転生とらぶる   作:青竹(移住)

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番外編061話 その頃の技術班 後編

「先生、おやつは幾らまでですかー?」

 

 技術者のその言葉に、セシルは一瞬だけ引き攣った笑みを浮かべてから口を開く。

 

「ニーズヘッグはシャドウミラーの象徴、フラッグシップです。そうである以上、予算に上限はありません」

 

 半ばふざけた言葉だったが、それでもその言葉の裏にある真意をしっかり理解している辺り、セシルも技術班との付き合いが長くなってきた証だろう。

 もっとも、より付き合いの長いロイドが自分の前にいる技術者達よりも更にふざけたところがあるから、自然と慣れてしまったというのも、間違いのない事実なのだが。

 ……実際の所、今日のようにこうして技術者の意見を纏めさせるような場所で司会を任されるのはその辺りの経験を買われてという事もあるのだが、本人はそれに気が付いていないし、もし気が付いても決して嬉しくはないだろう。

 

「へぇ、上限なしか」

 

 今回の一件……ニーズヘッグの尻尾に関しての予算は上限なしだと知り、技術班の面々は嬉しそうにする。

 元々シャドウミラーは異世界間貿易の中枢として、各世界とのハブステーション的な役目を持っており、黙っていても毎日のように大量に金が入ってくる。

 更には他の世界から産業廃棄物やスペースデブリといった代物の処理を幾ばくかの金を貰って引き受けており、それらは全てキブツに投入されて各世界に売却されている。

 また、今はもう大分少なくなってきたが、一応マブラヴ世界からもBETAの死体が詰まったコンテナはシャドウミラーに届けられていた。

 ……一時期は世界の滅亡すら覚悟しなければならなかったマブラヴ世界、その原因となったBETAは、今やシャドウミラーとの貿易品と化してしまっている。

 ましてや、マブラヴ世界の火星にシャドウミラーが作った基地では、毎日のようにBETAが攻めてきたり、ハイヴにちょっかいを出して呼び寄せたBETAを殺したりして、BETAの死骸が大量に届く。

 特にハイヴにちょっかいを出した時は、BETAが溜め込んだG元素をも奪ってきているので、まさに一石二鳥と言うべき利益を上げていた。

 ともあれ、そのような物を各世界に売って莫大な利益を上げているシャドウミラーだったが、その割には技術班に使わせる予算は無尽蔵という訳ではない。

 レモン達から見ても、暴走しがちな技術班の面々の性格を考えれば、無尽蔵な予算を与えればどうなるか……考えるまでもなかった。

 勿論今回のように、何かの目的があって、それを研究するといった事にでもなれば、話は別なのだが。

 

「ヒートロッドのこの部分……節になっている部分を全て外れるようにして、ファントムみたいに操作出来るようにしてみるのはどうだ?」

「うーん、でも、ファントムってのが既にある以上、その劣化版にしかならないんじゃないか? ましてや、ヒートロッドの熱エネルギーは動力炉から直接引っ張ってきてるんだろ? だとすれば、ファントムみたいにバラバラにして使うとなれば、単純に打撃武器としてしか使えないぞ?」

「なら、いっそ節1つにつき、ある程度のエネルギーを溜め込む事が出来るようにするとか?」

「それはそれで面白そうだが、ファントムの劣化版になってしまうのは変わりないんだ。であれば、やっぱり他の機能を付けた方が……」

「待てよ? 基本的に尻尾はT-LINKシステムで動かすんだよな? なら、尻尾をこの設計にあるのよりも長くして、第3の腕として使ってみたらどうだ?」

「第3の腕って……ヒュドラがある時点で通常の2本の腕の他に、6本の腕があるのと同様だろ? そこに更に腕を追加するのか? 尻尾だけど」

「……普通のパイロットなら無理だと思う。けど、ニーズヘッグを操縦してるのはアクセル代表だぞ? しかもT-LINKシステムを使っての操作となれば、尻尾を自由自在に動かせても、おかしくないと思わないか?」

 

