転生とらぶる   作:青竹(移住)

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番外編042話 if 真・恋姫無双編 12話

 その日、その時。反董卓連合の兵士達は、何が起きたのか正直意味が分からなかった。

 最初に異変を感じたのは、反董卓連合の先頭を進んでいた劉備軍の兵士。

 遠くにシ水関がようやく見えてきた。そう思った瞬間、全く聞き覚えのない獣の声が周囲に響き渡ったのだ。

 兵士の中には猟師をやっていた者もいたが、そんな猟師でも聞き覚えのない獣の声。

 

「ご主人様、いったい何が……」

「分からない。分からないけど何かが起きるのは間違いない。朱里、雛里、何が起きてもすぐに対応出来るようにしておいてくれ。鈴々と愛紗、星は兵士達が混乱しないように。桃香は俺の側に」

 

 一刀の言葉に全員が素早く従う。この辺、一刀もこの世界に来て成長しているという証なのだろう。

 そんな劉備軍の様子を、すぐ後ろに位置している曹操軍の中で華琳が感心したように笑みを浮かべる。

 

「へぇ、中々動きが早いわね。……桂花?」

 

 そんな華琳の問い掛けに、猫耳頭巾の少女――桂花――は問題ないと頷く。

 

「はい、華琳様。兵士達は春蘭、秋蘭が上手く纏めているので、何が起こっても……え、ええええええっ!」

 

 華琳へと言葉を返していた桂花だったが、突然視界に入ってきたその光景に思わず声を上げる。

 その視界に映ったのは、上半身が鷲、下半身が竜、更には鳥と竜の翼を1対ずつ持ち、頭部からは角が生えているという、この世界の者にしてみれば常識外れとしか思えない存在だった。

 それは桂花だけではない。反董卓連合に所属する全ての兵士が同様だっただろう。

 特に騎兵の被害が大きかった。周囲一体に響き渡った雄叫びを聞いた馬が怖じ気づき、半ば恐慌状態になって暴れ始めたのだ。

 その背に乗っていた兵士や武将達を振り落として逃げるかのように去って行った馬もいる。

 そういう意味では、騎兵を中心に編成している軍は被害が甚大だったと言えるだろう。

 

「うわっ、ちょっ、落ち着け! お前はこの馬超の馬だろ! あんな獣の声に怖じ気づくな!」

「きゃああああああっ、ちょ、お姉様、助けて! 蒲公英じゃこの子を押さえられない!」

 

 騎兵としては中華の地でもトップクラスの実力を持つ西涼の兵士達までもが馬の恐慌状態を宥めるのに苦労し……

 

「おいこら! 暴れるな……普通普通って言われているけど、馬の扱いに関しては普通じゃないんだからな!」

 

 公孫賛が自らの愛馬でもある白馬を必死になって御する。

 そんな光景がそこかしこで見られていた。

 

「皆さん、落ち着きなさい! 私の命令が聞けないのですか! ……猪々子さん、斗詩さん、皆の混乱を収めなさい! こんなのは華麗ではありませんわ!」

 

 この反董卓連合の発起人にして中心人物でもある袁紹も、先程の雄叫びに混乱する兵士達を押さえるのに精一杯だった。

 何しろ袁紹軍は数に関しては間違いなく随一だが、その質は決して高くはない。

 ちょっとした出来事ですぐに混乱してしまうのだ。

 

「……嘘……だろ……」

 

 場所は戻って劉備軍。

 その中で、シ水関に現れた存在を目にした一刀が信じられないといった様子で呟く。

 元々ゲームに関しては現代人らしくそれなりに遊んできた経験のある一刀だ。当然ファンタジーゲームの類も遊んだ経験があり、グリフォンという存在は知っていた。

 だが一刀の知っているグリフォンは、下半身が竜ではなく獅子だし、翼や羽が全部で4枚もないし、角も生えていたりはしていない。

 それが誰の仕業か。アクセル・アルマーという人物と多少ではでも面識があっただけに、想像するのは難しくなかった。

 更に悲劇は続く。そのグリフォンが空を飛び反董卓連合軍の真上まで来ると……次の瞬間には周囲一帯が影に覆われたのだ。突然空中に現れた超巨大建造物とも呼べる存在による影。

 その建造物が落ちてくる瞬間に聞こえてきた名乗りは、間違いなくアクセルのものだった。

 

(くそっ、アクセル……あんた一体何者なんだよ!)

