自分の力を見せつけたいという意味もあるのだろう」

 

 詠と冥琳の会話に、皆が頷く。

 どちらの言葉も納得出来るものがあったからだ。

 特にアクセルと雪蓮は、袁術の血縁という言葉にこれ以上ない説得力を感じて頷かざるを得なかった。

 

「まぁ、それでも……集まるのは袁紹のような馬鹿だけじゃないし、念の為に数人ずつ洛陽への道を見張って貰いましょ。そっちの方は僕の方で手配するから問題ないわ。となると、次に必要なのは誰をシ水関に派遣するかって事なんだけど……」

 

 詠の視線がその場にいる面子へと向けられる。

 この中で武官と言えるのは、董卓軍からは恋、霞、華雄の3人に、孫呉からはアクセル、雪蓮の2人。

 

「そっちからはどれだけ出せる?」

 

 確認の意味も込めて尋ねる詠だったが、冥琳は少し考えた後に首を横に振る。

 

「私達が董卓軍についたと知られれば、呉の方に戦力を回す可能性もないではない。特にこちらの足下を揺らがせるという意味でな。それを考えると、まず雪蓮と私は確実に不可能。他にも色々とあるから……アクセル、黄蓋、周泰の3人といったところか」

「えー、ぶーぶー、こっちの方が絶対に面白そうなのにー」

 

 雪蓮が不満を口にするが、冥琳に視線を向けられるとそれ以上は言葉に出来ずに黙り込む。

 

「うーん、相手は袁紹よ? 呉の方に手を出すような真似をするかしら?」

「難しいところだな。普通であればそこまで考えは回らないと思うが、何しろ私達は袁術を攻めて追放したからな。袁家の看板に泥を塗られたと思えば……だからこそ、それ程の人数をこちらに出す訳にもいかんのだ」

「となると、シ水関を抜かれた後の事を考えると虎牢関の方にも人を配置しておく必要があるし……」

 

 悩みながら冥琳と詠の2人が相談する。

 どちらもが孫呉と董卓軍を代表する軍師だ。お互いに意見を出し合い、その穴を見つけ、修正していく。

 そんなやり取りを見ている周囲の武官達は、意見を求められた時に答えはするが、基本的には見守っているしか出来ない。

 ……特に恋は話が難しいのか、ウツラウツラとしながら船を漕いでいた。

 そんな中、不意にアクセルが口を開く。

 

「なぁ、ちょっといい考えがあるんだが……検討してくれないか? 俺の空間倉……いや、仙術を使えば一網打尽に出来るかもしれない」

 

 その言葉に、最初は胡散臭げにアクセルを見ていた詠だったが、冥琳は不敵な笑みを浮かべてアクセルの話を聞き……皆が驚愕に包まれる中、その案の是非が検討され、やがて採用されるのだった。

 

 

 

 

 

 孫呉と董卓軍の同盟関係が結ばれてから暫く経ち……現在シ水関からは、袁紹軍を中心として進軍してくる反董卓連合の数が見えている。

 

「かなりの数を揃えてきたな」

 

 そんな様子を見ながら、呟くのはアクセル。

 

「ふむ、ここまで数が増えるとは思わなかったな。だがまぁ、アクセルの策が上手くいけば殆ど意味はないのじゃが」

「策って言う程のものじゃないけどな。それよりも明命、例の準備は?」

「はい、既に大陸各地に散らばっています。そろそろ活動を開始する頃合いかと」

 

 明命の言葉に、アクセルと祭の2人はお互いに人の悪い笑みを浮かべて顔を見合わせる。

 

「むぅ……正直気が進まんのだがな。どうせなら正面から堂々と戦えばいいではないか。奴等如きに遅れをとるような者はいないのだから」

「ええかげんにせい、華雄。ここで下手をすれば月っちに被せられた悪名が大陸中に広がる事になるんやで。お前の矜持と月っちの無実。どっちが大事や?」

 

 華雄と霞の2人もまた、お互いに言葉を交わす。

 華雄を窘める霞だったが、それでもやはり武人としてアクセルの提案してきた内容は全面的に賛成という訳でもないのだろう。

 それでも華雄が真っ先に反対した結果、自然と押さえ役に回っている。

 

「まぁ、安心するがいい。確かにアクセルの策で敵の大部分は戦闘不能になるじゃろうが、それで全滅する訳でもない。その後の追撃でお主等の武を思う存分発揮するといいじゃろうて」

 

 そんな風に会話を交わす中、左右を高い崖に囲まれた中を反董卓連合軍は進む。

 やがてその先頭に立っている軍勢の旗が見えてくると、アクセルは小さく舌打ちする。

 そこにあったのが、十文字の旗と劉の旗だったからだ。つまり、それは反董卓連合軍の先頭に立っているのが一刀や劉備である事を意味している。

 

(董卓に関しての情報は伝えてあった筈だ。あの檄文の裏付けを取らなかったのか? いや、情報の重要性を知っている一刀がいる以上、その辺は怠らない筈。となると……何で向こうについている?)

