転生とらぶる   作:青竹(移住)

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0158話

 アークエンジェルのブリッジでマリューがどこかと連絡を取っている。恐らくへリオポリスの避難状況を確認しているのだろう。

 

「はぁ……」

 

 溜息を吐き、外部との通信手段――受話器のようなもの――を元の場所に置く。

 

「コロニー内の避難はほぼ100%完了しているとの事だけど、さっきので警報レベルは9に上がったそうよ」

「あのシグーか。余計な時に来てくれたな」

 

 正式にこのアークエンジェルの傭兵として雇われる事が決まった為、俺もブリッジでこれからについての話し合いに参加している。一応歴戦の傭兵という経歴になっているので、いわゆるアドバイザーとかオブザーバーとかそういう感じだ。

 俺の言葉を聞いたムウが口を開く。

 

「シェルターは完全にロックされちまったって訳か。……クルーゼの奴め、よくよく祟るな。けど、そうしたらあのガキ共はどうするんだ? もうどっか探して放り込むって訳にもいかないだろう?」

「彼等は軍の機密を見た為にラミアス大尉が拘束されたのです。このまま解放する訳には……」

「じゃあ脱出にも付き合って貰うってのか? 出てきゃあド派手な戦闘になるぞ」

「ストライクの力も必要になると思うのですけど」

 

 マリューの言葉にナタルが眉を顰める。

 

「ブリッツがある以上、ストライクの力は……」

「だが、敵はクルーゼ隊だぜ? たった一機のMSで対応出来るか? いくらアクセルが化け物級のMSパイロットだと言ったって、結局は1機でしかないんだ。どう考えたって手が足りないだろ? 俺のメビウス・ゼロにしたって修理に時間は掛かるだろうし」

「そうだな、俺もマリューの意見に賛成だ。俺だけでどうにかなる……と言える程に楽観的な状況ではないだろう」

 

 グロウセイヴァーを使っても構わないのならそれこそ一掃は出来るんだが……

 

「それなら、フラガ大尉がストライクに乗られればいいではないですか」

 

 ナタルのその言葉に黙って首を振るムウ。

 

「あまり無茶を言わないで貰いたいな。あんなもんが俺に扱える訳ないだろう。あの坊主が書き換えたって言うOSのデータ、見てないのか? あんなもんが普通の人間に扱えるのかよ」

「……アクセルさんは、扱えていますけどね」

 

 ムウの言葉にマリューが呟く。

 

「おいおい。俺は確かに空間認識能力は持ってるけど、アクセルのようにMSを操縦出来る訳じゃない。肉体的能力はあくまでもナチュラルの範疇だぜ?」

「それだと俺がナチュラルじゃないと言ってるように聞こえるがな」

「別にそういう訳じゃない。だが、実際あんたはあのブリッツとかいうMSを操縦出来るんだろう? 少なくても俺には無理だって言ってるんだよ」

「ですが、アクセルはナチュラルなので問題はないですが、あんな民間人の……それもコーディネーターの子供に大事なストライクを任せる訳には」

「そんでのろくさ出てって、的になれっての?」

「……つまり、現状このアークエンジェルで計算できる戦力は俺とブリッツという事でいいんだな?」

 

 俺の言葉に頷く3人。

 

「機体の特性を考えると、アクセルさんがストライクに乗るというのもありかもしれませんね」

 

 マリューがそう言いながら、レポート用紙を数枚差し出してくる。そこにはブリッツの大まかな特徴が書かれている。もちろんミラージュコロイドについてもだ。ブリッツの最大の機体特性はそのミラージュコロイドによる隠密性にあると言ってもいい。ただし、そのミラージュコロイドを展開している間は電力を急激に消耗する為に85分というリミットがあり、武装に関しても電力をなるべく使わない為にそれ程強力なものではない。良くも悪くもミラージュコロイド特化と言ってもいい機体なのだ。……俺に言わせれば、ASRSの下位互換という感じだが。

 それに比べて、ストライクは高機動型・近接戦闘型・長距離射撃型という3つのストライカーパックを持っており、殆どの状況に対応が可能だ。特に武装に関して言えばブリッツとは比べものにならない程に充実している。そういう意味では、俺がストライクに乗るというのはそうおかしな提案ではない。だが……

 

「俺がストライクに乗るというのはありかもしれないが、もしキラがMSに乗るというのなら俺がブリッツ、キラがストライクにした方がいいだろうな」

「それはまた、何でだ?」

 

 ムウの疑問に、持っていたレポート用紙を流し読みしながら答える。

 

