転生とらぶる   作:青竹(移住)

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1059話

 ここは俺に任せて先に行け。どう考えてもフラグっぽい台詞だったが、幸か不幸か詠春はその類の意味を知らなかったらしい。

 だがそれでも、酒呑童子が先程使った魔眼を見てしまうと俺だけをここに残してはいけないと判断したのだろう。責めるような視線で俺の方を見る。

 まぁ、これから大口の取引先相手になるだろうシャドウミラーの代表を、敵を率いている酒呑童子の前に残して関西呪術協会の長が自分だけこの場から去るというのは、確かに人聞きが悪いと言ってもいいだろう。

 だが正直な話、酒呑童子の魔眼を得る為にスライムで吸収しようとしている以上、それをあまり人に見られたくないというのは事実だ。

 

「何を言ってるんですか、アクセル代表! 見たところ奴は魔眼を使った影響で相当に消耗しています。今なら、私達2人で掛かれば一気に倒せる筈です!」

 

 詠春の言葉は理解出来ないでもない。

 けど、当然それを許容出来るかどうかと言われれば、答は否な訳で。

 

「悪いが、そうもいかない。幾ら消耗していても、自分が命の危機ともなれば当然それに対抗する為に死に物狂いになるだろう。それでも結局こっちの勝ちは揺るがないだろうが、決着が付くまでに時間が掛かる。その間、他の陰陽師や神鳴流の剣士達はどうするつもりだ? 放っておく訳にもいかないだろ?」

「それは……そうですが……」

 

 思わず言葉に詰まる詠春だが、実際はあやかと円、桜咲といった面々が援軍として行動しているし。怪我をしている者がいたとしても近衛が治療を……いや、なるほど。近衛か。確かに桜咲が護衛として付いているが……

 

「それと、事後承諾になるがこの空間の中には近衛……お前の娘の姿もある」

「なっ!?」

 

 その一言に、思わず言葉に詰まる詠春。

 ちなみに、こうしている間にも酒呑童子は動きの鈍った炎獣を砕き、先程の魔眼行使で消耗した分を回復しようとしている。

 出来ればその回復が終わる前に何とかしたいんだが……詠春を早く説得しないとな。

 

「一応近衛には神楽坂が護衛としてついている」

「刹那君は!?」

「こっちの一存で遊撃に回って貰っている。空を飛ぶ能力のある桜咲は、この戦場でかなり有効な戦力だしな」

「それは……確かにそうでしょうが……」

 

 鬼の戦闘は基本的に地上戦だ。勿論周囲にある何かを投げつけたりして空中にいる敵にもある程度は対応出来るが、それでもやはり最も得意なのは地上戦なのだ。

 それを考えると、空を飛ぶ能力を持っている円や桜咲を遊軍に回したのは決して間違った選択ではないだろう。

 

「そういう訳で、今は少しでも早くこの鬼達の数を減らす必要がある。そんな中で関西呪術協会の長であるお前がこいつ1人に足止めをされている状態でどうするんだ? それなら、俺に任せて詠春は他の鬼の方に向かった方がいいと思わないか?」

 

 そう告げている俺の言葉の先では、炎獣の最後の1匹が酒呑童子の爪により斬り裂かれ、炎と化して散っていった。

 これだけ大量の炎獣を滅ぼしたのだから、当然酒呑童子の両手もかなりのダメージを受けているし、炎獣の攻撃により身体中に多かれ少なかれ傷がついている。

 だが、さすがに酒呑童子を名乗るだけはあると言うべきか、こうして見る間に身体の傷は回復していっている。

 そんな状態でこっちに攻撃してこないのは、体力や傷の回復を待っているのもあるだろうが、俺達の話を聞いているからこそだろう。

 つまり、このまま話が進めば俺と詠春の2人を同時に相手にしなくてもいいという。

 この辺の周到さは、さすがに大勢の鬼達を率いて京都を荒し回っただけはある。

 そして……事実、酒呑童子のその選択は間違いなく狙い通りと言えた。ただし、俺にとっても狙い通りだというのが救えないところだが。

 

「……分かりました。では、ここはアクセル代表にお任せします。ですが、相手はあの酒呑童子。本物か偽物かは分かりませんが、それでも相当の力を持っているのは事実です。ですから、無理をする必要はありません。向こうの方で他の鬼を片付けたらすぐに戻ってきますので、それまで持ち堪えるだけで構いません」

 

 申し訳なさそうに尋ねてくる詠春だが、俺はそれにニヤリとした笑みを漏らす。

 

「これまで幾多の世界で敵となった相手を倒し続けてきた俺が、例え酒呑童子であったとしても、そう簡単に負けると思うか? この世界を含めて、どの世界でも大魔王と呼ばれてきた俺の力、その片鱗……見せてやるよ」

 

