転生とらぶる   作:青竹(移住)

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番外編062話 その頃のホワイトスター

 シャドウミラーの本拠地、ホワイトスター。

 その居住区にある、アクセルの住む屋敷。

 そこには、アクセル以外にもその恋人達が住んでいる。

 そして、最近そこに加わったのが、Fate世界からやって来た遠坂凛と美綴綾子の2人だ。

 現在、その屋敷の中ではアクセルの恋人達全員……それから養女のルリとラピスの2人が食事をしていた。

 

「へぇ……凛の料理の腕はなかなかじゃない」

 

 凛の作った各種中華料理を食べながら、レモンが呟く。

 その賞賛の声を聞いた凛はふふん、と鼻を鳴らす。

 勿論、凛は自分の料理の腕に自信はあった。

 元々中華料理は得意だった事もあるし、高校を卒業してイギリスに留学し、魔術に使う宝石を買いすぎて金が足りなくなった時は、何度か高級中華レストランでバイトした事もある。

 結果として、元々得意だった料理の腕が更に上がったのだ。

 ……凛に強いライバル意識を抱いている、某女魔術師に料理を食べさせて美味いと言わせた事すらあった。

 

「あら、本当ですわね。四葉さんとは方向性が違いますけど、味という一点で考えれば匹敵しますわ」

 

 あやかが回鍋肉を味わい、感心したように呟く。

 基本的に食事はマリューや千鶴といった面々が作っているのだが、時々超包子で総菜を買ってくる事もある。

 凛が作った料理は、その味に決して負けてはいなかった。

 

「……辛い……」

 

 エビチリを食べていたラピスが、小さく呟く。

 それを見たルリは、近くにあったかに玉を小皿に取り分けてラピスに渡す。

 

「これを食べてみて下さい」

「……美味しい」

 

 かに玉はラピスの味覚にあったらしく、微かにだが嬉しそうに笑う。

 そんな姉妹のやり取りを、その場にいる皆が微笑ましそうに眺めていた。

そうして暫く穏やかな食事の時間が流れ……ふと、レモンが黒酢の酢豚を食べている綾子に声を掛ける。

 

「そう言えば、どう? シャドウの乗り心地は。綾子が乗ってたトールギスと比べると、反応速度とかは随分と上がっていると思うけど」

「ん……そうだな。トールギスよりもかなりこっちの反応にはついてこれる。ただ、やっぱり少しな」

 

 トールギス程ではないにしろ、反応が鈍い。

 そう告げる綾子の言葉に、凛が当然といったように口を開く。

 

「綾子は半分サーヴァントだもの。普通の人間とは比べものにならないくらいの身体能力を持っているんだから、そうなるのは当然でしょうね。……まぁ、シャドウミラーには普通の人間の方が少ないみたいだけど」

 

 凛もホワイトスターに移住してから、生身の戦闘訓練を受けてはいる。

 だが、キブツのおかげで使いたい放題になった宝石魔術を使っても、そして自慢の八極拳を使っても、エヴァには全く手が出なかったのだ。

 そんな凛にとっては、とてもではないがこのシャドウミラーに所属する者達が普通とは言いたくはなかった。

 

「ふふふ。そう、もう少し綾子がシャドウに慣れたら、専用の機体を用意してもいいかもしれないわね。スレイやスティング達の分もね」

「お、本当か?」

「そうしてくれると、私も嬉しいな。シャドウの性能には満足しているが……やはり専用機は嬉しいものだ」

 

 レモンの言葉に、嬉しそうな様子を見せる綾子とスレイ。

 冬木にいる時からそれなりにゲームを遊んだ経験のあった綾子は、当然のようにロボットに関しても興味を持っていた。

 ……それでいて、本人は半サーヴァントという、ファンタジー染みた存在になってしまったのだが。

 

「ええ。何か意見はある?」

「うーん、色々とあるけど……ああ、でもあたしの機体って訳じゃなくて、シミュレータで訓練してて気が付いた事があったんだけど」

「あら、何?」

「その、だな。あたしが知ってる機体の中に……何て言えばいいのかな。サポートメカ? とか、そういうのがあるんだけど。そういうのがあれば、ちょっと便利かなって」

 

 冬木にいる時にやっていたゲームの事を思い出しながら告げる綾子に、レモンは首を傾げる。

 

「サポートメカ? それってどういうの?」

「うーん、そうだな。例えば、移動力を上げるとか、そういうの」

「それなら、ファブニールがあるじゃない」

 

 あっさりとそう告げるレモンだったが、綾子は急いで首を横に振る。

 

「いやいやいや、そうじゃなくてだな。あそこまで大袈裟な物じゃなく、もっとシンプルな奴」

「シンプル?」

「ああ、そうだよ。ファブニールのデータを見たけど、あれはもうサポートメカとかそういうんじゃなくて……もっと別の何かでしょ」

 

