転生とらぶる   作:青竹(移住)

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1817話

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 騎士のシャドウを倒すことには成功したが、ゆかりはまさに息も絶え絶え……いや、この表現は微妙に違うか?

 ともあれ、本当に魔力を限界近くまで使ったのだろう。

 息は切れ、顔には大量の汗が浮かんでいた。

 タルタロスの床に腰を下ろし、壁に背を預け……といった具合に、完全にもう1歩も歩けません状態。

 

「大丈夫か?」

「え、ええ。大丈夫。……ただ、ちょっと休ませてちょうだい」

「だろうな」

 

 あの騎士のシャドウを、ガルだけで倒したのだ。

 普通に考えれば、かなりの無茶をしたと言えるだろう。

 もっとも、今のゆかりの攻撃手段はイオのガルと体当たり、それと弓しかないのも事実だ。

 その内、体当たりと弓の両方を封じられている以上、攻撃手段はガルしかない。

 となれば、ゆかりがあの騎士のシャドウを倒すには、自分の魔力限界までガルを使うしかなかったのは間違いないのだ。

 

「じゃあ、ちょっとここで待っててくれ。俺はちょっとこの階を探索してくる。……護衛はそいつがいるから、大丈夫だろ」

 

 視線を向けた先にいるのは、子猫の炎獣。

 ゆかりにとっても、既にお馴染みの存在と言ってもいい。

 ついでにと、空間倉庫から取り出したスポーツ飲料の入っているペットボトルをゆかりに放り投げる。

 

「ええ、ありがとう」

 

 そう言えばスポーツ飲料ってのはその名前とは裏腹に、かなり太るって話を聞いた事があるが……まぁ、あの騎士のシャドウと戦って、精神的にも肉体的にもかなり消耗した筈だし、影時間に多少スポーツ飲料を飲んでも問題はないよな。

 うん、問題はない……筈だ。

 ただ、次からはウーロン茶やミネラルウォーター辺りを渡すとしよう。

 コクコクと、喉を鳴らしながらスポーツ飲料を飲むゆかりを……正確にはそのスポーツ飲料を飲み、艶めかしく動いている白い喉を見ていると、それに気が付いたのだろう。

 ゆかりはスポーツ飲料を飲むのを止めて、こっちにジト目を向けてくる。

 

「ちょっと、何よ。何を見てるのよ?」

「いや、特には何も。それより、よくあのシャドウを倒せたな」

「……何だか、話を誤魔化された気がするんだけど。まぁ、相手は結局最初から最後までアクセルの鬼眼だっけ? それでまともな行動が出来なかったもの。あれで、実はジオとか使ってきたら厄介だったけど」

「だろうな」

 

 ゆかりのペルソナ、イオは電撃系に弱い。

 それこそ、ジオを使われれば、その衝撃で転んでしまう程に。

 その上、このタルタロスを戦ってきた経験から考えると、何気にジオを使ってくるシャドウは多い。

 もしかしたら、あの騎士のシャドウもジオを使ってきた可能性は十分にある。

 そう考えれば、やはり鬼眼を使ったのは悪くない選択肢だったのだろう。

 もっとも、会う敵全てに鬼眼を使う訳にもいかない以上、ジオ系に弱いという欠点はいずれどうにかしないといけないだろうが。

 大抵のRPGのパターンとかだと、弱点属性をなくする……いや、正確には属性防御を付ける? そういう装備品がある筈だ。

 その手の装備品……恐らくマジックアイテムだと思うが、それがこの世界にもある事を期待しよう。

 ……まぁ、その場合の問題は、もしその手のマジックアイテムを入手しても、俺にはそれがどのような効果を持つのかを理解出来るかどうか……といったところか。

 何しろ、俺にはこの世界でのマジックアイテムに対しての効果もないし、桐条グループから隠れて行動している以上、向こうに聞く訳にもいかない。

 影時間やシャドウについて調べている以上、桐条グループに聞くのが手っ取り早いんだけどな。

 

「とにかく、俺はちょっとこの階を調べてくる。今までのパターンから言えば、小ボスを倒したこの階層にはもう他のシャドウは出ない筈だ。宝箱の方も、しっかりと確認しておきたいしな」

「あー……うん。宝箱はちょっと気になるけど、今はちょっとアクセルと一緒に動けるような体力は残ってないわ。ここで待ってるからよろしく」

 

 ゆかりは俺の言葉にそう返す。

 

「荒垣、お前もここに残っててくれ。一応シャドウとかがいなくても、ゆかりを1人にする訳にはいかないだろ」

「あー……まぁ、そうだろうな。分かったよ」

 

 思ったよりもすんなりと引き受けた荒垣だったが、そこに驚きはない。

 元々戦闘はしないアドバイザーという事で俺達と一緒についてきている荒垣だったが、その面倒見のいい性格から考えれば、もしここで俺がいない時にシャドウに襲われても、間違いなくゆかりを助けようとしてシャドウと戦うだろう。

