転生とらぶる   作:青竹(移住)

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1871話

「ちょっと、何よこれ」

 

 ゆかりの口から出る、不満の声。

 まぁ、分からないではない。

 ゆかりが影から姿を現した瞬間、シャドウは即座にその場から逃げ出したのだから。

 俺がシャドウを見つけ、そこに有里とゆかりの2人を運んだ直後の出来事。

 そうして、俺の予想が……シャドウはゆかりを見たり感じたりして逃げているのだという事が、これ以上ないくらいはっきりと証明された瞬間だった。

 ゆかりも、それが分かっているからこそ、ああやって不満を口にしているのだろう。

 

「……取りあえず、どうする?」

「アクセル、もう1回シャドウを見つけてきてくれる? 今度は有里君じゃなくて、私だけをシャドウの近くに運んで欲しいんだけど」

 

 ゆかりが不本意そうにそう言うのは、シャドウが逃げる原因が有里にあるのではないか……そう思っての事だろう。

 いや、有里が……って意味なら、さっき真田と一緒に転移させた時に普通に戦えてるんだけどな。

 だが、正直にそれを口にしても、恐らく素直に受け入れる事はないだろう。

 分からないでもない。

 何しろ、本来ならこっちを襲うシャドウが、逆にゆかりに襲われるとでも言いたげに即座に逃げ出しているのだから。

 ゆかりにとっては、到底容認出来るような事ではないのだろう。

 

「まぁ、いいけど……一応、有里を真田達の場所に戻してからでいいな?」

「……ええ」

 

 何かを我慢しているような口調で頷くゆかり。

 有里は触らぬ神に祟りなしとでも言いたげに、ゆかりから距離を取り、こちらに視線を向けている。

 それは、お前が早く何とかしろよと、そんな風に言っているように見える。

 いや、実際にそう思っているのだろうが。

 そんな訳で、俺はゆかりが爆発するよりも前に一旦真田達がいる場所まで影のゲートを使った転移で戻る。

 

「ん? どうしたんだ?」

 

 戻ってくるのが早かったからだろう。真田は不思議そうな視線をこちらに向けて尋ねてきた。

 だが、転移する前に少し話していた荒垣は、大体事情を理解したのだろう。あちゃぁ……という表情を浮かべつつも、納得の表情を浮かべていた。

 だが、それも当然だろう。

 そもそもの話、消去法でシャドウが逃げる原因はゆかりと荒垣のどちらかだったのだから。

 

「ちょっと確認したい事があってな。悪いが少しの間、有里の護衛は任せる。それと、ゆかりの代わりに荒垣を連れて来た方がいいな」

「そうして貰えると、助かるわ」

 

 短く言葉を交わすと、有里をこの場に残し、俺は再びゆかりと共に転移する。

 

「あ、おい、ちょ……」

 

 真田が何かを言っていたようだったが、今はとにかくシャドウが逃げ出す原因が本当にゆかりなのだという確証が欲しい。

 

「荒垣、ゆかりの代わりにちょっと来てくれ」

「あー……分かった」

 

 真田の言葉を半ば無視し、荒垣を連れて影に沈んでいく。

 そうして荒垣と2人で姿を現したのは、臆病のマーヤが歩いているすぐ側だった。

 

「おい、俺は戦わねえぞ!」

 

 自分がタルタロスでは戦わないという事を分かっているのかと、そう言う荒垣。

 だが、俺だってそれは承知の上での行動だ。

 俺と荒垣の姿を見ると、真っ直ぐこちらに向かってくる臆病のマーヤ。

 当然のように、俺に向けてブフを放つが……ゲイ・ボルクを抜くまでもなくあっさりと放たれた氷柱を掴む。

 吹雪だったり、もっと小さい氷を無数に放つような形態のブフであれば、俺もこうあっさりと掴む事は出来なかっただろう。

 だが、今回のように大きめの――それでも手で掴める程度の――氷柱1本では、当たればダメージは大きいかもしれないが、そもそも当てるのが難しい。

 俗に言う、当たらなければどうという事はない、って奴か?

 ん? これ何の台詞だったか……まぁ、今はそんな事を考えている場合じゃないか。

 とにかく、荒垣を相手にしてもシャドウは特に躊躇する事もないまま、襲い掛かってきた。

 であれば、シャドウが襲ってこない一件はゆかりに理由があると考えていいみたいだな。

 けど、何でゆかりだけをシャドウが怖がるんだ?