 瞬間、俺の全身が白炎に包まれる。

 そして身体に変化が現れる。

 左右の側頭部と額からは天を衝くかのような長い角がそれぞれ1本ずつ伸び、同時に後頭部から伸びた角も側頭部から伸びた角の下を通るようにして前へと伸び、背中からは悪魔の如き羽が生え、腰の部分からは竜尾が伸びる。

 人間としてのアクセル・アルマーではなく、混沌精霊としてのアクセル・アルマー。

 その姿を見た詠春、そして酒呑童子までもが驚きのあまり動きを止めていた。

 

「どうだ? これが魔法界で大魔王と呼ばれた俺の姿だ。これを見て安心出来たと思うが?」

「え? え、ええ……その、大丈夫なのですか? 具体的に身体の方は……」

「ああ、問題ない。それよりもこれで俺にここを任せても問題ないと判断出来たんなら、さっさと愛娘の為にも行ってやれ」

 

 その言葉に詠春は一瞬躊躇するも、すぐに無言で頭を下げると瞬動を使ってその場から消える。

 最盛期よりも衰えたといっても、さすがに紅き翼のメンバーだな。その瞬動は非常に滑らかな動きだ。

 そんな詠春を見送り、俺は視線の酒呑童子の方へと向け……思わず感嘆の気持ちを抱く。

 何故なら、俺を見ている酒呑童子は一切怯えた様子がなく俺の方へと視線を向けていたからだ。

 寧ろその瞳には闘争心のようなものすら浮かんでいる。

 仮にも酒呑童子を名乗っている以上、こっちの力を理解出来ない訳でもないだろうに。

 いや、酒呑童子だからこそ。闘争を求めるのは、鬼が鬼たる由縁と言うべきか。

 だが……まぁ、いい。こっちとして捕食すべき対象が逃げないで向かってきてくれるのなら、大歓迎なのだから。

 

「……さて、こう言っては何だが、詠春がいなくなった以上は俺も遠慮する必要はない。十分に戦わせて貰おうか」

「お前、何者じゃ? その姿、真っ当な人間じゃないのは明らかなようじゃがのう」

 

 ゴキリ、と指を鳴らしながら告げてくる酒呑童子に、小さく肩を竦めて笑みを浮かべる。

 

「何者か。そう問われたのなら、さっきも言ったがこう答えようか。大魔王、と」

 

 何だかんだと言っても、恐らく俺自身大魔王という言葉を気に入ってるんだろう。

 少なくても、正義の勇者よりは大魔王の方が俺には向いている。

 

「はっ、笑わせるんも大概にせぇっ!」

「笑わせるか。俺の実力に関しては、直接戦って確認してみたらどうだ?」

 

 クイクイ、と右手の人差し指を曲げて挑発する。

 すると、酒呑童子にしてもそれは望むところだったのだろう。その凶悪な顔にニヤリとした笑みを浮かべ……次の瞬間、地を蹴って俺の方へと向かってくる。

 瞬動と同じような技術なのだろう。次の瞬間には俺の目の前に姿を現していた酒呑童子は、大きく手を振りかぶっていた。

 物理攻撃? いや、違う。酒呑童子は物理攻撃を無効としている炎獣を斬り裂いた。となると、この攻撃も恐らく……

 拳が振るわれる瞬間に魔法障壁を展開し……次の瞬間には軽く目を見開くことになる。

 先程の感嘆とは違い、驚きでだ。

 何しろ、魔法障壁とぶつかり合った酒呑童子の拳は、数秒の均衡の後、魔法障壁へとヒビを入れ、やがて魔法障壁を破壊したのだから。

 俺の魔法障壁は相応に強力なものであり、普通の魔法使い程度ではどうやっても破壊する事が出来ない程の強度を持っている。

 それを数秒の拮抗状態の後ではあっても破壊するとは……ちょっと甘く見すぎていたか?

 

「っと」

 

 魔法障壁を破壊したその勢いのままに振るわれる爪を、身体を半身にして回避する。

 同時に目の前を通り過ぎた腕の手首を掴み、テコの原理を応用して投げ飛ばしつつ、酒呑童子の身体が空中で逆さまになったところで頭部目掛けて蹴りを放つ。

 普通の人間であれば、それこそスイカ割りのスイカの如く頭部が粉砕するだろう一撃。

 だが、酒呑童子は俺の手に掴まれている右手ではなく、左腕を振るって蹴りを受け止める。

 鈍い音を周囲に響かせながらも、酒呑童子の右腕は俺が掴んでいる為に吹き飛べない。

 かといって、腕を握って蹴りを放った状態である為に、攻撃手段は……まだあった。

 

「ふっ!」

 

 蹴りを放った状態から身体を捻り、未だに空中に存在していた酒呑童子に向かって振るわれたのは、俺の腰から生えている竜尾。

 文字通り、竜の尾だ。

 

「ぐはぁっ!」

 