 

 内心で叫ぶが、突如現れた巨大建築物は自分達目掛けて落下してくる。

 それを見ては、自分の考えよりもまず先にやる事があった。

 幸い、自分達劉備軍は反董卓連合の先頭。中心部分にいる袁紹軍よりも被害は少ないだろうと。

 

「退避、退避するぞ!」

「はわわわわ! ご、ご主人様。退避するといっても左右は高い崖でしゅ!」

「分かっている、けど、このままだとまともに被害を受ける! だから限界まで崖に寄るんだ!」

 

 自分達のすぐ後ろにいる曹操軍も同じような判断をしているのを見て、一刀はそう叫ぶのだった。

 

 

 

 

 

「嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ!」

 

 時は少し戻り、シ水関にグリフィンドラゴンが召喚された直後。

 狂ったように同じ言葉を呟く武将が1人いた。

 ここは劉表軍。その中で1人の武将が混乱したように言葉を紡ぐ。

 幸い、周囲にいる者達の視線はシ水関の方に向けられているので奇異の目は向けられていないが、もし周囲にいる者達が冷静であれば恐らくその人物……霍峻に奇異の目を向けていただろう。

 だが、霍峻本人は全くそんな事に思い至らずに頭を抱える。

 

(あれって、どう考えてもネギまに出てきたグリフィンドラゴンだろ? いや、羽とか角を見る限り他にもグリフォンとドラゴンの合いの子ってのはいて、それかもしれないが……大体、どうなってるんだよ。何だって反董卓連合の前に呉が袁術から独立してるんだよ。くそっ、折角ここまで上手くやって来たってのに……北郷一刀の姿も蜀に確認出来たし、劉表の部下として信頼も厚い。後はこのまま成り上がっていけば……そう思ってたのに……)

 

 ギリッと奥歯を噛み締め、手に持った剣を強く握りしめる。

 

(落ち着け、落ち着け。ここは三國志じゃない。真・恋姫無双の世界なんだ。幸い、桃香の姿がある以上、白装束の奴等は出てこない筈)

 

 自らを落ち着かせるように呟くこの男、この世界に知識を持って転生してきた人物だったりする。

 当初は全く何が起きたのか分からなかったのだが、成長するに従ってここが三國志……正確には生前に遊んだ経験のある真・恋姫無双の世界だと知り、自分が霍峻に生まれ変わった事を知った。

 三國志系のゲームをプレイしていた前世を持つ男は、自分が万能型……より正確には器用貧乏に近い武将に生まれ変わった事に多少のショックは受けたが、その後は幼い頃から鍛え続け、10歳の時には山賊を倒す程の実力を身につけ、やがて成長して歴史通りに劉表の部下となる。

 孫堅が死んだり黄巾党の乱が起こったりと、その辺までは霍峻の知識通りに進んでいた。それが決定的なまでに代わったのは、黄巾党の乱が終結した後だ。

 本来であれば呉は袁術の部下として反董卓連合に参加する筈が、何故か反董卓連合が結成される前に袁術を追放、呉を復興させたのだ。

 何が起こったのかが全く理解出来なかったが、劉表の部下としてはそれなりに信頼も厚い為にその権限を使い呉に細作の類を放つ。しかしその細作も全てが思春や明命の手によって発見され、あるいは雪蓮の勘により露見し、処分されてしまった。

 結局は商人辺りからの情報を集めるしかなく、雪蓮達がアクセルの名前を極力表に出さないようにしていた事もあり、孫呉独立が早まったイレギュラーの要因は分からぬままに時は流れ……ある意味で予想外であり予想通りと言うべきか、袁術を追放した孫呉は反董卓連合軍ではなく董卓との同盟を結んだ。

 それを知った時の霍峻の内心は、何この無理ゲー状態だった。

 そもそも、呉は人数自体は少ないが人材の質は非常に高い。それは董卓軍も同様であり、その2つの勢力が手を結んだ以上、倒すのは難しいだろうと主君である劉表に反董卓連合軍に参加しない方がいいと告げもしたのだが、孫堅を殺したのが劉表の部下でもある黄祖の主君であるという理由もあって、孫家との因縁は深い。

 もしかして自分以外にも転生者がいるのか? そんな風に思った霍峻だったが……その嫌な予感がこれ以上ない形で的中していた。

 

(くそっ、ネギまの魔法とかって良くある転生特典だけど……俺にはそんなの何もないのに、これでどうしろってんだよ)

 

 そんな風に混乱している中、やがてグリフィンドラゴンが羽ばたきながら自分達の上空を飛んでいく。

 この時に幸いだったのは、劉表軍の配置は反董卓連合の中でも右端の方だった事だろう。

 シ水関に続く道の両端は高い崖がそびえ立っているが、その崖の近くに劉表軍はいたのだ。

 よって、突然自分達の上空に現れた巨大な建築物が落ちてきたとしても、中央にいた袁紹軍に比べれば圧倒的に被害は少なかった。

 そして……

 

「嘘、だろ……」

 

 再び呆然と呟く霍峻。自分では呟いたという事にすら気が付いていないだろう。

 その理由は、天そのものが落ちてくるような巨大建造物……ではなく、その寸前に周辺一帯に響き渡った名前にあった。

 

「アクセル・アルマー? ……アクセル・アルマーだって!?」

 

