転生とらぶる   作:青竹(移住)

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1422話

 白鳥と秋山が珍しく権力を利用して借りたのは、小さな運動場だった。

 まぁ、小さなと言っても俺や高杉が戦うという意味では全く問題ない場所だ。

 高杉が何を思って俺との立ち会いを希望したのかは、何となく分かる。

 俺に勝つ事によって弾みを付け、神楽坂に告白しようとしたのだろう。

 木連の人員ならではと言うべきか、やっぱり思い込みが強いんだよな。

 俺と神楽坂が付き合っていると思い込み、自分の恋心にケジメを付けたいと思った可能性もある。

 ともあれ、現在この運動場の中には俺と高杉、白鳥、秋山、神楽坂、桜咲、近衛、ヤマダ、エリナといった関係者達が集まっていた。

 そして俺と高杉は運動場の中央で向かい合う。

 木連式柔術や、木連式抜刀術といった武術が盛んな事もあり、木連ではこの手の運動場はかなり多い。

 高杉も、秋山が言うには木連の中でも有数の使い手だという話だ。

 

「お互い、相手の命を奪うような攻撃や、致命傷を与えるような攻撃、後遺症を残すような攻撃は絶対にしないように」

 

 審判として秋山が告げるのを、俺と高杉は聞いて頷く。

 最初は止めようとした神楽坂だったが、何を言ってももう止められないと判断したのか、少し離れた場所で大人しくこちらを見ていた。

 高杉へと向けられる視線が、その安否を心配するようなものなのは……まぁ、俺の実力を知っているからこそだろう。

 審判の秋山も、当然ながら俺の実力は知っている。いや、全てを知ってる訳ではなく、あくまでもその片鱗を知っていると表現するべきだろう。

 以前の模擬戦では、結局数%も力を発揮しなかったのだから。

 もし高杉があの時の戦いを基準にして俺の実力を知った気になっているのなら、それは色々な意味で不幸な結果になるだろう。

 

「始め!」

 

 秋山が宣言すると同時に、高杉は俺との距離を詰めてくる。

 戦いの主導権を握りたいという狙いがあるのだろう。

 打撃ではなく、投げをするべく手を伸ばしてきたのは、高杉が木連式柔術の使い手だからだろう。だが……

 

「どこを見ている?」

 

 俺の目の前にあるのは、高杉の背中。

 

「え?」

 

 何が起きたのか理解出来ないといった様子で声を上げる高杉。

 別に瞬動を使った訳ではない。単純に素の速度が違い過ぎただけだ。

 その証拠に、桜咲と神楽坂の2人はしっかりと今の動きについてきていた。

 まぁ、今の状況でもまだ殆ど力を出していないのだから、生身の戦闘が本職のあの2人が今の速度で俺の姿を見失うようではエヴァの特訓が待っているだろうが。

 このまま首の後ろに手刀を叩きつけて意識を奪うというのが、勝負を決めるには手っ取り早いんだろうが……そうなると高杉が納得出来ないだろうし。

 仕方がないので、そのまま高杉がこっちを振り向くのを待つ。

 

「な……くっ! うおおおおおぉぉっ!」

 

 真後ろにいる俺の姿に一瞬驚きの表情を浮かべたものの、次の瞬間には再び床を蹴ってこっちとの距離を縮めてくる。

 今度は先程と違って掴むのではなく、握り締めた拳を叩きつけにきたのだが……

 

「どこを見ている?」

 

 数秒前に呟いたのと、全く同じ言葉が俺の口から出る。

 そして俺の前にあるのは、当然のように高杉の背中。

 先程と同じく、高杉の目にも留まらぬ速度で動いてその後ろに回り込んだのだが……それから十数回同じ事を繰り返す。

 正直、高杉に怪我をさせないようにしてこっちが勝つというのは、少し手間が掛かるがこれが一番だと判断した。

 いや、普通に攻撃するだけでも意識を奪えるだろうとは思うんだが、そうすると高杉はいつの間にか意識を失っていたとして、自分の中にある想いに対して完全に決着を付ける事が出来ないだろう。

 この勝負で重要なのは、俺が勝つ事でもなく、高杉の心を折る事でもなく、高杉の中にある神楽坂への恋心をどうにかする事だ。

 ……だが、それが存外に難しい。

 いや、こうして何度も自分の後ろに回り込まれるような真似をして、それでも戦意が挫けないのはさすがと言うべきだろうが。

 ただ、もしこの程度で高杉の戦意がへし折れているのであれば、それは神楽坂に対して抱いていた想いはその程度のものだったという事になる。

 まぁ、木連の人間は単純な分だけあって精神的にはタフだ。

 単純な機構の機械が頑丈で壊れにくいというのと同じような理屈だろう。

 それでもこうして何十回となく自分の後ろを取られるというのは、木連でも有数の使い手として知られている高杉にとって受け入れがたい事なのは間違いなかった。

 俺の姿が消えたと思えば、次の瞬間には自分の後ろにいる。

 そんな事が繰り返されれば、当然のようにその行動を読んだ動きをしてくるのも当然であり、先程から何度か俺の姿が消えた瞬間に裏拳気味に拳を振るってくる事も多い。

 そんな事が繰り返されていき……

 