「言うまでもないが俺とキラでは戦闘に対する熟練度が違う。ストライクは確かに強力な機体だが、そうなると問題はブリッツだ。このレポートを見ても分かる通りミラージュコロイドによる強襲に特化している為に、武器の威力はそれ程高い訳じゃない。おまけにミラージュコロイドを展開している時にはPS装甲の展開も出来ない。……いくらコーディネーターだからと言っても、今まで碌に戦闘もした事がない奴がこのブリッツに乗った場合はすぐに沈められるのが落ちだと思うがな」

 

 俺の説明を聞いていたマリューが溜息を吐く。

 

「確かにアクセルさんの話ももっともだわ。……一応、キラ君にもう一度ストライクに乗って貰えるかどうか聞いてみましょう。それで乗ってくれるというのならキラ君がストライク、アクセルさんがブリッツに。もし乗るのを拒否した場合はアクセルさんがストライクに……という事でいいかしら?」

「ああ、俺はどっちの機体でも構わない」

「ラミアス大尉がそう仰るのなら……」

「ま、坊主に期待するしかないかね、こりゃ」

「……問題無いようね。なら早速お願いしに行ってきます」

 

 マリューがそう言い、ブリッジから出て行く。残された俺達はナタルが艦の状況をチェックし、ムウがそれを手伝い、俺はマリューに渡されたレポートへと目を通していた。

 そんな状況が10分程続いた頃だろうか。唐突に艦内にアラームが鳴り響き、C.I.C.を担当している軍人が焦った声で報告してくる。

 

「コロニー全域に電波干渉。Nジャマー数値増大!」

「何だと!?」

「ちっ、やっぱりこっちが出てくまで待っててはくれないか、あの野郎」

「またへリオポリス内で仕掛けて来ると?」

「楽だぜ。こっちは発砲できないけど向こうは撃ち放題だ」

 

 そしておまけに敵は対艦・対拠点用の武器を装備してくるのだからタチが悪い。ブリッツ用にその武器をなるべく無傷で入手したい所だが……無理は禁物だな。

 

「取りあえず俺がどの機体に乗るのかはまだ分からないが、格納庫に向かわせて貰うが構わないな?」

「ああ、こちらからもすぐにラミアス大尉に連絡を取ってキラ・ヤマトがストライクに乗るのかどうかを決めて貰う」

 

 ナタルの言葉に頷き、ブリッジを出てMS格納庫へと向かう。

 

 

 

 

 

「おう、兄ちゃん。敵が来たのか!?」

 

 格納庫へと入ると殆ど同時に整備主任のマードックから声をかけられる。

 

「ああ。またへリオポリス内で戦闘だ。機体の状況は?」

「機体の状況っつったって、ストライクとブリッツのどっちだ?」

「ストライク……いや、両方だな」

 

 こちらへと走ってくるキラを見つけ、言い直す。そちらを見たマードックも頷いて部下の整備員達へと指示を出し始める。

 

「アクセルさん!」

「キラ。乗る事にしたのか」

「ええ。本当は僕は戦いたくない。それにこの艦にはアクセルさんもいる。……でも、もし僕が戦わなかったせいでサイやトール達が死んでしまうなんて事になったらと思うと……」

 

 幼いながらも、友を守るという決意を固めた目をするキラ。それにイージスに乗っていたのが本当にアスランだったのかを確かめたいという気持ちもあるのだろう。

 

「そうか、なら俺からは何も言わない。友人を守る為に精一杯頑張れ」

「はいっ!」

「兄ちゃん、坊主。ブリッツもストライクも準備は完了だ。いつでも発進可能だぜ」

「ブリッツの左腕の装備……グレイプニールとかいうのは?」

「もちろん装備済みだよ」

 

 ……グレイプニールか。グレイプニルの糸なら使い慣れているんだが、このロケットアンカーを使いこなせるか? いや、使いこなすしかないか。

 

「ジンとシグーの武器は?」

「さすがにそれはOSのFCS設定を書き換えないとどうにも出来ないな。この戦闘が終わったら坊主にでも頼んでくれ」

「分かった」

 

 その坊主、キラの方へと視線を向けると既にストライクへと乗り込んでいた。俺もその後に続くようにブリッツへと乗り込む。

 

「三番コンテナ開けぇっ! ストライクにはソードストライカー装備だ!」

 

 マードックの叫び声が格納庫へと響き渡るのと同時に、ストライクにソードストライカーが装備される。一番目立つのはその右肩に背負っている対艦刀シュベルトゲベールだろう。その柄までを含めるとストライクの全高よりも大きい。また、左肩に装備されているブーメラン、マイダスメッサーも目を引く。

 そんな様子を横目にしながら、俺は格納庫に置かれているトリケロスをブリッツの右手に装備させる。

 

「キラ、先に出るぞ」

「はい、僕もすぐに出ます」

 

 キラへと断り、カタパルトデッキへとブリッツを移動させる。

 

「アクセル・アルマー、ブリッツ、出るぞ!」

 