 そう疑問に思うも、ここでそんな事を考えていても答えは出ないだろうと判断し、ゲイ・ボルクで臆病のマーヤを倒すと、荒垣と共に元の場所に戻る。

 

「どうだった?」

 

 どこか期待した表情でそう尋ねてきたのは、ゆかり。

 やはり自分だけがシャドウに恐怖されているというのは、信じたくはなかったのだろうが……そんなゆかりの言葉に、俺は首を横に振る。

 

「この場合は残念ながらって表現した方がいいんだろうが、荒垣が相手でもシャドウは攻撃をしてきた。となると、やっぱりシャドウが怖がっているのはゆかりだけだという事になる。……理由は不明だが」

『ふむ、そうだな。取りあえず有里に実戦を経験させることも出来たし、エントランスまで戻ってきてくれないか? そこで話をしよう。出来れば私も、通信機越しではなく直接話をしたいからな』

 

 そんな桐条の言葉には誰も異論がないのだろう。

 それを確認し、俺は全員を影のゲートでタルタロス1階にあるエントランスに運ぶ。

 

「皆、ご苦労だったな。……有里、初めてのシャドウとの戦闘はどうだった? いや、寮で戦闘しているのだから、初めてという訳ではないのだろうが」

「そうですね。思ったよりは動けました。それがちょっと意外でしたね」

 

 シャドウとの戦いに慣れていない割に、有里はあっさりと……それこそ特に緊張した様子もなく、そう告げる。

 うん、こうして見るとやっぱり有里は色々と特殊なんだよな。

 

「そうか。これからは色々と大変になるかもしれないが、頑張って欲しい。……さて、ではそろそろ本題に入りたいと思うのだが……」

 

 有里との会話を打ち切った桐条は、どこか落ち込んだ様子のゆかりに視線を向ける。

 まぁ、女としてシャドウに怖がられ、更には逃げられるというのは……思うところがあるのだろう。

 

「何よ、何で私ばっかり怖がられなきゃいけないのよ……私が何か悪い事した?」

「あー……ほら、元気出せって。別にシャドウに怖がられるってのは、そんなに悪い事じゃないだろ? それこそ、タルタロスを攻略する上ではメリットの方が多いと思うぞ」

「……本当に、そう思う?」

「ああ」

 

 実際、タルタロスを攻略する上で、いらない戦闘を避けられるというのは大きなメリットなのは間違いない。

 影時間というのは、別に無限に続いている訳じゃない。

 大体3時間から4時間程度……といったところだ。

 そうであれば、雑魚との戦闘をしなくてもいいというのは、大きなメリットだといえるだろう。

 もっとも、ゆかりのレベル上げをするという点においては、シャドウが出てこないのは困るんだが。

 

「ん? でも、15階のシャドウは普通に出ていたと思うが?」

 

 ふと、荒垣が何かを思いついたかのように、そう告げる。

 その言葉でゆかりと俺は15階での戦闘を思い出し、そう言えば……と頷く。

 

「けど、そうなると……低い階層、つまり弱いシャドウだけがゆかりを怖がる……ん? つまり、ゆかりが強いから、それを察知してシャドウが逃げていくとかか?」

 

 荒垣の言葉からそこまでを思いついて告げるが、その意見に待ったを掛けたのはゆかり本人だった。

 

「ちょっと待ってよ。強い相手をシャドウが避けるんなら、それこそアクセルはどうなるのよ? 自分で言うのも情けないけど、私とアクセルが戦った場合、私が勝つ可能性なんて、それこそ1%もないわよ?」

「……アルマー、そこまで強いんだ」

 

 ゆかりの言葉に、有里が驚きの視線をこっちに向けた。

 まぁ、俺が強いってのは否定しないが、そうなんだよな。ゆかりよりも強い俺を見ても、シャドウは普通に攻撃をしてくる。

 この点を考えると、俺の思いついた一定以上自分よりも強い相手には、シャドウは戦いを挑まずに逃げるという仮説は破綻するんだよな。

 

「となると、強さに関係なくゆかりを怖がっている? ……まぁ、その気持ちも分からないではないけど」

「ちょっと、アクセル。それはどういう事かしら? もう少ししっかりと教えてくれる?」

 

 ジト眼を向けながらそう言ってくるゆかり。

 そういうところをシャドウも怖がってるんじゃないかと思うんだが……いやまぁ、それを言えば恐らくもっと騒ぎが大きくなるだろうから、言うつもりはないが。

 

「いや、何でもない。俺の気のせいだった」

 

 取りあえず、即座にそう答えておく。

 だが、こちらの強さで判別している訳ではない以上、その理由が不明なんだよな。

 

「ん? ……アルマー、一応聞くが、お前はペルソナを使えない。それに間違いはないか?」

「ああ、今のところは使えないな。……将来的に覚醒して欲しいとは思うけど」

 

