転生とらぶる   作:青竹(移住)

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1798話

「いいか、ペルソナを使う上でまず大事なのは、平常心を保つ事だ」

 

 タルタロスの2階を進む俺とゆかりの背後で、荒垣はそう呟く。

 最初にこの2階に上がった当初は、昨日の死神がいるかもしれない……そんな思いもあったのだが、幸いにもこの階層に死神の姿はない。

 まぁ、死神がいるのであれば、間違いなく念動力が教えてくれる。

 そう考えれば、寧ろ念動力に反応がない以上、その辺りを心配する必要はなかったのかもしれないが。

 

「平常心、ですか?」

 

 それくらいであれば、特に問題はないと、そう言いたげな様子のゆかりの呟き。

 だが、そんなゆかりの言葉に、荒垣は言葉を続ける。

 

「前にも言ったと思うが、ペルソナを呼び出す時に召喚器を使うのは、擬似的な死を体験して、それをトリガーとしてペルソナを召喚する為だ。そんな状況で、本当に平常心を保てていると思うか?」

「それは……」

 

 荒垣の言葉に、ゆかりは言葉を濁す。

 まぁ、普通なら擬似的な死を体験しているのに。平常心を保てというのが無理な話だろう。

 勿論、ペルソナを召喚する事に慣れてくれば、それも問題なく行えるようになるかもしれない。

 だが、その慣れるまでが大変だという事か。

 

「他にも、ペルソナは個人によって大きく特性が異なる。シャドウと戦う為には、自分の持つペルソナの特性を十分に理解して使いこなすことが大事だな。……もっとも、岳羽だったな。自分のペルソナが既に存在しているのを分かるのなら、どんな能力を持っているのかも殆ど本能的に理解出来る筈だ。そうだな?」

 

 荒垣の言葉に、ゆかりは目を閉じる。

 自分の中にある何か……この場合はペルソナだろうが、そのペルソナに意識を集中しているようなそんな感じで。

 すると、やがて驚いたように目を見開き、俺に視線を向けてくる。

 

「本当だ。ペルソナが……イオがどんな力を持ってるのか、分かる」

「へぇ。どんな力を持ってるんだ?」

 

 ゆかりの言葉に興味を持って尋ねてみると、ゆかりは満面の笑みを浮かべて口を開く。

 

「ディアっていう、1人をある程度回復させる魔法が使えるわ」

「……へぇ」

 

 予想外にあっさりと出てきたその言葉に、驚き……それで、意外そうな表情が浮かぶのが自分でも分かった。

 ゆかりは、そんな俺の言葉に何故か不満そうな表情を浮かべ、口を開く。

 

「何でそんなに意外そうなのよ」

「……いや。ペルソナってのは、召喚者と何らかの関係がある能力になるんだろ?」

 

 確認の意味も込めて荒垣に視線を向けると、荒垣はそれに頷く。

 

「まぁ、そうだな」

「なら、イオは攻撃的な魔法を使えるようになっていても、おかしくないだろ? それこそ、アギとかブフとかガルとか」

「……アクセル、あんたが私の事をどう思っているのか、よーく分かったわ」

 

 ジト目を向けてくるゆかりだったが、普段のゆかりの性格を考えれば、俺のその予想は決して間違っていない訳ではないと思う。

 あのゆかりだぞ? それが回復役……分かりやすく言えば、近衛とかと同じ役割だなんて……到底、納得出来ないと思っても、間違いじゃない筈だ。

 そう言えば、桜咲や近衛とも暫く連絡を取ってないな。

 一応シャドウミラーのメンバーなんだが、俺と一番行動を一緒にする事の多い実働班でもないし、技術班でもない。ましてや、住んでいる場所も同じ居住区画でも結構離れた場所だしな。

 ああ、でも一応桜咲は所属としては実働班という扱いなのか。

 もっとも、PTとかの機動兵器ではなく、純粋に生身での戦い専門なのだが。

 ゆかりのジト目から逃れる為にそんな事を考えながら歩いていると、やがて視線の先の通路からシャドウが姿を現す。

 スライムもどきか。

 

「臆病のマーヤか」

 

 俺とゆかりの背後で、荒垣がそう呟く。

 

「臆病のマーヤ? あのシャドウの名前か?」

「ああ。俺が知ってる限りでは、シャドウの中でも最弱の存在だ。また、タルタロスからよく外に迷い出てくるシャドウも、大半がこいつだな」

「あー……なるほど」

 

 ゆかりと初めて会った時に襲っていたシャドウも、このスライムもどきだった。

 

「なるほど、臆病のマーヤか。……妙な名前だな」

「いや、スライムもどきよりはマシだと思うけど?」

 

 先程の仕返しのつもりなのか、ゆかりは俺の言葉に対して即座にそう告げてくる。

 もっとも、それは否定出来ない事実である以上、俺からは何も言えないんだが。

 

「なら、取り合えずこれからはあいつの事は臆病のマーヤって呼ぶ事で」

 