「まだ、続けるのか?」

「はぁっ、はぁっ、はぁ……と、当然です。まだ俺は負けを認めてはいません!」

 

 高杉が息を切らせながら叫ぶ。

 戦いという戦いは起きていないのに、それでも高杉がこうして息を切らせているのは、純粋に精神的なプレッシャーが大きいからだろう。

 このまま続けるのもいいが、そうなると高杉が消耗しすぎるな。適度な消耗ならいいけど、こちらも木連の人間の常として限界以上まで頑張るという悪癖がある。

 いや、普通に考えればそれは決して悪い事ばかりじゃないんだが、それも時と場合による。

 そして今はその時と場合には入らない。

 いや、神楽坂に対して強い想いを抱いている高杉にとっては時と場合に入るのかもしれないが、客観的に見ると残念ながらそうじゃない。

 高杉が息を切らしながら再び構えるのを一瞥し、次に審判の秋山の方へと視線を向ける。

 止めるなら今のうちだと、そんな思いを込めて秋山へと視線を向けたのだが……戻ってきたのは何も言わずにただ俺の方を見返す秋山という光景。

 高杉の動きとしては非常に単純な動きしかしてないのだが、それでも俺と相対している時点でプレッシャーは物凄い筈だ。

 それにも関わらず動けているというのは普通に凄いと思うが……だからといって、このままにする訳にはいかないだろう。

 高杉の身体に悪影響が残っても困るしな。

 仕方ない。高杉が疲れて動けなくなるのを待つつもりだったが……

 

「高杉、そろそろ俺からも攻撃に出る。本来ならお前がギブアップするまで待つつもりだったんだがな。そういう意味では俺に手を出させたお前の勝ちと言ってもいいかもしれない」

 

 その言葉に高杉の瞳に力が戻り……だが、次の瞬間には背後に回っていた俺の手刀が首へと振り下ろされ、あっさりと意識を失う。

 そのまま床へと倒れそうになる高杉の身体を支えると、物凄い汗の臭いが漂ってきた。

 ただでさえ混沌精霊として高い五感を持っている俺としては、何気に普通に殴るとかよりも汗の臭いの方がダメージがでかい。

 

「……そこまで。勝者アクセル」

 

 秋山の声が周囲に響き、それを聞いていた者達がそれぞれの反応を示す。

 白鳥は苦い溜息を、神楽坂は安堵の息を……といった具合に。

 中でもヤマダは感動したのか涙すら流して拍手をしていた。

 やっぱりヤマダって木連の人間と通じるところが多いよな。

 

「アクセル君、高杉君の怪我治すかー?」

 

 治療担当としてこの場にいた近衛の言葉に、少し考える。

 高杉が意識を失ったのは、首に一撃を食らった為だ。

 特に怪我らしい怪我はしておらず、どちらかと言えば今の高杉に必要なのは体力回復の方だろう

 ……まぁ、素人が首の後ろを殴って意識を失わせるといった行為をした場合には重大な障害が出る可能性もあるのだが、幸い俺は素人って訳じゃない。

 

「そうだな、多分特に問題はない筈だと思うけど、一応念の為に治療はしておいてくれ」

「わかったでー」

 

 そう言いながら高杉の近くへとやって来ると、意識を失っている高杉の身体にそっと手を伸ばす。

 

「アクセル代表、彼女は一体なにを?」

「……うん?」

 

 不思議そうな様子で尋ねてくる秋山。

 

「お前も近衛とは何度も会った事があるだろ?」

 

 白鳥、高杉と共に何度も俺達の家――正確にはコンテナ――にやってきているのだから、当然近衛と会った事も何度もある筈だった。

 だが……と考え、そう言えばと思い出す。

 

「ええ、何度も会ってはいましたが……」

「近衛は、シャドウミラーの中でも最高峰の回復魔法の使い手だ」

「いややわー。アクセル君、そんなに褒めんといてや」

 

 高杉に回復魔法を使いながら、近衛が照れくさそうにする。

 回復魔法特化というのはシャドウミラーのメンバーとしてどうかと思うが、それでも間違いなくその技量はシャドウミラーでも最高峰だ。

 事実、高杉はすぐに目を覚まして周囲を見回していたのだから。

 

「これは……」

「気が付いたか」

 

 周囲を見回す高杉に、秋山が近づいていく。

 それに気が付いたのだろう。高杉は秋山に視線を向け……そして、再び俺の方へと視線を向けてくる。

 そこまでしてようやく現在の状況に気が付いたのだろう。高杉は深く溜息を吐く。

 だが、ここで立ち直るのが早いのも木連の人間らしく、やがて立ち上がると深々と俺の方へと頭を下げてくる。

 