 その言葉に、技術者達が――セシルも含めて――黙り込む。

 技術班にいる者達は、色々な意味で飛び抜けている。

 だが、そんな技術班の者達の目から見ても、アクセルという存在は異常なのだ。

 ここにいる技術者は、当然のようにT-LINKシステムがどのような物かをしっかりと理解しているし、それを使った機体制御がどのように行われているのかも知っている。

 しかし……それを知っているだけに、T-LINKシステムで機体の半ば全てを制御出来るという、アクセルの能力を信じられなかったのだ。

 勿論信じられないと言っても、実際に自分達の目で幾度となくニーズヘッグが動いているところは見ている。

 そうである以上、それを嘘だと言えはしない。

 それでも……それでも、ニーズヘッグの様々な機能をT-LINKシステムで操作しているというのは、目を見張るものがある。

 先程技術者が口に出した、多機能バインダーのヒュドラ。両肩の上に前中後を合計3基の合計6基。

 しかもヒュドラ1基につきビームサーベル兼ビーム砲が3門に、ファントムが8機、グレイプニルの糸、それ以外にメインウェポンが1つに、機能制限がされているとはいえ、テスラ・ドライブが1基。

 そんなヒュドラ以外にも、エナジーウィングやバリオン創出ヘイロウ、アギュイエウスの扉。

 それらを、T-LINKシステムを使って操作しているのだ。

 勿論普通の操縦システムもきちんと使ってはいるので、全てがT-LINKシステムを使ってという訳ではないのだが、それでも普通に考えればとてもではないが信じられない。

 そこに今更尻尾の1本を……と言われても、特に負担はないと判断出来る。

 そもそも、通常の状態でもT-LINKシステムを使って操作すると聞かされていたのだから、尻尾の長さを増やしても特に影響はないかと、皆がすぐに思い直す。

 

「なら、取りあえずそれは採用の方向で。……ただ、そうなると問題なのは尻尾をどうやって収納するかだな。具体的にどのくらいの長さにするのかは決まってないが、普段から尻尾全てを伸ばしたままにしておくってのは……ちょっとみっともなくないか?」

「みっともないかどうかってのは人によるだろうけど、ニーズヘッグが地上に降りる事もある。そうなると尻尾が長すぎると邪魔になるんじゃないか?」

 

 基本的にはツイン・ドライブやエナジーウィングを使って空を飛んでいるニーズヘッグだが、当然地上に降りる事もある。

 戦闘中もそうだが、何より母艦に戻ってきて格納庫に入る時には当然のように着地する事になるのだ。

 その際、長い尻尾が邪魔になる……どころか、ニーズヘッグや他の機体が足を絡ませて転んでしまうという可能性は否定出来ない。

 

「機体の内部に収納出来ないか?」

「いやぁ……それは難しいと思うぞ? シャドウならそれも可能だろうが」

 

 十分な拡張性を考慮されて設計されているシャドウと違い、ニーズヘッグは全高15m程度の小型機という事もあり、どうしても拡張性に問題がある。

 ……それでもバリオン創出ヘイロウやエナジーウィングを追加出来たのは、技術班の非常に高い技術を……そして、技術班を率いるレモンの、アクセルに対する愛が可能にしたのだろう。

 だが、ニーズヘッグという機体に必ずしも必要ではない尻尾を追加するので、協力して欲しい。

 そう言われ……果たしてレモン達が協力するだろうか?

 もしかしたらOKが出るかもしれないが、正直なところ半分くらいの確率で断られるだろうというのが、技術班の総意だった。

 それでも尻尾を伸ばすというのは、単純でありながら有効な手段と思えたので、伸ばした尻尾をどうするべきか相談を進めていく。

 

「普通に考えれば、伸びた分は腰に巻いておくとか? それとも、根元の部分は折りたたんで順次伸びるようにしておくというのもあるけど」

「いっそ、尻尾を収納するようなケースみたいなのをバリオン創出ヘイロウの下辺りにでも付けるか?」

「それもいいかもしれないが……ちょっと不格好に見えないか?」

「そうか? 俺は結構いいと思うけど。それに、バリオン創出ヘイロウやエナジーウィングの下に、他からは見えないように設置すれば問題ないんじゃないか?」

 

 格好いい悪いというのは、本来であればそこまで重要視はされないだろう。

 それこそ、外見だけよくても性能が低い機体よりは、外見は悪くても性能のいい機体の方が好まれるのだから。

 だが、ニーズヘッグはその例外となる。

 シャドウミラー最強の機体にして、その象徴なのだ。

 それだけに、外見も重要な要素となる。

 ……もっとも、アクセルの趣味で象徴は象徴でも、大魔王の象徴と呼ぶべき機体にしか見えなくなっているのだが。

 もし何も知らない人物がニーズヘッグを見た場合、間違いなくシャドウミラーは悪の組織だと判断するだろう。

 勿論シャドウミラーは1つの国家である以上、完全なる正義の味方という訳ではないし、同時に完全なる悪役という訳でもない。

 それでも国の象徴たるニーズヘッグが、曰くラスボス機、曰くラスボスの次の隠しボス機と言われるような機体であるというのは色々と問題がない訳でもないのだが……それでも、今のところ特に大きなトラブルの類は起きていない。