 その名前を霍峻は知っていた。勿論孫呉のメンバーとしてではなく、前世の知識でだ。

 スーパーロボット大戦というゲームで出てきた主役級のキャラの1人であり、その人気は非常に高い。かく言う霍峻も前世にてスーパーロボット大戦Aではアクセルを主人公としてプレイした記憶があった。

 だが……

 

「何だってアクセルがここにいるんだよっ!」

「霍峻将軍! 危ないです、崖の方に避難して下さい!」

「ふざけるな! 何だってアクセルがネギま世界の魔法を使えるんだよ! そんなのどんなチートだよ!」

 

 副官が霍峻に声を掛けるが、予想外過ぎる事の成り行きに霍峻は全く聞こえている様子がない。

 劉表が率いる軍の中でも最優秀に近い能力と人望を併せ持ち、劉表の剣とまで言われている霍峻を知っている副官だったが、こんな霍峻は見たことがなかった。

 だが、今はそれどころではない。このままでは天から振ってくるあの巨大な存在に押し潰されるかもしれないのだ。今ここで霍峻を失う訳にはいかない副官は、近くにいる兵士に命じる。

 

「ええい、お前達、霍峻将軍を避難させろ!」

「は!」

 

 その命令に従い、兵達は素早く行動を起こす。

 幸いだったのは、霍峻が馬に乗っていた事だろう。並の武将であれば、先程聞こえてきた雄叫びで馬が恐慌状態に陥ったのだが、霍峻が深く信頼して絶影と名付けたその馬は、すぐに恐慌状態から落ち着くことに成功していた。

 そして……

 

 轟っ!

 

 そんな音というか、衝撃が周囲に走る。

 巨大な……そう、この時代では巨大過ぎる建造物であるジェネシスが落下してきたのだ。その衝撃は相当なものであり、シ水関前にある崖も何ヶ所か崩落している場所がある。

 霍峻達劉表軍の避難した場所では崩落はなかったが、アクセルの打った一手で反董卓連合軍が受けた被害は膨大といってもよかった。

 いや、既に反董卓連合軍は壊滅していると言ってもいい。

 特に反董卓連合軍の盟主でもある袁紹軍は、文字通りの意味で落下してきたジェネシスによって潰されている。

 袁紹自体がどうなったのかは周囲から見る限り不明ではあったが、それでも軍の体裁を成していないのは事実だろう。

 

「ブルルル!」

 

 しっかりしろ、とでも言いたげな愛馬の嘶きを聞き、霍峻はようやく我に返る。

 

(しっかりしろ、俺。今やるべき事は、とにかくこの場から大人しく撤退する事だ。董卓軍と呉が一緒になっているだけでもこっちの勝ち目は少ないのに、そこにアクセル・アルマーまでいればどう足掻いても勝ち目はない。ソウルゲインとかが出てきてないのは不幸中の幸いか。それに、場所が場所だけにうちの軍の被害は少ない)

 

 頭の中で素早く考えを纏めると、副官に向かって命令を出す。

 

「お前は兵の混乱を押さえてすぐに行動出来るように纏め上げろ。俺は劉表様に即時撤退するよう進言してくる」

「は!」

 

 霍峻の判断は決して遅くはなかった。事実、周囲にいる他の諸侯の軍は未だに混乱のまっただ中にあるのだから。

 ……いきなり空からジェネシスのような物が降ってくれば、無理もないのだが。

 しかし、それでもやはりアクセルという存在を知った時の混乱を取り戻すには時間が足りなかった。

 

「シ水関、開門! 続々と軍勢が出撃してきております! 華、張、黄、周の旗を確認!」

「……くそっ、奇襲の上手さはシャドウミラー仕込みって訳か? 俺達より前にいる劉備軍や曹操軍が盾となる筈だ! その隙に撤退の準備を整えておけ!」

 

 霍峻の口から出た命令に、兵士が素早く散っていく。

 元々劉表軍の兵の練度は決して低いものではなかった。そして霍峻が加わって常備軍を作ってからの訓練は、その練度を飛躍的に高めている。

 それこそ、兵の練度だけを考えれば曹操軍とも互角に渡り合えるだろう、漢の中でも最高峰の練度を誇っていた。

 その様子を満足そうに一瞥し、霍峻は絶影で劉表の下へと向かう。

 

(アクセル・アルマー……どう考えてもジャンルが違うだろ。大体、このでかいのとかどこから持ってきたんだよ……くそっ、生き延びてみせる……絶対に生き延びてみせる!)

 

 そう内心で決意を固めながら真っ直ぐに劉表の下へと出向き、強硬な態度で撤退を進言する。

 信頼する霍峻がそこまで言うのなら、と劉表は撤退を認め、反董卓連合の中でも被害は最小限のまま、劉表軍は孫呉・董卓連合軍の攻撃から逃げ延びるのだった。

 ……ただし、荊州に戻った時には冥琳や詠の情報操作により逆賊という情報が広まっていたのだが……


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