「アクセル代表、今回は俺の無理に付き合って貰って、ありがとうございました!」

「気にするな。俺もたまには身体を動かしたかったし、丁度良かった」

 

 そう告げるが、実際には今のやり取りは俺にとって殆ど身体を動かすといった意識はない。

 普通ならあれだけ動けば色々と疲れてもおかしくない筈だが、生憎と俺は混沌精霊であって、この程度で体力的な消耗は殆どない。

 それでもこう言ったのは、少しでも高杉が今回の件を気にしないようにする為でしかない。

 それを理解しているのか、それとも理解していないのか……頭を上げた高杉は、そのまま俺の前から立ち去る。

 そして向かったのは……当然のように神楽坂の所。

 神楽坂は突然自分の前にやって来た高杉に不思議そうな視線を向けているが、高杉は何をするつもりだ? そもそも、今回の件は高杉が自分の中にある神楽坂へと想いを断ち切る為に……って面が強かった筈だ。

 まぁ、神楽坂本人は全くその事に気が付いている様子はなかったが。

 神楽坂は元々その外見から高校に入ってからはかなり告白されてたって話だったんだし、もう少し恋愛の機微に聡くてもいいと思うんだけどな。

 ……まぁ、俺が聞いた話の中だと、強引にナンパしようとした奴が神楽坂にボコボコにされたって話もあったが。

 何でもそのナンパしようとしてきた奴はかなり質が悪かったらしく、ナンパした相手を言葉巧みに騙して薬を使い、ビデオに撮影をして、それを売ってたって話らしいから、寧ろその程度で済んで運が良かったと言うべきか。

 勿論そのナンパしてきた奴等はそのまま解放……って訳じゃなく、魔法先生に捕まってから今までの余罪を洗いざらい調べ上げられ、警察に突き出される事になったらしいが。

 ともあれ、そんな風に男から注目を浴びるのが普通だった神楽坂なんだし、高杉の気持ちに気が付いてもいいんだが……やっぱり神楽坂の趣味が中年以上ってところがネックになってるのか?

 

「か、か、か、神楽坂さん!」

「はい?」

「その……自分は……いえ、俺は神楽坂さんの事を一目見た時から心を奪われました!」

「……え?」

 

 まさに直球と呼ぶのが相応しい言葉だったが、それを聞いた神楽坂はようやく今行われた戦いに自分が関係していると理解したのだろう。唖然とした様子で高杉から視線を外し、俺の方へと視線を向けてくる。

 

「ですが、神楽坂さんにはもう決まった相手がいる以上、俺がいつまでも貴方を想っていても女々しいだけだと理解しました。ですから……俺は、今日限り神楽坂さんをそういう目で見ないようにします!」

 

 一度言い淀めば、もうそれ以上は言えないと……そう判断しているのか、高杉は一気にそこまで告げる。

 だが、その言葉は神楽坂にとっては全くの不意打ちだったのだろう。

 

 え? といった様子で高杉の方へと視線を向け……やがて誰の事を言っているのかを理解したのか、俺の方へと視線を向けてくる。

 頬が真っ赤に染まっている様子は、間違いなく怒りなのだろう。もしかして若干の照れが入っている可能性も否定は仕切れないが。

 

「ちょっ! 私は別にアクセルとそんな関係なんかじゃ……」

「いえ、誤魔化さないで下さい。傍目から見てもお似合いの2人です。最初から俺が入り込むような隙間はない程に仲睦まじい様子なのは知っていました。ですが……いえ、だからこそ、こうしてアクセル代表との戦いを契機に、神楽坂さんの事を諦めたいと思います! 一時の夢でしたが、神楽坂さんの事を想っていた日々は幸せでした!」

 

 そう告げ、走り去って行く高杉。

 秋山はそんな高杉を見送ると、苦笑を浮かべてその後を追う。

 

「……ちょっと、アクセル。どういう事よ。私とあんたが付き合ってるって……」

 

 頬を真っ赤にしながら、それでいて俺と視線を合わせずにそう告げてくる神楽坂と、どこかジト目を俺に向けてくるエリナという、色々と奇妙な状況に俺はどうするべきか迷うのだった。




アクセル・アルマー
LV:43
PP:505
格闘:305
射撃:325
技量:315
防御:315
回避:345
命中:365
SP:1415
エースボーナス:SPブースト(SPを消費してスライムの性能をアップする)
成長タイプ:万能・特殊
空:S
陸:S
海:S
宇:S
精神:加速 消費SP4
   努力 消費SP8
   集中 消費SP16
   直撃 消費SP30
   覚醒 消費SP32
   愛  消費SP48

スキル:EXPアップ
    SPブースト(SPアップLv.9&SP回復&集中力)
    念動力 LV.10
    アタッカー
    ガンファイト LV.9
    インファイト LV.9
    気力限界突破
    魔法(炎)
    魔法(影)
    魔法(召喚)
    闇の魔法
    混沌精霊
    鬼眼
    気配遮断A+

撃墜数:1208

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