 

「む? どうしたのじゃ、アクセル。眉を顰めて」

「いや、一刀と劉備の軍が先頭に立っているからな。何を思って向こうについたのかと思ってただけだ」

 

 そう言いながら明命の方に視線を向けるが、すぐに首を横に振る。

 向こうが何を思って反董卓連合軍に参加したのかは分からないが、それでも自らの意思で選んだ以上、どのような結果になったとしてもそれはしょうがないだろうと。

 

(一刀……お前が自分で選んだ道だ。何があろうとそれはお前の責任となる)

 

 内心で呟き、これからやるべき事を考えて視線をその場にいる者達へと向ける。

 

「じゃあ、向こうがシ水関に攻撃してくる前にこっちから攻撃を仕掛ける。前もって言ってある通り、色々な意味でお前達の想像を超える出来事が起きるだろう。部下を混乱させないようにして、時期を見計らって追撃に掛かってくれ。恐らくその時になれば向こうはこっちに対抗しようなんて余裕はなくなっている筈だ」

 

 そんなアクセルの言葉に、皆が当然だとばかりに頷く。

 反董卓連合に対してどう対処するのかを話し合っている時にアクセルが提案した策。もしもそれが本当に可能だというのなら……あるいは、その半分程が真実であるのなら、間違いなく反董卓連合軍には敗走以外の選択肢はないのだから。

 更に、それに追い打ちを掛けるようにして大陸全土に反董卓連合に参加した者達が一方的に負けて逃げていき、皇帝により逆賊と認定されたという情報を広める。

 それだけで、最悪自らが治めている地で暴動が起き、あるいはそこまでいかなくても民が混乱するのは間違いない。

 その結果がどうなるのかというのは、既に考えるべくもない出来事である。

 

「じゃあ……派手に行こうか」

 

 そう呟いたアクセルは、呪文を口に出す。

 

『我と盟約を結びし者よ、契約に従いその姿を現せ!』

 

 そして呪文を唱え終わった瞬間、アクセルの背後の空間に魔法陣が描かれ……グリフィンドラゴンのグリが姿を現す。

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

 その雄叫びは、シ水関にいる者達だけではない。反董卓連合軍にも聞こえたのだろう。

 反董卓連合軍の動きが一様に乱れるのが、シ水関からでも見て取れた。

 

「ちょ、アクセル! これなんやねん!」

「そうだな、お前達に分かりやすく言えば……仙獣って奴だな」

「仙獣やて!?」

「ま、詳しい話は後でだ。今はとにかく奴等を叩くのを優先するとしよう。早速行動に移るから、追撃の準備を頼む」

 

 それだけを告げ、グリの背中へと飛び乗るアクセル。

 すると、何も口に出してはいないのに全てを分かったとばかりに再びグリは高く鳴くと、鷲の翼とドラゴンの翼2組4枚を羽ばたかせて空へと飛び上がっていく。

 本来であれば空を飛べるアクセルだが、ここは演出重視としてのグリ召喚だった。

 

「……策も何も、あの仙獣とやらがいればそれだけで反董卓連合軍を追い払う事が出来そうなもんじゃが……」

 

 呆然と呟く祭に、その場にいた全ての者が頷くのだった。

 もっとも、すぐに我に返って自ら率いる部隊の兵士を纏め、追撃の準備に入ったのはさすがと言えるだろう。

 

 

 

 

 

「……さて、この辺でいいか」

 

 反董卓連合軍の丁度中心地点の真上まで移動したアクセルは、グリの背の上でそう呟く。

 真下にいるのは、無数の兵士達。

 これをどう倒すのか。正直な話、混沌精霊としての力を自由に使えばそれ程難しい話ではない。だが……今は、敢えてインパクトを重視する為にここにいたのだ。

 やるべきは、何よりも相手の度肝を抜く事。即ち……

 

「まさか、ここでこんな風に使うとはな。まぁ、持っていても宝の持ち腐れだし、別に使い捨てる訳じゃないからいいか」

 

 呟き、脳裏に浮かんだ空間倉庫のリストから目的の物を選択。

 すると次の瞬間にはアクセルの真横に数km、あるいは数10kmにも及ぶ程の細長い巨大建造物が姿を現し……当然、宇宙空間で運用されるべきその存在は、空中に浮かぶ事など出来はしない。

 

「我が名は孫呉の武将、アクセル・アルマー! 逆賊共よ、天からの罰を受けよ!」

 

 反董卓連合軍全体に響くだろう程の大声で叫ぶアクセル。

 その大声に導かれるかのように、それ……即ちジェネシスは、重力に従い地上へと落下していく。

 そう、反董卓連合軍を目指して。


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