 まだこっちに気が付いていないのだろう。

 臆病のマーヤは、1匹だけでタルタロスの通路を這いずり回っている。

 ……本当に今更の話なんだが、あいつは何をしたいんだろうな。

 そんな疑問を抱いていると、俺とゆかりのやり取りに呆れの表情を浮かべていた荒垣が我に返ったのか、やがて溜息を吐きながら口を開く。

 

「とにかく、臆病のマーヤが相手ならペルソナを初めて使うのに丁度いい。お前達もタルタロスを攻略してるなら、臆病のマーヤがどれだけ弱い相手なのかは、実感として知ってるだろ?」

「それは……まぁ」

 

 荒垣の言葉に、ゆかりが頷く。

 実際、今日は出していないが、護衛として炎獣がいる状態であれば弓を使ってあっさり倒せる程度の強さしかない。

 荒垣が言う、シャドウの中で最弱の存在だというのも、決して間違っている訳じゃないだろう。

 そういう意味では、確かにゆかりのペルソナを使う為の練習相手というのは、これ以上相応しい相手もいない筈だった。

 

「なら、やってみろ」

 

 そう告げる荒垣の言葉に、ゆかりは少し考え……やがて、1歩、2歩と足を踏み出していく。

 

「随分とスパルタだな」

 

 そんなゆかりの様子を見ながら、俺は隣までやってきた荒垣に話し掛ける。

 だが、その荒垣は特に自分が厳しい真似をしているといったつもりはないのだろう。

 不思議そうに、俺に視線を向けてくる。

 

「そうか? そこまで厳しいとは思わないけどな。実際、ペルソナが使えるのなら、臆病のマーヤ程度雑魚でしかないし」

「いや、けどゆかりのペルソナのイオが使えるのは、ディアとかいう回復魔法なんだろ? それで、どうやってシャドウを倒すんだよ」

「別に、ペルソナはその特殊能力を使わなければ戦えないって訳じゃない。出ている事が出来る時間は数秒から、10秒程度だが、それでも物理攻撃は十分に可能だ」

「……なるほど」

 

 イオの姿を思い出しながら、荒垣の言葉に頷く。

 鎖に縛られた女というイオの姿だが、その女が乗っているのは牛の頭蓋骨のような存在だ。

 臆病のマーヤを相手にした場合、それこそ重量差でどうとでも出来るだけの力はあるだろう。

 いつもは弓を持つ手に召喚器を持ちながら、ゆかりは臆病のマーヤに近づいていく。

 本当に今更の話だが、弓を武器にしているゆかりにとって、召喚器って実は使いにくい代物だよな。召喚器を持っていれば、弓を持つ事は出来ないんだから。

 

「ホルスター……どこにやったか……」

 

 荒垣も俺と同じ事を考えたのだろう。そんな風に呟いている声が聞こえてくる。

 恐らく、召喚器を収める為のホルスターというのがあるんだろう。

 別にそれ専門のホルスターではなくてもいいい。

 

「これ、後で渡しておくか」

 

 そんな訳で、俺は空間倉庫の中からホルスターを取り出す。

 言うまでもなく、このホルスターは誰かから……どこぞのマフィアやテロリスト、もしくは軍事基地辺りから盗んできた代物の1つだ。

 

「お前……いやまぁ、あるなら別にいいけどよ」

 

 いつの間にか俺の手に握られていたホルスターを見ながら、荒垣が一瞬驚きの表情を浮かべる。

 だが、すぐに俺がゲイ・ボルクを空間倉庫から取り出した時の事を思い出したのだろう。

 その驚きはすぐに消え、俺が持っているホルスターに視線を向けると、それ以上は何も言わない。

 まぁ、玩具のホルスターとかならまだしも、このホルスターは本物の、それこそ普通に銃撃戦で使われるホルスターだしな。

 もしかしたら、実際に銃撃戦で使われた経験のあるホルスター……つまり中古である可能性も否定は出来ないが、まぁ、その辺は黙っておこう。

 ともあれ、俺と荒垣の視線の先では、いよいよ戦闘が始まろうとしていた。

 近づいてくるゆかりに気が付いた臆病のマーヤは、じっとその姿を待ち構えている。

 いつ戦闘になっても大丈夫だと、そう言いたげな様子の臆病のマーヤ。

 そんな相手を前にして、ゆかりは少しずつ相手に近づいていき……やがて、足を止める。

 そこが自分のペルソナの間合いの範囲内だと、無意識にでもそう考えたのか。

 ともあれ、動きを止めたゆかりは、召喚器を自分の頭部に向ける。

 ここから見ても、召喚器を握るゆかりの手が震えているのが分かる。

 これまでシャドウとの戦闘を何度も経験してきたゆかりだったが、それでもやはりペルソナを召喚するというのは、違うのだろう。

 ましてや、いつもであれば前衛には俺がいて、その上で炎獣が護衛についている。

 それに比べると、ショートボウも手に持っておらず、その代わりに持っているのは銃を模した召喚器。

 模したとある以上、当然のように銃弾を撃ったりは出来ない。

 もしペルソナを召喚出来ない場合、臆病のマーヤの攻撃をその身で受ける事になる。

 ……まぁ、何だかんだといったところで、結局は臆病のマーヤ。最弱のシャドウだ。

 ブフ辺りを使われるとちょっと厄介かもしれないが、今のゆかりが本来の実力を発揮出来るのであれば、問題なく対処は可能だろう。

 