 それは、俺の目から見れば確実な事だった。

 荒垣本人もそれは分かっているのだろうが、わざわざ口に出したりはしない。

 

「じゃあ、頼んだ」

 

 それだけを告げ、俺は1人で14階の階層の探索を開始する。

 ……出来れば、イレギュラー的な事態はこの階層だけにして欲しいんだが、それは難しいだろうな。

 タルタロスが具体的に何階まであるのかは分からないが、ここはまだ14階でしかない。つまり、この先はまだまだ長いにも関わらず……イレギュラーな小ボスがこの階層だけだというのは、ちょっと信じられない。

 となると、やっぱり俺の予想した5階ずつ小ボスがいるという考えそのものが間違っていたんだろうな。

 5階、10階にいたのがたまたま偶然で。

 もっとも、それでもこの階が14階で小ボスがいた以上、ある程度ずつの間隔で小ボスがいるのは間違いないのかもしれないが。

 

「お、あったな」

 

 そんな事を考えながら14階の探索をしていると、やがて視線の先に宝箱を見つける。

 小ボスが出てくる階層は俺の予想とは外れたが、それでも小ボスのいる階に宝箱があるというのは、正解なのだろう。

 これまでの経験から、恐らく罠はないだろうと判断しながら宝箱を開く。

 すると、宝箱の中に入っていたのは……

 瓶に入った液体と……香炉?

 

「どちらもかなりの魔力を秘めているのは、間違いないらしいけど……」

 

 瓶に入ってる液体は、飲み物……なのか?

 当然ながら、この瓶に入った飲み物と香炉と思しき物の効果は分からない。

 取りあえず飲み物の方は、これまでのパターンから考えると敵に使うではなくこっちが使うべき物だろう。

 具体的に、これがどんな効能を持っているのかは分からないが。

 こっちの香炉は……この飲み物と一緒に出てきた事を考えれば、恐らく敵にではなく味方に使う奴だろう。

 もっとも、それは実際に使ってみないと何とも言えないが。

 ともあれ、その2つを空間倉庫に収納し、ついでに15階に続く階段とターミナルの位置を確認してから、先程戦闘のあった場所に戻る。

 そうして戻ってきてみれば、そこではある程度回復したのか、息が整えられたゆかりの姿と、少し離れた場所で周囲の様子を警戒している荒垣の姿があった。

 

「あ、もう戻ってきたの?」

 

 俺の姿を見たゆかりが、そう声を掛けてくる。

 

「ああ。宝箱とターミナルと階段、全部見つけてきたぞ。今までの小ボスの部屋と同じく、この階層もかなり狭かったから見つけるのは難しくなかった」

「へぇ……それで、宝箱には何が入ってたの?」

「これだ。……例によって、当然のように使い道が分からないけどな」

 

 瓶に入った液体と香炉を取り出し、ゆかりに見せる。

 荒垣も宝箱の中に何が入っていたのかが気になるのか、周囲の様子を警戒しながらこっちに何度か視線を向けていた。

 ……見たいなら、素直に見ればいいと思うんだけどな。

 ともあれ、当然のようにゆかりは俺が空間倉庫から出したその2つを見て、残念そうに口を開く。

 

「また使い道が分からない奴なの?」

「そうなるな。……ただ、こうして見た感じでは、この瓶に入ってるのは飲み物で、そう考えれば回復とか状態異常の回復とかをする奴に見える」

「……そうか? 敵に掛ける毒とか、そういう可能性もあると思うんだが」

 

 荒垣の言葉に、改めて視線を瓶に向ける。

 まぁ、こうして見る限りでは、特に中身が分かる訳ではない。

 実際にどのような効果を持つのか調べるには、使ってみるのが一番いいんだが……宝玉輪の時のように、無駄に使ってしまうのは出来れば避けたい。

 かといって、今の俺達にこの液体と香炉を調べるだけの技術や設備がある訳でもないし。

 ……やっぱり桐条グループに頼れないというのは痛いな。

 眞宵堂に……いや、古美術品ならともかく、この液体と香炉はとてもそういうのではない。

 ああ、でも液体の方はともかく、香炉は古美術品と見えなくもない、か?