 そんな綾子の言葉に、2人の話を聞いていた何人かが納得したように頷く。

 PTサイズの機体をそのまま内部に取り入れてコアユニットにするというファブニールは、実際凶悪の一言につきる。

 また、当然そのような機体だけに、製造するにもかなりのコストが必要となる。

 ファブニール1機を作るのに、シャドウ10機分程のコストが必要になるのだ。

 そしてシャドウは、それこそ1機製造するのにカスタム機並のコストが必要となる。

 キブツという元素変換装置があり、量産型Wやメギロート、バッタという働き手がいるからこそ、シャドウミラーではシャドウやファブニールを製造出来ているのだが、普通の組織ではコスト的に、エースパイロット用に数機を用意するのはともかく、量産するのは無理だろう。

 

「別の何かって……言うわね。まぁ、気軽に使えるような機体じゃないのは間違いないけど」

 

 レモンと同じ技術班のマリューが、綾子の言葉に苦笑を浮かべる。

 実際、ファブニールは全高30m、全幅20m、全長50m。重量は普通の状態で600tという、準特機と呼ぶに相応しい大きさの機体なのは間違いない。

 

「でしょ? だから、あたしが欲しいのは、もっとこう……気軽に使えるようなサポートメカなのよ」

「マクロス世界だと、VFにアーマードパックとかあるけど、そういうの?」

 

 自分の出身世界の事だけに、シェリルはVFについて多少詳しい。

 もっとも、アクセルがS.M.Sにいる時にVFに乗っていたから、というのも関係しているのだろうが。

 

「うーん、あたしも見たけど、アーマードパックってのは言ってみれば追加装甲とか追加武装とかそういうのだろ? そういうんじゃなくて、もっとこう……そう、例えばシャドウで移動する時にそれをサポートする為の機体とか」

「……それって、グゥルとか?」

 

 ふと、マリューはSEED世界で使っている機体を思い出す。

 地上用のMSを空中で使う為に乗せる機体。

 もしアクセルがいれば、SFS? と口にするだろう。

 

「グゥル?」

 

 さすがにシャドウミラーで正式採用されていない機体についてまでは分からなかったのか、尋ね返す綾子にマリューはグゥルについてのデータを送る。

 一応元ザフトの機体という事で、技術班の所有する倉庫の中に現物はあるのだが、基本的にシャドウミラーの機体というのはテスラ・ドライブ搭載が標準である以上、空を飛べない機体というのは存在しない。

 よって、空を飛ぶ為だけのグゥルは、そのまま倉庫行きとなったのだ。

 ともあれ、グゥルのデータを見た綾子はやがて頷く。

 

「うん、こんな感じ。ただ、このグゥルってのだと、シャドウミラーで使う意味はないだろ。だから、どちらかと言えば長距離を移動する時に使うとか、宇宙と空の両方で使えるとか、そんな感じにしたいんだ。当然多少の武装も欲しいし」

「……なるほど。ちょっと面白いわね」

 

 綾子の言葉に、レモンが艶然とした笑みを浮かべて呟く。

 全く新しい機体を作るのでもなく、古くなって性能が足りなくなった機体を改修するのでもなく、使えないとされていた機体を使えるようにする。

 そんな綾子の発想が面白かったのだろう。

 

「けど、移動と攻撃に使うって事は、破壊される可能性の方が高いわよね? ファブニールみたいに、高い防御力を持たせるという訳にもいかないし」

「あー、そうなると思う。攻撃された時とか、咄嗟に盾代わりに使えたらって風にも思ってるし」

「まぁ、それはいいんだけど。……けど、そうなると破壊された場合は当然残骸がその周辺に残るわよね?」

 

 レモンの言葉は当然だろう。

 まさか戦闘中に、破壊された残骸を1つ残らず確保しろという命令を出す訳にもいかない。

 ……まぁ、バッタ辺りを使えば、そのくらいは出来そうだが。

 

「そうなると、下手をすると敵対している相手にその残骸が回収される危険もあるわ。そうなると、こちらの技術を奪われてしまう可能性があるでしょうね」

 

 レモンの言葉に、綾子は残念そうで……それでいながら納得した表情を浮かべる。

 シャドウミラーが非常に高い技術を持っているのは、ホワイトスターで生活をしている綾子には十分に分かっている。

 また、様々な世界から色々な技術を吸収しているのも、当然知っていた。

 凛などは、レモンがギルガメッシュの腕を左右一対そのまま保存しており、更にはその遺伝子を量産型Wに組み込んでいるというのを知った時に上げた声は、それこそホワイトスター中に響いたのではないかというくらいの大声だった。

 

「じゃあ、駄目か?」

 

 駄目だと言われるんだろうなと思いながら、呟く綾子。

 だが……そんな綾子に対して、レモンは首を横に振る。

 

「別に駄目って訳じゃないわ。そもそも撃破された機体を回収されて云々という事になっても、今までだってメギロートとかバッタとか、それなりに撃破されてるんだし。ただ、使い捨て前提って事で考えると、より敵に奪われる可能性が多いって事になるから……そうね。シャドウミラーだけが持っている技術を使わず、どこの世界にもあるようなのと、それなりに広まってもいい程度の技術だけを使って、というのであればどうかしら」