 

「見えないようにか。うーん、その辺りは魔法でどうにか出来ればいいんだけどな、無理か?」

「……エヴァにゃんにでも聞いてくるか? ただ、そんなに都合のいい魔法があるとは思えないけどな」

 

 エヴァにゃんと言われて暴れる小さな魔法使いの姿を想像したのか、男は小さく笑みを浮かべる。

 そのような呼び方をした場合、氷の矢が飛んでくる可能性が非常に高いのだが。

 

「あ、でもグレートグランドマスターキーだっけ? ニーズヘッグにはそれがあったよな? 魔法媒体としては最高峰だって話だし、そっちの能力を使えば、意外と何とかなるかも?」

「……可能性はある、か? ただ、その辺りを聞くとなると、フェイトとかに連絡をとった方がいいんじゃないか? あれについて詳しいのは、フェイトだろうし」

 

 取りあえず魔法でどうにか出来ないかという事でその話は一旦纏まり、次の話に移る。

 

「それで、他の機能の追加だが……」

 

 基本的にシャドウミラーでは、1つの装備に複数の機能を付けるという事が多い。

 それが最も発揮されているのは、やはりニーズヘッグのヒュドラだろう。

 幾つもの機能がついている、ヒュドラというバインダーはレモンにとっても最高傑作の1つと断言している代物だ。

 1つの部位に複数の機能を仕込むというのは、当然それだけシステムや構造が複雑になり、壊れやすくなるという事も間違いない。

 だが、技術力に自信のあるシャドウミラーがそこに手を出す事になるのは必然だった。

 そして実際にそれが出来るだけの能力もあった。

 

「うーん、尻尾全体がヒートロッドとして存在している以上、そう簡単に付け加えるのは難しいな。いっそ尻尾の数を増やすとか? 9尾の狐ならぬ、9尾のニーズヘッグみたいに」

 

 技術者の1人がそう言うが、それは決して本音ではなく、冗談だったのだろう。

 実際、すぐに他の技術者がその意見を却下する。

 

「尻尾1本の長さでさえどう収めるのかを苦労してるのに、9本も尻尾を付けるのはどう考えても無理だろ」

「だよなー。うん、分かってた」

「それに1本ならともかく、9本の尻尾をT-LINKシステムで動かすのは……アクセル代表の場合、簡単にやってしまいそうだと思うのは、俺だけか?」

 

 その言葉に、他の者達が揃って苦笑を浮かべる。

 普通に考えれば、ヒュドラ6基を含めてT-LINKシステムを使った機体制御を行っているのだ。そこに1本の尻尾ならともかく、9本も追加されれば到底どうしようもないように思えるのだが、それでもアクセル代表なら……と、そう思ってしまうのは、今までアクセルの人外染みた能力をこれでもかと見せつけられてきたからだろう。

 

「……で、えーっと、他に追加する機能だけど、他に何かありませんか?」

 

 アクセルの事を考えると色々と例外だらけになってしまうのを、セシルも理解しているのだろう。

 話題を変えるように、そう告げる。

 だが、やはり尻尾がヒートロッドになっているという構造そのものが新しい機能を考える上で厄介になっているのか、これといったアイディアが出てこない。

 

「ヒートロッドに電撃を纏わせるとか? 相手の電子機器にダメージを与えるように」

「……熱で相手を溶断するヒートロッドに、そんな機能を付けても意味ないんじゃ? ましてや、ウルドの糸がある以上、相手の電子機器を麻痺させるのは難しい話じゃないし」

「やっぱりバラバラになれるように……」

「だから、それは却下されただろ」

「ヒートロッドを構成するところに、フレイヤを組み込むとか?」

「そんな危険な真似が出来るか!」

 

 その後も幾つかのアイディアは出るものの……結局そこまで大きなものはなく、今日は一旦解散となり、それぞれで色々と考える事になるのだった。


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