 駄目元で眞宵堂に持っていってみるのもいいか。

 幸いにもあの店主の電話番号とメルアドは知ってるんだから、直接出向く前にメールで聞いてみるというのはあり……だと思う。

 

「こっちの液体はともかく、香炉の方はちょっと調べる事が出来るかもしれないから明日にでも調べてみる」

「……そうか」

 

 俺の言葉に、荒垣が頷きを返す。

 ただ、その表情は何か物言いたげな様子だった。

 そんな状況で一瞬だがゆかりの方を見れば、何を言いたいのかは容易に理解出来た。

 つまり、桐条グループに頼ってみてもいいのではないか、と。

 そういう事なのだろう。

 ゆかりの一件がなければ、それが一番いいんだろうけどな。

 けど、この世界で最大の協力者であるゆかりが嫌だと言ってるのを、無理して桐条グループに頼ろうとは思えない。

 もしそんな真似をすれば、それこそゆかりの俺に対する信頼を失う可能性が高い。

 ……正直なところ、一介の女子高生にすぎないゆかりと、桐条グループという集団を将来的に継ぐだろう桐条美鶴。

 そのどちらを仲間にした方が有利なのかと言えば、当然後者だ。

 だが、これまで……それこそ半月程度だが、それだけの間を共に影時間を戦ってきたゆかりを見限り、桐条美鶴に近づくというのは……義理に反すると言ってもいい。

 少なくても、俺ならそんな真似をした奴といい関係を築けるとは、ちょっと思えない。

 それに、ゆかりのペルソナは回復と風の攻撃魔法が使え、生身での物理攻撃もそれなりに強力だ。

 ……いや、ペルソナで攻撃するのに生身という表現が相応しいかどうかは、正直微妙なところだが。

 ともあれ、ゆかりのペルソナのイオはかなり力を持つペルソナだ。

 ましてや、成長……いや、恐らくレベルが上がってガルを習得したという事は、まだこれから先も新たなスキルを色々と覚えていく筈だ。

 勿論ガルで打ち止めという可能性もあるが……多分それはないと思っている。

 これは純粋にこの世界が何らかの原作の世界であると考えれば、の話だが。

 まぁ、ここが何らかの原作の世界であっても、実はゆかりがメインの登場人物ではなく、ちょっとした役だったり、もしくは原作が始まる前か、始まってから暫くして死ぬなり病気になるなりして戦線離脱するような奴だったら、分からないが。

 

「ま、これが何なのかは分からないが、とにかく今日はタルタロスを出るとしないか? 俺や荒垣はともかく、ゆかりはもうこれ以上の戦闘は難しいだろ」

「……そうね。弓を引く力も残ってないわ」

 

 強がりの1つも口にせず、大人しく俺の言葉を認める辺り、やはりゆかりはあの騎士のシャドウとの戦いで力を使い果たしたのだろう。

 精も根も尽き果てたと、そんな感じで。

 

「本来なら、今日は腕慣らし的な意味でタルタロスに来たんだけどな。殆ど意味がなかったか」

「まさか、14階に小ボスがいるとは思わなかったからな」

 

 荒垣の言葉に、俺とゆかりが揃って頷く。

 実際、これは完全に予想外だった。

 それでも、出てきたのが騎士のシャドウでよかったと言うべきだろう。

 ……もしあの死神がいきなり出てきたりしようものなら、色々と厄介な事になっていたのは間違いない。

 俺だけであれば、あの死神と渡り合える……いや、勝つだけの自信はある。

 だが、ゆかりと荒垣の2人を守りながら戦うとなると、それはかなり難しいだろう。

 

「とにかく、戻るとするか。今日はゆっくりと休んで、ゆかりの体調が元に戻るまでもう数日はタルタロスの攻略を控えるとしよう」

「そんなっ! 私は今日休めば大丈夫よ!」

 

 ゆかりが反射的にそう告げるが、それが強がりだというのは見れば分かる。

 そもそもの話、ゆかりはようやく動ける――という表現はちょっと大袈裟だが――ようになったのが、今日なのだ。

 そしてタルタロスにやって来たその日に、いきなり小ボスと遭遇したのだから、当然のように体力は消耗している筈だった。

 

「いいから、無理を言うな。今のお前は自分では理解出来ないかもしれないが、相当消耗している。とにかく、何日かは様子を見た方がいい」

「だろうな。俺もアルマーの意見に賛成だ」

 

 荒垣までもが俺の意見に賛成し、結局ゆかりは俺の意見を呑むのだった。




アクセル・アルマー
LV:43
PP:1435
格闘:305
射撃:325
技量:315
防御:315
回避:345
命中:365
SP:1415
エースボーナス:SPブースト(SPを消費してスライムの性能をアップする)
成長タイプ:万能・特殊
空:S
陸:S
海:S
宇:S
精神:加速 消費SP4
   努力 消費SP8
   集中 消費SP16
   直撃 消費SP30
   覚醒 消費SP32
   愛  消費SP48

スキル:EXPアップ
    SPブースト(SPアップLv.9&SP回復&集中力)
    念動力 LV.10
    アタッカー
    ガンファイト LV.9
    インファイト LV.9
    気力限界突破
    魔法(炎)
    魔法(影)
    魔法(召喚)
    闇の魔法
    混沌精霊
    鬼眼
    気配遮断A+

撃墜数:1389

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