「問題ないと思うわ。既存の技術を使っても、十分に使える代物になると思うし」

 

 レモンの言葉に、マリューが同意する。

 

「そうなると、まずはその機体の動力ね。……時流エンジンやブラックホールエンジンは論外として、プラズマ・ジェネレーターや、核融合炉も不味いでしょうし」

 

 プラズマ・ジェネレーターは、核融合炉の次世代型と言ってもいい動力炉だ。

 PTではバレリオンやグルンガスト、ヒュッケバインMk-Ⅱといった機体で使われている。

 もっとも、グルンガストの動力炉は正確にはプラズマ・リアクターで、プラズマ・ジェネレーターの派生形と呼ぶべきものなのだが。

 

「装甲部分も、何を使うかね。PS装甲は当然駄目でしょうし」

「……まぁ、PS装甲はどうしても重くなるから、基本的にブラックホールエンジンとセットだしね。軽くて頑丈だというのなら、ガンダニュウム合金があるけど……あれだって新しく得たばかりの技術だし、止めておいた方がいいわね」

「そうでしょうね。敵対組織にガンダニュウム合金が渡るなんて事になったら、ちょっと洒落にならないでしょうし。……武器の方は、それこそビームやマシンガン、ミサイルといった物があるから問題ないでしょうけど。……ああ、動力炉の件だけど、使い捨てなんだし、いっそSEED世界のバッテリーを使う?」

「そうね。他にもシャドウミラーの技術を使っちゃ駄目となると、テスラ・ドライブも無理よね。そうなると推進剤も必要になるわ。ベースとなる機体は、グゥルを参考にしつつ……シャドウミラーが所持している機体となると、ソルプレッサやF-32シュヴェールト改といったところかしら」

 

 そうして話し始めたレモンとマリュー。それにコーネリアを始めとした実働班の面々も口を挟み、会話は盛り上がっていく。

 だが、それに待ったを掛けたのは千鶴だった。

 

「はいはい、皆さん。今は食事中ですよ。まずはしっかりと食事をしてからにしましょう。……あら?」

 

 そう声を掛けたタイミングを待っていたかのように、通信機が通信の着信を知らせる。

 

「ああ、私が出るからいいわよ」

 

 丁度通信機の近くにいた円が、そう言って立ち上がる。

 千鶴はそんな円に頼み、再び食事に戻るが……

 

「レモン……あんたによ」

 

 すぐにどこか疲れた表情を浮かべつつ、円が戻ってくる。

 

「私に? ……誰?」

「プリン」

 

 その一言で誰からの通信なのか分かったのだろう。

 レモンは苦笑を浮かべながら立ち上がる。

 

「ロイドはギアス世界に行ってた筈だけど、何かあったのかしら。問題を起こしたんじゃなければいいんだけど」

 

 そう、現在ロイドは自分の故郷であるギアス世界に戻っていた。

 ちょっと思うところがあって……と。

 ロイドのパートナーのセシルは技術班の方で忙しく、ロイドは量産型Wを連れての里帰りだ。

 もっとも、本人は里帰りといった気分ではなかったのだが。

 

『やったー!』

 

 レモンが姿を現した瞬間、映像モニタの向こう側に映し出されたロイドが、嬉しそうに叫ぶ。

 

「何、どうしたの? その様子だと、随分と収穫があったみたいだけど」

『そうそう、そうなんだよ! 実はラクシャータから輻射波動の技術を貰ってね』

『ちょっと、プリン伯爵! 約束を忘れないでよ! 他の世界にあるっていう、義肢関係の技術と交換よ!』

『ちょっ、ラクシャータ、落ち着けって。シャドウミラーが約束を破る訳がないだろ!』

 

 ロイドを強引に掴みながら叫ぶ、褐色美人。

 もっとも、時の流れから解き放たれたロイドとは違い、ラクシャータは今でもまだ十分に美人と呼べる姿をしているが、それでもやはり以前と比べると年齢を重ねてはいた。

 ただ、それがいい具合にラクシャータに落ち着きを与えていたのだが……今の興奮しているラクシャータを見る限りでは、落ち着いてるようには見えないだろう。

 そんなラクシャータを押さえるように、緑色の髪をした男が姿を現す。

 レモン達は知らないが、黒の騎士団に所属していた杉山賢人だ。

 そして、ラクシャータと杉山、二人の左手の薬指には揃いの指輪が嵌められていた。

 

『とーにーかーく! ニーズヘッグの尻尾には輻射波動を付けるってのはどうかなー! 決まり! ね、ね、いいよね? 尻尾を相手に巻き付けてから輻射波動を使えば、接触範囲も広いし!』

 

 そう叫ぶロイドに、レモンはやはりエキドナ辺りを同行させれば良かったかしら……と、そう考えるのだった。


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