「ペ……ペルソナァッ!」

 

 そう叫ぶと共に、召喚器のトリガーを引く。

 瞬間……ゆかりのすぐ横に、牛の頭蓋骨に乗った、鎖で縛られた女が姿を現す。

 ゆかりのぺルソナ、イオだ。

 そのイオの出現に反応したのか、臆病のマーヤは素早く地面を這いながら前に出る。

 地面を這う速度はそれなりに早かったが、次の瞬間にはイオがその身体の真上に落ちる。

 ……そう。体当たりとかそういうのじゃなくて、落ちる、だ。

 ドン、もしくはズン。

 そんな音を立てて、イオは臆病のマーヤを押し潰した。

 そうなれば当然のように臆病のマーヤが生きていられる筈もないだろう。

 いや、スライムみたいな形なんだし、あるいは……?

 そんな俺の予想とは裏腹に、イオに押し潰された臆病のマーヤは実は生き延びた……という事はなく、そのまま消え去る。

 

「ゆかりの重い攻撃を食らえば、シャドウも潰れて消え去るか」

 

 ギロリ、と。

 俺が言葉を口にした瞬間、初めて自分の意思でペルソナを召喚し、戦闘が終了して緊張している筈のゆかりが俺を睨んでくる。

 その目に映っているのは、まさに殺気……それも俺はともかく、喧嘩慣れしている荒垣でさえ数歩後退る程の殺気だった。

 

「ねぇ、アクセル。何だか今……非常に気になる言葉が聞こえたような気がするんだけど……気のせいかしら?」

「ああ、多分気のせいだな。初めての戦闘にしては立派にやり遂げたって、感心していただけだから。なぁ?」

「あ、ああ。……うん」

 

 何だか俺を巻き込むなといったような視線をこっちに向けてくる荒垣だったが、それは多分俺の気のせいだろう。

 

「ふーん。……まぁ、ならいいけど……」

 

 幸いにも、先程の言葉は完全にゆかりに聞こえていた訳ではなかったのか、それ以上の追求はない。

 

「……おい、痴話喧嘩に俺を巻き込むなよ」

「別に痴話喧嘩って訳じゃないんだけどな」

 

 小声で不満を口にする荒垣に言葉を返し、俺は先程までイオがいた場所に視線を向ける。

 シャドウを潰したイオが、先程までそこにいたのが嘘のように消えている。

 その消え方は、いっそ死んだシャドウが消えた時のように思えないでもない。

 ……いや、何を考えてるんだろうな。

 

「さて。じゃあもう少し先に進むか」

 

 妙な考えを振り払うように、ゆかりと荒垣にそう告げる。

 

「そうね。もう少しペルソナを使いこなせるようになりたいわ」

「……気をつけろよ。ペルソナを召喚すれば、当然だが使用者の体力を消耗する。もっとも、それに慣れる為には、より多くペルソナを召喚するしかないんだけどな」

「何だよ、それ。最終的には、結局なるべく多くペルソナを召喚する必要があるって事じゃないか」

「そうなるがな」

 

 そんな風に話しながらタルタロスの中を進むと……

 

「1000円、か」

「……相変わらず、何でこうして現金がタルタロスの中にあるのか、分からないわね」

 

 見つけた空箱の中から出てきた1000円札の姿を見て、しみじみと思ってしまう。

 

「ああ、それは桐条グループの方でも疑問に思ってたな」

「って事は、桐条グループでも明確な理由は分かってなかった訳か」

「そうなる。……そもそも、このタルタロスという建物自体が色々な意味で特殊な場所だからな。そう考えれば、無理もないさ」

 

 荒垣の言葉に頷き、1000円札は一応確保してそのまま進むのだった。




アクセル・アルマー
LV:43
PP:1435
格闘:305
射撃:325
技量:315
防御:315
回避:345
命中:365
SP:1415
エースボーナス:SPブースト(SPを消費してスライムの性能をアップする)
成長タイプ:万能・特殊
空:S
陸:S
海:S
宇:S
精神:加速 消費SP4
   努力 消費SP8
   集中 消費SP16
   直撃 消費SP30
   覚醒 消費SP32
   愛  消費SP48

スキル:EXPアップ
    SPブースト(SPアップLv.9&SP回復&集中力)
    念動力 LV.10
    アタッカー
    ガンファイト LV.9
    インファイト LV.9
    気力限界突破
    魔法(炎)
    魔法(影)
    魔法(召喚)
    闇の魔法
    混沌精霊
    鬼眼
    気配遮断A+

撃墜数:1389

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