 その声と共にブリッツがアークエンジェルから撃ち出され、同時にアークエンジェルのゴットフリートからビームが放たれた。

 敵機はイージスに、対艦・対拠点用の重装備をしたジンが3機の合計4機。

 ゴットフリートから放たれた4条のビームだったが、敵は散開してそれを回避する。

 

「アクセルさん、お待たせしました!」

 

 アークエンジェルから飛び出してきたストライクがブリッツの横に並ぶ。

 

「ブリッツの推力だとストライク程滞空時間のあるジャンプは出来ない。俺はアークエンジェルを足場にして戦うから、キラは積極的に攻撃してくれ」

「僕が!? ……分かりました」

 

 モニタに映ったキラは頷き、その推力を使い空中へと向かう。それを迎撃するかのように、イージスと1機のジンが待ち受けている。そして残り2機のジンはアークエンジェルへと向かって来た。

 こちらへと向かってくるジンは1機が巨大なミサイルを左右2発ずつの合計4発装備し、もう片方は巨大なビームライフルらしきものを装備している。

 

「ちぃっ、やらせるかよ!」

 

 ジンがアークエンジェルへと向かって放った1発の巨大ミサイルをトリケロスに内蔵されている50mm高エネルギービーム砲で迎撃。ミサイルは空中で爆発する。

 だが、もう1機の巨大なビームライフルを持ったジンがアークエンジェルの上にいるブリッツを回避するように下へと回り込もうとする。

 

「させるか!」

 

 こちらを回避しようとしたジンへと向かい、ブリッツの左腕に装備されているロケットアンカー、グレイプニールを放つ。

 有線で制御されるそれは、展開したクローがジンの右肩へと食らいつき、捕獲する事に成功した。

 

「こっちに……来いっ!」

 

 ミラージュコロイドの影響により、5機のガンダムの中では最もパワー不足と言われているブリッツだが、それでもジンとは比べものにならない。そのパワーによりグレイプニールごと引き寄せられたジンへとトリケロスに装備されているビームサーベルを一閃する。

 

「ちぃっ」

 

 巨大なビームライフルを持っている右腕は切断する事が出来たが、その結果グレイプニールのクローも外れて、ジンはビームサーベルの攻撃範囲から離脱する。

 そしてその隙を突くかのように巨大ミサイルを装備していたジンが残り3発、全てをアークエンジェルへと向かって撃ち放った。

 なるほど。あの巨大ビームライフルを持ったジンは囮だった訳か。

 巨大ライフルを持ったジンの右腕を邪魔にならない場所へと蹴り飛ばし、小さく呟く。

 

「加速」

 

 精神コマンドの加速を使用し、スラスターを全開にしながらアークエンジェルの左翼へと移動。迫ってくる巨大ミサイルへビームライフルを放つ。

 1発、2発、3発。次々にアークエンジェルの周りで巨大な花火と化すミサイルを横目にしつつも、トリケロスを装備している右腕をブリッツの後方へと向け、内蔵されている槍――貫通弾ランサーダート――を1本発射する。

 

「これで1機」

 

 その呟きと同時に右腕を失ったジンのコックピットへとランサーダートが突き刺さり、地面へと墜落していった。

 

「アークエンジェル、対空機銃を!」

 

 接触回線により、アークエンジェルのブリッジへと通信。俺の意見はすぐさま了承され、アークエンジェルの各所に設置されているイーゲルシュテルンがその弾丸を絶え間なく発射する。

 同時に最後のジンが巨大ミサイルを装備していた装置のボックス部分から数発の小型ミサイルを発射する。だがそれはアークエンジェルに届く事もなくイーゲルシュテルンにより破壊された。

 

「お前で最っ!?」

 

 その最後の1機に向け、トリケロスのビームライフルで攻撃しようとしたその瞬間、ブリッツのOSが動作を停止し、コックピットが暗闇に包まれる。

 何が起こった!?

 OSを再度立ち上げようとするが、ピクリとも反応しない。これは……OSの設定ミスか!?

 まずいっ! OSが落ちたとなるとPS装甲もダウンしている事になる。この状況ではジンの攻撃に耐えられない。

 

「くそっ!」

 

 咄嗟にコクピットを開放してブリッツから脱出しようとするが、次の瞬間には激しい衝撃と轟音によりブリッツごとシェイクされる。

 

「ぐっ」

 

 コックピットを手で押さえて何とか怪我をするのは避けられたが……何があった?

 衝撃が収まったのを確認し、ハッチを開放して外の様子を探る。

 まず目に入ったのは、キラの乗っているストライクが巨大なビームライフルを持っているジンをその斬艦刀で真っ二つにしている場面。そしてコロニーを支えているシャフトが火を噴いている所だった。


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