 ペルソナは、俺から見ても色々と便利な力に見える。

 であれば、そのような能力を使えると便利なのは間違いないだろう。

 かといって、ネギま世界の時のようにペルソナを使える奴を吸収するという訳にもいかないだろう。

 ネギま世界では、麻帆良を襲った魔法使いを吸収した事により、俺はネギま世界の魔法を手っ取り早く習得した。

 まぁ、基本的にネギま世界の魔法は誰であってもある程度は習得可能だったのを考えると、実は無駄だったんじゃないかと思わなかった事もない。

 ただ、普通に習得出来るのはあくまでもある程度までであり、どうしても才能による一線というのは存在している。

 野球やサッカーといったスポーツも、やろうと思えば皆が出来るが……プロになって食っていけるのはほんの一握りだけだというのに、少し似ているかもしれないな。

 つまり、俺がネギま世界に行った時、最初に吸収した魔法使いから得られたスキルにより、炎や影、召喚魔法といった魔法に対して強い才能を発揮し、更にそのおかげで混沌精霊になったと言っても、間違いではない筈だ。

 

「つまりだ。シャドウは岳羽やアルマーのように個人としての能力ではなく、あくまでもその個人が持っているペルソナがどれだけ強いのかによって、逃げるのかどうかを決めているのではないか? そう考えれば、現在の岳羽はこの場で最強のペルソナ使いだし、シャドウが岳羽からイオという強力なペルソナの気配を感じ取って逃げ出してもおかしくないのではないか?」

「……なるほど」

 

 桐条の口から出たその説明は、十分に納得出来るものだった。

 元々、俺はこのペルソナ世界ではイレギュラーな存在なのだ。

 であれば、シャドウがゆかりを見て逃げても、俺を見て逃げないというのは……まぁ、有り得ない選択肢ではない、と思う。

 もっとも、死神のように何故か俺に執着しているシャドウもいるけどな。

 死神と遭遇した事があるのは、あくまでも俺のパーティ……正確には俺だ。

 何故かは分からないが、死神は俺だけを執拗に狙ってきている。

 この辺、何故同じシャドウでも対応が違うのかは分からないが……とにかく、こっちとしては納得出来ない訳でもない。

 勿論不満を持ってないかと言えば、それは否だが。

 

「……そうなんだ」

 

 桐条の仮説に、ゆかりは少しだけ嬉しそうに笑みを浮かべる。

 マイナス方向の特別という訳ではなく、プラス方向の意味での特別だというのが、ゆかりにとっても悪くなかったのだろう。

 

「まぁ、あくまでも桐条の仮説だけどな」

「あのね……」

 

 俺の口から出た言葉が気に入らなかったのか、ゆかりが不満そうにこちらを見る。

 だが、実際問題、ゆかりのその能力に過度な期待をするのは、やめておいた方がいいと思うのは間違いない。

 そもそも、桐条の仮説が正しければ、戦闘を回避出来るのはあくまでもゆかりにはどうやっても勝ち目のない、弱いシャドウに限定されている。

 そして俺達が目標としているのは、あくまでもタルタロスの最上階。

 であれば、常に最前線での戦いとなり……そういう意味では、弱いシャドウと戦うという事は、基本的にはないと思ってもいい。

 ……まぁ、今みたいに16階より上に行けないのであれば、自然と15階での戦いを繰り返す事になり、そのうち15階の敵もゆかりを見れば逃げ出すようになる可能性は否定出来ないが。

 

「とにかく、事情が予想出来たのはよかったな。……宝箱を集めるとか、そういうことをする際には便利そうな能力だと思うが」

 

 荒垣が強面の顔に少しだけ笑みを浮かべながら、そう告げる。

 元々面倒見がいい荒垣だけに、ゆかりがシャドウに逃げられるという特殊な力を持っているというのは心配していたのだろう。

 

「俺にも……あの時、岳羽くらいの力があれば……」

 

 口の中だけで呟いた荒垣だったが、その声は俺の耳にしっかりと聞こえてきた。

 ……何について後悔しているのかは分からないが、恐らく桐条や真田達と別行動を取る事になった原因についての話なのだろう。

 

「とにかく、今日のタルタロスでの戦いはこれで終わりにしよう。色々とそれぞれ課題も見えた事だしな。……アルマ-、今日は助かった」

 

 そう告げてくる桐条の言葉に、俺は頷きを返すのだった。




アクセル・アルマー
LV:43
PP:1435
格闘:305
射撃:325
技量:315
防御:315
回避:345
命中:365
SP:1415
エースボーナス:SPブースト(SPを消費してスライムの性能をアップする)
成長タイプ:万能・特殊
空:S
陸:S
海:S
宇:S
精神:加速 消費SP4
   努力 消費SP8
   集中 消費SP16
   直撃 消費SP30
   覚醒 消費SP32
   愛  消費SP48

スキル:EXPアップ
    SPブースト(SPアップLv.9&SP回復&集中力)
    念動力 LV.10
    アタッカー
    ガンファイト LV.9
    インファイト LV.9
    気力限界突破
    魔法(炎)
    魔法(影)
    魔法(召喚)
    闇の魔法
    混沌精霊
    鬼眼
    気配遮断A+

撃墜数:1389

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