転生とらぶる   作:青竹(移住)

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番外編009話 0108.5話

 ハガネの甲板。そこは現在沈痛な空気に包まれていた。何故なら自分達をこれまで導いてきたと言っても過言ではないダイテツ・ミナセとの別れを済ませたからだ。ハガネ・ヒリュウ改の殆どの人員がそこで黙祷を捧げている。

 そしてそれが一段落した後、ギリアムが口を開く。

 

「さて、戦闘が終了してから今まで時間がなかったのでそのままだったが……詳しい話を聞かせて貰って構わないか?」

 

 ギリアムの視線の先には、オペレーション・プランタジネットでヒリュウ改へと投降してきたオウカ、ゼオラ、クエルボの3人の姿があった。

 その言葉に、クエルボ・セロが前に進み出る。

 

「話は私がしましょう。オウカやゼオラには色々と言いにくい事もありますので」

「クエルボ……」

 

 ラーダが思わず声を漏らす。

 

「ラーダ、また会えて嬉しいよ。元気そうでなによりだ。色々と積もる話もあるけど、それは後でだね」

 

 クエルボの話に頷き、ギリアムへと視線を向ける。それを受けたギリアムは小さく頷いてから口を開く。

 

「さて、まずは君達がここへ来る事になった理由……いや、その前に何故彼女達の洗脳が解けているのかを話して貰えるか?」

「はい。オウカとゼオラの洗脳が解けているのは単純な理由です。アクセル大尉がセトメ博士を殺害し、私に洗脳を解除するよう言ったからです」

「アクセルが、か……」

 

 何かを考えるように、ギリアムが呟く。

 アクセル・アルマ-。その名前はハガネやヒリュウ改にとって極めて大きい。それこそ、シャドウミラーの指揮官であるヴィンデル・マウザーよりも。

 

「あいつ、本当に一体何を考えてやがるっ!?」

 

 カチーナの苛立つような声が周囲に響く。

 

「アクセル大尉は、オウカがゲイム・システム用に調整されるような事があったら何とかすると。そしてセトメ博士からその命令を受けた時に私はアクセル大尉に相談しました。その結果セトメ博士が死亡し、彼女達の洗脳は解除される事になった」

「またゲイム・システムか。因縁めいているな」

 

 溜息を吐くギリアムだったが、気を取り直して口を開く。

 

「だが、洗脳を解除されたとしても彼女達は元スクールのメンバーだ。その辺のパイロットよりは余程戦力になる筈。それを何故わざわざ逃がすような真似を?」

「それは私にも分かりません。ですがヴィンデル大佐に見つからないように注意を払っていた所を見ると、恐らくアクセル大尉の独断だったのではないかと思われます」

「独断? すると、何らかの罠か?」

「違います! 大尉はそんな事をする人じゃありません!」

 

 訝しげなギリアムの声を遮ったのは、ゼオラ、ラトゥーニ、アラドと一緒に話を聞いていたオウカだった。

 

「オ、オウカ姉さん?」

 

 オウカの発した言葉の鋭さに呆気にとられるアラド。ラトゥーニもその隣で唖然としている。

 それも無理はない。この2人に取ってオウカ・ナギサとはスクールの長姉。ある意味では自分達の保護者も同然だったのだ。そのオウカが感情も露わに叫ぶというのは予想外の事だったのだろう。

 

「クエルボ博士、彼女は……」

「ええ。自分を救ってくれたアクセル大尉を慕っています」

 

 ギリアムの言葉に悲しそうに口を開くクエルボ。どれ程オウカがアクセルを慕ったとしても、その想いが実る可能性は限りなく低いのだ。だがクエルボにとって、オウカというのは長年見続けてきたある意味では娘のような存在でもある。そんな彼女の初恋を誰がやめさせる事が出来るだろう。

 

「そう、か」

 

 溜息を一つ吐き、気分を切り替えるかのように口を開く。

 

「アクセル・アルマーはシャドウミラーに所属してはいても、かなり独自の行動を取っているな。それも指揮官であるヴィンデル大佐にも隠れて。ここまで来ると、その目的はヴィンデル大佐と違うという事もあり得るのか? ……ラミア、どう思う?」

 

 ギリアムが話を聞いていたラミアへと視線を向ける。この中で一番アクセルに詳しい事を知っているのが長年同じ部隊にいて、時には副官的な役割も果たしてきた彼女なのだ。

 

「隊長とヴィンデル様、そしてレモン様は3人でシャドウミラーを立ち上げたメンバーです。あちらの世界にいる時もお互いに信頼しあっていました。その隊長がヴィンデル様を裏切るというのは想像ができません。ただし……」

 

 そこで言葉を切り、チラリとオウカの方へと視線を向ける。

 

「ただし?」

「隊長とレモン様はかなり深い仲だと聞いています。そちらの関係で何かあったとしたら……そういう感情が理解出来ない私には判断ができなかったりしちゃってごわ……もとい、判断出来ません」

 

 オウカへと自分の声が聞こえないように小声でギリアムに告げる。

 

「そうか……しかし、知れば知る程分からなくなるな、アクセル・アルマーという男は。どうしたものか」

 

 首を振りつつ、溜息を吐くギリアムだった。


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