 身体の捻りをそのまま使って放たれたその一撃は、見事なまでに酒呑童子の胴体へと命中する。

 もっとも、本当のドラゴンであるのならまだしも、所詮は人間と同じ大きさの俺が放った竜尾の一撃だ。

 確かにそれなりの痛みは与えただろうが、致命的な一撃と呼ぶには弱すぎた。

 事実、酒呑童子は苦痛の悲鳴を上げつつも、左手の爪を自分の右腕を握りしめている俺の右腕へと向かって振り下ろす。

 

「させるか、よっ!」

 

 魔法障壁を破壊する程度の威力はある酒呑童子の一撃だ。まともに食らえば久々に痛い思いをしそうだと判断し、酒呑童子の身体を解放……すると同時に、一瞬前まで俺の右腕のあった場所を酒呑童子の左腕が通り過ぎ、それを見越して放たれた蹴りがそのがら空きの胴体へと命中する。

 肉をコンクリートに叩きつけたような音を立てながら吹き飛ばされた酒呑童子は、地面に数度程バウンドしながら10m程の距離を吹き飛ばされ、体勢を立て直す。

 

「随分と頑丈な奴だな。これでもそれなりに生身の戦闘には自信があったんだが」

「……へっ、よく言うわい。その姿同様、化け物だなお前さん」

 

 そう告げた酒呑童子は、倒れていた状態からすぐに立ち上がる。

 そして痛そうに顔を顰めて向けた視線の先にあるのは、自分の右腕。……ただし、その手首からは骨が見えていた。

 本来その手首に存在している肉は、俺の右手の中。

 先程の蹴りで吹き飛ばした時、酒呑童子の右腕を掴んでいた手に力を入れ、その肉を毟り取ったのだ。

 元々コンクリートの類でも容易く毟り取れるだけの握力を有するのだから、この程度の事はそう難しくはない。だが……

 

「化け物はどっちだよ」

 

 腕の骨が見える程に肉を毟り取られたというのに、その傷が見る前に回復――むしろ修復と表現した方がいい――していく。

 ちょっと尋常ではない程の再生能力だな。

 さっき炎獣に対して使った魔眼といい、鬼としても異常な程の再生能力といい、俺の知っている酒呑童子の伝承とは全く違う。いや、違い過ぎると言ってもいい。

 もっとも、俺が知っている酒呑童子の伝承なんて現代風に簡単に分かりやすくしたものでしかない。原典とも言える話の方には、実は魔眼のような力を持っていて、異常な再生能力を持っていたとか言われても驚かないが。

 

「行くぞ、おんどりゃぁっ!」

 

 怒声を叫びながら、地を蹴る酒呑童子。

 相変わらずその速度は人間離れしている。……人間じゃないけどな。

 俺の顔面を狙って振るわれる爪の一撃を、今度は魔法障壁を展開しないままに顔を少しだけ動かし……その瞬間、ふと何かを感じた俺は、紙一重で攻撃を回避してカウンターの一撃を当ててやろうと思ってた考えをその場で破棄し、後方へと跳ぶ。

 その判断が正解だったというのは、後方へと跳躍した筈の俺の目の前を鋭い爪が通り過ぎていったのが示していた。

 そう、10cm程の長さから50cm近くまで伸びていた酒呑童子の爪が。

 そのまま後方へと跳躍して酒呑童子から距離を取りりつつ、影槍を20本程放つ。

 俺の影から伸びた影槍は、大量の影精を練り込まれている。

 その強度は、それこそコンクリート程度であればあっさりと斬り裂くだけの威力を持っていたのだが……

 

「こんなんで儂をやれると思っとるんかぁっ!」

 

 そんな怒声と共に、影槍の穂先をいともあっさりと爪で斬り裂いていく。

 ちっ、炎獣や魔法障壁、そして影槍までも対処可能か。もしかして、神楽坂程ではないにしろ、魔法無効化能力に近い能力でも持っているのか?

 色々な意味で規格外の鬼である以上、様子見はこの程度にしてそろそろ本気で仕留めるべきか?

 ただ、相手の能力を全て確認してからじゃないと、どんなスキルを吸収するか分かったもんじゃないんだよな。

 もう少し……もう少し様子を見るべきか。

 そう判断し、空間倉庫のリストを脳裏へと展開するのだった。




アクセル・アルマー
LV:42
PP:350
格闘:301
射撃:321
技量:311
防御:311
回避:341
命中:361
SP:1402
エースボーナス:SPブースト(SPを消費してスライムの性能をアップする)
成長タイプ:万能・特殊
空:S
陸:S
海:S
宇:S
精神:加速 消費SP4
   努力 消費SP8
   集中 消費SP16
   直撃 消費SP30
   覚醒 消費SP32
   愛  消費SP48

スキル:EXPアップ
    SPブースト(SPアップLv.9&SP回復&集中力)
    念動力 LV.10
    アタッカー
    ガンファイト LV.9
    インファイト LV.9
    気力限界突破
    魔法(炎)
    魔法(影)
    魔法(召喚)
    闇の魔法
    混沌精霊
    ???
    ???

撃墜数:1179

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